原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成30年度版 原子力白書」HTML版 > 1-6 ゼロリスクはないとの認識の下での安全性向上への不断の努力

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1-6 原子力災害対策に関する取組

 2011年3月に発生した東電福島第一原発事故の教訓を活かし、このような事故の再発防止のための努力と、更なる安全性の向上を追求することが必要です。一方、原子力災害が万一発生した場合には、原子力施設周辺住民や環境等に対する放射線影響を最小限に留めるとともに、被害に対し応急対策を的確かつ迅速に実施することが不可欠です。
 事故の教訓を踏まえて、原子力災害対策に関する枠組み及び原子力防災体制が見直されました。これに基づき、防災計画の策定や訓練をはじめとして、平時から、適切な緊急時対応のための準備が図られています。


(1) 原子力災害対策の充実に向けた取組

① 原子力災害対策に関する枠組み
 東電福島第一原発事故後、各事故調査報告書の提言等を基に、我が国の原子力災害対策に関する枠組みが抜本的に見直され、「原子力災害対策特別措置法」(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)及び関連法令が改正され、関連の指針・計画や体制等が整備されました(図 1-23)。

図 1-23 平時と緊急時の原子力防災体制

(出典)内閣府「平成30年版 防災白書」(2018年) [97]

 現行の原子力災害対策では、原子力規制委員会が事故の教訓やIAEAの国際基準を踏まえて策定した「原子力災害対策指針」に基づき、原子力災害対策重点区域57等が設定され、緊急時にはあらかじめ定められた基準にそって避難や屋内退避をはじめとした防護措置が実施されます [98]
 同指針は、新たに得られた知見や防災訓練の結果等を踏まえ継続的な改定が進められています。2018年7月には、原子力災害対策の目標に係る記述を国際的な考え方と整合を図る等により全部改正される [99]など、同年内で計4回改正されています。
 また、世界保健機関(WHO58)が2017年に緊急防護措置としての安定ヨウ素剤の服用等に関する国際的なガイドラインを改正したことを踏まえ、2018年12月に「安定ヨウ素剤の服用等に関する検討チーム」を設置し、安定ヨウ素剤の効能又は効果、適切な服用のタイミング、服用を優先すべき対象者への配慮、副作用等について、医学的見地等に基づき検討を行いました。今後、同検討結果に基づき原子力災害対策指針等を改正する予定です [100] [101]

② 地域の原子力防災の充実に向けた取組
 防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づき、原子力災害対策重点区域を設定する都道府県及び市町村は、情報提供や防護措置の準備を含めた必要な対応策を地域防災計画(原子力災害対策編)にあらかじめ定めておく必要があります。
 このため、2013年9月の原子力防災会議決定 [102]に基づき設置された地域原子力防災協議会及びその下の作業部会において、国と関係地方公共団体が一体となって地域防災計画・避難計画の具体化・充実化に取り組んでいます(図 1-24) [103]
 地域防災計画・避難計画の具体化・充実化が図られた地域については、避難計画を含む緊急時対応を取りまとめ、協議会において、それが原子力災害対策指針等に照らし、具体的かつ合理的なものであることを確認しています。また、内閣府は原子力防災会議の了承を求めるため、協議会における確認結果を原子力防災会議に報告することとしています。2019年3月までに、川内地域、伊方地域、高浜地域、泊地域、玄海地域及び大飯地域の計6地域の緊急時対応について、原子力防災会議でそれらの確認結果が了承されています [104]。緊急時対応の確認を行った地域については、PDCAサイクルに59基づき、原子力防災対策の更なる充実、強化を図っています。2019年3月までに、伊方地域では2回、高浜地域、泊地域、川内地域及び玄海地域ではそれぞれ1回緊急時対応が改定されています [105] [106] [107] [108] [109] [110]

図 1-24 地域防災計画・避難計画の策定と支援体制

(出典)内閣府「地域防災計画・避難計画の策定と支援」60

③ 原子力総合防災訓練の実施
 原子力総合防災訓練は、原子力災害発生時の対応体制を検証することを目的として、原災法に基づき、原子力緊急事態を想定して、国、地方公共団体、原子力事業者等が合同で実施する訓練です。
 平成30年度は、8月25~26日の2日間にわたり、関西電力(株)大飯発電所及び高浜発電所を対象とし、国、地方公共団体、原子力事業者、住民等、多様な主体の参加の下実施されました。同訓練は、「大飯地域の緊急時対応」及び「高浜地域の緊急時対応」に基づく避難計画の実効性を更に向上させることを狙いとして、自然災害及び原子力災害の複合災害を想定し、これらの事態の進展に応じた住民避難等に係る意思決定や実動の訓練を実施しました [111]

④ 環境放射線モニタリングに関する取組
 「大気汚染防止法」(昭和43年法律第97号)及び「水質汚濁防止法」(昭和45年法律第138号)に基づき、環境省において放射性物質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視し、「放射性物質の常時監視61」にて公開しています。また、環境放射能水準調査等の各種調査が関係省庁、独立行政法人、地方公共団体等の関係機関によって実施されており、それらにより得られた結果は、原子力規制委員会の「放射線モニタリング情報62」のポータルサイトや「日本の環境放射能と放射線63」のウェブサイト等に公開されています。 原子力事故が発生した場合等、緊急時には原子力災害対策指針に基づき地方公共団体や原子力事業者等の関係機関が連携して緊急時モニタリングを実施します。

1)原子力施設周辺等の環境モニタリング
 原子力規制委員会は、原子力施設の周辺地域等における放射線の影響や全国の放射能水準を調査するため、全国47都道府県における環境放射能水準調査、原子力発電所等周辺海域(全16海域)における海水等の放射能分析、原子力発電施設等の立地・隣接道府県(24道府県)が実施する放射能調査及び環境放射能水準調査として各都道府県が設置し実施しているモニタリングポストの空間線量率の測定結果を取りまとめ、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報のポータルサイトで公表しています。
 また、環境省は、2001年1月より、環境放射線等モニタリング調査として、離島等において、放射性物質等の連続自動モニタリング(全10か所)及び測定所周辺の大気浮遊じん、土壌、陸水等の各種分析を実施しています。これらの調査で得られたデータは、環境省のウェブサイト(環境放射線等モニタリングデータ公開システム64)で公開されています。

2)原子力艦の寄港に伴う放射能調査
 米国原子力艦の寄港に伴う放射能調査は、海上保安庁、水産庁、関係地方公共団体等の協力を得て、原子力規制委員会が実施しています。
 2018年4月から2019年3月末までに実施された調査結果では、放射能による周辺環境への影響はありませんでした [112]

3)緊急時の放射線モニタリングの充実
 原子力災害対策指針では、緊急時モニタリング等の実測値に基づいて、緊急時における避難、一時移転その他の防護措置の実施を判断する基準(運用上の介入レベル)を導入しています。また、国の指揮の下で、地方公共団体、原子力事業者その他の関係機関が連携して緊急時モニタリングを実施することとしています [98]。このほか、原子力規制庁は、原子力災害対策指針を補足し、緊急時モニタリングの目的、体制、内容等を示す資料として「緊急時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」(2014年作成、2017年3月最終改訂)を作成・公表する [113]等、緊急時モニタリングの体制の整備及び充実・強化を図っています。

4)国外における原子力関係事象の発生に伴うモニタリングの強化
 「国外における原子力関係事象発生時の対応要領」(2005年放射能対策連絡会議)では、国外で発生する原子力関係事象についてモニタリングの強化等の必要な対応を図ることとしています [114]。原子力規制庁は、国外において原子力関係事象が発生した場合に空間放射線量率の状況をきめ細かく把握できるよう、モニタリングポストの整備等を行っています [115]

5)モニタリング技術の改良
 緊急時及び平常時のモニタリングを適切に実施するためには、継続的にモニタリングの技術基盤の整備、実施方法の見直し、技能の維持を図ることが重要です。このため、原子力規制委員会は、環境放射線モニタリング技術検討チームを設置して、モニタリングに係る技術検討を進めています。環境放射線モニタリング技術検討チームにおける検討等を踏まえ、原子力規制庁は、2018年4月に、「平常時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」を策定し [116]、2019年3月に「放射能測定法シリーズNo.24緊急時におけるγ線スペクトロメトリーのための試料前処理法」を改訂しました。

(2)原子力事業者等の緊急時対応の強化
 原災法第3条には、原子力災害の拡大の防止及び復旧に対する原子力事業者等の責務が明記されています。さらに、原子力災害対策指針では、「原子力事業者等が、災害の原因である事故等の収束に一義的な責任を有すること及び原子力災害対策について大きな責務を有していることを認識する必要がある」と規定されています。 [98] 原子力事業者等は、原災法の規定に基づき、原子力事業者防災業務計画を作成し、原子力規制委員会に提出しており、同業務計画は原子力規制委員会のウェブサイト65上で公表されています。また、原子力事業者等は、原災法に基づき防災訓練を実施し、その結果を原子力規制委員会へ報告しています。原子力規制委員会は、「原子力事業者防災訓練報告会」を開催し、各事業者が実施した訓練の評価結果の説明や良好事例の紹介を行う等、防災訓練の改善を図る取組をしています。また、原子力規制庁は、原子力事業者防災訓練報告会の下に「訓練シナリオ開発ワーキンググループ」を設置し、発電所の緊急時対策所や中央制御室の指揮者の判断能力向上のための訓練及び現場の対応力向上のための訓練に係る検討をしています [117]。 原子力事業者等は、原子力発電所における事故を収束させるために必要な設備等を発電所敷地内に配備するとともに、自治体との協働等を通じた敷地外からの支援を行うための組織・体制も構築しています(図 1-25)。

図 1-25 原子力事業者等による防災対策の強化

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第23回会合資料第1号 資源エネルギー庁「2030年エネルギーミックス実現のための対策~原子力・火力・化石燃料・熱~」(2017年) [118]

(3) 原子力損害賠償制度に関する状況
 原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め、被害者の保護と原子力事業の健全な発達に資することを目的として、1961年に原賠法が制定されました。同法の制定以降、原子力損害賠償制度は必要な見直しが行われてきました。 東電福島原発事故後66、「原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議」(2014年6月内閣総理大臣決裁)における議論を受けて、我が国は2015年1月に、「原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC67)」に署名し、CSCは同年4月に発効しました。 また、2015年1月に開催された同会議にて、今後万が一原子力事故が発生した際の原子力損害賠償の在り方の専門的な検討については、原子力委員会に要請することとしました [119]。これを受け、原子力委員会は、2015年5月に「原子力損害賠償制度専門部会」を設置しました。同部会は、今後発生し得る原子力事故に適切に備えるための原子力損害賠償制度の在り方について、専門的かつ総合的な観点から検討を行い、2018年10月30日に「原子力損害賠償制度の見直しについて」を取りまとめました。同書では、東電福島原発事故の経験を踏まえ、電力システム改革、原発依存度の低減という原子力事業を取り巻く環境の変化を受け、原子力損害賠償制度見直しに当たっての基本的な考え方や、原子力損害賠償制度における官民の適切な役割分担等、国の措置について、検討結果をまとめています[120]。原子力損害賠償制度専門部会における検討を踏まえ、万が一、原子力事故が発生した場合における原子力損害の被害者の保護に万全を期するため、東電福島原発事故における対応のうち、一般的に実施することが妥当なもの等について所要の措置を講じる「原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律案」が2018年12月5日に成立し、同月12日に公布されました [121] [122]


  1. 住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うために、重点的に原子力災害に特有な対策が講じられる区域のこと。
  2. World Health Organization
  3. 緊急時対応の具体化・充実化の支援及び確認(Plan)、協議会において確認した緊急時対応に基づく訓練の実施(Do)、訓練結果からの教訓事項の抽出(Check)、その教訓事項を踏まえた緊急時対応の改善(Action)。
  4. http://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/pdf/02_sakuteitaisei.pdf
  5. http://www.env.go.jp/air/rmcm/index.html
  6. http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
  7. http://www.kankyo-hoshano.go.jp/
  8. http://housyasen.taiki.go.jp/
  9. https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/measure/emergency_action_plan/index.html
  10. 東電福島第一、第二原発事故における原子力損害賠償の取組は、第1章1-1「福島の着実な復興・再生の推進と教訓の活用」に記載しています。
  11. Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage



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