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7-4 放射線利用分野の人材育成

 放射線は様々な形で我々の生活や産業に役立っています。放射線を扱うためには、適切な知識と取扱い技術を習得する必要があります。しかし、放射線を利用するための教育や訓練の機会が減少しており対策が必要です。我が国が主導するアジア地域での原子力平和利用協力の枠組みであるFNCAでは、放射線利用開発等のプロジェクトを通じた人材育成が行われています。このように、放射線利用の国際的学術・技術交流の場を作る試みが始まっています。


(1)国内における人材育成上の課題

 様々な分野で利用され、私たちの生活や社会に便益をもたらす放射線ですが、取扱いを誤れば、環境を汚染したり人体に悪影響を与えたりする可能性があります。そのため、放射線を取り扱う人は、放射線に対する適切な知識と理解を持って、安全に作業や管理を行う必要があります。しかし近年では、予算の減少や施設の老朽化等のために、放射線を利用するための教育や訓練を行う機会が減少しています(図7-17)。また、人材不足により、技術や知識が継承されないことで、今後の安全管理に支障を来す状況が生じる可能性もあります。

図7-17 大学等における放射線管理の懸案事項

(出典)第18回原子力委員会資料第1号 原子力規制委員会「放射線利用の安全確保における課題について」(2016年)[32]


(2)人材育成上の課題への取組

 量研は、原子力規制委員会の「放射線安全規制研究戦略的推進事業」の枠組みにおいて「放射線防護研究分野における課題解決型ネットワークとアンブレラ型統合プラットフォームの形成事業」を行っています。同事業では、放射線防護の喫緊の課題の解決のために放射線防護に関連する学術コミュニティと放射線利用の現場をつなぐネットワークが構築され、量研、原子力機構、公益財団法人原子力安全研究協会がネットワークによる自立的な議論や調査、アウトプットの創出等を支援する役割を担っています。同事業において、放射線防護分野のグローバル若手人材の育成等が実施されています[33]
 また、大阪大学は、放射線科学に関連した分野において、機動性のある新しい教育や研究と大学にある関連施設を一元化することによって、放射線の安全管理に係る体制の充実化と合理化を図るために、2018年4月1日に大阪大学放射線科学基盤機構を設置しました。同基盤機構の取組の一つに、α線核医学療法を中心とした医療イノベーションの展開があります。この取組は、大阪大学の理学研究科、医学系研究科、核物理研究センター、及びラジオアイソトープ総合センターが中心となって、全学体制で推進されています。現在では、α線核医学療法を推進する上での課題である、α線を放出する核種を大量に製造するための手法とそれを精製する技術開発が進められています。また、α線を放出する核種をがん細胞に輸送する分子の開発が行われており、動物実験レベルで極めて有望な分子の探索がなされています[34]
 さらに、国民の生活を支えるRI利用を維持、発展させていくためには、RI製造の海外依存やRIを適切に取り扱うことのできる人材の不足等の課題があります。このような課題に対して、2018年12月11日に開催された第43回原子力委員会では、日本アイソトープ協会から、更なる利用拡大と安定供給に向けたRIの国産化や適切な人材を確保するための人材育成についての今後の方向性が示されています[16]


(3)海外における放射線利用分野の人材育成協力

 我が国では、原子力や放射線利用に関する研究人材の交流制度を通じて、海外の人材を受け入れています。しかし、途上国の人材には、母国のRI・放射線施設、設備、機器等が不足しているために、我が国で育成された後に研究が十分に行えない場合があります。国際協力での技術交流、共同開発、共同事業において、人的な貢献以外にもRI・放射線機器等の研究資材に関する支援が必要とされています。我が国が主導するアジア地域での原子力平和利用協力の枠組みであるFNCAでは、放射線利用開発と研究炉利用開発、原子力安全強化、原子力基盤強化に関するプロジェクトが実施されています。放射線利用開発の分野では、マニュアルやガイドラインの作成等に我が国の多くの研究者が携わっており、アジアにおける放射線利用の発展に大きく貢献しています。
 2019年12月5日に開催された第20回FNCA大臣級会合では、「医療・健康への放射線技術利用」をテーマに円卓討議が行われました[35]。FNCAの枠組み内での、アジア諸国の放射線利用分野における国際協力の成果については、第3章3-3(3)②「アジア地域をはじめとする途上国との多国間協力」に記載しています。
 また、IAEAは、原子力の平和的利用の促進のため、その加盟国に対して、原子力発電分野をはじめ、保健、農業、環境、産業応用等の様々な分野において原子力技術を活用した技術協力を実施しています。我が国の大学、研究機関、企業等は、研修生の受け入れや専門家の派遣等を通じて、IAEAの活動に人的、技術的な協力を行っています。
 さらに、我が国は、IAEAによる技術協力活動の主要な財源である技術協力基金(TCF)に対する分担額の拠出や平和的利用イニシアティブ(PUI)を通じた支援により、IAEAによる原子力の平和的利用の促進に係る活動を支援しています。特に、アジア・大洋州において我が国は、「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)30の枠組みにおいて、IAEA技術協力プロジェクトへの参画を通じ、同地域における開発課題の解決に向け、がん治療、核医学、放射線育種、食品偽装対策、海洋モニタリングや水資源管理等の多様な分野でこの地域の人材育成に貢献しています。
 2020年1月には、産業界や研究機関による放射線利用の国際的プラットフォームとする目的で、「放射線科学技術利用に関する国際会議」(ICARST312020)が我が国で開催されました。ICARSTは、放射線科学技術の利用のあらゆる側面での経験や研究結果を交換し共有するため、世界をリードする科学者や大学院生等の学術・技術交流の場となることを目指しています。さらに、研究者、実務者及び教育者に、放射線科学技術の利用における実務上の挑戦と解決策、最新の技術革新、研究の傾向、及び関心事項について発表し議論するための世界初の学際的プラットフォームを提供します。ICARST2020には各国の放射線技術の専門家、事業者や科学者等が参加し、放射線利用のケーススタディの紹介等が行われました[36]



  1. 第3章3-3(1)①2)「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)に係る協力」を参照。
  2. International Conference on Applied Radiation Science and Technology



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