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第8章 原子力利用の基盤強化

8-1 研究開発の方針並びに関係組織の連携や研究開発機関の機能の変革

 「第5期科学技術基本計画」(2016年1月閣議決定)[1]では、「持続的な成長と地域社会の自律的な発展」の「エネルギー、資源、食糧の安定的な確保」において、将来の最適なエネルギーミックスに向けて、現行技術の高度化と先進技術の導入を図るとともに、革新的技術の創出にも取り組むとしています。
 「原子力利用に関する基本的考え方」(2017年7月原子力委員会決定、政府として尊重する旨閣議決定)[2]では「知識基盤や技術基盤、人材といった基盤的な力は原子力利用を支えるものであり、その強化を図る。(中略)研究開発機関の機能の変革を促すとともに、原子力関連機関の自らの役割に応じた人材育成や基礎研究を推進する。」と述べています。
 また「技術開発・研究開発に対する考え方」(2018年6月原子力委員会決定)[3]では、電力自由化時代においては、市場や投資環境を考慮し、原子力利用による国民の便益の観点等を踏まえて、新しい技術を市場に導入する事業者が主導的に技術開発や研究開発を行い、政府や国立研究開発機関はこれを支援していく役割分担が必要であると指摘しています。特に、我が国唯一の総合的原子力研究開発機関である原子力機構は、プロジェクト抽出とその実施を重視する従来の思考から脱却し、我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力をより一層強化し研究開発成果を最大化していくために、組織変革とそれに合わせた組織マネジメントの改善を進めることが大切です。


(1)我が国における研究開発の考え方

 1990年代以降、原子力利用機関において生じた様々なトラブルや、2011年3月の東電福島第一原発事故により、国民の原子力に対する不信・不安が高まっています。一方で、事故炉の廃炉や放射性廃棄物の処理・処分等の困難な課題を解決していくためには、研究開発の重要度は極めて高いといえます。
 東電福島第一原発事故の反省・教訓、原子力を取り巻く環境の変化、国際展開の必要性等を踏まえ、政府や研究開発機関は研究開発計画の策定を行うとともに、適切なマネジメントがなされるよう新たな仕組みを構築し、課題を着実に解決していくことが必要です。
 文部科学省は、2016年度から2020年度を対象とする「第5期科学技術基本計画」に基づき、2017年2月に「研究開発計画」を策定し(2017年8月最終改訂)[4]、文部科学省として重点的に推進すべき研究開発の取組及びその推進方策について取りまとめました。この中で、原子力科学技術は国家戦略上重要な科学技術として位置付けられており、研究開発目標として、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発の推進、さらに、将来に向けた革新的技術の確立に向けた研究開発への取組が掲げられています。目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組として、東電福島第一原発の廃炉等の事故の対処、安全性向上等に資する研究開発の推進、及び人材育成や国際協力等を通じた原子力分野の研究・開発・利用の基盤整備が挙げられています。また、革新的なエネルギー技術の開発として、核融合エネルギーの実現に向けた研究開発に取り組むことが示されています。
 原子力委員会は2018年6月、「技術開発・研究開発に対する考え方」を取りまとめ、今後の原子力分野における技術開発・研究開発の在り方について、基本的な考え方と、政府、国立研究開発機関及び産業界の各ステークホルダーの果たすべき役割について示しました。


「技術開発・研究開発に対する考え方」に示された
電力自由化後の技術開発・研究開発の在り方

 原子力エネルギーは、地球温暖化防止に貢献しつつ、安価で安定に電気を供給できる電源として役割を果たすことが期待できる。軽水炉の再稼働を進め、それを長期に安定、安全に利用できるように努力することが重要である。また、「電力自由化」により総括原価方式が無くなった現在、原子力のエネルギー分野での利用については、関係者は、国民の便益と負担の観点で、この安価な電力を安全・安定に供給するという原点を改めて強く認識し、原子力関係企業と研究開発機関と大学が、それぞれの役割を踏まえ、生き残りをかけて、創意工夫や競争・協力し、それぞれの経営に努力する必要がある。国は、関係行政機関や国立研究開発機関がそれぞれの立場から民間主導のイノベーションを促進する仕組みを整えるべきである。
 これは中長期の開発課題についても例外ではない。原子力の発電方式は、市場の需要によって決められるものであり、第三世代から第四世代へと直線的な移行が行われると認識してはならず、多様な選択肢と戦略的な柔軟性を維持すべきである。電力の自由化が進む中、原子力発電コストが過度に高くつく場合、ユーザーたる発電企業がこれを選好すると楽観視しえない。個別発電企業は、第四世代炉等新型炉を許容する場合もあれば、より長期間、軽水炉のコストダウンや効率化を選好する場合もある。原子力発電は、応用技術の固まりであることから、市場で使われて初めて意味のあるものであり、今後の原子力発電の技術開発・研究開発は、個別発電企業やメーカーが主導し、それらの企業の負担も求めつつ、政府が支援する仕組みを導入していくべきである。
 原子力に関する技術開発・研究開発を実施するに際し、実用化される市場や投資環境を考慮すべきである。今後は、世界の市場をより強く志向する必要がある。その点で、国際連携は重要な方策のひとつである。その際にも、上記のような考え方を共有できる国と連携すべきであり、戦略的な柔軟性を確保することが肝要である。ひとつの国際プロジェクトにコミットするあまり、長期間にわたって我が国の技術開発・研究開発が柔軟性を失うことは避けるべきであり、開発を牽引する民間主体を支援する知的基盤を関係国が共同して提供するというスタンスで臨むべきである。


 このような考え方を踏まえ、我が国において技術開発・研究開発に携わる政府、国立研究開発機関及び産業界の各ステークホルダーが、それぞれ、以下のような役割を果たすべきであるとしています。

  • 政府の役割:
    原子力は長期的な技術であることから、政府は長期的なビジョンを示し、その基盤となる技術開発・研究開発のサポートをする役割を担うべきである。原子力発電技術は、実用レベルに近づくほど民間が相応のコストを負担し開発を進めていくべきであり、政府はその取組を支援するという前提で新たな補助スキームを構築していく必要がある。
  • 国立研究開発機関のあるべき役割:
    国立研究開発機関が行う研究開発とは、本来、知識基盤を整備するための取組であり、今後は一層、民間による技術開発・研究開発の努力を支援する役割が期待される。知識基盤を企業等関係者ともしっかり共有することによって、ニーズに対応した研究開発が可能になり、効率化がもたらされるだけでなく、イノベーションの基盤が構築でき、重層的な我が国の原子力の競争力強化につながると考えられる。
  • 産業界のあるべき役割:
    産業界は総括原価方式がなくなり、電力市場が自由化されたことを改めて強く意識すべきである。技術開発・研究開発においては、自由化された中で、国民の便益と負担を考え、安価な電力を安全・安定に供給するという原点を考える必要がある。こうした視点から、今後何を研究開発し、どの技術を磨いていくべきかの判断を自ら真剣に行い、相応のコスト負担を担い、民間主導のイノベーションを達成すべきである。

(2) 原子力関係組織の連携による知識基盤の構築

 原子力利用の基盤強化において、新技術を市場に導入する事業者と、技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出す研究開発機関や大学との連携や協働は重要です。ところが、我が国の原子力分野では、このような分野横断的・組織横断的な連携が十分とはいえず、科学的知見や知識も組織ごとに存在している状況です。このような現状を踏まえ、原子力委員会は、2017年7月に取りまとめた「原子力利用に関する基本的考え方」において、研究開発機関や大学、原子力関係事業者の原子力関連機関が、情報交換しつつ、それぞれの役割を互いに認識し尊重し合いながら連携や協働を行う場を構築し、まずは、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により厚い知識基盤の構築を進めるべき旨を指摘しました。このような連携により、研究機関や学協会、原子力関連事業者が情報交換しつつ連携・協働し、厚い知識基盤の構築を進め、企業側では、学理を修得した人材により、深い知識に基づいた不断の技術向上等が可能となり、一方、研究機関や大学では、俯瞰的能力を持つ人材の育成や重要な研究開発テーマの抽出等が可能となるといった、相乗効果も得られると期待されます。


「原子力利用に関する基本的考え方」に示された
研究開発機関と原子力関係事業者の連携・協働の推進の考え方

 新しい技術を市場に導入するのは主として原子力関係事業者である一方、技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出すのは研究開発機関や大学であり、両者の連携や協働が重要である。効果的な具体的取組としては、まず第一歩として原子力関係事業者と研究開発機関との間の壁を越えた知識基盤を構築すること、その上で、新しい技術を迅速に市場に導入するための連携や協働を進めること、の2つが挙げられる。しかしながら、我が国の原子力分野ではこのような取組は十分とは言えず、科学的知見や知識も組織ごとに存在している状況である。
 このため、研究開発機関や大学、原子力関係事業者の原子力関連機関が、情報交換しつつ、それぞれの役割を互いに認識し尊重し合いながら連携や協働を行う場を構築し、まずは、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により厚い知識基盤の構築を進めるべきである。その際、国民への便益の観点や世界的な潮流をしっかりと把握した上で分野を選択すべきである。現時点において、具体的には、例えば軽水炉利用長期化、過酷事故対策・防災、廃止措置・放射性廃棄物等の分野が考えられる。あわせて、こうした連携や共同の中で専門的人材の育成が図られることも期待する。


 原子力委員会は、「軽水炉長期利用・安全」、「過酷事故・防災等1」、「廃止措置・放射性廃棄物2」の3つのテーマで、産業界と研究機関等の原子力関係機関による連携プラットフォーム(図8-1)を立ち上げました。各プラットフォームでは、関係者間の意見交換、国内外の情報の収集と共有・公開、報告書・解説・研修資料等の作成等、厚い知識基盤の構築に向けた取組を進めています。


図8-1 原子力関係組織の連携プログラム

(出典)第14回原子力委員会資料第2-1号 原子力委員会「『原子力利用の基本的考え方』のフォローアップ~原子力関係組織の連携・協働の立ち上げ~」(2018年)に基づき作成[5]


(3) 研究開発機関の変革

 原子力機構は、我が国における原子力に関する総合的研究開発機関として、原子力の持続的な利用と発展に資する基礎的・基盤的研究等を担っています。
 国内外の環境の変化や国際潮流等を的確に踏まえて研究開発成果を最大化していくためには、意識改革にとどまらず、目標管理手法をはじめとした経営上の手法・仕組み等の具体的な組織マネジメントの改善を進めていくことが必要です。さらに、我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力の強化に資するため、プロジェクトの抽出とその実施を重視する従来の志向から脱却し、ニーズ対応型の研究開発を行うとともに、その駆動力としての役割を果たすことが求められています。また、我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力の強化に資する研究開発において主導的な役割を果たせるよう、保全活動の継続的な改善や安全文化の醸成を含め、原子力機構全体の自主的安全性向上活動に取り組むことが望まれます。
 また、原子力委員会は、2019年2月の「国立研究開発法人日本原子力研究開発機構が達成すべき業務運営に関する目標(中長期目標)の変更について(答申)」[6]において、原子力機構の変革を求めることを目的として、13の事項について検討を行い、その結果について報告することを求めています。それらのうち、原子力機構の役割、研究開発の方向性、イノベーションへの取組、それらを実現するための経営や運営等に係る主な事項は以下のとおりです。

  • 原子力機構は、①大型研究開発施設の建設運転、②放射性物質と放射線を取り扱える施設の利用、③職員数が多く、組織的な活動が国内外において行えること、④知識基盤を安全規制側と共有できる可能性があること等、国内の他機関にない特徴を生かして、原子力機構の各組織と施設が、生き残りをかけて、産業界等との共同作業等を通じて、創意工夫し、機構の役割を発揮することができるよう検討すること。
  • 国の原子力研究開発の意義が国民へのその便益の還元であることを踏まえ、軽水炉利用長期化、電力事業の環境変化、原子力施設の廃止措置の増加等の新しい環境への適合について、検討すべきである。その際には、イノベーションにおける機構の役割と特徴を生かす視点が重要である。イノベーションを炉そのものの開発と狭くとらえるのではなく、材料や燃料、機器等の要素技術やその利用技術をカバーするものと広くとらえて、軽水炉等の要素技術に関してもイノベーションを進めるべく、原子力機構の持つ機能と能力を発揮できるようにする必要がある。その場合に、人工知能技術、モノのインターネット、微小電気機械システム等の汎用目的技術等が関連しながらイノベーションが進むことに、原子力分野においても留意すること。
  • 高速炉開発については、「原子力利用に関する基本的考え方」、「技術開発・研究開発に対する考え方」を参照し、2018年12月に原子力関係閣僚会議が決定した「戦略ロードマップ」[7]に記載された原子力委員会からの意見と、2018年12月の「高速炉開発について(見解)」[8]も踏まえて、原子力機構としての対応を検討すること。
  • 核燃料サイクル研究開発については、自らの技術開発施設の廃止措置のみならず、発電炉の廃止措置、東電福島第一原発の廃止措置に役立つように、放射性廃棄物処理処分、除染、滅容等の技術開発を検討すること。
  • 外部の意見や批判を取り入れる仕組みを再構築し、それを真に機能させ、原子力機構の経営と運営の改善に生かす必要がある。組織を細分化せず、中間管理職の責任を明確にしつつ、原子力機構内外の関係組織相互の共同作業等を機能させ、研究開発や仕事を通じて職員の能力向上に努めること。
  • 業務運営に関わる様々なリスクを低減するために、リスクマップを作成するなどして、組織的なリスク管理を業務に取り入れることを検討すべきである。外部とのコミュニケーションにその成果を役立て、透明性の向上に努めること。
  • 原子力研究開発や原子力事業をめぐる環境変化は、欧米が先行した例も多く、その教訓や欧米のピアレビュー結果を、今後の業務運営に生かすこと。
  • 基礎基盤研究の知識基盤構築、大学等との教育研究における連携、原子力の魅力の発信や根拠情報の作成提供等への貢献を図ること。
 原子力機構は、2019年10月に将来ビジョン「JAEA 2050 +」を公表しました[9]。この将来ビジョンは、「エネルギー基本計画」や、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」、Society5.0、持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえ、原子力機構が将来にわたって社会に貢献し続けるために、2050年に向けて何を目指し、そのために何をすべきかを取りまとめたものと位置付けられています。将来ビジョンにおいて原子力機構は、2050年に向けて目指すこと及びなすべきこととして、以下のような方針を示しています。

  • 原子力のポテンシャルを最大限活用し、将来社会の変革に向けた貢献をめざす
    • 原子力科学技術で、気候変動問題の解決に貢献
    • 安全性を向上させた核燃料サイクルを含むエネルギーシステムにより、エネルギーの安定確保に貢献
    • 原子力科学技術を通じて未来社会(Society5.0)の実現に貢献
  • 東電福島第一原発事故の反省のうえに立って原子力安全の価値を再認識した“新原子力”の実現をめざす
    • “新原子力”:従来の取組を超えて、将来社会への貢献をめざし、社会との双方向の対話とともに以下の実現をめざす新たな取組
      • 一層の安全性向上を含む「S+3E3」と社会的課題の解決に応える原子力科学技術システムの構築
      • 他分野との積極的な融合によるイノベーションの創出
    • “新原子力”の実現に向けて、原子力を巡る倫理的、法的、社会的問題(ELSI4)を含めた諸課題に原子力科学技術を駆使して挑戦し、解決策を提案
  • “新原子力”を実現するための研究開発
    • ①安全の追求、②革新的原子炉システムの探求、③放射性物質のコントロール、④デコミッショニング改革、⑤高度化・スピンオフ、⑥新知見の創出、の6つの研究テーマを設定し、多岐にわたる研究開発を横断的かつ戦略的に推進
  • 持続可能な原子力利用のための取組・挑戦
    • 「放射性物質のコントロール」と「デコミッショニング改革」を通じて、バックエンド問題に着実に取り組み、原子力科学技術の研究開発のサイクルを構築
      • 将来の原子力利用につながる、これまでの原子力利用で発生した“原子力レガシー”への取組、新たな産業分野づくりへの貢献
      • 環境負荷低減に向けた取組への挑戦
  • 国際協力・国際貢献、地域の発展
    • 原子力先進国との研究開発協力、国際機関や原子力新興国への貢献、研究開発成果の国際社会への普及・展開等に積極的に取り組む
    • 核不拡散、核セキュリティの体制強化に貢献していく
    • 地域の一員として地域の発展のために貢献していく
  • 組織づくりと人材確保・育成
    • 原子力コミュニティだけにとどまらず、他分野のセクターと連携・協働し、将来社会に貢献できる組織をつくる
    • 幅広い分野からの人材の確保・育成を進める

  1. 第1章1-3(3)「過酷事故・防災プラットフォーム」を参照。
  2. 第6章6-3(4)「廃止措置・放射性廃棄物プラットフォーム」を参照。
  3. 「第5次エネルギー基本計画」で掲げているエネルギー基本政策の視点で、安全性(Safety)を前提とし、エネルギーの安定供給(Energy security)、経済効率性の向上(Economic efficiency)、環境への適合(Environment)の頭文字をとったもの。
  4. Ethical, Legal and Social Issues


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