原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「令和元年度版 原子力白書」HTML版 > 特集 原子力分野を担う人材の育成

別ウインドウで開きます PDF版ページはこちら(2.33MB)

特集 原子力分野を担う人材の育成

概要

 科学技術を含む様々な分野において、その分野の発展や競争力の維持・拡大を図るためには、現役世代はもとより、次世代を担う人材を育成していくことが重要です。特に原子力分野においては、安全の確保を図りつつ、研究、開発及び利用を支える優秀な人材を育成・確保していくことが必要です。原子力関連機関では、セクター間で連携して、より効率的かつ効果的な活動を進めていくことが望まれており、国内外の良好事例を共有し改善に向けた取組を進めていくことが求められます。
 我が国では、原子力関連の教育は複数の大学において実施されています。大学・大学院に原子力分野を学ぶ学科・専攻等が設置され、一体的な教育や連携を実施するとともに、教育認証による教育改善、各大学が抱えるリソースの最大限の活用、海外大学や国際機関並びに産業界との連携等、各大学の特色を生かした原子力教育を提供しています。一方、課題として、大学が抱える研究基盤の老朽化やそれに伴う教育・研究機会の減少、国際的なプレゼンスの低下が挙げられます。加えて、学生からの人気低下や学部の大くくり化による教育実験等の希薄化等、学内における原子力分野のプレゼンスが低下している現状を改善することが求められます。
 このような課題に取り組むに当たり、海外の大学や各国の取組から我が国が学べる点が多々あります。例えば大学では、国境を越えてグローバルに活躍できる人材を育成するという理念の下、授業や教育カリキュラムの外部評価等を通じて教育の質を向上させるとともに、産業界への長期的なインターンシップや産官学共同研究プロジェクトを実施するなど産官学の緊密な連携が見られます。また、産官学が連携し、将来求められる人材の評価シナリオ作成、原子力プロジェクトに関わる社会人に必要な知識を学べるオンラインコースの開設、マネジメントに特化した訓練コースやセミナーの設置等、就職後の社会人が教育を受けられる環境が整備されています。
 原子力分野における我が国の競争力を向上させるためには、国内外の事例を参考にしつつ、優秀な人材を確保・育成していくことが重要です。そのためには、産官学で連携して今後求められる人材のビジョンを明確にしつつ、大学における教育と研究の質を向上させるとともに、国際的なプレゼンス向上に向けて関係組織が不断の努力をしていくことが求められます。


1  はじめに

 科学技術を含む様々な分野において、その分野の発展や競争力の維持・拡大を図るためには、現役世代はもとより、次世代を担う人材を育成していくことが重要です。特に原子力分野においては、安全の確保を図りつつ、研究、開発及び利用を支える優秀な人材を育成・確保していくことが必要です。
 我が国においては、原子力基本法(昭和30年法律第186号)に基づき、原子力利用の取組が開始されました。実験用原子炉から始まり、現在では、商業用原子炉が建設・稼働しエネルギーを供給するとともに、農業・工業・医療等の様々な分野において放射線が利用され、国民生活の向上に寄与してきています。これらは、研究者や技術者を含む原子力に関わる人材の尽力によるものであり、今後も原子力分野を維持・発展させていくためには、社会における原子力の位置付けを見極めつつ、情熱を持って原子力に関わる人材が生まれ、そのような人材が社会で活躍できる好循環の構築が必要です。そのため、原子力分野に関係する国、大学、産業界等のセクター間で連携し、人材育成の観点で効率的かつ効果的な活動を進めていくことが望まれます。
 本特集では、今後の我が国における人材育成の参考となりうる、国内外の大学の取組や良好事例、各国の施策を紹介します。


2 我が国の大学における原子力教育の特徴

 我が国においては、原子力分野の学問を志す学生の多くは、原子力関係の学科・コースが設置されている大学に進学し、そこで専門的な知識を学んでいきます。一方で、原子力利用を取り巻く環境変化等の要因により、原子力分野への進学・就職を希望する学生の減少(図1)や現場の技術者の高齢化等も進み、人材の枯渇や知識の継承への不安等の問題が生じています。このような背景から、各大学には、創意工夫を凝らし研究の質を保ちつつ、原子力教育に力を入れ人材の輩出を行う使命があります。国立大学における原子力教育の特徴は、表1のとおりです。

図1 原子力関連学科等における入学者数の推移

図1 原子力関連学科等における入学者数の推移

(出典)第21回原子力科学技術委員会資料3-01文部科学省「原子力イノベーションの実現に向けた研究開発・研究基盤・人材育成施策の方向性について」(2019年) [1]


表 1 我が国の国立大学における原子力教育の特徴
大学名 特徴
北海道大学
  • 2017年寄附分野「原子力支援社会基盤技術分野」設置。社会や企業のニーズと原子力系研究室のシーズとのマッチング
  • 主専攻に加え副専修科目を履修する「双峰型教育」
  • 国際交流の拡大
東北大学
  • 専任(基幹)4講座14分野に加え、協力講座が4講座7分野あり、協力して教育と研究を実施
  • 学部2年次後半にコースに配属、3年次前半終了時に、専任の各分野(研究室)と協力講座に配属
  • 豊富な実験・実習
東京大学
  • ピアレビューによる、原子力国際専攻は国際原子力機関(IAEA1)認定、原子力専攻は日本技術者教育認定機構(JABEE2)認証
  • 産官学連携(社会連携講座等)を強化
  • 原子力専攻は専門職大学院で、多くの必修科目。原子炉主任技術者、核燃料取扱主任者の試験の一部免除に対応する教育・厳しい単位認定。国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)での実験実習、修士論文なし、1年で修了
東京工業大学
  • 工学院/物質理工学院/環境・社会理工学院横断型の複合型コースの一つとして原子核工学コースを設置(学士課程と大学院課程の一貫化)
  • 修士課程では、所属以外の複数の研究室での講義や実験に参加
  • 国際交流(マサチューセッツ工科大学(MIT3)、ロシア等)
  • 国内外の大学が連携した原子力基礎教育(大学連合ATOM)
名古屋大学
  • 原子炉物理や原子燃料サイクルなど、原子力工学の基礎講義を学部3年から実施
  • 近大炉(学部)、京大炉(大学院)において臨界実験に参加
京都大学
  • 基礎科目と実験実習を重視した少人数教育
  • 学部から放射線と原子力を系統的に学修
  • 大学院は他分野が受験しやすいような科目選択制
  • 京大複合原子力科学研究所での原子炉基礎演習・実験
大阪大学
  • 大学科・大専攻の環境エネルギー工学科・専攻の中で原子力教育を実施
  • 大学院では履修科目に加え原子炉主任技術者試験講座を開講
九州大学
  • 学部で炉物理、計測、原子核物理学は履修、他科目は主に専攻にて履修
  • 学部、専攻共に実験を重視
  • 学部では放射線計測、溶媒抽出を実施
  • 専攻では共沈分離、中性子輸送、トリチウム同位体分離等の実験を実施
(出典)第9回原子力委員会資料第1-1号 原子力政策担当室「原子力分野の大学教育関連情報(国内大学ヒアリングの結果概要)」(2020年) [2]に基づき作成

 これらの大学では、それぞれの特色を生かした原子力教育が実施されています。良好事例として、学部と大学院による一貫教育の実施や連携強化、原子力分野と放射線分野の教員の連携強化、教育認証による教育改善、競争的資金等の獲得による実験設備等の更新・充実等が挙げられます [3]


3 海外における原子力人材育成、基盤維持・強化の取組

 欧米諸国においては、大学や国レベルで我が国とは異なる取組を実施し、優秀な人材獲得の一助としている事例があります。本特集では、米国のカルフォルニア大学(UC)バークレー校やパデュー大学、カナダのマクマスター大学、イタリアのミラノ工科大学における原子力学科・コースについて概略を述べるとともに、米国、英国、フランス、中国及びドイツの原子力人材育成の取組についても紹介します。

(1) 海外の大学における原子力教育

 欧米諸国では、大学の教育・研究を支える上で、様々な観点において我が国とは異なるシステム等を導入しています。ここでは、UCバークレー校等の事例を紹介します。

① 米国・UCバークレー校

 UCバークレー校はカルフォルニア州の州立大学で、研究力ランキングの上位に入る米国屈指の研究大学です。特に原子力分野では、シーボーグ教授によるプルトニウムの発見等、世界をリードする業績を上げています。

1) 教育

 米国では、工学部のカリキュラム認定を行う工学系高等教育課程認定機関(ABET4)によるレビューが7年ごとに行われています。この評価システムは学生の質に重点を置いているため、カリキュラムの目的を設定し、実現するために必要な講義の配置やシラバスの整合性を図ること等が必要です。
 UCバークレー校は、原子力分野において9項目の能力を教育の目標として掲げており、原子力工学コースのカリキュラムとの関係性が整理されています。また、授業評価においても、学生にアンケートを実施して集計結果を公表するなど、厳格な運用が行われています。

図1 原子力コースの目標とコースの関係性

図2 原子力コースの目標とコースの関係性

(出典)UCバークレー校資料に基づき作成

2) 研究

 分野によって大きく異なるものの、大学院生は教員や大学等から学費や生活費等の財政的サポートを得ながら研究を進めていき、就職、あるいは、博士研究員、任期付教員、テニュア5教員とステップアップしながら研究活動を実施していきます。
 また、教員は、エネルギー省(DOE6)、原子力規制委員会(NRC7)、科学財団(NSF8)等の政府関係機関のプロジェクトだけでなく、外国の研究機関、民間企業等が提供する外部資金にも応募しますが、その際には、大学内の事務局と緊密に連携して応募書類を用意し、大学院生等を雇うようにしています。

3) 教員の評価システム

 優秀な教員を獲得することは、原子力分野はもちろんのこと、大学全体にとって重要です。そのため、教員の募集・採用に加えて、採用後の評価についても透明性を踏まえて検討されます。教員を新規で採用する場合は、学科の選考委員会が設置され候補者の評価・審査を行い、その後、大学に設置された予算委員会にて再度審査を行った上で決定されます。また、任期付教員がテニュアを獲得するためには、任期付教員としての最大8年間の任期満了までに、2年に1度の業績評価を受けて、テニュア審査基準を満たす必要があります。加えて、テニュアを取得した後も、3年に1回の評価を受けるなど評価が行われます。
 このように、UCバークレー校に限らず米国では大学の競争力を保つために、カリキュラム認定や授業評価等によって教育の質を担保するとともに、教員評価による研究者の質が担保されています。

② 米国・パデュー大学

 パデュー大学はインディアナ州の州立大学で、2013年には原子力分野を含む工学学科の全米ランキングで8位に位置するなど、研究力が高い大学です。また、留学生の割合が高く、2012年から2013年の実績では、特に中国、インド、韓国からの留学生が多くなっています [4]

1) 教育

 原子力学科を含む工学部の教育では、1年次では全員が特定の専攻を選ばない基礎工学(Freshman Engineering)カリキュラムを選択し、2年次から4年次に航空宇宙、化学工学、土木、電子工学、原子力等の各専門分野を専攻します(図3)。

図2パデュー大学の工学部

図3 パデュー大学の工学部

(出典)第32回原子力委員会資料第1号 北海道大学三輪修一郎「Purdue大学における原子力教育事情」(2018年)

 学生が2年次からのコース選択を行うに当たり、大学卒業後の原子力技術者としてのキャリアについて考える必要があるため、自己責任型の教育になっていることが特徴です。
 2年次以降に行われるセミナーでは、第一線の研究者による講演を実施し、原子力分野の最先端の研究課題等の最新情報に接することができます。第一線の研究者のプレゼンテーション能力を間近に見ることで、説明能力を磨く有用な機会にもなっています。
 また、学生自身が研究室や教員を調べて研究室を希望することができますが、学生の志望と当該研究室の内容等が合致しなければ、配属後に辞めることもできます。一方で、当該研究室での研究を行うための十分な能力がないと判断された学生は研究室から外されることもあります。しかし、その場合でも、教員が別の方向性を提案するなどのフォローが行われる場合があります。
 米国では一般的に、大学を卒業した学生は即戦力として雇用されます。それに備えて、セミナーで最先端の知見を得るとともに、2か月から3か月のインターンシップを行い、給与も支給されながら実際のエンジニアの仕事を体験することができます。このように、パデュー大学の工学部は、教育機関のみならずキャリアの育成機関としての機能も担っています。

2) 学科の運営

 パデュー大学では、学科長が学科の独立的な運営を行います。また、工学部長は、基本的にヘッドハント等により外部の組織から招へいされて就任します。学部長や学科長が新たに外部から着任する場合には、セミナーを行い学生にアンケートを取るという民主的な選出プロセスが必ず実施されます。


③ カナダ・マクマスター大学

 カナダのハミルトンにあるマクマスター大学は、世界の100を超える国からの多くの留学生が学んでおり、2016年の大学院生の約22%が海外からの留学生です。工学部は、化学工学、土木工学等の7つの学科からなり、原子力工学を学ぶコースは工学物理学科にあります[5]

1) 教育

 4年間コース以外にも、資格やスキルを取得する5年間のコースを設置するなど、柔軟なカリキュラムが組まれているのが特徴です。インターンシップも熱心に活用されており、3、4年次には、4か月から16か月程度の企業経験が可能なCo-opプログラムがあります。加えて、1年次であっても優秀な学生は、夏季休暇中に研究室に配属されて研究に従事することも可能であり、学生生活の早い段階から大学院生とともに研究を行うことが可能です。
 マクマスター大学では、工学物理学科に原子力工学を学ぶコースが設置されていますが、放射線防護や放射線医科学等は他学部との連携によって実施されています。また、教育用に設置された小型原子炉ではヨウ素125が製造されており、世界のシェアの約7割を占めています。加えて、実験用のホットセル9も設置されていますが、これらの運転操作や原子炉直近での実験装置の設置等は、安全委員会による資格取得者のみが行うこととされており、手軽な実験は難しくなっています。

2) 産業界との連携

 マクマスター大学を含むカナダの大学では、原子力分野における産業界との協力が進んでいます。例えば、研究機関や産業界からなる原子力工学研究ネットワーク(UNENE10)により、大学における原子力教育・研究に対する支援が行われています。これは、産業界によるバックアップの下、非常に優秀な研究成果を上げる教員に「インダストリアルリサーチチェア」という称号を付与して潤沢な研究資金を提供することにより、人材を確保するとともに、学生の指導と先端研究の実施を可能とするものです。
 さらに、マクマスター大学を中心に計画されている小型炉の研究開発プロジェクトにおいては、複数の大学、産業界、カナダ自然科学・工学研究会議(NSERC11)、及び連邦資源省が協働しています。このような具体的な国家プロジェクトの存在は、原子力業界が進もうとする方向性や、将来有望な事業があるということを示す強いメッセージになっていると考えられます。大学単独の予算による研究に比べ、産業界や国が一体になって進める研究は、研究に参加する学生に対し、プロジェクトとしての重要性や将来性をより強くアピールするものになっていると言えます。

3) 教育の質の確保

 カナダでは、大学における教育の質を確保するために様々な取組が実施されています。例えば、学生による授業評価制度があり、学生の評価が低い教員は学科長の面談を要求されるとともに、評価結果が昇進、昇給、長期休暇取得等の様々な場面で活用されています。
 また、カナダ工学認定機構(CEAB12)という外部評価組織があり、全大学の工学部について7年ごとに教育内容が評価されます。この外部評価では、授業評価に加え、学生や教員のインタビュー、実験環境の視察も行われるとともに、前回評価時に指摘された課題への対応状況についても確認されます。評価結果は、評価員のコメントを含め公開されています。
 さらに、国及び州の予算で実施されているプロジェクトにおける教育は、NSERCが評価を行います。当初予定より参加学生の数が少なければプロジェク予算を打ち切るなど、研究を通した教育の質の確保に対して非常に力を入れていることが特徴です。そのほかにもNSERCは、学生の先進的な研究の支援、基礎研究の促進・支援、カナダ国内の様々な組織による高等教育レベルの研究プロジェクトへの参加と投資の奨励を行うことにより、イノベーションを促進する役割も担っています [6]

④ イタリア・ミラノ工科大学

 ミラノ工科大学は、イタリアで最大の工学、建築、デザイン部門で構成される大学です。原子力工学科の学生数は、外国人留学生の増加等により近年増加しており、その要因の一つとして、修士・博士課程の全ての講義が英語で実施されるようになったことが挙げられます [7]

1) 留学

 ミラノ工科大学では、EU域内での留学や海外でのインターンシップへの参加等を促進しています。その背景には、他大学での単位互換取得を可能にする制度が整備されていることがあります。例えば、EU域内での留学支援制度であるエラスムス計画は、欧州単位互換制度(ECTS13)を確立しており、EU各国の高等教育機関間の交流や学生の交流の促進に貢献しています。

2) 学生の主体性に応えるコース設定

 原子力工学科内では、原子力プラントコース、原子力技術コースと原子力システム-物理コースの3つが設置されており、学生は2年次の最終学期までにコースを選択することが可能です。
 近年、原子力工学科への進学者が急増している背景には、上記の講義が全て英語で実施されることに加え、エネルギー工学部門の中に原子力工学科が設置されていることが挙げられます。学生は、エネルギー工学部門の中で物理、化学、情報、生物等を学ぶことを通じて、基礎的な視点でものを考える力が身につきます。また、同じエネルギー工学の中にある原子力工学の存在を他分野と比較した上で、目的や意識を持ってコースに挑戦することができます。

3) 大学間の連携

 大学間の単位や研究の連携も進められています。例えば、トリノ工科大学とミラノ工科大学は共通のプログラムを設置しており、トリノ工科大学とミラノ工科大学でそれぞれ1年間ずつ学び、修士論文を書き上げる制度等が整備されています。また、原子核研究大学間コンソーシアム(CIRTEN14)の枠組みにおいても、修士論文を執筆する制度が整備されています。
 原子力産業がないイタリアにおいて、ミラノ工科大学の原子力部門は、自国以外の国のために人材を供給する形になっています。そのため、欧州内のみならず、中国等の原子力産業が今後盛んになる国の大学との協力が検討されています。

4) 教育

 基本的に、学部、学科、部門では、研究のみならず学生への講義や教育に力を注いでいます。具体的には、シラバス、講義計画、毎回の講義終了報告、講義の内容、教員の講義ノートが部門内で公開されるとともに、管理部門が講義内容の在り方や形式の確認を行います。また、部門による講義評価においては、学生の授業評価結果が大きな比重を占めます。

(2) 米国における人材育成の取組

① 原子力政策方針と人材育成及び基盤維持・強化に関する考え方

1) 原子力政策方針

 米国では、議会及び行政府共に原子力発電の利用に肯定的であり、連邦政府は、原子力関連の研究開発支援や安全規制の役割を担っています。例えば、歳出法によるDOEへの手厚い研究開発予算の配賦や、NRCに対して先進的な商用原子炉の許認可プロセス確立を求める法律の制定等が行われています。また、一部の州は、温室効果ガス排出削減目標の達成等を目指すため、原子力発電所の運転継続に係る経済的支援政策を実施しています。

2) 放射線利用分野での方針

 放射線利用は、工業のみならず、医療、食品、農業等の分野で広く行われています。DOEの国立研究所では、大型の放射線源や加速器等を利用した研究開発が実施されています。DOEは、自ら研究開発を進めることに加え、外部の研究者等が施設を利用できる機会を提供し、放射線利用の促進に貢献しています。DOEの施設の利活用方針は、連邦政府・DOEが予算を要求し、それを議会が歳出法として決定する形で定められています。
 DOEは2014年に、同年から2018年の5年間を対象とした「戦略計画」を策定しました。同計画の戦略目標の一つとして、「自然に対する我々の理解を一変させ、基礎科学の進展と技術革新とのつながりを強化する、科学的発見や主要な科学ツールの提供」が挙げられており、この目標をより具体化して「ミッション重視型研究を可能にし、科学的発見を促進する世界一の科学利用施設を米国の研究者に提供」することとしています。DOEはこの目標も踏まえ、加速器、X線光源施設、中性子源施設等の放射線利用に欠くことのできない施設を、大学、研究機関、民間企業、政府機関等が利用できるようにしています [8]

3) 原子力人材や基盤の維持・強化に係る課題と取組方針

 米国では、一貫して原子力人材や基盤の維持・強化の必要性が認識されており、法律制定やDOEプログラムとして具体化されてきました。例えば、2007年に制定された米国競争力法では、高等教育機関における原子力人材確保のためのプログラムが規定されています。その目的として、高等教育機関における原子力科学教育のために活用できる人員やリソースの減少問題に対応し、米国の経済競争力やエネルギーセキュリティにおいて戦略的重要性を有する原子力関連の学位取得者数を増加させることが明記されています [9]
 このように、高等教育機関を対象とした支援は、連邦政府が中心となって進められています。一方、産業界では、原子炉の新設プロジェクトが長期間途絶えたことによる人的資源の喪失が課題として認識されています。例えば、ボーグル原子力発電所で2基のプラントが建設されていますが、建設に従事した経験を持つ人材の不足も一因となり、建設スケジュールは遅れています。

② 人材育成、基盤維持・強化の取組

1) 人材育成や基盤維持・強化の国家予算

 DOEは、米国競争力法に基づき原子力人材の育成を行うため、2009年から原子力エネルギー大学プログラム(NEUP15 )を実施しています。NEUPの目的は、大学における研究をDOEの技術支援プログラムに組み込んだ形で実施し、革新的な原子力分野における最先端の傑出した研究を支援することとされています。そのため、大学への支援を一つのイニシアティブに統合し、以下の取組を実施するとしています [10]

  • 原子力教育の再興とDOE原子力エネルギー局が定める研究開発プログラムの目的達成のため、大学、国立研究所及び産業界において必要とされる研究開発の統合を支援する資金援助
  • 原子力に関連するエンジニアリング、保健物理学・核物質科学・放射化学等の関連学科、及び応用核物理学分野における国家的知的資産の維持に対する支援
  • 原子力関連の研究開発や教育のための、大学におけるインフラの改善

 NEUPは、次世代の原子力エンジニアや科学者の育成・訓練に貢献しています。DOEはこのプログラムにより、大学における研究開発、インフラの整備、学生に対する奨学金支給等の教育支援を行っています。2020会計年度には、本プログラムのために500万ドルの予算が確保されています [11]。また、奨学金の支給等を通じた原子力人材の育成支援は、2009年以降、DOEのみならず、NRCによっても実施されています [12]

2) 大学等高等教育機関における人材育成の実際の取組

 2017年には、DOEはNEUPを通じて、原子力関連専攻の学部生58名と大学院生31名に対して計500万ドル以上の奨学金を支給しています。NEUPによる奨学金は、学部生の場合は1人当たり7,500ドル、大学院生の場合は年間最大50,000ドルが3年間にわたり支給されます。また、大学院生の奨学金には、夏のインターンシップのための費用5,000ドルも含まれています。インターンシップは、国立研究所やその他のDOEが承認した施設で実施され、DOEが実施している原子力研究プログラムについて大学院生が知ることが期待されています。なお、2009年以降、DOEは累計700名以上の学部生や大学院生に対して計3,800万ドル以上の奨学金を支給しています [13]
 DOEオークリッジ国立研究所(ORNL16)は、設立当初から大学との連携を構想しており、現在、テネシー大学、デューク大学、フロリダ州立大学、ジョージア工科大学、ノースカロライナ州立大学、バンダービルト大学、バージニア大学及びバージニア工科大学と研究開発において連携しています。大学と連携して、共同研究を行うことにより、学生の卒業後の進路選択の幅が広がるとされています。また、これらの大学はORNLの組織管理に参画しているため、大学の学生がORNLの研究プログラムに参加できるとともに、ORNLの研究プログラムの将来的な方向性の意思決定プロセスに大学幹部が参画できるようになっています [14]

3) 大学等高等教育研究機関における研究開発施設等の維持・活用に関する実際の取組

 米国の高等教育機関における研究インフラ活用の取組として、NEUP、原子力分野のイノベーション加速プログラム(GAIN17)、及び原子力科学ユーザー施設(NSUF18)の3つを紹介します。

NEUP

 NEUPでは、研究用原子炉(研究炉)を含めた大学の研究インフラの整備に対する支援が実施されています。米国では22大学で研究炉が運転中です(表2)。これらの研究炉は、NEUPによる支援を通じて安全性や性能、学生に対する教育機能の向上が図られています。
 例えば2019年には、オハイオ州立大学研究炉の制御棒駆動装置の刷新のために23万ドル、リード大学の原子炉プログラムの信頼性と研究能力の向上のために10万4,000ドルの支援を行うことが決定されました。また、このような支援は、研究炉のみならず、実用炉に関するものも対象とされています。NuScale社が開発を進めている小型モジュール炉(SMR19)のシミュレータを3か所の大学に設置するプログラムに対する支援はその例です。このプログラムは、実際のプラントの操作室と同様の遠隔シミュレータを設置するものであり、学生がプラントの操作等について学ぶことができます [15]
 これらの支援に加えて、大学の研究炉における新しい燃料の購入と使用済燃料の撤去を支援する、研究炉インフラ(RRI20)プログラムも実施しています。RRIプログラムは、大学における原子炉を用いた研究・訓練能力の維持を目的としており、大学の研究炉の維持が、将来の科学者やエンジニアの養成において重要な役割を果たすとDOEは考えています [11]

表 2 米国で研究用原子炉を設置している大学(運転中の原子炉に限る)
大学名学部・学科名等
アイダホ州立大学科学・工学科
カンザス州立大学機械・原子力工学科
マサチューセッツ工科大学原子炉実験室
ノースカロライナ州立大学原子力工学科
オハイオ州立大学工学科
ペンシルベニア州立大学放射線科学・工学センター
パデュー大学工学科
リード大学同大学には原子力学科や工学科はない
レンセラー工科大学原子力工学科
テキサス農工大原子力工学科
カリフォルニア大学デービス校マクミラン原子力研究センター
カリフォルニア大学アーバイン校物理科学科
フロリダ大学工学科
メリーランド大学工学科
マサチューセッツ大学ローウェル放射線研究所
ミズーリ大学コロンビア校研究炉センター
ニューメキシコ大学工学科
テキサス大学工学科
ユタ大学工学科
ウィスコンシン大学工学・物理学科
ワシントン州立大学原子力科学センター
(出典)NRC及び各大学ウェブサイトに基づき作成
GAIN

 GAINは、革新的な原子力技術の商業化を実現するために、連邦政府が原子力業界に対して、開発リスクを伴う技術開発や規制対応に係る支援を行う取組です。連邦政府の資金により、新たな企業の原子力分野への参入を促進するとともに、GAINへの参加企業等はDOEの国立研究所等のインフラを活用することができるようになります [16]
 GAINにおいては、DOEの研究所に加えて、大学も自発的に研究インフラを提供しています。このようにインフラを提供している大学の情報は、「大学ディレクトリ」と呼ばれるパンフレットにまとめられています。最新の2020年の「大学ディレクトリ」では、テネシー大学やマサチューセッツ工科大学等、合計12大学の、原子力関連学科や重点プロジェクト等の情報が整理されています [17]

NSUF

 NSUFは、DOE原子力エネルギー局が実施しているプログラムの一つであり、同局が目指すミッションの実現のために、革新的なアイデアに対して支援を行うものです。優れたアイデアと必要な能力を組み合わせるため、全国の原子力研究施設と人材等の知的資産を統合するプログラムとなっています。NSUFは、全米各地に立地する原子力研究施設の利活用促進や、原子力科学・研究分野における大学、企業及び研究所の協力を図っています。NSUFパートナーシップで活用できる研究施設の例として、アイダホやオークリッジ等国立研究所のホットセルや照射後試験施設、マサチューセッツ工科大学の中性子照射施設、ミシガン大学のイオンビーム施設等、また、民間企業であるウェスチング社のホットセル等、多数の施設が挙げられます。
 NSUFプログラムが費用負担を行う支援対象は、競争により選定されます。選定されると、プログラムに参画している研究施設との共同実験や、通常はアクセスできない高性能なコンピューターの利用が可能となります [18]

4) 社会人向けの取組

 社会人向けの訓練や資格認定は、原子力発電運転協会(INPO21)が中心となり実施されています。INPOは、スリー・マイル・アイランド原子力発電所2号機の事故を受け、1979年に米国の原子力産業界が中心となって設立された組織です。1985年に原子力産業界は、高いレベルの訓練や資格認定を統一的に実施し、原子炉の運転に携わる人員の職業意識を高めることを目的として、INPOが運営する全米原子力訓練アカデミーの立ち上げを決定しました。
 なお、事業者が実施する訓練プログラムの品質の認定は、INPOからは独立した全米原子力資格認定会議が実施します。認定は継続的に維持され、トレーニングプログラムごとに6年に1回の割合で正式に更新されます。重大な問題が特定された場合は、初期認定を延期したり、認定プログラムを経過観察に処したり、場合によっては認定を取り消す可能性があります。また、認定プロセスはNRCから独立していますが、NRCは規制トレーニング要件を満たすための手段としてこの認定プロセスを認識し確認しています。
 全米原子力訓練アカデミーは、運転、メンテナンスに関する訓練と資格認定のガイドラインを策定しています。このガイドラインは、事業者が訓練プログラムの策定や主要人員の選任等を行う際の基盤となっており、産業界のニーズの変化や事象の分析等を踏まえて定期的に改定されています。また、原子力技術の優れた管理、効果的なリーダーシップ、各事業者のパフォーマンス改善を目的として、多様な訓練コースやセミナーを実施しています。訓練コースやセミナーには次のようなものがあります。

  • 最高経営責任者(CEO22)のためのセミナー
  • 事業経営層のための原子炉技術コース
  • 上級原子力責任者のためのセミナー
  • 上級プラントマネジメントコース
  • 形成層のための原子炉運転リスクに関するコース
  • 運転シフトマネージャー、運転の監督者、メンテナンスの監督者等のための専門セミナー
  • 新部門マネージャーのためのセミナー

 2006年に立ち上げられたEラーニングのシステムでは、プラントへのアクセス、放射線業務従事者、ヒューマンパフォーマンスや産業安全等、一般的な訓練コース及びサイト固有の訓練コースを提供しています [19]
 マサチューセッツ工科大学は、社会人も対象とする「専門家教育」プログラムを実施しており、その一つとして原子炉安全に関するコースが開講されています。原子炉安全コースの受講対象者の要件は、学位を取得し原子力施設に関する技術的な知見を有しており、現在又は将来、大型炉やSMR等の原子力施設の設計、建設、運転又は安全規制に従事する者とされています。特に関心を持つ可能性がある対象として、原子力発電事業者、プラントメーカー、資機材メーカー、NRCやDOEの職員、安全評価に従事する者が挙げられています [20]

(3) 英国における人材育成の取組

① 原子力政策方針と人材育成及び基盤維持・強化に関する考え方

1) 原子力政策方針

 英国政府は、2008年に公表した原子力白書において、低炭素電源の確保及び自国のエネルギー安全保障の観点から、原子力発電所の新設を推進する方針を明示しており、この方針は現在も維持されています。原子力発電所の新設計画を円滑に進めるため、英国政府は、建設計画認可の円滑化、建設される炉の一般設計評価(GDA23)の推進、新設計画に対する資金調達支援等の制度整備を進めています。

2) 放射線利用分野での方針

 放射線利用は、主にラザフォードアップルトン研究所(RAL24)の陽子加速器(ISIS)において実施されており、科学技術研究や産業利用等に活用されています。同研究所では、英国内外の研究者向けに物理、化学、物質科学、工学、生物学等の様々な分野での放射線利用環境を提供しているほか、商業利用も実施されています [21]

3) 原子力人材や基盤の維持・強化に係る課題と取組方針

 英国では、国内における原子力発電所の新設が計画されている状況下で、将来の人材不足や高い専門的知見の喪失が課題として認識されており、官民を挙げた対策が検討されています。英国政府は、2015年に発表した原子力技能の維持に関する政策文書において、原子力業界に従事する人に求められるスキルを3つの階層に分類しています(図2)。第1階層は、インターシップのような短期的な教育によって身に付けるスキル、他の産業界の転用可能なスキル、様々なアプローチによる習得が可能であるスキルとされています。一方で、第2、第3階層のスキルは、産業界が自ら中長期的に育成していく必要があると指摘しています。政府は、将来的な原子力業界の成長・拡大を見据え、これら第2、第3階層のスキルを育成するためには、ターゲットとするスキル等を明確にした上で教育コースを導入するなど、教育機関と協力した取組が必要になるとの見方を示しています。特に、第3階層の高度なスキルは研究機関における研究開発活動を通じて習得できるものであるため、原子力イノベーション・研究諮問委員会(NIRAB25)は、人材育成を行う研究開発活動に対して国が資金援助を行う必要性を指摘しています [22]

図4 原子力産業界に従事する人の3階層のスキル

図4 原子力産業界に従事する人の3階層のスキル

(出典)英国政府「Sustaining Our Nuclear Skills」(2015年) [22]

 具体的な取組として、原子力技能戦略グループ(NSSG26)による、将来必要となる原子力人材の評価等が挙げられます。NSSGは産業界が主導していますが、研究機関代表を議長とし、政府、安全規制当局、産業界、サプライチェーン、廃炉組織、さらには国防省や海軍等の関係機関の代表がメンバーとして参加しています。NSSGは、2019年に公表した原子力労働力需給評価(NWA27)において、2030年頃までに必要となる新規採用者数を予測しています。現在計画中の原子炉(合計設備容量900万kW)が2030年頃までに運転開始するシナリオ1、その倍となる1,800万kWの原子炉が運転開始するシナリオ2の二つのシナリオを設定しており、2017年の常勤雇用者約87,000人に対し、シナリオ1では約40,000人、シナリオ2では約60,000人を2030年までに新規雇用する必要があると予測しています [23]

図5 英国で将来必要となる原子力人材確保のために必要な新規雇用者数

図5 英国で将来必要となる原子力人材確保のために必要な新規雇用者数

(出典)NSSG「5Nuclear Workforce Assessment2019」(2019年) [23]

 またNWAでは、新規雇用する原子力人材の活動別のニーズ構成についても、二つのシナリオそれぞれについて予測しています(図6、図7)。
 これらの活動別ニーズから、核保有国である英国では、国防分野の人材が継続的に必要であることに加えて、原子力施設の廃止措置に携わる人材のニーズが大きいことが分かります。また、大規模な原子炉新設を想定するシナリオ2の場合、新設に携わる人材ニーズが2030年頃にかけて高まると予測されています。

図6 活動別の人材ニーズ構成(シナリオ1)

図6 活動別の人材ニーズ構成(シナリオ1)

(出典)NSSG「Nuclear Workforce Assessment2019」(2019年) [23]

図7 活動別の人材ニーズ構成(シナリオ2)

図7 活動別の人材ニーズ構成(シナリオ2)

(出典)NSSG「Nuclear Workforce Assessment2019」(2019年) [23]

② 人材育成、基盤維持・強化の取組

1) 人材育成や基盤維持・強化の国家予算

 大学等の教育機関に対しては英国政府から補助金が支給されており、基本的には国家予算での教育が実施されています。また、政府は2016年、英国の生産性向上に必要な5つの成長分野の人材育成を行うため、総額8,000万ポンドを投じて国立大学を新設する方針を掲げました。この方針の下、2018年2月には国家予算により原子力専門大学(NCfN28)が設立されました。
 なお、政府方針においては、新たな国立大学の設立に対しては、国家予算だけでなく産業界からの支援も受けることが想定されています [24]

2) 大学等高等教育機関における人材育成の実際の取組

 英国では、表3に示すように、複数の大学に原子力コースが設置されています。

表 3 英国の大学に設置されている原子力学コースの例
大学名原子力関連学科名
インペリアル・カレッジ・ロンドン
  • 化学・機械工学・材料学科(化学・原子力工学、材料学・原子力工学、機械・原子力工学)
マンチェスター大学
  • 物理天文学科(原子力科学技術)
  • 機械、航空宇宙、土木工学科(原子力エンジニアリング)
シェフィールド大学
  • 化学・生物エンジニアリング学科(原子力を活用した化学エンジニアリング、原子力エンジニアリングと材料科学)
リバプール大学
  • 物理学科(原子力科学技術)
  • エンジニアリング学科
(出典)各大学ウェブサイトに基づき作成

 2018年2月に開校したNCfNの南北二つのキャンパスが立地するカンブリア州(ノースハブ)とサマセット州(サウスハブ)は、それぞれ原子力産業との関わりが深い州であり、前者には再処理プラント等が立地するセラフィールド原子力サイトが、後者には欧州加圧水型原子炉(EPR29)2基の新設が計画されるヒンクリーポイントCサイトが存在しています。NCfN では、これらの原子力サイトに近接した場所で、事業者が現場の知見も生かした教育支援を行いながら、現場のニーズに即した人材育成が行われています。具体的には、理論だけでなく実地研修も組み合わせた教育が提供され、バーチャルリアリティを活用した原子力サイト環境の体験や、最新技術を使ったエンジニアリングワークショップの実施等が計画されています [25]
 また、高い専門性を有する人材の育成に関しては、英国工学・物理科学研究会議(EPSRC30)の資金援助を受けた博士号プログラムが2019年4月に新設されています。同プログラムは、安定的・経済的な原子力のエネルギー利用のためのスキル向上を目指した博士号育成(CDT GREEN31)と称されており、マンチェスター大学が主導し、イングランド北部の周辺大学が協力して教育プログラムを提供します。このプログラムには英国内外の12の原子力事業者がパートナーとして参加しており、雇用や人材育成が強化されることが期待されています。また、産業界のパートナーの参加により、国内外の原子力産業動向に沿った教育の実施を目指しています [26]

3) 大学等高等教育研究機関における研究開発施設等の維持・活用に関する実際の取組

 英国政府は、2015年に発表した原子力技能維持に関する政策文書において、人材ニーズを満たすため、更なる施設の共用化や設備投資が必要であると指摘しています [22]
 これを受け、大学と企業が協力し、大学の敷地内に研究センターを設けて設備を共用するとともに、学生の教育訓練の場等を提供するなど、産学連携の取組が行われています。例えばマンチェスター大学は、原子炉分野の研究等で得られた知見をいち早く実証化することを目指し、ロールスロイス社やフランス電力(EDF)等の事業者と協力しています。ロールスロイス社はマンチェスター大学内に技術センターを設置し、学生や研究者が材料特性や材料エンジニアリング等に関する研究を行うことを可能にしています[27]
 また前述のNCfNも、産業界や他の大学と協力して教育コースを提供しています。例えば、原子力業界に初めて就職・転職する労働者向けにエンジニアリング・建設産業訓練会議(ECITB32)が認定する資格[33]に関しては、サウスハブが立地するサマセット州のブリッジウォーター&トーントン大学と連携した教育コースが提供されています [28]

4) 社会人向けの取組

 社会人向けの人材育成の取組は、国立職業技能アカデミー原子力センター(NSAN34)が行っています。NSANには民生及び軍事それぞれの産官約100機関がメンバーとして参加しており、各機関のニーズに沿って、人材・技能育成のためのトレーニング講座等を提供しています [29]
 例えば、以下のような講座が設置されています。

原子炉新設トレーニング講座

 英国政府が承認した原子炉新設プロジェクトに従事する人材を育成するため、EDFエナジー社35、NSAN等の関係機関が共同開発した三つのオンライン短期コースが開設されています [30]

  • 基本的な共通事項
  • 原子力産業の事業環境に関する基本情報
  • 原子力産業界における基本的な行動

 コース修了後には、原子力分野で就業できることを証明するNS4P36修了証書が付与され、NSANのNS4Pオンラインシステムに受講者のキャリア情報の一部として登録されます。

(4) フランスにおける人材育成の取組

① 原子力政策方針と人材育成及び基盤維持・強化に関する考え方

1) 原子力政策方針

 フランスは、総発電電力量における原子力の比率を、2035年までに現行の70%強から50%に縮減する方針を掲げています。一方で、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げており、2035年以降の低炭素電源確保のため、原子炉の新設オプションも検討するとしています。政府は2016年以降、5年ごとに、長期的なエネルギー計画である多年度エネルギー計画(PPE37)を策定・改定しており、2020年4月に改定されたPPEでは、EPRを6基建設する原子炉新設オプションを2021年半ばまでに検討する方針が示されています。

2) 放射線利用の方針

 フランスは、国内あるいは欧州を中心とした国際的な研究や産業利用等のために、放射線利用を継続的に行っていく方針です。
 放射線利用は、放射線発生装置である研究炉や加速器、その他研究施設において行われています。研究炉の利用は、政府との契約に基づき、原子力・代替エネルギー庁(CEA38)が立案する戦略の下で実施されています。その他研究施設のうち比較的小規模なものの利用に関しては、国立科学研究センター(CNRS39)が政府と結ぶ複数年契約によって立案される戦略に基づいて行われます。一方で、加速器等の大規模施設については、フランスの国家研究開発戦略に基づく研究施設開発ロードマップにおいて、大規模研究インフラ施設(TGIR40)としての開発方針が規定されており、この開発方針の下で放射線利用が行われています。

3) 原子力人材や基盤の維持・強化に係る課題と取組方針

 フランスでは、前述のとおり、原子力発電比率を減らしながらも、将来的な原子炉新設の可能性も検討されているため、原子力人材の維持が必要となります。フランスでは、毎年約1,400人(高校卒レベル技術者:100人、上級技術者免状取得者:50人、学士:230人、修士:800人、博士:200人)が教育課程を卒業して原子力業界に就職しています。これらの学生の大半は、教育機関における座学だけでなく、インターンシップを通じた現場での職業教育を受けています。また、一部の企業では、就職後に企業内研修や生涯教育を実施しており、原子力分野の従業員は平均して16日/年の訓練を受けています [31]
 フランス政府は2019年1月に、産業界の代表組織である原子力産業戦略委員会(CSFN41)との間で、2019年から2022年までの戦略契約に調印しました。その第一の取組分野として、雇用、コンピテンス、人材育成が挙げられており、以下のような方針が示されています。

  • 国と産業界が協力し、2019年中に、地域において工場訪問やフォーラムを実施する。
  • 政府は、若者が原子力に関する教育分野に関心を持つようなアピール活動を行う。
  • 産業界は、原子力分野での職業訓練契約を結べるようにする。

 フランスでは、原子力関連の業務を16分野(プロジェクトマネジメント、放射線防護、安全と中性子工学等)に分類し、更に職務・ポジションを3つ(労働者、技術者、エンジニア)に分類しています。これら16業務分野と3つの職務・ポジション分類の組合せにより、現在及び将来にわたり必要とされるスキル、更にそのようなスキルを身に付けた人材を育成するために必要な資格や教育プログラムが明らかになるとしています。

② 人材育成、基盤維持・強化の取組

1) 人材育成や基盤維持・強化の国家予算

 フランスでは、人材育成や基盤維持・強化のため、関係する政府機関等の予算が拠出されています。例えばCEAに関しては、主な国家予算としてフランス予算プログラム172「分野横断的な科学技術研究開発」と予算プログラム190「エネルギー、開発、持続可能なモビリティ分野」から拠出されており、2019年の予算額は、前者が6.9億ユーロ [32]、後者が4.6億ユーロです [33]
 なお、後述する国際原子力学院(I2EN42)に対しては、予算プログラム190に基づくCEA予算から年間15万ユーロが配賦されています [34]

2) 大学等高等教育機関における人材育成の実際の取組

 フランスでは、複数の大学や研究機関において原子力分野の教育が実施されており、教育は原子力新規導入検討国に対する輸出コンテンツの一つとしても位置付けられています。
 政府は2012年に、国内外に開かれた教育プログラムを提供する目的でI2ENを設立しており、パリのエコールポリテクニク等のようにフランス国内の様々な教育機関で実施されている教育プログラムの情報を集約し、学生等に提供するワンストップ窓口となっています。専門の研究所、大学院、大学、高校が提供するプログラムがあり、これらのプログラムには、インターンシップの受入れや実験施設の提供等によりフランスの原子力事業者が参画しています(図3)。

図8 I2ENの概念図

図8 I2ENの概念図

(出典)I2EN「Partners and Associate Members」 [35]

 専門研究所である地方ポリテクニク研究所(IRUP43)の原子力教育訓練センターでは、建設プロジェクトサイトにおけるマネジメント、機械工学、計装制御、非破壊検査等、幅広い分野において、以下のような教育プログラムを提供しています [31]

  • 原子力業界への就職を希望する初心者向けの準備プログラム
  • 原子力分野の保守・ロジスティクス分野の技術者養成プログラム
  • 原子力サイト専門の保守技術者養成プログラム
  • 原子力サイト専門の保守技術者養成プログラム
  • 原子力の運転分野の管理職養成プログラム
  • 原子力施設エンジニアリング修士号プログラム [36]

 また、国立先端技術学校(ENSTA ParisTech)では、複雑なプロジェクトの設計、遂行、管理を行うためのエンジニアリング教育を提供するとともに、語学や人文科学、法律、コミュニケーション、経済学、会計学、経営学等、ビジネスで必要となる広範な教育を実施しています。ENSTA ParisTechでは、原子力分野で以下のような修士号の取得が可能です。

  • エンジニアリング:
    エネルギー・環境、輸送、システムエンジニアリングの3つの専攻があり、このうちエネルギー・環境専攻に原子力が含まれる。原子力分野の講義は、原子炉物理や解析の専門家を養成するのではなく、原子力発電所のオペレーションを詳細かつ適切に理解できる人材育成を目的としており、政策、経済、エネルギー市場戦略等も講義対象となっている。また、学生がEDFやオラノ社等の事業者やCEA等の研究機関と直接コミュニケーションを取る機会もある。この修士号を獲得することにより、原子力業界への就職が容易になるとされている。
  • 原子力科学:
    原子力プラント設計専攻では、原子力施設の設計建設に関して、安全確保、運転、構造、インフラ、システム機器等についての広範な知見を得ることを目的としている。

 パリのエコールポリテクニクでは、エンジニアリング分野の教育プログラムを提供しており、ポリテクニク技師44、修士号、博士号の取得が可能です。技師の取得プログラムは4年間かけて実施され、基礎科学、エンジニアリング科学、経済学、社会科学等、分野横断的な科学的バックグラウンドの習得が可能です。4年間のうち前半2年間は物理学、化学、生物学、機械学、経済学、コンピューターサイエンスに関する一般的・総合的な教育が実施されます。3年次で学生は専攻を選択し、後半2年間で専門教育が実施されます。選択できる専攻として、例えば「21世紀のエネルギー」があり、この専攻では応用数学、物質科学、機械工学、物理学、経済学、熱水力学、原子炉物理学、核燃料サイクル等の様々な講義を通じて、エネルギー・環境問題に関して総合的な視点で学ぶことができます。また、3年次の後半4か月から6か月は、研究機関や企業におけるフルタイムのインターンシップに参加し、その後4年次では原子力工学分野の専門性を高めていきます。
 なお、エコールポリテクニクの特徴は、多様な国際プログラムが用意されていることで、全学生の30%に当たる850人の外国人学生が所属しています [31]

3) 大学等高等教育研究機関における研究開発施設等の維持・活用に関する実際の取組

 フランス国内では、CEAや大学等において30基以上の研究炉が運転されてきました。このうち、CEAのサクレー研究所のISIS炉やカダラッシュ研究所のMINERVE炉等は教育訓練にも活用されてきましたが、1950年代に建設されたこれらの炉は、2020年2月時点で閉鎖され廃止措置に移行しており、フランス国内で運転中の研究炉は3基のみとなっています [37]
 一方でCEAは、フランス南部のカダラッシュに研究炉ジュール・ホロヴィッツ(RJH45)を建設中です。RJHでは、原子炉機器等の材料や燃料の照射試験が実施できるだけでなく、医療用の放射性同位体(RI)の製造も可能であり、多目的利用が想定されています。また、フランス国内向けの利用にとどまらず、CEAと協定を結んだ世界各国のパートナーも利用可能となっており、我が国の原子力機構やインド原子力庁(DAE46)も既にCEAと協定を締結しています。
 なお、前述のENSTA ParisTechやエコールポリテクニクはパリ南部のサクレーに立地しており、両校及び原子力分野以外の3つの専門高等教育機関がパリポリテクニク研究院47として統合されました [38]。これらの教育機関が国際的に見ても高いレベルの教育を提供できるよう、新たな協力取組を締結しました。また、サクレーにはCEAの研究所48が立地しており、統合された新たな教育機関はCEAとも協力していく方針です [39]

4) 社会人向けの取組

 フランスでは、1956年にCEA傘下に国立原子力科学技術研究所(INSTN49)がパリ近傍のサクレーサイトに設立され、原子力利用を進めるためのエンジニア、研究者及び技術者の育成を行っています。また、INSTNはサクレーサイト以外に地方にも教育拠点を持っており、地域の人材育成にも貢献しています。
 INSTNの社会人向け教育では、教育を受ける人のバックグラウンドに応じて様々なプログラムが用意されており、初めて原子力分野に就職する人向けには、必要最低限の知識の取得を目指すプログラム、既に原子力業界で働いている人向けには、新技術に関する知見の取得やスキルアップを目指すプログラムを提供しています。
 社会人向け教育プログラムでは、放射能と環境、放射線防護、軽水炉、研究炉、高速炉、燃料サイクル、材料学、原子力施設の操業・保守、廃止措置と放射性廃棄物管理等、原子力に関する広範な分野・内容が対象になっています。例えば軽水炉分野では、原子力分野の科学的・技術的な背景を持つ技術者やエンジニア向けに「原子炉基礎技術」というプログラムが提供されています。同プログラムは、原子力安全原則と実務について理解を深めることを目的としており、座学、実務、研究炉、シミュレータ等を活用した教育が行われます。また、様々な炉型の原子炉開発の変遷についての学習のほか、研究炉の特性について理解するための現場での研修も実施されます。この教育プログラムは、CEAと放射線防護・原子力安全研究所(IRSN50)によって実施されます [40]
 さらに、INSTNはこれらの教育プログラムのほか、IAEAが推奨する体系的な訓練アプローチ(SAT51) に基づくオーダーメイドの企業内研修も実施しています。

(5) 中国における人材育成の取組

① 原子力政策方針と人材育成及び基盤維持・強化に関する考え方

1) 原子力政策方針

 中国における原子力の民生利用は、商用炉の初号機商業運転が1994年に開始されており、他の主要国に比べて遅れたものの、一貫して積極的に原子力発電利用を推進する政策を堅持しています。また、熱中性子炉から高速炉を経て核融合炉の利用に至るという、3ステップの原子力開発路線を進めています [41]
 中国では、5年ごとに「五か年計画」を策定してエネルギー政策を推進しており、2020年は第13次五か年計画期間(2016年から2020年)の最終年です。第13次計画では、原子力発電について、沿海部のプラントを中心として積極的に建設を進めていくとされていました [42]。現在、2021年から2025年を対象とした第14次五か年計画の策定に向けた検討が進められており、第14次計画においても積極的な原子力推進政策が堅持されることが見込まれます。
 中国では、2020年3月時点で47基の原子炉が運転中、12基が建設中です [43]。運転中・建設中のプラント基数は米国、フランスに次いで世界第3位であり、原子力推進政策を堅持していることも踏まえ、今後も積極的な原子力人材の育成が必要になると考えられます。

2) 放射線利用分野での方針

 中国には、2018年末時点で、RIや照射装置の製造、販売及び使用に従事している組織は7万3,000以上あります。全国で14万以上の放射線源、18万台以上の照射装置が利用されています。2018年7月には、甘粛省にある国内初の重イオン加速器を用いた治療装置の使用許可証が発給されるなど、様々な分野で放射線が利用されています [44]
 中国では、原子力発電所を活用した放射線源の製造も行われています。2017年4月に、カナダ型重水炉(CANDU)炉である秦山第三原子力発電所を利用して、コバルト60線源の製造が開始されました [45]。これは、同原子力発電所の運転事業者が、RIの製造会社等と協力して進めているものです。2020年2月には、完成した線源がタイに向けて出荷されています [46]
 放射線利用の方針について定めた政策文書は特に策定されていませんが、2013年に策定された「国家重大科学技術インフラ建設中長期計画(2012年から2030年)」において、材料科学及び粒子物理・核物理科学の分野で、以下の施設の建設やそれらを用いた研究を行うことが示されています [47]

  • シンクロトロン光源
  • 軟・硬X線自由電子レーザー試験装置
  • 高エネルギー光子源試験装置(HEPS-TF52
  • 高性能重イオン束研究装置
  • 強流放射性束実験施設
  • 強流量子直線加速器
3) 原子力人材や基盤の維持・強化に係る課題と取組方針

 中国では、原子力発電の急拡大に伴い、特に発電所の運転や安全規制の面における人材育成の強化が課題として認識されています。

原子力発電所の運転に従事する人材の育成

 原子力発電の発展による人材需要を満たすため、政府の主導により人材教育や育成の計画を定め、国、企業、高等教育機関、研究所において取組を進めています。2016年に作成された「原子力の安全に関する条約」の第7回国別報告書では、人材強化の取組として以下の5点が挙げられています [48]

  • 人材育成の体制整備:
    政府の支援、大学と企業の協力等により、大学に原子力発電に関連する専攻を設置する。高等教育機関における、原子力を専門とする人材の募集定員を増やす。大学での基礎教育や専門教育、現場業務に従事する前の企業での訓練を有機的に結合させる。
  • 人材育成や求人ルートの拡大:
    高等教育機関の定員増員、中途採用、国内外の専門家の採用等により、人材ニーズを満たす。プラントの設計、エンジニアリング、運転等、業務ごとに異なる人材ニーズの特性に対応して、様々な育成方法を構築する。
  • 高レベル人材に対するニーズへの対応の重点化:
    新しいプロジェクトの立ち上げ前に、事前に人材を選抜し、様々な高レベル人材を育成する。原子力発電分野における教育や人材交流における協力を拡大し、管理や技術において国際的な視野を備えた基幹的な人材を育成する。
  • 原子力発電に対して専門的なサポートを提供する体制の構築:
    原子力発電に関する専門家委員会や、専門的なテーマを扱う技術検討チーム等を立ち上げ、国内外から、また業界の内外から広範に人材関連情報を集めて人材情報データベースを構築し、原子力発電人材共同プラットフォームを構築する。技術支援機関(TSO53)の人材や技術的なリソースを、安全規制機関、産業界、原子力発電事業者の重要な意思決定のための諮問組織として利用する。
  • 人材交流の展開:
    原子力発電所の部門間、原子力発電グループ企業が所有する原子力発電所間や原子力発電グループ企業幹部人材の人事交流を実施し、人材の移動を促進することにより、マネジメント経験の蓄積や交換を図る。
安全規制に従事する人材の育成

 原子力安全規制機関である国家核安全局は、安全規制業務に携わる人材の訓練に力を入れています。そのため、「原子力・放射線安全監督検査人員の訓練業務計画」を策定し、人材教育の体系や制度の整備を進めています。プラントシミュレータや非破壊検査を用いた専門的な訓練が行われているほか、若手職員の地方監督機関への派遣、海外派遣等も行われています [48]

② 人材育成、基盤維持・強化の取組

1) 大学等高等教育機関における人材育成の実際の取組

 北京の清華大学は、中国における原子力工学のトップクラスの大学の一つです。清華大学では、工程物理系という学科で原子力教育が実施されています。工程物理系には、学部生約600名、大学院生約800名、教職員109名が所属しており、加速器を用いた教育や研究も実施されています [49]
 清華大学に属する開発機関である原子力・新エネルギー技術研究院(INET54)は、電気事業者と協力して高温ガス炉の建設を進めるなど、中国の原子力開発の一翼を担っています。またINETは、1982年から2016年の約35年間で、博士課程733名、修士課程1,644名の合計2,377名の大学院生を受け入れています。同研究院の核科学・技術専攻には、原子力科学・エンジニアリング、燃料サイクル・材料、核技術・応用、放射線・環境防護の4つの専門コースが設置されており、原子力科学・エンジニアリングコースでは高温炉の研究を行う研究室等が設置されています [50]
 INETの原子炉構造研究室では、海外の教育機関との交流を活発に行っています。ここ10年間で、同研究室の12名の学生が短期留学生として海外で学んでいます。また、海外の大学と協力して教育を行う修士課程と博士課程の大学院生が1名ずついます。こうした交流を通じて、研究室では国際的な学術の動向を理解し、最新の科学技術に関する情報を入手しています [51]

2) 大学等高等教育研究機関における研究開発施設等の維持・活用に関する実際の取組

 2018年末時点で、中国には19基の民生用研究炉や臨界装置があり、このうち9基が運転中、1基が停止中、4基が長期運転停止中、5基はまだ運転を開始していません。19基のうち9基を中国核工業集団公司(CNNC55)グループの研究機関である中国原子能科学研究院(CIAE56)が、5基を同じくCNNCグループの中国核動力研究設計院が運営しており、1基は医療技術を研究している企業が有しています。また、3基を清華大学が、1基を深セン大学が運営しています [44]
 これらの研究炉は、様々な形で活用が図られています。例えば、CIAEの北京にあるプール型炉を用いて、2017年11月に冬季間の熱供給の実証試験が行われています [52]。また、多方面での利用に開かれた炉として、CIAEの「中国先進研究炉」(CARR57)があります。CARRは熱出力6万kWのプール型炉で、2010年に初臨界を実現しています。CARRは多用途の科学プラットフォームと位置付けられており、人材育成等の目的での活用も視野に入れられています [53]

3) 社会人向けの取組

 中国において原子力発電事業を実施している3グループ(CNNCグループ、中国広核集団(CGN58)グループ、国家電力投資集団公司(SPIC59)グループ)のうち、CGNグループの原子力発電所の人材育成について、特色等を整理します [54]

中国広核電力股分有限公司の人的資源の概要

 CGNグループの中で原子力発電事業を実施している中国広核電力股分有限公司(中広核電力)には、事務職員と技術職員合わせて1万9,000人近い従業員がいます。図9は中広核電力の従業員の年齢構成を示しています。2018年時点で、35歳以下の従業員が約3分の2を占めており、若い職員の多い会社であるということができます。

図9 中広核電力の従業員の年齢構成

図9 中広核電力の従業員の年齢構成

(出典)中国広核電力股分有限公司「2018年度報告」(2019年) [54]

 2018年に中広核電力は316名を採用しており、そのうち新卒採用は263名、中途採用は53名です。なお、原子力分野の人材供給は多くないことから、採用活動においてはキャンパスにおけるリクルーティングが主となっています。

人材育成のシステム

 中広核電力は中国国内の多くの高等教育機関と人材育成に関する協力協定を締結しており、一部の職員は大学在学中に既に原子力発電に関連する専門的な課程を受講しています。
 また社内に、原子力発電所の運転、エンジニアリング、科学技術及びマネジメントを学習するための組織が設置されています。このようにして、「訓練・教育-試験-権限の付与-職場への配置」というフローで、職員全員を育成するシステムが整備されています。

人材育成ためのリソース

 中国の原子力発電の特徴の一つとして、国産炉や米国、フランス、ロシア、カナダのプラント等、プラントの種類が多いことが挙げられます。表4に示すとおり、中国では、同じ発電所内で異なる炉型のプラントが運転しているケースもあり、中広核電力は様々な用途のシミュレータを設置して、運転員の能力を向上させています。

表 4 中広核電力が設置しているシミュレータ
発電所名
(プラントの炉型)
フルスケールのシミュレータプラントの原理に関するシミュレータプラントの機能に関するシミュレータ事故分析のためのシミュレータシビアアクシデントの分析のためのシミュレータ
大亜湾
(M310)
4 2 2 1 1
陽江
(CPR-1000、CPR-1000+、ACPR1000)
3 0 0 0 0
台山
(EPR)
1 0 0 1 0
防城港
(CPR-1000、華龍1号)
1 1 0 0 0
寧徳
(CPR-1000)
2 0 1 0 0
紅沿河
(CPR-1000)
2 0 0 1 0

(出典)中国広核電力股分有限公司「2018年度報告」(2019年) [54]

<参考:脱原発に係るドイツの取組>
 2022年までの脱原発完了が決定しているドイツですが、原子力発電から撤退する場合であっても、原子力発電所が運転を終了するまで、最新の科学技術水準に照らして継続的に安全性の維持向上を図る必要があるのはもちろんのこと、運転終了後には廃止措置、放射性廃棄物の管理・処分等の活動が長期間続きます。さらに、自国の脱原発後も世界各国で原発利用が続いていく中、自国の原子力安全と原子力分野における国際的な影響力を維持するためには、周辺国や世界における原子力安全の維持向上について、最新の技術水準に基づいて専門的な見地から評価し、見解、主張を示す能力が不可欠であると認識されています。
 このような観点からドイツ政府は、1998年に脱原発政策を掲げた直後の1999年に政府委員会を設置し、原子炉の安全研究と放射性廃棄物処分研究において今後注力する優先分野を特定するとともに、そのために必要な人材・知見維持の在り方を検討する取組を開始しました。
 同委員会は、2000年に最終報告書を政府に提出し、原子力技術に関する知見や人材に関する情報を集積して国内での協力・調整を図る「コンピテンス・プール 60」を設置する方針を示しました。これを受けて同年内に、原子力関連研究を行う複数の公立研究所を中心に、原子力技術に関する情報共有の場として「原子力技術コンピテンス同盟」が設立されました。
 この組織は、脱原発政策に伴い原子力分野への政府投資の縮小が見込まれる中、リソースの重複を避け、効率的に必要な研究を進めていくため、全国規模で取り組むべき研究内容の調整や、学術・実務分野で必要となる人員の検討等を行っています。
 コンピテンス同盟では、ドイツ国内を地域別に5つの「コンピテンスセンター」に分け、それぞれに地域内の研究施設や大学等の取りまとめ役となる研究機関を指定しています。また、連邦機関である連邦教育研究省と連邦経済エネルギー省も常時オブザーバとして参加しています。さらに、コンピテンスセンターには、各地に所在する原子力発電事業者やメーカー等の関連企業が参画し、産学連携の受皿となっています。これら原子力事業者は、教育・研究機関における寄附講座の提供、研究者への資金支援や共同研究、学生への奨学金やインターンシップ機会の提供等、幅広い協力を行っています。

4 まとめ

(1) 我が国における今後の大学教育と原子力人材育成

 原子力委員会では「原子力利用に関する基本的考え方」(2017年7月原子力委員会決定、政府として尊重する旨閣議決定) [55]において、「大学における原子力分野の教育が希薄化しているため、原子力分野の基幹科目を充実させるとともに、学んだ知識について基礎実習や実験等を通して体系的に習得し実践的能力を付けさせるなど、基礎力をしっかりと育てることも重要である」としています。また、「原子力分野における人材育成について(見解)」(2018年2月原子力委員会決定) [56]では、高等教育段階における人材育成について、優秀な人材の獲得の必要性とともに、「基礎を体得した人材を育成することは大学教育の重要な役割である」、「大学教育はアウトプットとしての学生の質に重点をおいた教育を目指す必要がある」、「実験の実施については大学の研究設備の老朽化が進んでおり、抜本的な対策が必要である」、「学生は演習や実験、更には卒業論文や修士論文、博士論文の作成によって学んだ知識を体得する」と述べています。これらを踏まえ、我が国の原子力関係学科・専攻等においては、人材育成の取組強化に向けた努力が行われていますが、更なる改善と支援が必要であると考えられます。
 原子力委員会が国内外の様々な大学の教員にヒアリングを行った結果、我が国の大学における原子力教育に関しての良好事例として以下の項目が挙げられます。

  • 学部から修士までの一貫教育の実施や連携強化、学部生の原子力分野への関心の喚起
  • 原子力分野の教員と放射線分野の教員との教育面における連携強化
  • 教育認証による教育改善
  • 競争的資金等を活用した実験設備の更新・充実

 一方で、諸外国の大学の取組における良好事例として、以下の項目が挙げられます [3]

  • 学生教育への教員の積極的な関与
  • 単位取得認定の厳格運用と、科目履修順序の指定、各講義間でのシラバスの整合性等
  • 博士号取得の資格試験(Qualifying Exam)の厳格運用
  • 学生の授業評価の厳格運用と教員評価への反映
  • 認定機関の活用による教育評価と改善
  • 優秀教員のリクルート方策
  • 透明なテニュア獲得の基準と若手教員育成、昇進のための定期的な審査
  • 国際的プレゼンスの向上活動、海外の優秀大学院生の獲得
  • 原子力分野の学問的奥行きや魅力を高校生等に伝えるコンテンツの作成
  • 教員の負担が少ない簡素な事務手続き、外部資金への応募をサポートする大学の事務システム

 これらを踏まえると、我が国の原子力関係の大学教育の課題として、以下のような項目が挙げられます。大学等関係者には、これらの課題を踏まえつつ、教育の質の向上に向けて、様々な取組を進めていくことが求められます。

  • 教育の質の向上(教員と社会の意識転換の必要性)
  • 原子力関係の研究・教育の国際的なプレゼンスの向上
  • 教員数の削減が進む中での原子力教育の維持、若手教員の確保
  • 実験実習設備(核燃料・RI施設等)の老朽化による維持困難性の増大への対応、技術職員の定員削減対策
  • 学外の実験施設の停止・廃止に伴う教育研究機会の喪失
  • 学部の大くくり化による原子力系の科目の教育・実験等の希薄化
  • 学生間における原子力分野に対する人気の低下
  • 企業による短期セミナーやインターンシップの増加等による学生の研究時間の減少
  • 外部資金の支援を受けた教育プログラムの継続性

① 原子力教育の改善に向けた取組

 米国やカナダの大学では、教育改善の仕組みとしてABETとCEABがあり、学科の教育内容について、7年ごとに外部組織による評価を受けます。この仕組みが教育改善に一役買っていることから、我が国においても、外部組織の評価を受けることが大学における原子力教育の自主的な改善に役立つと考えられます。米国のABETの評価基準は、「何を教えるか」から「どのような人材を育てるか」に変更され注目を集めており、我が国においても、このような着眼点を参考にしていくことが必要です。文部科学白書においても、「大学教育の質保証の仕組みの更なる向上に取り組んでいく必要がある」とされています [57]
 また、米国の大学は、事務手続が簡素であるだけでなく、教員と事務・サポートスタッフとの役割分担と責任がはっきりしており、外部資金への応募をサポートする体制も整っています。
 我が国の原子力関係の大学において、教員、学科・専攻等、更には大学レベルで教育の改善を進めることが期待されます。改善の取組を進めるに当たっては、オンライン教育の活用による学習や双方向コミュニケーションの改善を、良好事例として参考にすることが望まれます。

② 原子力関係の研究・教育の国際的なプレゼンスの向上

 大学は、世界から優秀な人材を集める機能を発揮するポテンシャルを持つという意味で、他の組織には見られない重要な役割があり、この役割を強化するためには、大学の国際的なプレセンスを向上することが求められます。例えば、米国の大学が持つ競争力の高さが多様な国際人材を確保することによって支えられているように、先進国の大学は、世界から優秀な人材を集めるため様々な取組を行っています。
 世界各国の優秀な学生の中には、学部教育を母国で受けた後、国費の奨学金を得て海外の大学院に留学するケースが見られます。大学院にこのような優秀な留学生を集めるためには、大学の国際的なプレゼンスのみならず、研究における教員及び研究室の国際的プレゼンスも高める必要があります。そのため原子力分野においても、例えば、論文の被引用件数、海外からの優秀な大学院生や博士研究員の獲得実績、研究の実用化・国際化実績、教育のグローバルスタンダードへの適合等を高めることにより、国際プレゼンスを向上させ優秀な学生を呼び込むことが求められます。文部科学白書においても「社会や経済のグローバル化が進展する我が国においては、優秀な外国人留学生を獲得し我が国の成長に生かすことや、個々の能力を高めグローバル化した社会で活躍する人材を育成することが喫緊の課題となっている」と述べられています [57]。
 広く海外からの留学生が集まることにより、その大学の質が更に高まるという好循環が生まれることも期待されます。また、大学教育の一環として、国内に加え国外の機関とのインターンシップ制度を整備することは、質の高い学生が集まるだけでなく、卒業後の進路選択の多様化にもつながります。我が国は欧米諸国の大学に比べて、周辺諸国との間に物理的・文化的距離があり、連携を阻んでいると考えられがちです。しかし、ミラノ工科大学のアジア諸国との連携、フランスにおける原子力機器の輸出先国の学生を想定した教育のように、既存の物理的・文化的枠組みにとらわれない、柔軟かつ戦略的な取組事例も見られます。我が国の大学でも、アジアの国に拠点を置く例が見られるなど、新たな取組も始められています。諸外国との連携を進めるに当たっては、大学教育の先にある産業界の海外展開等を見据えることや、連携により国内の学生の関心を集め、ひいては大学教育の質自体の向上につながることが期待されます。

③ 大学における原子力教育の維持

 我が国では1990年代以降、旧帝国大学を皮切りに、大学の教育組織を、従来の学部を基礎とした組織から大学院を中心とした組織に変更する大学院重点化が行われました。大学院重点化を受け、学部教育の大くくり化が進行するとともに、大学院の専攻名を「原子力」から「量子」に変更した例もありました。これらの理由により、多くの大学で、学部教育における原子力関係科目数が減少し、全体として原子力教育の希薄化が生じたとも考えられています。一方で、産業界からは、原子力分野固有の科目である原子炉物理学の教育を維持し、その基礎を習得した学生を輩出することを、原子力関係の専攻を有する大学に期待する声が上がっています。原子力分野は他の工学系の学科・専攻よりも歴史が浅く、規模も比較的小さいため、原子力教育の維持において、国内大学も苦労と工夫を重ねています。良好事例として紹介した、学部から修士までの一貫した原子力教育、原子力分野と放射線分野の教員の教育面での一体化等に成功している大学もあります。
 また、原子力教育を維持するためには、実験施設の整備も不可欠です。米国では、DOEのNEUPによって、大学の実験設備の更新が支援されています。一方、我が国では、実験設備の劣化が進んでいます。外部資金によって実験設備の更新が行われた例もありますが、研究炉等の学外の実験施設の停止・廃止に伴う教育研究機会の喪失も生じており、対策が求められています。なお、文部科学省では試験研究炉のニーズ調査が行われています。
 また、カナダでは、マクマスター大学の原子力教育において、研究機関や産業界からなるUNENE による研究支援が行われており、優秀な研究成果を上げる教員に豊富な研究資金が提供されます。また、マクマスター大学を含む複数の大学が計画を進めている小型炉の研究開発には、産業界、NSERC及び連邦資源省が共同で参加しています。産業界と連携した具体的な国家プロジェクトの存在は、原子力工学分野への進学や、卒業後の進路として原子力業界を選択するインセンティブとなっています。

④ 大学外での人材育成

 大学における原子力教育は、基礎的理論や知識の習得を目的としており、原子力人材の育成基盤が大学教育にあることは言うまでもありません。一方で、大学外での人材育成は、大学では経験できない事象や応用問題に対応するための経験や知識を身に付けるために役立ちます。特に、単なる座学で終わらず、学生が自ら考え手を動かすことによって、知識や経験を得られる点が重要です。在学中のインターンシップのみならず、実務と関連して経験を積める機会が多く提供されることが望まれます。
 米国の場合、一般的に大学を卒業した学生は即戦力として雇用されます。インターンシップにおける実働、第一線の専門家によるセミナーにおける最先端の教育等は、就職先の業務に必要な基礎知識等の習得につながるため、受け入れ企業との関係においても必然であると考えられます。米国の大学は全般的に、教育機関としてのみならず、企業との連携によるキャリア育成機関としてもよく機能しています。
 就職後の人材育成は、企業や研究開発機関の責任において行われます。原子力委員会では、「原子力分野における人材育成について(見解)」において、適性を見極めた仕事の割当て等について述べています。

⑤ 原子力分野の魅力の発信

 原子核科学は多数のノーベル賞受賞者を輩出してきた先端分野であり、今後も基礎と応用の両分野において、様々な発展が期待されます。また、放射線・加速器利用においても同様であり、原子力エネルギーと同程度の経済規模があります。
 原子力発電に対する国民の受け止め方や原子力分野の学生人気は、社会情勢等様々な要因により変動しうるものです。一方で、原子力は社会の基盤を構成するエネルギー分野の一つであり、原子力発電は計画から廃止措置や放射性廃棄物処分まで長期にわたる息の長い分野です。また、放射線利用についても、暮らしの身近にあるものから、工業製品の製造、医療、農業、社会インフラとして重要な構築物の健全性維持・診断等、幅広い分野で利用され、社会を支える技術となっています。
 学生、特に、原子力以外の工学系の学生の間で、原子力分野に対する人気が低下しています。原子力分野の学問的奥行きや魅力を高校生等に伝えるコンテンツを作成し、入学者数を大幅に増やしたという米国の事例等も参考に、我が国の教育機関においても原子力の必要性や魅力を発信する活動の強化が求められています。

(2) 各国における原子力人材育成

① 原子力人材育成の方針

 米国では、一貫して原子力人材や基盤の維持・強化の必要性が認識されており、それが法律やDOEによるプログラムに反映されてきています。2007年に制定された米国競争力法では、高等教育機関における原子力人材確保のためのプログラムが規定されています。その目的として、高等教育機関における原子力科学教育のために活用できる人員やリソースの減少問題に対応し、米国の経済競争力やエネルギーセキュリティにおいて戦略的重要性を有する原子力関連の学位取得者数を増加させることが、明確に示されています。
 英国では、国内における原子力発電所の新設計画実現に向け、将来の人材不足や高い専門的知見の喪失が課題として認識されており、官民を挙げた対策が検討されています。2015年に公表された原子力技能の維持に関する政策文書は、英国政府としての取組を示す一例です。同文書では、3階層に分類した原子力技術のそれぞれについて、具体的な取組にも言及しています。
 フランス政府は、2019年1月に、産業界の代表組織であるCSFNとの間で、雇用、コンピテンス、人材育成の取組を含む戦略契約に調印し、以下のような取組方針を明確にしています。

  • 国と産業界が協力し、2019年中に、地域において工場訪問やフォーラムを実施する。
  • 政府は、若者が原子力に関する教育分野に関心を持つようなアピール活動を行う。
  • 産業界は、原子力分野での職業訓練契約を結べるようにする。

② 国際的なプレゼンスの向上

 英国では、高い専門性を有した人材育成に関しては、EPSRCの資金援助を受けた博士号プログラムが2019年4月に新設されています。このプログラムには国内外の12の原子力事業者がパートナーとして参加しており、雇用や人材育成が強化されることが期待されています。また、産業界のパートナーの参加により、国内外の原子力産業動向に沿った教育の実施を目指しています。
 フランスでは、教育は原子力新規導入検討国に対する輸出コンテンツの一つとしても位置付けられており、国際的なスケールで活躍する人材の育成も目指しています。政府は2012年に、国内外に開かれた教育プログラムを提供する目的でI2ENを設立しています。

③ 産業界と大学等との連携

 米国では、DOEが原子力人材の育成のために2009年から実施しているNEUPを挙げることができます。NEUPの目的は、大学の原子力分野における傑出した、最先端で革新的な研究を支援することとされています。その取組の一つとして、DOE原子力エネルギー局が定める研究開発目的を達成するために必要な、大学、国立研究所及び産業界の研究開発の統合を支援するための資金援助等が実施されています。
 英国政府は、人材ニーズを満たすため、更なる施設の共用化や設備投資が必要であると指摘しています。この政府方針に基づき、大学と企業が協力し、大学内に研究センターを設けて設備を共用するとともに、学生の教育訓練の場を提供するなど、産学連携の取組が行われています。また、原子力専門大学(NCfN)は、原子力サイトに近接して設立され、事業者が現場の知見も生かした教育支援を行い、現場のニーズに即した人材育成が行われています。
 フランスの高等教育機関においては、早期の段階では原子力の専門性を高めるのではなく、総合的な教育を重視することが一般的です。産業界側は、学生に高い科学的能力を求めますが、原子力に関する実際的な知識は企業内の研修でカバーし、就職後の長期的な経験や知見の積み重ねによって専門性を高めることができるシステムが構築されています。また、研究機関であるIRUPの原子力教育訓練センターでは、建設プロジェクトにおけるマネジメント、機械工学、計装制御、非破壊検査等、幅広い分野において、実地に即した教育プログラムを提供しています。
 原子力教育の活性化のためには、国によるあるいは国と産業界が一体となった将来の原子力計画に沿って、必要な人材像や産業界が求める人材ニーズが明確にされていることが重要です。特に、新人と企業のミスマッチを極力避けるためにも、産業界及び個々の企業の具体的な人材ニーズを明確にすることは極めて重要です。産業界側は、コミュニケーション能力や原子力の基礎知識等の基本的事項に加え、企業の即戦力になれる人材を育てるよう大学へ働きかけることも必要です。これにより、大学側としても、教育の具体的な目標や、学生が習得すべき知識、経験すべきことを明確にすることができます。それがひいては、学生が卒業後の進路を選択する際、あるいは高校生が進学先を絞る際に、原子力分野を選択するインセンティブになることが期待されます。




  1. International Atomic Energy Agency
  2. Japan Accreditation Board for Engineering Education
  3. Massachusetts Institute of Technology
  4. Accreditation Board for Engineering and Technology
  5. 米国の大学における終身雇用資格。
  6. Department of Energy
  7. Nuclear Regulatory Commission
  8. National Science Foundation
  9. 強い放射性物質を取り扱えるように十分な遮蔽を施した実験室等の一区画。
  10. University of Excellence of Nuclear Engineering:カナダの大学における原子力教育、研究開発能力の支援と開発のため、マクマスター大学、オンタリオ工科大学、クイーンズ大学、ウェスタン大学、ウォータールー大学等の複数の大学や、原子力施設、研究機関及び規制当局からなる連合組織。2002年に設置。
  11. Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada:教育と研究(インフラ整備を含む)の向上・発展に向けた資金援助を行う連邦機関。民間企業や州も参加。
  12. Canadian Engineering Accreditation Board
  13. European Credit Transfer and Accumulation System
  14. Consorzio Interuniversitario per la Ricerca TEcnologica Nucleare:ピサ大学、トリノ工科大学、ミラノ工科大学等から成るコンソーシアム。原子力工学分野での修士、博士課程での教育プログラムを提供。
  15. Nuclear Energy University Program
  16. Oak Ridge National Laboratory
  17. Gateway for Accelerated Innovation in Nuclear
  18. Nuclear Science User Facilities
  19. Small Modular Reactor
  20. Research Reactor Infrastructure
  21. Institute of Nuclear Power Operations
  22. Chief Executive Officer
  23. Generic Design Assessment
  24. Rutherford Appleton Laboratory
  25. Nuclear Innovation and Research Advisory Board
  26. Nuclear Skills Strategy Group
  27. Nuclear Workforce Assessment
  28. National College for Nuclear
  29. European Pressure Reactor
  30. Engineering and Physical Sciences Research Council
  31. Centre for Doctoral Training in Nuclear Energy, Growing skills for Reliable Economic Energy from Nuclear
  32. Engineering Construction Industry Training Board
  33. Gateway Certificate in Nuclear Engineering and Science
  34. National Skills Academy for Nuclear
  35. EDFエナジー社は、ヒンクリーポイントC原子力発電所においてEPRを建設中です。
  36. 組織が、従業員の能力、トレーニング、資格を評価、検証及び記録できるシステム。
  37. Programmations pluriannuelles de l’energie
  38. Commissariat a l’energie atomique et aux energies alternatives
  39. Centre national de la recherche scientifique
  40. Tres Grande Infrastructure de Recherche
  41. Comite de pilotage strategique de la filiere nucleaire
  42. Institut international de l'energie nucleaire
  43. Institut Regional universitaire polytechnique
  44. Ingenieur Polytechnicien
  45. Reacteur Jules Horowitz
  46. Department of Atomic Energy
  47. Institut Polytechnique de Paris
  48. CEAのサクレー研究所では、研究炉は閉鎖されていますが、材料試験設備LECIや照射施設POSEIDONが運転中です。
  49. Institut National des Sciences and Techniques Nucleaires
  50. Institut de radioprotection et de surete nucleaire
  51. Systematic Approach to Training
  52. High Energy Photon Source-Test Facility
  53. Technical Support Organization
  54. Institute of Nuclear and New Energy Technology
  55. China National Nuclear Corporation
  56. China Institute of Atomic Energy
  57. China Advanced Research Reactor
  58. China General Nuclear Power Group
  59. State Power Investment Corporation
  60. The Competence Pool


トップへ戻る