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特集 原子力施設の廃止措置とマネジメント
~海外諸国の状況及び経験を中心に~

 原子力施設については施設設置の目的の達成や運転期間の満了等によって、操業を停止するものがでてきます。このため、施設から核燃料や放射性物質を取り除き、リスクを低減する取組である廃止措置が必要となります。欧米諸国では多くの停止した原子力発電所や核開発・研究開発施設の廃止措置が進められているところです。
我が国においても、東電福島第一原子力発電所や電力会社が所有する原子力発電所、さらに、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)等の研究開発施設の3種類の廃止措置が進められています。
 日本の原子力発電は、廃止を決定した初期の原子力発電所に加えて、東電福島第一原発事故後、出力規模や再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案し、廃止を決定する発電所が増えています。また、原子力機構は、2017年4月に策定(2019年4月改定)した施設中長期計画にて、施設の集約化・重点化、施設の安全確保、バックエンド対策を三位一体で進めるとし、所有する約半数の研究開発施設の廃止措置を進める計画を明らかにしました。
 一方で、欧米諸国では国の核開発や研究開発に用いられた施設をレガシー施設と呼び、国の予算措置によって施設の廃止措置が進められています。
国際原子力機関(IAEA1)では、現在、様々な実例に基づいて廃止措置を「即時解体」・「遅延解体」2種類の方式(戦略)として分類しています。以前分類されていた「密閉管理」は、施設の全てあるいは一部を長期間にわたり耐久性のある構造物に封入しておく方法ですが、現在では計画的に閉鎖した施設の廃止措置方法というより、過酷事故を経験した原子力施設など例外的な事例の措置と捉えられています。IAEAでは、「即時解体」を望ましい方式と記載していますが、施設ごとの様々な要素を勘案した場合、「即時解体」の方式が望ましくないこともあり得るとしています。なお、米国においては、原子力施設の許認可取得者(操業者)は、上記 3つの方式のいずれかを選択できることになっています。
 廃止措置を円滑・効果的に進めるためには、作業によって発生する放射性廃棄物や一般廃棄物の処理処分・再利用の方針を一体的に計画することが必要です。そのため、施設が立地されている地方自治体等の関係者(ステークホルダー)との対話や信頼関係構築が特に重要と考えられます。


1 はじめに

 我が国では、1953年の国連総会での米国アイゼンハワー大統領の”Atoms for Peace”(平和のための原子力)の演説を契機として、原子力利用の取組を開始することとなりました。1955年に制定された原子力基本法に基づき、日本での原子力の利用は、平和目的や安全確保を前提に、エネルギー資源の確保等を図り、人類社会の福祉や国民生活の水準向上に寄与することを目的として、進められてきています。
 1963年10月26日には、日本原子力研究所(当時。現原子力機構)に建設された小型動力試験炉(JPDR2:米国製沸騰水型軽水炉)が発電に成功しました。1966年には実用発電用原子炉(日本原子力発電(株)東海発電所)によって作られた電気が初めて国内で供給されるようになり、その後、研究や商業利用を目的として、原子力施設が建設され利用されています。
 しかし、多くのモノに利用される期間があるのと同様に、原子力施設についてもそれぞれの施設の目的に応じて一定期間活用した後には、研究開発等の当初の目的の達成あるいは終了等の理由、さらには出力規模や再稼働した場合の残存運転期間などを総合的に勘案し、運転を停止するものが出てきます。停止した原子力施設は核燃料や放射性物質を取り除いて、そのリスクと管理負担を低減する必要があります。
 原子力施設の場合、施設の操業終了段階からの準備に始まり、解体等の計画の作成と規制機関からの認可取得、使用済燃料の取り出しと管理、放射性物質で汚染された機器や施設の除染と解体、発生する放射性廃棄物の保管及び処分、最終的に施設あるいは施設のあった場所の再利用に向けた整備、これらを総合して廃止措置と呼んでいます。
 我が国では、実用発電用原子炉では日本原子力発電(株)の東海発電所(ガス冷却炉)の廃止措置が進行中であり、このほか2009年の浜岡原子力発電所1、2号機の運転停止に始まり、現在8基の軽水炉3が廃止措置計画の認可を受け廃止措置段階にあります。また、原子力機構では、我が国初の原子力施設の廃止措置が動力試験炉JPDRで実施されました。原子力機構は2019年4月に施設中長期計画を取りまとめ、施設の集約化・重点化、施設の安全確保、バックエンド対策を三位一体で進めるとし、約半数の研究開発施設の廃止措置を進める計画を明らかにしました。現在は、新型転換炉原型炉「ふげん」、高速増殖原型炉「もんじゅ」、及び東海再処理施設等の廃止措置が進められており、さらに、大小多くの研究施設の廃止措置が予定されています。なお、東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置は、施設寿命を迎えた後に行われる原子力発電所の廃止措置とは異なり、溶融した燃料や原子炉内構造物等が冷えて固まった燃料デブリの取り出しと処理など新たな技術開発を行いながら進められます。
 今後、我が国では、今までの原子力利用で培ってきた知識・技術・人材を活用しつつ、原子力施設の廃止措置に対応する新しいステージに進んでいくことが必要です。
 廃止措置は、大きな循環プロセスの中で次の新たな始まりを考えると、前の段階をきちっと終えることと同時に次の段階のスタートにも位置付けられるとの両面があります。原子力利用を行ってきたフェーズと、その後の新たな活用フェーズとのいわば橋渡し的で重要な役割を担っているといえます[1][2]
 今後、廃止措置を行う原子力施設が増加していくことに鑑みると、そこには、従来からの技術に加え、新たな技術やシステムの開発などによってより円滑かつ効率的に行える工夫が求められます。また、廃止措置は、発生する放射性廃棄物の処理をはじめ、マネジメントを含めると、数世代にもわたる長期事業となる側面があり、人材、技術、さらに安全文化の維持継承が重要な事業となります。国内で実際の廃止措置事業の実施を通じて技術やシステムを蓄積していくことは、将来的な世界での原子力施設の廃止措置を考えた際に、我が国の大きな資産となることが期待されます。

 本特集では、我が国の廃止措置の経緯や現状などの概要を手短にまとめたうえで、廃止措置の枠組みや考え方、実施される内容についての概要を紹介します。最後に原子力施設の廃止措置の経験が豊富な米国、ドイツ、フランス、英国の例を紹介します。なお、我が国の廃止措置については、東電福島第一原子力発電所の廃炉に向けた取組、実用発電用原子炉及び研究開発施設それぞれに関し、第6章で詳しく紹介しています。


2 我が国における原子力施設の廃止措置の現状

(1) 実用発電用原子炉話

 我が国で初めて廃止措置が実施された実用発電用原子炉は、日本原子力発電(株)の東海発電所です。東海発電所は炭酸ガスにより冷却を行う原子炉です。軽水炉に比べて発電単価が割高であること、保守費や燃料サイクルコストが割高になっていたこと等の経済的理由から、1998年3月31日をもって営業運転を停止し、2001年12月から、廃止措置作業を行っています。その後、実用発電用原子炉では、中部電力(株)浜岡原子力発電所1、2号機が2009年1月に運転停止し、同年11月に廃止措置計画の認可を受け廃止措置段階に移行しています。現在では、東京電力ホールディングス(株)の福島第一原子力発電所の6基を含め、合計24基の原子炉が廃止措置中、あるいは廃止を決定又は検討中です。実際に廃止措置作業が進められているのは、日本原子力発電(株)の東海発電所と敦賀発電所1号機、中部電力(株)浜岡原子力発電所1、2号機、関西電力(株)美浜発電所1、2号機、九州電力(株)玄海原子力発電所1号機、中国電力(株)島根原子力発電所1号機、四国電力(株)伊方発電所1号機の合計9基です[3]


(2) 研究開発施設

 我が国で原子力研究が開始されてから60年以上経過しています。大半の研究施設を保有している原子力機構では、新規制基準への対応等を勘案し、当初の予定を繰り上げて利用を終了する施設が多数出てきています。このような状況の中、文部科学省の原子力科学技術委員会の下に設置された原子力施設廃止措置等作業部会は、原子力機構が多くの施設の廃止措置を同時に実施する必要があることから、事業管理・マネジメント、また、財務管理などの観点から原子力機構が考慮しておくべき事項についての検討を行い、2018年4月に中間まとめを行いました[4]。これを踏まえて原子力機構は、2018年12月に「バックエンドロードマップ」をまとめ、79施設を対象とする廃止措置、廃棄物処理・処分及び核燃料物質の管理に係る方針を示しました[5]
 なお、原子力機構(当時は、日本原子力研究所)では、日本で最初に原子力発電を行った動力試験炉(JPDR)が1976年に運転を終了し、1986年から1996年まで、我が国で初となる原子力施設の廃止措置が行われました(図 1)。JPDRの廃止措置は、将来の実用発電用原子炉の解体技術を開発することを目的に、実地試験の場としても位置づけられていました。JPDRの廃止措置作業によって得られた機器や構造物の解体技術、解体工程などのマネジメントシステム、作業員の放射線被ばく低減や管理に関する技術等、様々な成果が、現在の原子力施設の廃止措置の技術に役立てられています[6]


図 1 動力試験炉(JPDR)の廃止措置から廃止措置後の状況

出典)原子力機構 原子力科学研究所ウェブサイト「原子力施設を廃止措置する」4 に基づき作成


(3) 東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所

 施設寿命を終え、通常の状態で運転を停止した原子力発電所と異なり、事故炉では汚染水対策、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリの性状把握とその処理等、既存の廃止措置技術に加え、新たな技術も開発しながら廃止措置を進める必要があるという側面があります。このため、東京電力ホールディングスを中心に、関係する機関の協力のもと、国が技術開発を支援する取組が行われています。
 東電福島第一原子力発電所の廃止措置は、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)に基づき実施されます。中長期ロードマップには、具体的な廃止措置の工程・作業内容、作業の着実な実施に向けた研究開発、実際の廃炉作業までの実施体制の強化や、人材育成・国際協力の方針等が示されています。2018年度には、3号機において燃料取り出しのための燃料取扱機の設置や、燃料デブリと思われる堆積物に初めて接触する調査が行われ、デブリ自体をつかんで動かせることが確認されました。


3 廃止措置の概要と実施経験

(1) 原子力施設の廃止措置とは

 ここで、あらためて、原子力施設の廃止措置ではどのようなことが行われるのか、その概要を紹介します。
 施設を解体する際には、通常の工業施設と同様に行われるとともに、原子力施設は放射性物質が扱われていることから、放射能汚染の調査や除染など放射性物質への安全対策を講じた解体のための措置が講じられる面もあります。
 原子力施設の廃止措置経験から、国際機関の報告書5では廃止措置は次のように簡潔に説明されています[7]


 廃止措置は、原子力施設の運転停止及びそれに続く規制からの除外を進めるための解体(廃止)に関連する全ての管理上及び技術上の措置を指します。これらの措置には、建造物や機器の除染、機器の解体、建物の解体、汚染された地面の修復、さらに生じた廃棄物の除去が含まれます。(中略)
 原子力発電所のほか、ウランの抽出と濃縮のための施設、燃料製造と再処理のための施設、研究室、同位体製造施設と粒子加速器など、様々な種類の燃料サイクル施設及び研究施設も閉鎖・廃止されてきています。
 廃止措置によって発生するスクラップ金属やその他の材料のうち、放射線による放射化も放射能汚染もされていないものは、リサイクルして再利用あるいは通常の廃棄物とともに処分することができます。放射性物質は分別され、処理、梱包されて放射性廃棄物処分施設で処分されるか、まだ処分場がない場合には貯蔵されます。
 廃止措置が終了した後、施設が立地していた土地は、制限無く利用、産業用の再利用、又は原子力の再利用が可能となるよう原状回復されます。


図 2には、廃止措置が時間の経過とともにどのように進行していくかを模式的に示しています。また、廃止措置の進展に応じて、各段階で実施される作業の概要が図 3に示されています。

原子力発電所の廃止措置の場合、実際に行われることはおおよそ次の通りです。

  1. 使用済燃料の搬出と管理
    発電に使用された使用済燃料の原子炉炉心及び使用済燃料貯蔵プールからの搬出と搬出された使用済燃料は、次の取扱いまでの間安全に貯蔵管理されます。
  2. 汚染状況の調査
    施設の内部には、操業期間中に放射性物質で汚染された箇所や放射線で放射化された箇所があるため、その汚染状況を調査します
  3. 除染
    汚染状況の調査に基づき、必要な箇所の放射能レベルを下げるための除染を行います。これは、廃止措置作業に伴う作業員の放射線被ばくの低減や施設全体で発生する放射性廃棄物の量を減らすことにつながります。次の施設の解体が終了後、必要に応じ敷地の除染が行われます。
  4. 解体
    除染後、廃止措置の最終目標に向けて、施設、設備、機器等の解体が行われます。なお、放射性物質で汚染されていない施設などについては、上記汚染状況の調査や除染の時期に並行して実施することができます。除染が行われた施設などについては、原子炉周辺施設、原子炉施設、最後に原子炉建屋の順に解体が進められるのが一般的な順序です。
  5. 廃棄物の管理
    除染や解体作業によって、放射性及び放射性ではない廃棄物が発生します。特に放射性廃棄物については、処分場へ搬出されるまでの間、敷地内で安全に貯蔵されます。放射性でない廃棄物についてはその再利用が図られます。廃止措置では、最終状態の計画的な実現のためにも、廃棄物、中でも放射性廃棄物の処分に至る管理が重要であることが諸外国の経験から指摘されています。廃棄物処分と廃止措置は一体となって進められるのが望ましい姿です。
  6. プロジェクトマネジメント
    既に述べたように、汚染状況調査、除染、解体、廃棄物管理といったプロセスは、それぞれが密接に関係しており、スムーズに廃止措置が進行するためには、個々の現場の活動に加え、性質の異なる現場の間での諸作業、物流管理など全体のマネジメントが重要になります。また、除染や解体に使用する機器の不具合等によって作業が長期間停滞することの無いように備えることもプロジェクトマネジメントの重要な要素の一つです。
  7. 規制機関との対話
    廃止措置にかかわる許認可を得るためには、廃止措置の計画段階から、規制機関と対話を進め、意思疎通を図ることが必要です。
  8. 地元とのコミュニケーション
    廃止措置について、地元の利害関係者とコミュニケーションし、信頼を構築する必要があります。

図 2 原子力施設の廃止措置の主な手順

(出典)資源エネルギー庁ウェブサイト6に基づき作成


図 3 廃止措置の各段階において実施する作業の概要


(2) 廃止措置方法の考え方

 原子力施設の操業終了後、廃止措置については、一般的に、即時解体(Immediate dismantling)と遅延解体(Deferred dismantling)に分類されています。また、以前は、密閉管理(Entombment)も廃止措置方法の一つとみなされていましたが、現在は過酷事故後などの例外的な事例に適用されるものとみなされています[8][9][10]
 それぞれの方法の概要は以下の通りです。


・即時解体: 施設の無制限利用、あるいは規制機関による制限付き利用ができるレベルまで、放射性汚染物を含む施設の機器、構造物、部材を撤去又は除染する方法です。この場合、廃止措置は、施設の操業を完全に停止した直後に始められます。この方法は、廃止措置の迅速な完了を意味します。
・遅延解体: 安全貯蔵や安全格納ともいわれ、施設の無制限利用、あるいは規制機関による制限付き利用ができるレベルまで、放射性汚染物質を含む施設の一部を処理するか保管しておく方法です。それらは、ある期間の後に必要に応じ除染して解体されます。
・密閉管理: 施設の全てあるいは一部を長期間にわたり耐久性のある構造物に封入しておく方法ですが、現在では計画的に閉鎖した施設の廃止措置方法の一つとはみなされていません。例えば、過酷事故を経験した原子力施設など例外的な事例の措置と捉えられています。

 計画的に閉鎖した施設の廃止措置では、実際には、個々の施設の置かれた環境条件、地域社会との関係等、様々な状況を勘案して、即時解体と遅延解体を組み合わせて実施されることがあります。

 実際の廃止措置の例では、施設の状況、跡地利用等の方針、組織の方針、施設が立地する自治体との関係等、様々な要素を勘案して廃止措置方法が決定されています。例えば、米国では、原子力施設の許認可取得者(操業者)は、DECON(即時解体)、SAFSTOR(安全貯蔵)、又はENTOMB(密閉管理)の3つの廃止措置戦略のいずれかを選択できます。また、廃止措置によって発生した廃棄物の処分場の有無等の様々な要因により、施設の一部を安全貯蔵状態に残したまま、施設を解体又は除染するというSAFSTORとDECONの選択肢の組合せを採用することもできます[11]
 廃止措置の方法について、いくつかの実例を紹介します


① 米国の「即時解体」と「安全貯蔵(又は遅延解体)」の例
 ハダムネック原子力発電所は、1968年から商業発電を行った後、1996年に操業を停止しました。廃止措置作業は1998年5月に始まり2007年11月にほぼ10年の期間で終了しました。敷地は、使用済燃料の貯蔵施設の5エーカー(約2万m2)を除き、NRCの規制対象から解放されました[12]
 ドレスデン原子力発電所1号機の場合、1960年に商業発電を開始し1978年に操業を停止しました。現在は廃止措置の状態に入っていますが、2030年頃まで「安全貯蔵」状態に置かれています。理由は、2号機と3号機の廃止措置計画と合わせて解体を行うことが検討されているためです[13]

② 米国の「密閉管理」の例
 エネルギー省のハンフォードサイト(ワシントン州)には、1940年代からプルトニウムを生産するための原子炉が9基建設されました。そのうち、6番目のC-原子炉は1952年に操業を開始し、1969年に閉鎖されました。その後、1998年に、放射線のレベルが下がり将来同じハンフォードサイトで処分可能となるまで75年間安全な状態を維持する密閉管理の状態(cocoon(繭))に入っています[14]

③ 英国の「遅延解体」の例
 英国の廃止措置方法の基本は、人や環境へのライフサイクルリスクやその他関連する要素を考慮の上、合理的に実行可能な限り早く進めることとされています。しかし、施設再利用の実現性、放射能の減衰効果の利点、人と環境へのリスクの自然の低減などを考慮して、遅延解体方法を選択することもできるとしています。実際、ガス冷却炉であるマグノックス炉の廃止措置の基本方針は、閉鎖後およそ85年間をかけた遅延解体としています。その理由として、放射能の減衰により作業員のアクセス性を向上させることができる、放射性廃棄物のカテゴリ変更が期待できる、地層処分対象の放射性廃棄物の暫定保管を回避する、などが挙げられています。なお、遠隔解体技術の進展、高レベル廃棄物の長期マネジメントの政府方針、さらに、IAEAやOECD/NEAなど国際機関がなるべく早期の廃止措置実施の見解を示しているなどに鑑みて、廃止措置の期間短縮や方法のレビューも行っています[15]

 原子力施設は、その操業中に放射性物質が扱われるので、放射性物質により汚染されている箇所や、発生する放射線により内部の材料などが放射性物質に変化(放射化)している箇所があります。廃止措置に際しては、公衆や環境への影響を可能な限り抑制して実施するのはもちろんのこと、作業員の放射線被ばくを極力抑え、また、必要とされる期間やコストを低減し効率的に実施できるようにするため、操業を終えた施設の放射線の状況を把握することが重要になります。これは、廃止措置の作業に伴うリスクや不確実性を低減することにつながります。このような調査や放射能レベルの測定を施設操業終了の数年前から操業後にかけて実施することで、操業から廃止措置段階への移行に際して時間や人的及び経済的資源の最適化が可能になります[16]。図 4は、原子力施設の操業から廃止措置の終了に至る期間を通じた廃止措置に係る知見の不確実性の推移を示しています。原子力施設の廃止措置は、操業状態から操業停止を経て連続的に廃止措置の段階に移行していき、廃止措置に必要とされる知見が体系的に整理されていく面があります。廃止措置の初期の時期には相対的に不確実な部分がありますが、廃止措置が進められるのに従って不確実な部分が少なくなるとともに、施設の環境へ与えるリスクも低減されていくことを意味しています。


図 4 原子力施設の供用期間中における廃止措置に係る知見の不確実

(出典)OECD/NEA「Preparing for Decommissioning During Operation and After Final Shutdown」 Radioactive Waste Management and Decommissioning, 2018に基づき作成


(3) 諸外国の廃止措置から得られている経験

 各原子力施設の特性も含めた様々な要素や、上記の放射能汚染に関するリスクや不確実性も踏まえて、事業者は廃止措置戦略を立案し、廃止措置作業を進めています。米国、フランス、ドイツ、英国等では原子力施設の廃止措置が多数実施されてきています。それらの経験に基づく教訓などが国際的機関の活動の中でもまとめられ関係者の間で共有されてきています。ここでは、次のようないくつかの事項について紹介します[16]

・廃棄物等のマネジメント
・解体技術について
・適用技術と技術開発

① 廃棄物等のマネジメント
 先にも述べたように、廃止措置は、廃棄物のマネジメントが中心になるプロジェクトです。廃棄物等の管理(処理、保管、処分など)は、廃止措置の実施、さらに多くの場合廃止措置全体のスケジュールにも大きな影響を与えます。廃棄物等の管理戦略を策定する際には、潜在的な最終状態(関係者の間ではよく「エンド・ステート(end states)といいます)を特定し、その最終状態に向けて最初の状態(初期状態)を十分に把握し、それに基づいて廃棄物管理の道筋を計画することが重要であるとされています。上述の諸外国の廃止措置実施機関は、廃棄物管理と廃止措置は一体で取り組む問題であることを強調しています。


② 解体技術
 解体戦略では、施設操業段階の終了時又は解体開始の時点で、施設の放射線を含まない物理的状態と放射線学的状態の両方を考慮しながら、構造物、システム、及び機器を細かく分類しながら機器等の撤去を最適に行うこととされています。
既存の施設を施設解体に使用したところ不具合を生じ、その復旧に年単位の時間を要した例があります。廃止措置の方法を最適なものとするとともに、このような不具合への備えも必要とされます。
 図 5に、実際の原子力施設で行われた廃止措置の状況の例を示します。


図 5 原子力施設の廃止措置の実例

(出典)OECD/NEA Decommissioning of Nuclear Facilities[17]に基づき作成に基づき作成


③ 適用技術と技術開発
 我が国及び世界で実施されてきている廃止措置の実例では、既存の技術で実施できることを示しています。日本の場合、我が国で初めて実施されたJPDRの廃止措置を通じて、また、国の予算で実用発電用原子炉のための解体技術開発が実施され、それらが、現在の廃止措置の実施にあたり有用な技術基盤となっています。一方、廃止措置の経験が蓄積されるに従い、より効果的な実施を可能とする新しい技術開発に対する潜在的なニーズも明らかにされてきています。施設全体及び個々の解体場所に応じて、実績のある技術や手法(性能がよく知られ予測可能なもの)(図 6の例参照)が適切な場合、実現可能性が得られている革新的な技術や手法(特定の用途に大きな利点をもたらすが不確実性が大きい)(図 7の例参照)に基づくのがより適切であると考えられるか等を比較しつつ、技術選択が行われます。
そのような比較検討には、一般的に次のような考慮事項が含まれます。

  • 廃止措置の安全性を維持及び強化し、プロジェクトの実施をより予測可能にし、効率的にすること
  • 革新的技術を早期導入することのメリット
  • 革新的な技術の活用により、取組の改善が可能と考えられる(施設固有の)廃止措置課題に関する知識と認識
  • 必要とされる技術や手法が利用可能になるまでの時間

図 6 配管のプラズマアーク切断

(出典)原子力機構 原子力科学研究所ウェブサイト 「プラズマアーク切断装置」7


図 7 新技術の研究開発(没入型バーチャルリアリティシステム)

((出典)原子力機構 原子力科学研究所、「楢葉遠隔技術開発センター 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた挑戦」[18]


(4) 今後の廃止措置の本格化に向けて

 今後、我が国では、実用発電用原子炉の廃止措置が本格化するとともに、原子力機構の様々な研究開発施設等の廃止措置も開始されます。
 安全かつ円滑に廃止措置を進めていく上では、過去の経験の中で開発されてきた技術やシステム等を活用し、必要な場合には新たな研究開発も並行して行っていくこと、また、特にプロジェクトマネジメントの知識と知見が必要であることは既に紹介してきました。
 前段で見た通り、廃止措置に係るリスクや不確実性を低減するためには、原子力施設の操業中から廃止措置実施に移行する段階における準備作業が重要であることが分かりました。諸外国での経験から得られた教訓が国際的な場で共有、検討され、その結果が取りまとめられた報告書があります8。そこで、原子力施設の場合には、特に操業から廃止措置段階への移行期間においてどのようなことに留意しながら行われるかについて理解を深めていただくことを目標に、諸外国の経験から重要とされている主要な事項も含めて紹介します。

 原子力施設の廃止措置では、通常の施設解体に加え、放射性物質の取扱いが含まれているために、特に環境、公衆及び作業者の放射線影響に対する安全対策を最優先させて実施することは言うまでもありません。準備段階では、安全かつ効率的に廃止措置を進められるため、最終状態を含めた目標、戦略、人員、施設、解体手順、適用技術、必要とされる技術の見通し、リスクマネジメント、組織制度、さらにステークホルダーとの関係など、幅広い視点から早期に計画書が作成されるのが一般的です。
 最終状態は、廃止措置実施の最終目標です。最終状態の実現を目指す廃止措置のプロセスについては、ロードマップなどの形で戦略的に示すとともに、廃止措置の段階に応じたマイルストーンごとの目標も示しておくことが重要になります。海外の事例をみると廃止措置の開始から最終状態になるまでには、十年程度から数十年はかかるとみられています。このため、廃止措置プロジェクトの全体を俯瞰するロードマップに加え、例えば5年や10年程度の当面の期間、あるいは、段階的に進められる場合には、最初の段階の終了時点までの詳細なロードマップが示される必要があります。その目標の達成状況を責任者が確認しながら廃止措置進める必要があります。また、いったん定められた計画とそれを実現するための組織についても、適時にレビューして必要な見直しを行っていく柔軟性も必要であることが示されています。これは廃止措置では、その実施が進むにつれて、人的及び費用などの資源を集中的に投入する箇所が変わることが想定されることからも重要な組織マネジメントの一部となります。
 施設の操業停止後できる限り早い段階から準備活動を実施することで、廃止措置活動が本格化した段階で効率的に廃止措置が進められるための課題が特定され、その時点で最適な解決策を示すことが可能になります。この準備段階での検討により、廃止措置事業に必要な人材、コスト、必要な技術等のリソースを最適化できる可能性があります。各国の経験からは、典型的な準備活動として以下のような例が挙げられています。(図 8参照)

  • 施設や機器等資産運用管理
  • 核分裂性物質と使用済燃料の除去
  • 必要とされない二重などの冗長システムの停止
  • 汚染状況等の特性調査
  • 廃棄物等の管理
  • 除染活動

 一方、我が国でも原子力施設の廃止措置の経験が蓄積されてきています。諸外国の経験も含め、準備段階において検討することが望ましい課題として次のような事項が挙げられています。

  • 知識マネジメント:維持、移転及び保守
  • トレーニングと資格
  • コミュニケーション
  • 人間のパフォーマンスと継続的改善の実
  • 利害関係者の観点から見た統合マネジメントと組織変
  • 安全文化
  • プログラムとプロジェクトのマネジメント
  • サプライチェーンマネジメントと契約モデル

ここで示された多くの項目が、廃止措置に係る時間の長さを念頭に置くと、時間の経過による諸状況の推移がある中で、特に留意する必要のあるものと理解することができます。
以上、原子力施設では施設の操業を終了し廃止措置へ移行する段階で、最終状態を目指して、放射性物質に対する安全の確保を大前提に、計画的に対策が進められていることを紹介しました。


図 8 原子力施設の廃止措置から廃止措置への移行と必要な準備活動

(出典)原子力機構 原子力科学研究所、「楢葉遠隔技術開発センター 東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所の廃止措置に向けた挑戦」

 最後に、循環型社会の視点で原子力施設の廃止措置について考えてみたいと思います。
私たちに身近な生活用品では、リサイクル、リユース(再利用)が社会の基調になっています。社会生活の基盤を形成する製品、エネルギーなどを生産する工業施設などでも、それぞれの施設の寿命がくればそれらを解体し、新たに必要とされる用途に応じた利用がなされています。この姿は時代が変わっても繰り返されていくいわば自然の姿であるといえます。
図 9に示す通り、今後世界的に、廃止措置される原子力発電所が増大すると見込まれます。原子力施設についてみると、施設の寿命期間中は社会活動の根幹の一つである電気を供給しています。それらは、他の工業施設と同様寿命を迎えれば、その役割を終了し廃止されます。その次にその施設が立地していた場所を、同じ電力生産施設や他の種類の施設などを設置してその用途に供していくことは、大きな意味での循環プロセスの一つであるといえます。原子力の世界ではこのような大きな循環システムの中で原子力システムをみることは比較的少なかったのではないかと思います。その意味で廃止措置は、大きな循環プロセスの中で次の新たな始まりを準備するための重要なことといえます[1][2]
加えて、先にも紹介したように、原子力発電所の廃止措置についてみると、より円滑な廃止措置の実施に向けた研究開発の要素が廃止措置段階に含まれているということです。また、複雑な個々の作業の相互連関を常に頭に置いて実践するという高度なプロジェクトマネジメントの手法とスキルが必要とされます。原子力施設については、運転段階から運転後もしばらくは放射性物質の存在によるその取扱いや処理について特段の注意深さをもって対応することが特徴の一つです。現在の技術でも廃止措置が行えることは、各種の原子力施設の廃止措置が実施されてきた実績から明らかです。一方、OECD/NEAの報告書でもまとめられているように、それらの実地経験が蓄積されてきたことから、より円滑な廃止措置のために取り組むことも明らかにされてきています。例えば、実施における不確実性やリスクなどを早期に把握して低減していくことは廃止措置のより効果的な実施を実現することになります。また、廃止措置の工程を策定し、実施していくためには、リスク低減の観点からのプロジェクトマネジメントの重要性も強調されます。このような意味でこれから本格化する原子力施設の廃止措置にあたっては、実施経験から得られた知見に基づきつつ、より円滑な廃止措置を進めるための研究開発を行いながら進めることが必要とされます。


図 9 世界で運転中の原子炉の基数と運転期間

(出典)IAEA, REFERENCE DATA SERIES No. 2「NUCLEAR POWER REACTORS IN THE WORLD, 2018 Edition」に基づき作成」

 終わりに、原子力施設の廃止措置に関する情報を紹介しているWeb上のサイトを紹介します。


 これらのほか、廃止措置を実施している電力会社のホームページでは、それぞれの取組状況が掲載されています。


4 諸外国における廃止措置の状況状

(1) 諸外国における廃止措置の状況

① 米国
1) 原子力利用の歴史と廃止措置
 米国では、核兵器の開発を目的として1942年に始められたマンハッタン計画により本格的な原子力利用が開始されました。第二次世界大戦後の1946年には原子力利用を統括し、自ら規制も行う原子力委員会(AEC9)が設立され、発電等、原子力の平和利用のための研究開発も進めました。米国初の本格的な発電炉であるシッピングポート炉は、1957年に運転を開始しています。その後、1975年にAECは解散され、商用原子力発電等を規制する原子力規制委員会(NRC10)と、核兵器開発施設の管理等を行うエネルギー研究開発庁(ERDA11)の2つの組織が設立されました。核兵器開発施設の廃止措置等は、ERDAの後身組織として1977年に設立されたエネルギー省(DOE12)の環境管理局(EM13)が1989年より担当しています[19][20]


2) 廃止措置の基本方針と実施の枠組み
 米国では発電炉の場合、NRCが定める連邦規則に基づき、原子炉の運転の恒久停止後、原則として60年以内に廃止措置を完了させなければなりません。そのため、廃止措置方法として、密閉管理方式14が事実上選択できず、即時解体方式15又は安全貯蔵方式16が採用されています。なお、NRCの規制により、廃止措置が完了したサイトは、無制限の利用17、又は制限付きの利用のどちらかが可能な状態にしなければならないことになっています。制限付きの利用を選択した場合、事業者はサイトの最終的な状態や制度的管理などに関する計画を策定することとされています[11]。 米国では、現在の規制では、廃止措置完了まで運転認可が継続する形となるため、原子炉からの燃料撤去など、リスクの低下に応じた規制要件の緩和を得るためには、免除申請や許認可の変更申請等を行う必要があります。なお、現在NRCは、免除によらず廃止措置段階のプラントとしての規制要件を定める方向で、廃止措置規制の刷新に向けた手続きを進めています[21]
 発電炉の廃止措置は、原子炉の運転認可を取得している事業者が実施します。廃止措置を実施する事業者は、NRC規制の要求を満たす形で廃止措置のための資金確保方法を選択し、資金を確保しています。またNRCに対しては、一定の額を積み立てていることなどを定期的に証明することになっています[22]。 一方で、DOEは核兵器開発施設跡地やDOEが所有する研究施設等の廃止措置の責任を負っています。DOE内ではEMがこれらの施設のマネジメントを行い、各サイトで廃止措置が実施されています。DOEの所有施設にはNRCが定める規則は適用されず、DOE自らが安全確保のための規則を定めています。廃止措置の実施のための費用は、毎年度の歳出法により国費として措置され、積立て等は行われていません。2019会計年度には、核兵器開発施設の跡地と、DOEが所有する非国防施設の廃止措置活動のために約65億ドルの予算が措置されています[23]。また、廃止措置のために必要となる費用は、3,840億ドルと見積もられています。このうち、ワシントン州のハンフォードサイトとサウスカロライナ州のサバンナリバーサイトのための費用が半分を占めています[24]。廃止措置費用は、今後も国費として措置されることとなります。


3) 原子力施設の廃止措置状況
 米国では、NRCの規制対象となる商用原子力発電所と、DOEが管理し、自ら規制する核兵器開発施設等の両方で、廃止措置が進められています。
 商用原子力発電所について、米国では2000年代に入ってから廃止措置に入る原子炉は途絶えていましたが、経済性の悪化したプラントの早期閉鎖が増えてきたため近年廃止措置段階に入るサイトが増加しており、今後も増加する見込みです。最近では、外注による専門業者の活用のほか、後述するバーモント州のバーモントヤンキー炉のように、許認可そのものを専門業者に移譲して廃止措置を行うケースも見られるようになっています[25]
 一方、核兵器開発施設の跡地やDOEが所有する研究施設等の非国防施設においては、DOEのEMが責任を負い廃止措置活動を進めています。EMはこれまで、全米30の州の91サイトの廃止措置を完了させ、現在は11の州の16サイトで廃止措置を進めています。廃止措置が進められている核兵器開発施設の跡地として、ハンフォードサイトや、DOEの原子力分野の主要な研究施設として現在も機能しているアイダホ国立研究所(INL18)があります。なお、DOEが所有する研究所はかつての核兵器開発施設であったものが多く、EMによる廃止措置活動と研究開発が並行して行われています[23]


4) 廃止措置の流れ況
 米国では、発電炉の場合、恒久停止を決定した事業者は、運転を停止する2年以上前に、「閉鎖後廃止措置活動報告書」(PSDAR19)をNRCに対して提出する必要があります。PSDARには、廃止措置の説明やスケジュール、費用見積り、廃止措置に伴う環境影響を適切なレベルに保つための方策などが記載されます[26]
 米国の発電炉では現在、即時解体又は安全貯蔵により廃止措置が実施されています。バーモント州のバーモントヤンキー炉の場合を例に廃止措置の流れを示します。2014年に運転を恒久停止し、当初は安全貯蔵により2075年を目途に廃止措置を完了させる意向でした。しかしその後、プラントは廃止措置を専門に行う事業者に売却され、現在はその事業者が2026年までに廃止措置を完了させる計画を策定しています。図 10は現在の即時解体方式による廃止措置のスケジュールを示しています。なお、参考までに安全貯蔵による廃止措置のスケジュールを図 11に示します[27]
 なお、廃止措置後の跡地を他用途に転用している原子力発電所もあります。例えば、コロラド州のフォート・セント・ブレイン原子力発電所の跡地は現在天然ガス火力発電所として利用されています[28]


図 10 即時解体によるバーモントヤンキー炉の廃止措置計画


図 11 安全貯蔵によるバーモントヤンキー炉の廃止措置計画


 米国では、原子力発電所の解体等により発生する低レベル放射性廃棄物は、民間の処分場で処分されています。クリアランスは、NRCが発行する規制ガイダンスを参照して行われるケースバイケースの審査によって実施することができるようになっています[29]。発電炉で発生した使用済燃料は、我が国とは異なり再処理は行われず、放射性廃棄物となります。法律により、使用済燃料は連邦政府が建設する地層処分場で処分されることになっていますが、まだ操業が開始されていないため、廃止措置中のほとんどの原子力発電所で、使用済燃料は独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI20 )で貯蔵されています。このため米国には、廃止措置が完了したもののISFSIのみが残されている原子力発電所が多くあります[30][31]
 一方DOEのEM局が進めている核兵器開発施設の廃止措置では、サイトの利用状況等を踏まえてスケジュールが策定されています。図 12は、ワシントン州のハンフォードサイトにあるプルトニウム生産炉C炉の廃止措置計画を示しています。C炉では核兵器製造のためにプルトニウムが生産され、1969年に運転が停止されました。約20年の安全貯蔵の後1998年には炉心のみを残して、最長75年間、密閉管理されることになっています[32]。DOEは、2075年にはハンフォードサイトの廃止措置を完了させる計画です[23]

図 12 ハンフォードのプルトニウム生産炉C炉の廃止措置計画


 核兵器開発施設の廃止措置で発生した放射性廃棄物のうち、低レベル放射性廃棄物は、DOEの各サイトに設けられた処分場等で処分されており、高レベル放射性廃棄物は、民間の高レベル放射性廃棄物とともに地層処分される計画です。なお、超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU21廃棄物)は、ニューメキシコ州の廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP22)で地層処分されています[30]。 EMが廃止措置活動を行っている施設やサイトは多様であり、廃止措置の最終形態については、地元との協議も行いながら検討・決定されています。例えばハンフォードサイトでは、DOEと環境保護庁(EPA23)及びワシントン州エコロジー省の三者が合意を締結し、合意に基づき行動計画を策定して、廃止措置のマイルストーンを決定しています[33]


5) 廃止措置の実施例

イ) バーモントヤンキー原子力発電所の廃止措置
 米国では、経済性の悪化等の理由により、運転認可期間が残っているにもかかわらず前倒しでプラントの運転を停止する事業者が出てきています。こうした状況の中で、廃止措置を専門の会社に任せる電気事業者も出てきています。例えば、バーモント州に立地するバーモントヤンキー原子力発電所は、事業者であるエンタジー社から廃止措置を実施するノーススターグループサービシズ社(以下「ノーススター社」という。)に売却されました。この事例は、廃止措置後の買戻しを前提とせずにプラントの所有権やNRCによる許認可を廃止措置専門会社に売却する最初の事例となっています。
 バーモントヤンキー発電所は、出力65万kWのBWRであり、1972年に運転を開始しました。当初の運転許可期間は2012年3月21日まででしたが、後にNRCにより20年の運転期間の延長が認められています。しかしながらプラントを所有・運転するエンタジー社は、経済的な理由により早期閉鎖を決定し、2014年12月29日に運転が恒久停止されました。
 州は、発電所の即時解体など早期のサイト解放を求めていましたが、エンタジー社は当初、廃止措置のための資金の蓄積が十分でなかったこともあり、安全貯蔵を選択し、2075年頃までに廃止措置を完了させる計画でした[34]。しかしながら2016年11月に、エンタジー社は、廃止措置や解体を主な事業としているノーススター社と、発電所の売却で合意しました。この売却はその後、州当局や州の公益事業委員会、及びNRCの承認を得ています[35]。なお、ノーススター社は廃止措置を、米国のウェースト・コントロール・スペシャリスト社やフランスのOrano社といった、廃止措置や放射性廃棄物管理に実績のある企業と共同で実施することとしています。
 バーモントヤンキー発電所の売却において、プラント、土地、廃止措置資金及びNRCの許認可が、エンタジー社からノーススター社に売却され、ノーススター社はエンタジー社に対価を支払いました。ノーススター社は、エンタジー社から受け取った廃止措置資金等を用いてプラントの解体などを行い、廃止措置が完了すると、土地は解放され、ノーススター社が受けていたNRCの許認可は終了します[36]
 バーモントヤンキー発電所の売却において、電気事業者は売却により、「本業」とも言える発電事業に専念できるようになります。ノーススター社は、廃止措置の経験を蓄積することで、効率的な廃止措置を実施することができるようになると見込まれます。また、当初、発電所は今後50年ほどの期間をかけて廃止措置が実施される予定でしたが、この売却により、州が希望していたように廃止措置の前倒しでの完了が見込まれています。これには、エンタジー社から受け取った廃止措置資金を効率的に運用し、廃止措置事業としての利益を確保しようという経済的なインセンティブがノーススター社に働いていることが背景にあると言えます。


ロ) ハンフォードサイトにおける廃止措置
 ワシントン州のハンフォードサイトには、核兵器開発に用いるプルトニウムを生産していた原子炉が9基あります。同サイトにおけるプルトニウム生産は1980年代後半まで行われました。また、同サイトにはプルトニウム生産炉の使用済燃料からプルトニウムを抽出するPUREX24と呼ばれる施設もあります。PUREXは1988年に操業を停止し、高い汚染状態を考慮して20年近くにわたり無人の状態に置かれていましたが、将来的にはサイトの他の施設と同様に、建屋が解体され除染される予定です[37]
 ハンフォードの廃止措置は、DOE、EPAとワシントン州エコロジー省の三者が合意を締結した1989年に開始されました。これまでに発生した放射性廃棄物や廃止措置により発生した放射性廃棄物は、以下の通り、一部はWIPP等のサイト外の処分場で処分され、一部はサイト内の処分施設で処分されることになっています[38]

  • 固体廃棄物、汚染土壌、建屋のがれきの大部分:ハンフォードサイト内の処分施設で埋設処分
  • 使用済燃料:キャニスタに封入され将来的に連邦政府が今後建設する地層処分場に搬送して処分
  • TRU廃棄物:梱包し、WIPPに搬送して処分
  • 液体廃棄物:現在地下のタンクに貯蔵されているものは最終的にガラス固化して安定化。低レベルの放射性廃液はハンフォードサイト内の処分施設で処分し、高レベルの放射性廃液は連邦政府が今後建設する地層処分場に搬送して処分

 2018年8月時点では、9基の原子炉のうち6基は燃料を取り出して、炉心部分が鋼鉄とセメントによって密閉管理されています。また、残りの2基も同様に密閉管理し、残った1基は国の歴史建造物として残されることになっています [38]。

 ハンフォードの廃止措置において、DOEは地元とのコミュニケーションに積極的に取り組んでいます。DOEは、三者合意を締結しているEPA及び州のエコロジー省と、この合意の一環として「ハンフォードパブリックインボルブメントプラン」(以下「インボルブメントプラン」という。)を策定しています。インボルブメントプランでは、廃止措置においてパブリックが意思決定プロセスに参加するための方法が示されており、パブリックインボルブメントが重要である主な理由として以下の3点を挙げています。
  • 三者合意の当事者がパブリックの価値観、懸念、及びアイデアを、意思決定に先立って考慮することができるようになる。
  • パブリックがプロセスの早い段階で情報や参加の機会を与えられない場合、廃止措置に関する意思決定に疑いを抱いたり、批判したり、抵抗するようになる可能性がある。
  • きちんと情報を与えられたパブリックは廃止措置を継続的に支持するようになる可能性がある。

その上でインボルブメントプランは、パブリックインボルブメントの目的として以下の4点を挙げています。

  • タイムリーで正確で、理解しやすく入手しやすい情報を提供することによるパブリックの参加の実現
  • オープンで透明性のある意思決定の実現
  • 意思決定プロセスにおけるパブリックの価値観の考慮
  • 若年層を含め、必ずしもハンフォードに関係がない者も含めた、人々に対する教育と、これらの人々の関与


② ドイツ
1) 原子力利用の歴史と廃止措置
 ドイツでは1955年から、東西ドイツそれぞれで原子力民生利用に向けた研究・開発に着手し、西ドイツではカールスルーエ原子力研究所(現在のカールスルーエ工科大学)やユーリッヒ原子力研究所(現在のユーリッヒ研究所)、東ドイツではロッセンドルフ研究所を中心に原子力研究が行われてきました。西ドイツではPWRやBWRといった軽水炉のほか、複数の発電用プロトタイプ炉の開発に取り組むとともに、1960年代には高温ガス炉や高速炉開発も本格化しました。
 同国では2002年の原子力法改正で原子炉の新規建設が禁止されるとともに、既存炉を段階的に閉鎖していくことが規定されました。さらに東電福島第一原発事故を受けた2011年の原子力法改正により、同年8月に8基の原子炉が一斉に閉鎖され、2010年末の時点で17基あった実用発電用原子炉は9基となりました。これら9基も閉鎖期限を指定され、ドイツは2022年までに全ての実用発電用原子炉を閉鎖することになりました。2019年7月現在、運転中の発電炉は7基ですが、2019年末にはさらに1基が閉鎖期限を迎え、残り6基となる予定です[39][40]


2) 廃止措置の基本方針と実施の枠組み
 ドイツにおける原子力施設の廃止措置の基本方針・手順は、連邦環境・自然保護・原子炉安全省が公表している「原子力法第7条による廃止措置手引書(2016年改訂版)」に示されています。同手引書は、全ての原子力施設の廃止措置の最終的な目的を「原子力法に定める防護目標の遵守を前提として、原子力施設を原子力法令の監視対象から解放すること」としています[41]
 ドイツの原子力法では原子力施設の廃止措置戦略として、即時解体と安全貯蔵の2種類のオプションを認めていますが[40]、政府の諮問委員会は即時解体を推奨しています。実際に、安全貯蔵方式を選択したのは一部のプロトタイプ炉で、大部分の施設が即時解体方式を採用しています[42]。廃止措置の最終状態としては、非原子力部分の建屋を含めた敷地上の構造物を全て解体し更地にするパターンと、汚染されていない建屋を残し、他用途に転用するパターンがあります。
 廃止措置は、原子力施設の操業者が主体となって実施します。発電炉については電気事業者が実施責任を負います。なお旧東ドイツの原子炉では、連邦政府100%所有の国有会社エネルギー・ノルト(EWN25)社が廃止措置を実施中です。また研究施設に建設された実証炉やパイロットプラントについても、EWNグループの傘下企業が廃止措置を実施しています[43]。なお、EWN社は公有施設の廃止措置実施主体であるだけでなく、これらの施設での経験・知見を活かして、民間の原子炉廃止措置においても、原子力機器の撤去・解体等を請け負っています[44]
 廃止措置費用については、実施責任者が将来発生するコストを見積もって、各自で資金を確保しています。発電炉の廃止措置資金は電気事業者が各自で引当金を計上し資金を確保しており、事業者は廃止措置資金の確保状況を、政府に毎年報告しなければなりません。政府は各事業者からの報告に基づき、国会に報告書を提出します。一方、旧東ドイツの原子炉については連邦が、研究施設等にある実証炉・パイロットプラントについては連邦及び立地州26が廃止措置資金を負担しており、公費による廃止措置が実施されています。連邦予算では、連邦が費用を負担する廃止措置資金が毎年計上されており、2019年予算として約2億7400万ユーロが措置されています。これ以外に、立地州などが負担する費用もあります。州の負担割合は、建設時の施設への出資割合に応じて様々です。なお、これらの施設の廃止措置完了までに連邦予算から支出される金額は、約86億7200万ユーロと見積もられています[45]


3) 原子力施設の廃止措置状況
 上に述べた通り、民生原子力発電初期のプロトタイプ炉の開発終了、その後の革新炉の開発終了、東西ドイツ統一に伴う東ドイツ炉の閉鎖、脱原子力政策といった複数の要因により、ドイツでは様々なタイプの多数の研究炉、発電炉で廃止措置が実施されています。
 発電炉(プロトタイプ含む)に関しては、2019年4月の時点で25基が廃止措置中で、このうち複数の原子炉で原子力部分を含む主要部分の解体が完了、あるいは完了間近の状態まで進行しています。また3基については設備の解体と放射性廃棄物、使用済燃料等の搬出が完了して、サイト全体が原子力法の規制対象から解放されています。その他の研究施設については7カ所で廃止措置実施中、29カ所で廃止措置が完了しています。燃料サイクル施設では2カ所で廃止措置が実施中、9カ所で廃止措置が完了しています[46]


4) 廃止措置の流れ
 原子力法の閉鎖期限を迎えた原子炉や、使命を終えたその他原子力施設は恒久閉鎖され、廃止措置へと移行します。施設閉鎖を決めた操業者は、施設が立地する州の原子力安全当局(州環境省など)に対し、廃止措置許可を申請します。施設の恒久停止後、廃止措置許可が発給されるまでの間の「運転終了後フェーズ」には、燃料を取り出し燃料プールに移送する作業など、廃止措置に向けた準備作業が実施されます。その後、廃止措置許可の発給を受けて、廃止措置(即時解体あるいは安全貯蔵)が実施されます。
 使用終了した建屋、敷地や、廃止措置の過程で発生する解体廃棄物等の大部分は、放射線防護令に基づく手続きを経て、放射性物質としての取扱いの必要がない対象物として原子力法令・放射線法令の監視下から外れ、再利用、他用途への転用又は放射性廃棄物ではない産業廃棄物として処分されます。この手続きは「クリアランス」と呼ばれ、ドイツではクリアランスにより、放射性廃棄物として取り扱う対象物の量を大幅に抑制する戦略をとっています。クリアランスできない放射性廃棄物については、引き続き原子力法令等の規制管理のもと、適切に管理されます。
 ドイツでは使用済燃料を含む高レベル放射性廃棄物、中低レベル放射性廃棄物ともに地層処分する方針ですが、いずれの処分場もまだ操業を開始していません。このため、放射性廃棄物は最終処分まで、中間貯蔵されています。サイト全体を規制対象から解放するためには、サイト内から放射性物質等がなくなることが必要ですが、サイトを複数のエリアに区分して段階的に規制から解放することも可能です。
 なお、サイト内の構造物に関しては、非原子力部分の建屋を含め全て解体し更地にするパターンと、汚染されていない建屋を残し、他用途に転用するパターンがあります。例えば旧東ドイツのグライフスバルト原子力発電所では、汚染されていない一部の建屋が、造船、風力発電機部品の組立てなど、他の産業用途に転用されています[40][47]
ドイツの原子力発電所における一般的な廃止措置の流れは図 13に示す通りです。

図 13 ドイツにおける原子力発電所の廃止措置の流れ

(出典)ドイツ原子力産業会議「Stilllegung und Ruckbau von Kernkraftwerken 2013」に基づき作成


5) 廃止措置の実施例

イ) シュターデ原子力発電所の廃止措置
 シュターデ原子力発電所は、1972年に運転を開始したPWRであり、脱原子力政策に伴い、2003年に閉鎖されました[48]。ドイツではこれ以前にも発電炉の廃止措置が実施されていますが、同発電所は、脱原子力の方針を定めた2002年の改正原子力法に基づいて閉鎖された最初の発電炉として注目されています。同発電所の廃止措置は、プロイセンエレクトラ社(E.ON社の原子力子会社)により実施されています。
 シュターデ原子力発電所では運転終了後燃料の取り出しを行い、2005年に原子力部分の解体が開始されました。原子力部分の解体では、仏アレバ社(現在のフラマトム社)により、原子炉容器を一体撤去するのではなく、建屋内で水中切断・解体する工法が用いられました[49]。この工法は、脱原子力政策以前に閉鎖されたヴュルガッセン(同じくプロイセンエレクトラ社のプラント)で初めて、原子力発電所に適用されたもので、シュターデが2例目です。今後は他社が所有する複数の炉でも同様の手法による原子炉容器の解体が予定される[50]など、廃止措置関連技術の定着が見られます。
 シュターデにおける原子力部分の解体は2014年に完了する予定でしたが[49]、その2014年になって原子炉建屋部分の土壌に汚染が確認され、追加的な除染作業が必要となりました。また同社は、原子力法に基づく原子炉閉鎖に伴い、複数の原子炉の廃止措置を実施・予定していることから、先行例であるシュターデ等の経験を生かして、これらの炉で共通する部分の廃炉計画を標準化する取組を行いました。こうした作業を実施したこともあり、シュターデの原子力部分の解体完了は2021年、非原子力部分の解体を含めた廃止措置完了は2023年が見込まれています[51]
 シュターデの廃止措置に伴って発生する解体廃棄物の大部分は、クリアランス手続きを経て、通常の廃棄物処分場に埋設処分されます。しかし現在ドイツでは脱原子力政策に伴い大型発電炉の閉鎖が相次いでいます。発電炉の解体では、これまでの研究炉やプロトタイプ炉の例と比べて、解体廃棄物の量が顕著に増大します。こうした中で、クリアランス後の廃棄物に対する公衆の関心が高まる傾向にあり、プロイセンエレクトラ社はクリアランス廃棄物の埋設処分に関するQ&Aウェブサイトを設置するなど、理解促進の取組を行っています[52]
 放射性廃棄物については前述の通り、処分場の操業が開始されていないため、当面サイト内で中間貯蔵されます。高レベル処分場はサイトが未定、中低レベルについても操業開始は2027年頃の見込みです[53]。したがって、シュターデの廃止措置が完了予定の2023年以降も当面はサイト内に中間貯蔵施設が残ります。シュターデの全敷地が原子力規制から解放されるのは、これらの廃棄物が最終処分場に搬出された後になる見込みです。


ロ) カールスルーエ再処理施設の廃止措置
 カールスルーエ再処理施設(WAK27。35tHM/年)[54]は、カールスルーエ原子力研究所(当時。現カールスルーエ工科大学)内に建設され、1971年に操業開始、1990年に操業を停止して閉鎖されました。当時ドイツでは、国の政策として再処理を推進しており、同施設は本格的な商用規模の再処理に向けたパイロットプラントと位置づけられていました。WAKは連邦政府の資金で建設され、民間企業の合弁会社によって操業されました[55][56]
 なお、WAKの廃止措置は当初、連邦政府と研究所立地州であるバーデン・ビュルテンベルク州の財政支援のもと、WAK運転会社によって実施されていましたが、その後2006年に、同社は連邦が所有するEWN社の傘下となりました。現在はEWN社傘下の「カールスルーエ原子力施設バックエンド会社(KTE28)」として、WAKのみならず、後述の高速実験炉KNK IIを含むカールスルーエ工科大学内の原子力施設の廃止措置を一括して担っています[57]。 WAKでは2002年までに再処理建屋の主要機器が撤去されました。またWAKでは、同施設で発生した高レベル廃液の処理を行うため、専用の設備を建設してガラス固化処理を行いました。作成されたガラス固化体はキャスクに封入後、2011年にノルト中間貯蔵施設に搬出されました。ガラス固化体は高レベル放射性廃棄物として、処分場の操業開始まで、ノルト中間貯蔵施設で保管される見込みです。なお、WAKではガラス固化施設の使用終了に伴い、汚染度の高い同施設の廃止措置も必要となり、現在の課題となっています[58]


ハ) 研究施設
 前述の通り、ドイツでは民生利用に向けた原子力開発の初期から、ユーリッヒやカールスルーエの原子力研究所を中心に、様々な炉型の実験炉が建設・運転されてきました。
 ユーリッヒ原子力研究所(当時。現ユーリッヒ研究所)に隣接して発電用実験炉AVR29(ペブルベッド型、15MWe)[59]が建設され、1967年に送電網に併入、1988年末に恒久停止されました。同炉の運転、廃止措置を行っていたAVR社は、2003年に連邦が所有するEWN社の傘下となり、現在はEWN子会社のJEN社として、AVR炉だけでなくユーリッヒ研究所内の原子力施設の廃止措置全般を担っています。AVR社は当初、AVRを安全貯蔵する方針で州当局から廃止措置許可を取得し、安全貯蔵に向けた準備を進めていました。しかしAVR社がEWN社傘下に入った際に、連邦と立地州であるニーダーザクセン州は、当初予定していた安全貯蔵ではなく、可能な限り速やかに全施設・建屋を解体する方針に転換することで合意しました。
 AVRの圧力容器は汚染度が高いため、その場での解体は行わず、建屋から搬出後、中間貯蔵施設に搬出して当面保管することとなりました。2015年5月には、隣接するユーリッヒ研究所敷地内に建設された中間貯蔵施設に圧力容器が搬入されています。圧力容器は冷却のために最大で70年間保管された後に解体され、中低レベル放射性廃棄物として最終処分される見込みです[60]


図 14 AVRの圧力容器搬出

(出典)EN社ウェブサイト「AVR-Hochtemperaturreaktorに基づき作成


 なお、ドイツではAVRに続く高温ガス炉型の発電用原型炉として、THTR-300(300MWe)も建設され、1987年に運転を開始しましたが、炉のトラブル等の問題から1988年に運転を終了しました。同炉は1995年に燃料取り出しと中間貯蔵施設への搬出を完了し、1997年から30年間の予定で安全貯蔵されています[61][62]
 一方、カールスルーエ原子力研究所では、ロ)で示した再処理パイロットプラントWAKと並行して高速炉の開発が進められていました。同研究所では1977年から1991年まで、高速実験炉KNK30IIが運転されました。閉鎖後はカールスルーエ研究所によって1993年から廃止措置が実施されてきましたが、WAK同様、連邦所有のEWN社傘下に移管され、現在はEWN社子会社であるKTE社により、廃止措置が進められています。KNKIIでは、廃止措置を10段階に分けて実施していますが、2019年7月現在既に第9段階まで進んでおり、最終段階となる第10次廃止措置許可を州政府に申請中です。
原子炉建屋内の設備解体は2003年に開始しています。KNK IIでは、冷却材として使用されたナトリウムが残留しているコンポーネントがあり、ナトリウムの発火を避けるため、窒素ガスを充満させた状態で解体されました。今後行われる廃止措置の最終段階では、残りの補助施設の解体や、汚染された機器の撤去、除染が行われ、全ての構造物がクリアランスされたのち、通常の構造物として解体され、廃止措置が完了する見込みです[63][64]
 なお、高温ガス炉開発の一環で、実験炉AVRに続いて原型炉THTR-300が建設されたのと同様に、高速炉で開発でもKNK IIに続く原型炉として、SNR-300(建設サイトの名称を採って、通称カルカー炉と呼ばれる)が建設されました。しかし、同炉はほぼ完成したにもかかわらず、燃料装荷前の1991年に計画が中止となりました[65]。燃料を装荷していないため、同プラントは原子力施設として取り扱う必要がなく、プラントは1995年にオランダの実業家に売却され、現在は原子力発電所の建屋を活かした遊園地・宿泊施設として使用されています[66]
 本項で示した研究炉や、再処理パイロットプラントWAKの例に見られるように、ドイツの研究施設では従来、施設個別の体制下で廃止措置を実施していましたが、現在これらの廃止措置プロジェクトは、大部分が連邦財務省管轄の100%国有企業であるEWNグループのもとに集約されています。EWN社は旧東ドイツのグライフスバルト等の廃止措置を通じた知見・経験を有しています。またグライフスバルトのサイト内にはノルト中間貯蔵施設が設置されており、カールスルーエ工科大学やユーリッヒ研究所など、ドイツ国内の複数箇所に立地する研究所内にある原子力施設等に由来する廃棄物を受け入れて貯蔵しています。このように、ドイツでは国内に分散する研究施設・旧東独施設など、公費による廃止措置プロジェクトを一元的に管理する動きがみられます。なお、公費の使途状況を検査するドイツ連邦会計検査院は、2015年のレポートで、組織一元化による工程マネジメントの効率向上、コスト削減効果を十分に発揮するには、EWNグループ内での廃止措置等に関する品質要件の標準化を進めるなど、さらなる努力が必要であると助言しています[67]


③ フランス
1) 原子力利用の歴史と廃止措置
 フランスでの原子力利用も、核兵器開発を目的として始まりました。軍事利用にとどまらず、科学、産業等様々な分野での原子力利用に関する研究開発を主導するために、1945年に原子力・代替エネルギー庁(CEA31)が設置されています。1950年代以降は、民生発電利用のため黒鉛ガス炉(GCR32)や、高速炉のプロトタイプ、燃料サイクル施設等が建設されていきました[68]。2019年7月現在、フランス国内では58基の原子炉が運転中であり、運転を行っているのは、国が株式の大半を保有しているフランス電力(EDF33)です。フランスの総発電電力量の70%以上は原子力によって賄われていますが、フランス政府は、2015年のエネルギー転換法に基づき、この比率を2035年までに50%に縮減する方針です。このため政府は58基の原子炉のうち、比較的早い段階に運転を開始した90万kW級原子炉を最大で14基閉鎖する方針を掲げています。

2) 廃止措置の基本方針と実施の枠組み
 フランスの規制機関である原子力安全機関(ASN34)は2009年4月に廃止措置戦略に関する文書を公表しました。この中でASNは、フランスの原子力施設の廃止措置方法として、安全貯蔵方式や密閉管理方式ではなく、即時解体方式を採用するよう事業者に勧告しています。その理由としてASNは以下のような点を挙げています。

  • 技術的、財政的に将来の世代に対する負担を先送りするべきではない
  • 廃止措置作業は長期にわたり、多額の資金が必要となること、また現時点で一部の放射性廃棄物を除き、廃棄物の処分方法が確立されている
  • 廃止措置技術は確立されており、廃止措置作業を先送りすれば、当該原子力施設の建築・操業時の状況に関する情報が失われる可能性がある
  • 土木工学的にみて、原子力施設の老朽化が進み、安全な状態を保つための監視上の問題が生じる
  • 放射性核種が減衰する可能性は、あらゆる状況にあてはまるわけではなく、汚染の種類等によって異なるため、廃止措置を先送りする根拠とはならない

 原子力施設の運転を停止した後、可能な限り速やかに廃止措置に着手する方針は、原子力安全に係る基本法令である環境法典でも2015年に明記されることになりました[69]
 フランスでは、廃止措置が実施される原子力施設は、廃止措置が完了し、原子力施設に対する規制が解除されるまでは、原子力安全や放射線防護に係る法令規則の規制対象となり、原子力安全及び放射線防護に係る基本枠組みを定めた環境法典や公衆衛生法典、原子力施設に係る許認可等の手続きについて定めた政令、さらに詳細な規則を定める省令等が適用されることとなります。
 フランスにおける廃止措置は、原子力施設の設置や運転の許認可を取得している主体が実施します。原子力発電所であればEDF、研究施設であればCEAが実施責任を負います。これらの組織は、環境法典に基づき、廃止措置やその後に発生する放射性廃棄物の管理のために将来発生するコストをあらかじめ見積もり、引当金として計上するとともに、その見合いとなる資産も確保することが義務付けられています。また事業者は計上した引当金とその見合資産の状況について、3年に1度の頻度で政府に報告することが義務付けられています。事業者によるコストの見積りが不適切である場合や見合資産の確保が不十分である場合には、是正措置を命じることが可能です[69]


3) 原子力施設の廃止措置状況
 フランスでは、2018年末時点で36の原子力施設が、恒久停止あるいは廃止措置の実施中です。このうち原子力開発の初期段階で運転されていた6基のGCRで、現在、運転者であるEDFによる廃止措置が実施されています。また、フランスは1950年代から再処理も実施していますが、再処理実施の初期段階から操業していたCEAやOrano社(元アレバ社)の再処理プラントも運転停止し、廃止措置フェーズに移行しています。また、原子力開発の初期段階に設置された多数の研究施設は、既に廃止措置が完了したものも20余り存在しますが、現在も複数の研究炉や研究施設が廃止措置中、あるいは恒久運転停止し、廃止措置準備を行っている段階にあります。


4) 廃止措置の流れ
 原子力施設を操業する事業者が、当該施設が運転寿命に達する、あるいは、経済的に運転継続することが困難であると判断すれば、その施設は閉鎖され、廃止措置されることになります。廃止措置を決めた事業者は、政府に対し、恒久停止及び廃止措置申請を行いますが、その際には、当該施設の設置許可申請時に提出した廃止措置計画書を最新化したものを提出します。また、最新化された廃止措置計画書では、廃棄物管理の計画も示さなければなりません。
 恒久停止及び廃止措置が政府から許可された後には、実際の廃止措置作業が始まりますが、廃止措置には準備期間も含めて、数十年規模の時間がかかります。また、その廃止措置期間を通じて発生する様々の放射性廃棄物の管理も必要となります。例えば、以下の図 15は、高速原型炉フェニックスの廃止措置の流れです。


図 15 フェニックスの廃止措置の流れ


 フランスでは、放射能レベルに応じて放射性廃棄物の管理方針が決まっており、それぞれの廃棄物について、所定の処分場に処分されることとなります。なお、後述するように、処分場が決まっておらず、貯蔵施設を設置し、管理・貯蔵していく廃棄物もあります。廃止措置を進める上では、処分、貯蔵いずれの形にせよ、廃棄物管理を合わせて行っていくことが不可欠です。


5) 廃止措置の実施例

イ) ビュジェイ原子力発電所1号機の廃止措置
 EDFは原子力発電所の導入初期に運転を開始したGCRを中心に、廃止措置を進めています。ビュジェイ1号機は1972年に運転を開始したGCRであり、1994年に閉鎖されて以降、非原子力部分の解体、燃料の搬出等が実施されています。今後は原子力部分の解体が進められますが、EDFは米国のFort Saint Vrain原子力発電所での廃止措置の知見やノウハウを活用する方針です[70]
 前述の通り、ASNは原子炉の廃止措置は、即時解体を行うよう求めていますが、EDFはGCRの解体によって発生する黒鉛廃棄物35の処分場が決定していないことや、同じ型の原子炉の廃止措置を効率的に進めるため、ビュジェイ1号機の廃止措置を先行的に進め、その知見やノウハウのフィードバックを得て、その他の炉の廃止措置を進めていくために、長期的かつ段階的に廃止措置を進める戦略を採用することをASNに提案しており、現在ASNはこの戦略についての審査を行っています[71]。 なおEDFは、黒鉛廃棄物の処分場が最終的に決定するまでの間、廃止措置によって発生する廃棄物処理・貯蔵施設(ICEDA36)をビュジェイ原子力発電所のサイト内に建設する計画です。EDFは廃止措置やICEDAの建設に関して、周辺住民に対する情報提供も実施しており、2018年には地域情報委員会(CLI37)メンバーによるサイト訪問を実施しています。訪問の実施については、CLIが定期的に発行し、原子力発電所サイト周辺住民等に配布している情報誌上でも紹介されています[72]


ロ) マルクールサイトの廃止措置[73]
 南仏のマルクールサイトにはCEAの原子力施設が複数設置されています。3基のGCR、ナトリウム冷却高速炉原型炉フェニックスのほか、再処理施設UP1の廃止措置等、複数のプロジェクトが進められています[74]。同じ型の原子炉が複数立地しているEDFの原子力発電所とは異なり、1サイトに複数の種類の施設が立地しているため、一つの施設の廃止措置に関する知見やノウハウをそのまま横展開するのは困難であるという課題があります。このような廃止措置を進めるために、CEAは効率的に廃止措置を進めるための工夫をしています。例えば、図 16に示すような複数の廃止措置プロジェクトに共通する課題に取り組む横断的なチームを設置したマトリクス型組織によって、マルクールサイトも含む複数のプロジェクトをうまくマネジメントしていこうとしています。


図 16 CEAの廃止措置におけるマトリクス組織体制

(出典)CEA、「LES METIERS DU DEMANTELEMENT」(2013年)に基づき作成


 横断機能については、廃止措置作業のうち、可能な部分に関しては共通化を図ること、一つのプロジェクトに関する得られた知見やノウハウを、進行中のその他のプロジェクトに速やかに活用すること、また、リソースを最適化することが期待されています。
 技術開発に関しては、CEAは図 17に示すように、各プロジェクトが機能組織とも協力しながら、プロジェクトのニーズを取り込み、また研究開発成果を現場に標準化して提供する等のシナジーを発揮することを目指しています[75]


図 17 CEAが目指す研究開発におけるシナジー

(出典)CEA「廃止措置の機能」(2013年)に基づき作成


 例えばCEAは、放射線量が非常に高く、作業員がアクセスできない場所において、厚い鋼材でできた機器をレーザーで切断するための遠隔操作ロボットを民間企業とともに開発し、2016年からUP1プラントにおいて、実際にこのロボットを用いた作業を行っています。作業員は切断作業時に、現場の映像ビデオ映像だけでなく、バーチャルリアリティを用いた同じ現場の3D映像も合わせて確認しながら作業を行うことができます。


図 18 レーザー切断遠隔操作ロボットによるUP1での作業状況

(出典)CEAウェブサイト38


 放射線量が高く、作業員が立ち入れない場所での廃止措置作業をいかに安全かつ効率的に進めることができるかが、廃止措置作業全体の工程やコストにも大きな影響を及ぼすことを考えれば、このような技術は他の原子力施設における廃止措置作業でも活用が期待できます。
 このような解体作業以外にも、CEAは廃止措置に伴って発生する廃液等の廃棄物の発生量を低減し、毒性を抑えるための研究開発も行っています。例えば、マルクールサイトでは1978年~2012年まで、ガラス固化施設(AVM39)が操業されていました。AVMでは、マルクールサイトで発生した高レベルの核分裂性物質を含む廃液処理や、UP1プラントの廃止措置で行った洗浄によって発生した廃液のガラス固化を行っていました[76]。CEAのガラス固化技術は、東電福島第一原子力発電所において汚染水から出る廃棄物の処理において活用することも検討されています[77]
 なお、マルクールサイトでの廃止措置に関しては、同サイトに設置されたCLI(地域情報委員会)に対して、事業者や規制機関から定期的な情報提供等のコミュニケーションが実施されています。その結果、高速原型炉フェニックスの廃止措置で発生する液体廃棄物も、基準以下のものをローヌ川に放出することも認められています。安全や環境の面からの情報提供はもちろんですが、地元自治体議会の議員や職業団体等のメンバーで構成されるCLIは、廃止措置に関する関心事項として、地域経済への影響も挙げています。この点に関しては、廃止措置に携わる地元下請け企業の連合組織Cycliumが2012年に設置され、さらにCyclium、CEA、地元商工会議所等が廃止措置産業拠点(PVSI40)を立ち上げています。マルクールサイトに設置されたCLIでは、廃止措置作業部会において、これらの取組も含め、廃止措置による地元経済への影響に関しても議論を行っています[78]。このように、操業期間中だけでなく、停止後も長期にわたって地域経済に影響を与える廃止措置事業に関して、地域住民や地元産業への配慮も重要です。


ハ) 研究施設
 フランス南東部に位置するグルノーブルでは、CEAが1950~1960年代にかけて、3基のプール型研究炉(メリュジーヌ炉、シロエ炉、シロエット炉)、燃料・材料の照射後の挙動の法則性に関する試験を行うラボ(LAMA41)、放射性廃液処理施設(STED42)の5つの原子力施設を建設・操業してきました。これらの施設は1988年以降、順次操業を停止し、2002~2013年にかけて、各原子力施設における廃止措置作業が実施されました。グルノーブルサイトにおける5つの原子力施設について順次また並行的に廃止措置を実施していくプロジェクトについて、CEAは、以下のような点が課題であったとしています[79]

  • 安全とセキュリティの確保を徹底し、作業員や環境への影響を最小限にとどめる
  • 燃料や廃棄物の取扱い、施設内の放射能分布図作成等、多岐にわたる廃止措置に係る知見や技術を統合的にマネジメントする
  • 約3億ユーロにのぼる廃止措置コストとスケジュールをマネジメントする
  • 廃止措置作業に必要な技能を持つ人材確保、グルノーブルサイト内の原子力以外の分野への人材の配置転換、グルノーブルサイトで得られた知見の他のCEAサイトでの活用等、人的リソースをマネジメントする

 CEAにとって初となる大規模な研究施設の廃止措置プロジェクトは、5つの原子力施設の廃止措置がほぼ全て完了し、STEDを除く全ての施設は、原子力施設のリストから削除されています[80]。CEAはグルノーブルサイトでの廃止措置作業から得られた教訓として、上記に挙げた課題以外で、以下のような点を挙げています[81]



  • 廃止措置作業には不確実性があり、予期せぬ事態にも備え、マネジメントできることが必要である
  • 安全面に関しては、ASNとの協力関係が重要である
  • 発生する放射性廃棄物に関しては、放射性廃棄物管理機関(ANDRA43)との協力関係が重要である
  • 従業員、CLI、メディア等、地域における定期的な情報提供が重要である


④ 英国

1) 原子力利用の歴史と廃止措置
 英国での原子力利用も、第二次世界大戦中に核兵器開発を目的として始まりました。英国における軍事、発電利用のための研究開発を実施するために、1954年に英国原子力公社(UKAEA44)が設置されました[82]。核兵器製造用の原子炉や再処理施設だけでなく、1960年代以降は発電用原子炉としてGCR(マグノックス炉45)や、商用の使用済燃料再処理プラントが建設されていきました。1995年には国内唯一の軽水炉であるサイズウェルB原子力発電所が運開し、1998年時点では35基の原子炉が運転されていましたが、その後マグノックス炉は順次閉鎖され、2015年には最後のマグノックス炉であったウィルヴァ1号機が閉鎖されました。現在英国では15基の原子炉が運転中ですが、これらの原子炉も、2020~2030年代には閉鎖される見通しです。


2) 廃止措置の基本方針と実施の枠組み
 英国政府は2004年に策定した廃止措置に関する政策文書で、原子力発電所や燃料サイクル施設、研究施設等の原子力施設の廃止措置に関する政策方針を示しています[83][84]。この文書では、廃止措置の目的は、運転・操業を終了した原子力施設が持つリスクを徐々に低減していくことであるとしています。この文書において英国政府は、廃止措置は、実施者による戦略と計画に示されたあらゆる要素を考慮して、合理的に実行な能な限り早い方法で実施すべきであるとしています。英国政府は、新技術の発展や先行する廃止措置の良好事例を活用することや、放射能の減衰を期待して、一部の廃止措置作業を先送りする場合もあるとしており、規制機関による承認やこれらの要素を考慮して、ケースバイケースで判断されるとしています。軽水炉(PWR)の廃止措置は目前の課題ではありませんが、所有者のEDFエナジーの戦略は即時解体であるとしています。一方、ガス冷却炉であるMagnox炉に関しては、その廃止措置実施機関であるNDAは、軽水炉の場合と異なり、現在、長期の安全貯蔵期間を設ける計画です。
 英国で廃止措置が実施される原子力施設については、運転・操業期間中と同様に、1965年原子力施設法(NIA65)、1974年労働安全衛生法(HSWA74)、原子力施設のサイト許可に関連する原子力規制局(ONR46)の指針等が適用されます。
 実際の廃止措置は、サイトの許認可保有者が実施します。現在国内で運転中の原子炉はEDFエナジーが今後廃止措置を実施していくことになります。一方で、既に閉鎖された原子炉や燃料サイクル施設等に関しては、国立の原子力廃止措置機関(NDA47)がサイトの所有者で、廃止措置事業を行うサイト許可取得者(SLC48)が操業を行い、入札により選定された親会社(PBO49)がNDAとの契約に基づき、SLCの株式を取得して、その経営管理を監督する体制がとられています(図 19)。これは、市場原理に基づき、民間の知見やノウハウを活用してコスト効率的に廃止措置事業を進めることを目指したものです[15]

図 19 NDAの廃止措置事業の運営体制

(出典)第38回原子力委員会定例会議資料1-1 一般社団法人海外電力調査会「NDA(英国原子力廃止措置機関)について」[85]に基づき内閣府作成


 廃止措置に係る費用については、現在EDFエナジーが運転中の原子炉については、EDFエナジーの前に国有企業がこれらの原子炉を保有していた期間に政府によって積み立てられた基金によって主に賄われることになっています[86]。また、NDAが廃止措置を行っているサイトについては、英国政府が負担することになります[87]


3) 原子力施設の廃止措置状況
 英国では、1960年代以降に30基近くのマグノックス炉が建設され、その後1995年には国内唯一の軽水炉であるサイズウェルB原子力発電所が運開しましたが、これらのマグノックス炉の大半は現在までに閉鎖されました。これらの原子炉含め、英国では、イングランド、ウェールズ、スコットランドの各地方において17カ所の原子力サイトの廃止措置をNDAが実施しています。これらのサイトには、発電炉だけでなく、研究炉や再処理プラントも含まれています。最近では、イングランド北部のセラフィールドサイトで操業されていた酸化物燃料再処理プラント(THORP)が2018年11月に閉鎖され、今後は廃止措置が進められることになります。この他にもセラフィールドサイトでは、軍事用プルトニウムを製造していたウィンズケール1号機等、様々な原子力施設の廃止措置が進められています。


4) 廃止措置の流れ
 英国では1965年原子力施設法(NIA65)に基づき、原子力施設の運転・操業を行う事業者は、ONRから原子力サイト許可(NSL50)を取得しなければなりません。NSLは建設・試運転・運転・廃止措置までを対象として特定のサイトに対して発給されます。また、ONRは各操業段階における安全確保のためのサイト許可条件(LC51)を付し、事業者は、施設の操業段階を通じて、LCの内容を満たすための取組を行い、ONRの承認を得ます。LCは合計36ありますが、このうち廃止措置に関する要件は、LC35に示されています。事業者はこの要件を満たすため、安全な廃止措置の実施戦略・プログラムを策定し、実際の廃止措置の実施状況等により必要に応じてこれをアップデートしてONRに提出し、承認を得る必要があります。
 前述の通りNDAは、17カ所の原子力サイトの廃止措置を進めていますが、そのスケジュールと、各作業に必要な人的・財的リソースの集中度について、以下の図 20のように示しています。


図 20 NDAの原子力施設の廃止措置実施計画と各作業に必要な 人的・財的リソースの集中度

(出典)NDA「NDA Strategy」(2016年)[15]


 この計画にも示されているように、廃止措置期間を通じて、放射性廃棄物や放射性物資の管理が必要になることが分かります。英国では、低レベル放射性廃棄物の処分場が国内に2カ所ありますが、多数の原子力施設の廃止措置に伴って発生する廃棄物を処分あるいは中間貯蔵しておくための施設を新たに設置する方針です。NDAが2018年7月に策定した放射性廃棄物の管理戦略においては、処分場への処分が可能になるまでの間の中間貯蔵施設の必要性を指摘しており、廃止措置を構成する重要な要素であると指摘しています[88]。 なお、クリーンアップが完了したサイトは、原子力サイトの指定から除外する、あるいは再利用することが可能ですが、NDAは再利用を推進する方針であり、低レベル放射性廃棄物処分場としての再利用も検討されています[89]


5) 廃止措置の実施例

イ) ブラッドウェル原子力発電所の廃止措置
 ブラッドウェル原子力発電所では2基のマグノックス炉の廃止措置が進められていましたが、同発電所の廃止措置作業を進めるNDA傘下のSLCであるマグノックス社は2018年11月、両機の原子炉建屋から、燃料が全て搬出され、建屋は悪天候対策のためのコーティングを施され、安全貯蔵状態に移行したことを発表しました。マグノックス社は廃止措置で発生した中レベル放射性廃棄物はサイト内で安全に貯蔵されているとしています。ブラッドウェル発電所は、英国内のマグノックス炉としては初めて安全貯蔵の状態に移行した炉であり、今後廃止措置が進められる同じ型の炉の廃止措置に、そのノウハウを活用することが期待できます。マグノックス社は、例えば、中レベル放射性廃棄物の取り出し、処理、貯蔵用容器への封入等のために開発された機器や技術は、その他のマグノックス炉の廃止措置でも活用可能であるとしています[90]
 なおマグノックス社は、2008年と2011年に、ブラッドウェル発電所における廃止措置の実施状況について、IAEAのレビューを受けました。2011年のフォローアップレビューの結果、2008年時点のレビューと比べて、IAEAは以下のような点を高く評価しています[91]

  • NDAからの資金が潤沢に供与されたことで、十分な作業員を確保して、安全貯蔵に向けた作業が迅速に進み、結果として総コスト削減につながった
  • 同じマグノックス炉の廃止措置が進むトロニーフィニッド原子力発電所の廃止措置と合わせて、マグノックス社全社大でよく協業したアプローチをとっていることも、その他のマグノックス炉の廃止措置に展開できるモデルとなる

 このような改善も奏功し、ブラッドウェル原子力発電所の廃止措置はその後も順調に進捗し、2018年11月末に、安全貯蔵状態に移行しました。上記のIAEAの指摘にあるように、リソースの有効活用、ノウハウの共有や横展開は、特に同じ技術を採用した複数の原子力炉の廃止措置を効率的に行っていく上では、重要です。


ロ) セラフィールド原子力サイトの廃止措置
 英国ではイングランド北部のセラフィールドサイトにおいて、軍事用プルトニウム製造用の原子炉、発電炉、使用済燃料の再処理施設等、複数の原子力施設が建設、操業されてきました。現在、これらの施設の廃止措置が進められていますが、施設そのものだけなく、一部の軍事用途の原子炉で火災事故が発生する等、運転状況等による状態が非常に多様であり、サイトの廃止措置は非常な複雑なものとなっており、NDAは同サイトの完全なクリーンアップが完成するまでには、100年を要し、総コストは910億ポンドにのぼると試算しています [92]。NDAが管理する全サイト・施設の廃止措置コストは以下の図 21の通りですが、その大半がセラフィールドサイトに関するものとなっていることが分かります。


図 21 長期的なNDAの廃止措置関連コスト見通し

(出典)英国会計検査院報告書「The Nuclear Decommissioning Authority: progress with reducing risk at Sellafield」(2018年)[93]


 当初NDAは、サイトの廃止措置作業を進めるにあたり、前述のSLC-PBOモデルを採用し、セラフィールド社とSLC契約を結び、同社の親会社として、2008年から原子力管理パートナーズ(NMP)*52社をPBOに選定していました。しかし2015年にNDAは、セラフィールドサイトのような大規模かつ複雑な原子力サイト全体の操業管理をPBOという形で民間企業に任せるのには限界があると判断し、セラフィールド社をNDAが直接子会社としてマネジメントしていく体制に変更しました [94]
 しかし、NDAが直接セラフィールド社をマネジメントする体制での廃止措置作業も、順調に進捗しているとは言えない状況です。2018年10月に英国議会が公表したセラフィールドサイトにおける廃止措置作業に関する報告書においては、14の主要なプロジェクトに関して、スケジュール遅延とコスト上振れに改善があったと評価する一方で、サイト全体で見れば、その他の多数のプロジェクトで大幅な遅延が発生し、コストの上振れが約9.1億ポンドにのぼっていることが指摘されています。さらに同報告書では、NDAがこれら遅延の発生しているプロジェクトでなぜ問題が発生しているのかについてレビューを行っておらず、迅速に作業を進められない制約について分析も行っていない点を批判しています。さらに、BEISがセラフィールドサイトに貯蔵されているプルトニウムの長期的な管理方針をいまだに決定していない点も批判しています。その上で同報告書では、以下のような勧告が示されています[92]

  • NDAは一部プロジェクトの作業進捗の改善がなぜ可能となったのか、十分に説明できていない。また2015年にはNDAの廃止措置事業のパフォーマンスに関する報告を行うとしているが、いまだその報告作業は完了していない。この状況に対してBEISも報告を促す等の対応を行っていない。このためNDAは議会に対し、パフォーマンス報告に関する計画を提示するとともに、BEISがNDAのパフォーマンスを3年ごとに評価することを勧告する。
  • DAは作業遅延の発生理由について、作業が複雑であること、廃止措置を行う施設がサイト内で集中的に立地していること、及び作業員の生産性という3つの制約を挙げている。しかしNDAもセラフィールド社も、これらの制約が、具体的にどのように作業の遅延を引き起こしているのか分析を行っていない。このため、NDAがセラフィールド社と協力し、3つの制約が作業進捗に及ぼす影響を分析の上、それを踏まえて、今後どのようにNDAの戦略を見直していくのか等について説明することを勧告する。
  • NDAは2012年以降、3件の契約について、合計で約6億ポンドを支出した後に、これらの契約をキャンセルしている。NDAはよりコスト効率的なアプローチがあるために、既存契約をキャンセルしたとしているが、実際にどの程度のコスト削減が可能なのかについては説明を行っていない。このため、NDAが新たなアプローチによって、納税者の負担がどれほど削減されるのかについて説明することを勧告する。

 以上のように、多様な施設が複数立地する複雑で大規模なサイトの廃止措置について、事前に精緻な計画を立て、コストを見積もり、その計画通りに実行することは極めて困難であることが伺えます。特にNDAのような公的組織が事業を行う場合、政府等の監督機関が事業の実施状況をフォローし、パフォーマンスを評価し、仮に計画遅延やコスト増が発生した場合は、その原因を分析し、改善につなげることでマネジメントを行っていくことが重要であると言えます。
 セラフィールドサイトでは、様々な原子力施設の廃止措置が並行して実施されています。直近では2019年2月に、軍事用プルトニウムを製造していたウィンズケール1号機の排気塔の解体作業が開始されました(図 22)。同機では1957年に英国で最悪とも言われる火災事故が発生し、放射性物質が環境中に放出されました。火災により放出された放射性物質によって汚染された排気塔は、クレーンを設置し、ダイアモンドソーによって上部から切断していく計画です[95]


図 22 ウィンズケール1号機の排気塔の解体作業

(出典)NDAウェブサイト「Demolition starts on Windscale chimney」


ハ) 研究施設
 NDAが廃止措置を行っている施設の中には、原子炉技術開発のために建設された研究炉も含まれます。イングランド南部ウィンフリスでは、重水減速沸騰軽水冷却炉(SGHWR53)の廃止措置が、NDAと事業契約を結んだSLCであるマグノックス社54によって実施されています。SGHWRは1968年に運転を開始し、1990年に運転停止されるまで、SGHWR技術開発のためのプロトタイプとして活用されただけでなく、発電炉としても機能しました。1990年に閉鎖された、燃料の取り出しと、セラフィールドサイトへの輸送が開始されました。2005年からは、大規模機器の撤去作業が進められています。マグノックス社は、SGHWRの廃止措置に関する重要な作業として、4つの放射性のスラッジ保管タンク(EAST55) に保管されたスラッジの移動と封入作業を挙げています。このため、廃棄物封入処理プラント(WETP56)がウィンフリスサイト内に設置されました。2005~2011年まで、スラッジの移動・封入作業が実施され、スラッジが封入されたドラムは、サイト内の貯蔵施設に移送されています。その後、WETPは除染・解体作業が進められています[96]
 ウィンフリスでは、SGHWR以外にも高温ガス炉技術を採用した研究炉であるDragon炉の廃止措置も進められています。2018年5月には、Dragon炉の炉心を冷却したヘリウムガスの排気管の切断作業が実施されました。切断作業は、セラフィールドサイトでの廃止措置でも活用されたレーザー切断機付きのヘビ型アームロボットが応用され、放射能レベルが高く、非常に狭い場所での切断作業が可能となりました(図 23)。同ロボットは、NDAからの補助金を受けて、OCロボティクス社と英国溶接研究所(TWI)が開発したものです。NDAはDragon炉での廃止措置で、このロボット技術を活用していく方針です[97]


図 23 Dragon炉で活用されたレーザー切断機付きヘビ型アームロボット

(出典)NDAウェブサイト「Snake slithers through to tackle Dragon」


 NDAはDragon炉の廃止措置は2022年に、SGHWRの廃止措置は2023年に完了させる計画であり、2023年には、暫定的なエンド・ステート状態に移行させる計画です[98]


(2) 諸外国の事例から見た廃止措置に関する教訓

 廃止措置で先行する諸外国の例からは、我が国で今後本格化する見通しの廃止措置を進めていく上で参考となる事例や教訓があります。各国の事例から共通している参考事例は次の通りです。


① コスト
 廃止措置作業をコスト効率的に進め、国民や電力需要家の負担を最小限にとどめるためには、廃止措置作業に携わる事業者に、コスト効率を追求するインセンティブを与えることも一案です。米国では、バーモントヤンキー原子力発電所の事例で紹介したように、廃止措置専業事業者が電気事業者から廃止措置のための資金も含めて発電所を買い取り、廃止措置を行う事例が出てきています。この場合、廃止措置作業を効率的に進めれば、廃止措置専業事業者は利益を得られる可能性があり、これは事業者が効率的な廃止措置を実施する上で非常に分かりやすい指標となります。ただし、経済的効率性を追求するだけでなく、安全性を担保することは大前提です。
 このような経済的効率性の追求は、NDAのセラフィールドサイトのように、非常に大規模で複雑な施設の廃止措置に関しては限界がある部分もあります。当初は民間企業にマネジメントが委ねられた同サイトの廃止措置は、前述の通り、NDAが直接、廃止措置作業を実施する事業者を管理する体制に変更されています。さらに、その体制でも、コストの上振れはNDAや英国政府にとっての課題となっています。


② 予算確保
 上述の通り、経済的効率性を十分に追及しつつも、廃止措置作業が円滑に実施されるためには、長期にわたって発生するコストを賄うための十分な予算措置を講じることが重要です。この点に関して、米国では、発電炉の場合はNRCの規則に従った廃止措置資金の確保が運転のための条件とされています。また、DOEが担当している核兵器開発施設の跡地などのクリーンアップに必要なコストは、毎年の歳出法で国費から確保されており、費用見積りも適宜更新されています。ドイツでも、原子力施設は施設所有者が資金を確保して廃止措置を実施しています。発電炉については電気事業者が各自引当金として廃止措置費用を確保しています。旧東ドイツの原子炉については、連邦財務省の予算で費用が確保されています。また、ドイツでは研究施設が連邦と立地州双方からの公費で運営されており、これら研究施設に設置された研究炉等の廃止措置についても、連邦と州が負担しています。フランスでは、引当金とその見合資産の計上によって、長期にわたる資金確保を行っていく方針であり、例えばCEAは、民生用研究施設の廃止措置等のために、2017年末時点で約74億ユーロの引当金と、これに対応する見合資産を計上しています[99]。また英国でも、NDAはセラフィールドも含めた原子力サイトのクリーンアップ作業に、2120年までに1,210億ポンドが必要になると試算しており、これは英国政府予算によって賄われます[87]


③ 廃止措置作業工程の設計
 廃止措置事業を安全かつ円滑に進めていくためには、まず全体的な工程マネジメントが重要です。例えばドイツの研究施設の廃止措置のように、効率施設の複数サイトを一元化して廃止措置を進める取組、あるいは、フランスCEAのように、横断機能を設けて、複数のプロジェクトを個別に進めるだけではなく、ノウハウの横展開、経験のフィードバックを促進することで、廃止措置事業が効率的に実施できる可能性があります。米国のノーススター社のように、廃止措置専業事業者が廃止措置のノウハウを蓄積していくことも、一元管理やノウハウの共有が廃止措置における工程設計マネジメントおいて有効であることを示していると言えます。
 一方で、NDAによるセラフィールドサイトの廃止措置が難航しているように、特に複雑で多様な廃止措置プロジェクトは、一度策定した計画や戦略通りに進捗しない可能性もあります。この点に関しては、NDAに対して英国議会は、定期的なレビューを実施し、適宜計画や戦略を見直していくことを勧告しています。


④ 発生する放射性廃棄物
 各国の例からも、廃止措置によって発生する廃棄物をどのようにマネジメントしていくかも重要であることが分かります。その観点では、ドイツではクリアランス制度を整備し、放射性廃棄物の発生量を可能な限り抑制する取組を行っています。また、ドイツのグライフスバルトにおける研究所や旧東独プラント等公費による解体を行う施設由来の廃棄物を集中的に管理する中間貯蔵施設や、フランスのビュジェイ発電所における黒鉛廃棄物を貯蔵するICEDAのような施設を設置することで、放射性廃棄物の処理・処分と廃止措置を一体的に管理する体制を整えています。また、米国・ハンフォードサイトの事例にあるように、廃止措置が実施されているサイト内に放射性廃棄物の処分場が設置される場合もあります。


⑤ 技術
 技術マネジメントに関しては、現場のニーズに即した技術開発を行っていくこと、また、開発した技術を、適宜その他のサイトの廃止措置作業に展開していく例もみられます。例えば仏CEAが機能横断的なマトリクス組織を活用し、各プロジェクトのニーズを踏まえた技術開発を行い、これをその他のプロジェクトに展開していくことでシナジーを生もうとしていることはその好例です。ドイツでも、建屋内で水中切断・解体する工法が、複数の炉で横展開されることが計画されているように、特に、設計等の共通部分がある原子炉等の廃止措置では、このような技術の横展開により、効率的な廃止措置作業を実施できることが期待できます。また英国でも、セラフィールドサイトで開発されたレーザー切断技術がウィンフリスサイトで応用される等、作業場所が狭く、放射能レベルが高いために人間がアクセスできない場所で活用できる技術を横展開していく例もみられます。


⑥ 関係者、特に廃止措置実施サイト周辺住民からの信頼
 廃止措置を進めていくのにあたっては、サイト周辺住民との信頼関係を構築する重要性は、ここで紹介した各国で共通しています。フランスのビュジェイ発電所やCEAのマルクールサイトのように、地元のステークホルダーが参加して協議を行うCLIを活用し、CLIの廃止措置の関心事項を踏まえて、地域住民等ステークホルダーとの双方向のコミュニケーションを継続しています。




  1. International Atomic Energy Agency
  2. Japan Power Demonstration Reactor
  3. 軽水炉:我が国の実用原子力発電所は、廃止措置中の東海発電所を除くと、普通の水(軽水)で炉心を冷却するタイプの原子炉です。
  4. https://www.jaea.go.jp/04/ntokai/decommissioning/index.html
  5. OECD/NEA,“Decommissioning of Nuclear Facilities”,2009
  6. https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/hairo.html
  7. https://www.jaea.go.jp/04/ntokai/decommissioning/02/decommissioning_01_01.html
  8. 例えば、OECD/NEA, “Radiological Characterisation from a Waste and Materials End-State Perspective Practices and Experience”,2017, OECD/NEA, “Preparing for Decommissioning During Operation and After Final Shutdown”,2018
  9. Atomic Energy Commission
  10. Nuclear Regulatory Commission
  11. Energy Research and Development Administration
  12. Department of Energy
  13. Office of Environmental Management
  14. 原子炉施設の周辺機器、一次冷却系施設等を撤去後、放射能レベルの高い部分である原子炉容器等を密閉処置し、放射性物質の漏洩を防止し、さらに炉心体等に遮蔽隔離等の工事を行い、放射能が減衰するまで管理を継続する廃止措置オプションです。
  15. 原子力施設の操業停止後、即時解体し、最終的には原子力法の規制から解放する廃止措置プションです。
  16. 原子力施設の操業停止後、施設を安全な状態で管理して放射能の減衰を待った後、解体撤去又は除染して最終的には原子力法の規制を解除する廃止措置オプションです。 放射能汚染のない建屋も含めたコンベンショナルな解体撤去については、サイト開放後に実施するケースもあります。
  17. 「無制限の利用」が可能な状態とは、サイトに残されたあらゆるものや土地の放射線量が、NRCが定める制限値である年間25ミリレムを下回り、そのためそれ以上NRCの規制による管理が必要でなくなる状態をいいます。
  18. Idaho National Laboratory
  19. Post-Shutdown Decommissioning Activities Report
  20. Independent Spent Fuel Storage Installation
  21. transuranic
  22. Waste Isolation Pilot Plant
  23. Environmental Protection Agency
  24. Plutonium Uranium Extraction Plant
  25. Energiewerke Nord
  26. ドイツにおける研究炉、研究用原子力施設等を有する研究施設、高等教育機関(大学等)は全て、連邦政府と立地州政府の資金で運営される公立機関です。廃止措置においても研究所等への出資比率に応じて連邦と州が資金を負担します。
  27. Wiederaufarbeitungsanlage Karlsruhe
  28. Kerntechnische Entsorgung Karlsruhe
  29. Arbeitsgemeinschaft Versuchsreaktor
  30. Kompakte Natriumgekuhlte Kernreaktoranlage
  31. Commissariat a l'energie atomique et aux energies alternative
  32. Gas Cooled Reactor
  33. Electricite de France
  34. Autorite de surete nucleaire
  35. 黒鉛廃棄物には、半減期が長い塩素36(約30万年)と炭素14(約5,700年)が含まれており、浅地中処分場での処分が検討されています。
  36. Installation de Conditionnement et d’Entreposage de Dechets Actives
  37. Commission Locale d'Information
  38. http://www.cea.fr/presse/Pages/actualites-communiques/energies/maestro-robot-demantelement-nucleaire.aspx
  39. Atelier de vitrification de Marcoule
  40. Pole de valorisation des sites industriels
  41. Laboratoire d'analyses de materiaux actifs
  42. Station de Traitement des Effluents et des Dechets radioactifs
  43. Agence nationale pour la gestion des dechets radioactifs
  44. UK Atomic Energy Authority
  45. 核燃料の被覆材にマグノックスを用いたガス冷却炉を指します。日本原子力発電の東海炉1号炉もマグノックス炉です。
  46. Office for Nuclear Regulation
  47. Nuclear Decommissioning Authority
  48. Site Licence Companies
  49. Parent Body Organisation
  50. Nuclear Site Licence
  51. Licence Conditions
  52. NMP社は仏アレバ社(当時)、英AMEC社、2014年10月に米URSを買収した米AECOMテクノロジーのコンソーシアムでした。
  53. Steam Generating Heavy Water Reactor
  54. マグノックス社は現在、PBOであるキャベンディッシュ・フルアー・パートナーシップ(CFP)に所有されていますが、NDAはCFPとのPBO契約を2019年8月末で解約し、マグノックス社をNDAの子会社とする予定です。
  55. External Active Sludge Tanks
  56. Waste Encapsulation Treatment Plant


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