原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成30年度版 原子力白書」HTML版 > 1-1 福島の着実な復興・再生の推進と教訓の活用
第1章 福島の着実な復興・再生と教訓を真摯に受け止めた不断の安全性向上
1-1 福島の着実な復興・再生の推進と教訓の活用
東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)の事故は、福島県民をはじめ多くの国民に多大な被害を及ぼし、これにより、我が国のみならず国際的にも、原子力への不信や不安が著しく高まり、原子力政策に大きな変動をもたらしました。放射線リスクへの懸念等を含むこうした不信・不安に対して真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を一層進めていくとともに、事故の発生を防止できなかったことを反省し、国内外の諸機関が取りまとめた事故の調査報告書の指摘等を含めて、得られた教訓を活かしていくことが重要です。
また、事故から8年が経過した現在も、多数の住民の方々が避難を余儀なくされ、一部食品の出荷制限が継続する等、事故の影響が続いています。福島の復興・再生に向けて全力で取り組み続けることは重要であり、引き続き以下のような取組が進められています。
- 東電福島第一原発の廃炉と事故状況の究明
- 放射性物質に汚染された廃棄物の処理施設、中間貯蔵施設の整備と、廃棄物や除去土壌等の輸送、処理、処分
- 避難指示の解除と、避難住民の方々の早期帰還に向けた安全・安心対策、事業・生業の再建や風評被害対策といった生活再建に向けた支援への取組
- 福島イノベーション・コースト構想をはじめとした、復興・再生に向けた取組
(1)東電福島第一原発事故の調査・検証
① 東電福島第一原発事故に関する調査報告書
事故後、国内外の諸機関が事故の調査・検証を行い、多くの提言等を取りまとめ、事故調査報告書として公表してきました(表1-1) [1] [2] [3][4] [5][6] [7] [8] 。
報告書名 | 発行元 | 発行年月 |
---|---|---|
東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書 |
東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 |
2012年7月 |
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告 |
東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会 |
2012年7月 |
福島原子力事故調査報告書 |
東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社) |
2012年6月 |
福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書 |
福島原発事故独立検証委員会 |
2012年2月 |
福島第一原子力発電所事故 |
一般社団法人日本原子力学会 |
2014年3月 |
The Fukushima Daiichi Accident |
国際原子力機関(IAEA1) |
2015年8月 |
The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: OECD/NEA Nuclear Safety Response and Lessons Learnt |
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA2) |
2013年9月 |
Five Years after the Fukushima Daiichi Accident: Nuclear Safety |
経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA) |
2016年2月 |
国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」という。)の報告書では、表 1-2に示す7つの提言が出されました [1]。提言を受けて政府が講じた措置については、毎年、国会への報告書の提出が義務付けられており、政府は年度ごとに報告書を取りまとめ、国会に提出しています3。
政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(以下「政府事故調」という。)の報告書においても、表 1-3に示す7つの提言が出されました [2]。政府は、これらの提言を受けて講じた措置についても、年度ごとに報告書を取りまとめています。
国際的には、2015年8月に国際原子力機関(IAEA)が、東電福島第一原発事故を総括する事務局長報告書を公表するとともに [6]、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)も、OECD/NEA及びその加盟国により事故後に実施した原子力安全に関する取組とその教訓を取りまとめました [7]。
提言 | ||
---|---|---|
提言1 |
規制当局に対する国会の監視 |
国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する。 |
提言2 |
政府の危機管理体制の見直し |
緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う。 |
提言3 |
被災住民に対する政府の対応 |
被災地の環境を長期的・継続的にモニターしながら、住民の健康と安全を守り、生活基盤を回復するため、政府の責任において対応を早急に取る必要がある。 |
提言4 |
電気事業者の監視 |
東京電力は、電気事業者として経産省との密接な関係を基に、電気事業連合会を介して、保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた。国会は、提言1に示した規制機関の監視・監督に加えて、事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある。 |
提言5 |
新しい規制組織の要件 |
規制組織は、今回の事故を契機に、国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る。新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする。 |
提言6 |
原子力法規制の見直し |
原子力法規制については、抜本的に見直す必要がある。 |
提言7 |
独立調査委員会の活用 |
未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家から成る第三者機関として「原子力臨時調査委員会〈仮称〉」」を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。 |
(出典)東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)「国会事故調報告書」(2012年)に基づき作成
提言 | ||
---|---|---|
提言1 |
安全対策・防災対策の基本的視点に関するもの |
1)複合災害を視野に入れた対策に関する提言 |
2)リスク認識の転換を求める提言 |
||
3)「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言 |
||
4)防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言 |
||
提言2 |
原子力発電の安全対策に関するもの |
1)事故防止策の構築に関する提言 |
2)総合的リスク評価の必要性に関する提言 |
||
3)シビアアクシデント対策に関する提言 |
||
提言3 |
原子力災害に対応する態勢に関するもの |
1)原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言 |
2)原子力災害対策本部の在り方に関する提言 |
||
3)オフサイトセンターに関する提言 |
||
4)原災対応における県の役割に関する提言 |
||
提言4 |
被害の防止・軽減策に関するもの |
1)広報とリスクコミュニケーションに関する提言 |
2)モニタリングの運用改善に関する提言 |
||
3)SPEEDIシステムに関する提言 |
||
4)住民避難の在り方に関する提言 |
||
5)安定ヨウ素剤の服用に関する提言 |
||
6)緊急被ばく医療機関に関する提言 |
||
7)放射線に関する国民の理解に関する提言 |
||
8)諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言 |
||
提言5 |
国際的調和に関するもの |
1)IAEA基準などとの国際的調和に関する提言 |
提言6 |
関係機関の在り方に関するもの |
1)原子力安全規制機関の在り方に関する提言 |
2)東京電力の在り方に関する提言 |
||
3)安全文化の再構築に関する提言 |
||
提言7 |
継続的な原因解明・被害調査に関するもの |
1)事故原因の解明継続に関する提言 |
2)被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言 |
(出典)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)「最終報告」(2012年)に基づき作成
② 事故原因の解明に向けた取組
国会事故調や政府事故調、IAEA事務局長報告書等において、事故の大きな要因は、津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあるとされています。その後、原子力規制委員会では、国会事故調報告書において未解明問題として指摘されている事項については、おおむね検討を終え、2014年10月に「東京電力福島第一原子力発電所事故の分析中間報告書」に取りまとめました[9]。しかし、事故現場の放射線量が非常に高い等の理由により現地調査に着手できない事項等もあり、継続した現地調査・評価・検討が必要であるとしています。また、東電福島第一原発における廃炉作業の進捗に併せ、新たに明らかになる事実等についても、今後、現地調査や東京電力株式会社4(以下「東京電力」という。)への確認等を行った上で、長期的に検討を継続する必要があるとしています。
東京電力は、事故の総括として「福島原子力事故調査報告書」(2012年6月公表)と「福島原子力事故の総括及び原子力安全改革プラン」(2013年3月公表)を取りまとめていますが、事故発生後の詳細な進展メカニズムに関する未確認・未解明事項について、引き続き、計画的な現場調査やシミュレーション解析を用いて調査・検討を継続しています
[10]。また、事故の教訓を活かした設備面・運用面及びマネジメント面の安全対策強化状況は、四半期に一度「原子力安全改革プラン進捗報告」として公表しています [11]。
一般社団法人日本原子力学会は、東電福島第一原発の安全かつ円滑な廃炉作業への貢献や学会事故調の提言・課題のフォローを目的として、事故に関する未解明事項について検討している国内外の報告書類を調査し、「福島第一原子力発電所事故:未解明事項の調査と評価」(2018年1月)
[12]として取りまとめています。調査結果によれば、事故後6年半の検討により、事故進展の概要に関する主要な未解明事項は、おおむね明らかになりつつあり、圧力容器内及び格納容器内に存在する溶融燃料の挙動などの詳細な状況については、今後の廃炉作業の過程で解明されていくことが期待されています。また、OECD/NEAは日本原子力研究開発機構が関係機関と協議しつつ提案した「福島第一原子力発電所の原子炉建屋および格納容器内情報の分析(ARC-F)」国際共同研究プロジェクトを2019年1月から開始しています。これは先行する東電福島第一原発事故のベンチマーク研究(BSAF)プロジェクトを引き継いで、さらに詳細に事故の状況を探り、今後の軽水炉の安全性向上のための研究に役立てることを目的としています
[13]。
(2)福島の復興・再生に向けた取組
① 被災地の復興・再生に係る基本方針
東電福島第一原発事故により、発電所周辺地域では地震と津波の被害に加えて、放出された放射性物質による環境汚染が引き起こされ、現在も多数の住民の方々が避難を余儀なくされるなど、事故の影響が続いています。このような状況に対処するため、政府一丸となって福島の復興・再生の取組を進めています(図 1-1)。
原子力災害対策本部の下に設置された廃炉・汚染水対策チームは東電福島第一原発の廃炉や汚染水への対応、原子力被災者生活支援チームは避難指示区域の見直しや原子力被災者の生活支援等の役割を担っています。復興庁5は、復旧・復興の取組として長期避難者への対策や早期帰還の支援、避難指示区域等における公共インフラの復旧等の対応を行っています。環境省は、特定復興再生拠点区域における放射性物質で汚染された土壌等の除染や廃棄物処理、除染に伴って発生した土壌や廃棄物等の中間貯蔵施設の整備等に取り組んでいます。福島の現地では、原子力災害対策本部の現地対策本部、廃炉・汚染水対策現地事務所、復興庁の福島復興局、環境省の福島地方環境事務所が対応に当たっています。
図1-1 福島の復興に係る政府の体制(2018年12月末時点)
(出典)復興庁「福島の復興・再生に向けた取組」(2018年) [14] に基づき作成
福島の復興・再生に向けて、「福島復興再生特別措置法」(平成24年(2012年)法律第25号。以下「福島特措法」という。)及び同法に基づく「福島復興再生基本方針」(2012年7月閣議決定)において、福島の復興・再生の意義、目標、基本姿勢が示されるとともに、政府が実施すべき施策に関する基本的な事項が記載されています。福島特措置法は、その一部を改正する法律が2017年5月19日に公布・施行されましたが、同改正法に基づき、福島復興再生基本方針も改定され2017年6月30日に閣議決定されました。改定基本方針では、帰還困難区域における復興拠点の整備、風評払拭への対応として商品の販売等の不振の調査、福島イノベーション・コースト構想の一層の推進のための枠組みの整備等のために必要な措置を講じることが示されました。また、「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」(2016年3月11日閣議決定、2019年3月8日変更)において、福島の復興・再生は中長期的対応が必要であり、復興・創生期間後も継続して国が前面に立って取り組むことが示されています[15]。
② 放射線影響への対策
1)避難指示区域の状況等
東電福島第一原発事故を受け、年間の被ばく線量を基準として「避難指示解除準備区域6、「居住制限区域」7、「帰還困難区域」8が設定されています。避難指示は、①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信など日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便などの生活関連サービスがおおむね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議の3要件を踏まえ、解除されます。2019年4月10日には大熊町に設定された居住制限区域と避難指示解除準備区域が解除され、双葉町の一部を除き、全ての避難指示解除準備区域、居住制限区域の避難指示が解除されています9[16]。2019年4月時点での避難指示区域は図1-2の最右図のとおりです。避難指示解除の基準となっている、空間線量から推計した年間積算線量は、図 1-3のとおりです。
また、帰還困難区域については、2017年5月の福島特措法の改正で、5年を目途に、避難指示を解除により住民の帰還を目指す「特定復興再生拠点区域」を帰還困難区域内に各町村が設定し、当該区域の復興及び再生を推進するための計画制度が盛り込まれました。政府としては、たとえ長い年月を要するとしても、将来的にその全てを避難指示解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意の下、可能なところから着実かつ段階的に政府一丸となって、帰還困難区域の一日も早い復興を目指して取り組んでいくこととしています。
図1-2 避難指示区域の変遷(2011年4月から2019年4月まで)
(出典)内閣府原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域の見直しについて」(2013年)及び経済産業省「避難指示区域の概念図」(2019年)等に基づき作成
放射線への対策として、生活環境を中心にした除染に加え、放射性物質による汚染の疑われた食品の管理、福島県民の健康影響への対応、また、環境放射線に係るモニタリングなどが、国の検討と対応を踏まえ福島県及び各地方自治体で計画的に実施されてきています。詳しい内容を次節以降に示します。
図1-3 空間線量から推計した年間積算線量の推移
(出典)原子力規制委員会「福島県及びその近隣県における航空機モニタリングの測定結果について」等に基づき内閣府原子力被災者生活支援チーム作成
2)食品中の放射性物質への対応
2012年4月以降、厚生労働省では、より一層の食品の安全と安心の確保をするために、事故後の緊急的な対応としてではなく、長期的な観点から新たな基準値を設定しました。コーデックス委員会10が定めた国際的な指標を踏まえ、食品の摂取により受ける放射線量が年間1mSvを超えないようにとの考え方で設定されています(図 1-4) [17]。
図 1-4 食品中の放射性物質の新たな基準値の概要
(出典)厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値」(2012年) [17]
また、食品中の放射性物質については、原子力災害対策本部の定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(2011年4月初版公表)を踏まえ、17都県11を中心とした地方公共団体によって検査が実施され、基準値を超過した食品はキノコ・山菜類、水産物を除けば見られなくなっています(表 1-4)。
表 1-4 農林水産物の放射性セシウム検査結果(17都県)
(注1) 2012年4月施行の基準値(100Bq/kg)を超過した割合(原乳については50Bq/kg)。なお、茶は、荒茶や製茶の状態で500Bq/kgを超過した割合。
(注2) 穀類(米、大豆等)について、生産年度と検査年度が異なる場合は、生産年度の結果に含めている。
(注3) 福島県で行った2011年度産の緊急調査、福島県及び宮城県の一部地域で2012年度以降に行った全袋検査の点数を含む。
(注4) 2012年度以降の茶は、飲料水の基準値(10Bq/kg)が適用される緑茶のみ計上。
(注5) 水産物については全国を集計。
(出典)農林水産省「平成30年度の農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(平成30年4月~)」 [18]に掲載の「平成23年3月~現在(平成30年11月22日時点)までの検査結果の概要」に基づき作成
また、厚生労働省は、全国15地域で実際に流通する食品を対象に、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量の推定を行っています。2018年2・3月の調査では、上限線量(年間1mSv)の1%未満と推定されています(図 1-5)。
図 1-5 マーケットバスケット調査 による放射線量の推定(2018年2・3月調査)
(出典)厚生労働省ウェブサイト「流通食品での調査(マーケットバスケット調査)」(2018年) [19]
諸外国・地域では、東電福島第一原発事故後に輸入規制措置が取られ、2019年3月時点でも一部継続されていますが、徐々に解除されてきています。2018年には、2月にトルコ、7月にニューカレドニア、8月にブラジル、12月にオマーンで輸入規制措置が完全撤廃されました [20]。風評被害を防ぐとともに、輸入規制の撤廃・緩和に向け、我が国における食品中の放射性物質への対応等について、より分かりやすい形で国内外に発信していく等の取組を継続していく必要があります。
③ 放射線影響の把握の取組
1)放射線による健康影響の調査
福島県は県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的に、「県民健康調査」を実施しています。この中では「基本調査」13と「詳細調査」14が実施されており、個々人が調査結果を記録・保管できるようにしています。国は2011年度に県が創設した「福島県民健康管理基金」に交付金を拠出する等、県を財政的に支援しています。
国は2015年2月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間取りまとめを踏まえた環境省における当面の施策の方向性」 [21]に基づき、リスクコミュニケーション事業の継続・充実、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握、事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進の取組を進めています。
なお、放射線の健康管理は中長期的な課題であることから、放射線による健康への影響について調査を継続するとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づき、一般の国民にとってより分かりやすく説明していくことが求められます。
2)東電福島第一原発事故に係る環境放射線モニタリング
東電福島第一原発事故を受けて、放射線モニタリングを確実かつ計画的に実施することを目的として、政府は原子力災害対策本部の下にモニタリング調整会議を設置し、「総合モニタリング計画」(2011年8月決定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して放射線モニタリングを実施しています(表 1-5) [22]。モニタリングの結果は、原子力規制委員会から「放射線モニタリング情報15
」として公表され、特に、空間線量率については、全国に設置されたモニタリングポストの測定結果をリアルタイムで確認することができます。
また、原子力規制委員会では、帰還困難区域等のうち、要望のあった川俣町、富岡町、大熊町、浪江町、葛尾村、双葉町、飯舘村の区域を対象として走行及び歩行サーベイによるモニタリングも実施しています [23]。
(出典)原子力規制委員会「放射線モニタリングの実施状況」(2019年) [22]
④ 放射性物質による環境汚染からの回復に関する取組と現状
1)除染の取組
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年(2011年)法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき、これまで、除染特別地域や汚染状況重点調査地域において除染が実施されてきました。福島県内の11市町村の除染特別地域については、2017年3月末までに帰還困難区域を除き、面的除染が完了しました(図 1-6)。また、汚染状況重点調査地域についても、2018年3月に完了しました(図 1-6)。
図 1-6 国直轄除染及び市町村除染の進捗状況
(出典)環境省「除染情報サイト」16に基づき作成
2)放射性物質に汚染された廃棄物の処理
イ)廃棄物の分類
放射性物質汚染対処特措法において、廃棄物の分類と遵守すべき処理基準が定められました。この中で、環境大臣が指定した汚染廃棄物対策地域(以下「対策地域」という。)にある廃棄物のうち、一定要件に該当する「対策地域内廃棄物」と、事故由来放射性物質による汚染状態(放射能濃度)が合計で8,000Bq/kgを超えると認められ、環境大臣の指定を受けた「指定廃棄物」の2つを併せて「特定廃棄物」と定め、国が収集、運搬、保管及び処分を行うこととしています。
なお、放射能濃度が8,000Bq/kg以下に減衰した指定廃棄物については、放射性物質汚染対処特措法施行規則(平成23年環境省令第33号)に基づき、当該指定廃棄物の指定の解除が可能となり、通常の廃棄物と同様に管理型処分場で処分することができます。また、指定解除後の廃棄物の処理について、国は、技術的支援のほか、指定解除後の廃棄物の処理に必要な経費を補助する財政的支援を行うこととしています(図 1-7)。
図 1-7 放射性物質を含む廃棄物の分類
ロ)廃棄物の処理
福島県の11の市町村にまたがる地域が対策地域18として定められ、対策地域内廃棄物処理計画に沿って、2019年1月末までに、対策地域内の災害廃棄物等の約219万トンの仮置場への搬入が完了しました [24]。これらの災害廃棄物等は、仮設焼却施設により減容化を図るとともに、金属くず、コンクリートくずは安全性が確認された上で、再生利用を行っています。
2018年12月末時点で、福島県を含めた11都県19において、約22万トンが指定廃棄物として環境大臣による指定を受け、国に引き渡されるまでの間、適切に一時保管されています [25]。福島県内の対策地域内廃棄物及び指定廃棄物のうち、放射能濃度が10万Bq/kg以下の廃棄物は、富岡町にある既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)へ搬入され、10万Bq/kgを超えるものは、中間貯蔵施設に搬入することとされています。管理型処分場への搬入は2017年11月に開始されています。また10万Bq/kg以下の焼却灰等を安全に埋立処分するため、特定廃棄物セメント固形化処理施設の稼働が2019年3月に開始されています。このほか、指定廃棄物が多量に発生し、保管がひっ迫している宮城県、栃木県、千葉県、茨城県及び群馬県の5県について、宮城県、栃木県及び千葉県では、国が当該県内に長期管理施設を設置する方針であり、また、茨城県及び群馬県では、8,000Bq/kg以下となるのに長時間を要しない指定廃棄物については、「現地保管継続・段階的処理」の方針が決定する等、各県の実情に応じた取組が進められています(図 1-8) [26]。
図 1-8 指定廃棄物の処理
(出典)環境省放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト「指定廃棄物について」20
3)除染に伴って発生した土壌等の中間貯蔵施設の整備に向けた取組
放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌及び福島県内に保管されている10万Bq/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設が整備されています。中間貯蔵施設については、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」(平成15年法律第44号)において「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」こととされています。
2015年3月から、仮置場から中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送が開始されており、2018年12月に環境省が公表した「2019年度の中間貯蔵施設事業の方針」の中で、2021年度までに県内に仮置きされている除去土壌等(帰還困難区域を除く。)の概ね搬入完了を目指すとしています[27]。施設の整備・稼働状況や輸送の状況は、中間貯蔵施設情報サイトにて公表しています。
福島県内で発生した除去土壌等の県外最終処分の実現に向けては、最終処分量を低減するため、政府一体となって、除去土壌等の減容・再生利用を進めていきます。技術開発の検討が進められるとともに、南相馬市及び飯舘村において除去土壌再生利用の実証事業が実施されています。中間貯蔵施設事業の確実な実施に向けて、安全確保を大前提として、今後も地方公共団体や地元住民と十分に協議を行いつつ、これらの取組を進めていきます。
⑤ 被災地支援に関する取組と現状
1) 避難指示の解除と早期帰還に向けた支援の取組
避難指示区域からの避難対象者数は、2018年4月1日時点では約2.4万人となっています [28]。事故から8年が経過し、帰還困難区域を除くほとんどの地域で避難指示が解除され、福島の復興及び再生に向けた取組には着実な進展が見られる一方で、避難生活の長期化に伴って、健康、仕事、暮らしなどの様々な面で引き続き課題に直面している住民の方々もいます。復興の動きを加速するため、早期帰還支援、新生活支援の対策、安全・安心対策の充実、帰還支援への福島再生加速化交付金の活用、帰還住民のコミュニティ形成の支援といった取組に、国と地元が一体となってに注力しています。
また、帰還困難区域においては、2018年5月までに、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村の特定復興再生拠点区域復興再生計画が認定され、帰還環境の整備が推進されています [29]。こうした状況を踏まえ、関係府省庁が連携して特定復興再生拠点区域への住民の帰還・居住に当たり必要な放射線防護対策を検討し、2018年12月に「特定復興再生拠点区域における放射線防護対策について」が取りまとめられるとともに[30]、「特定復興再生拠点区域の避難指示解除と帰還・居住に向けて」が原子力災害対策本部において決定され、特定復興再生拠点区域の避難指示解除と帰還・居住に向けた取組が示されました [31]。
2)生活の再建や自立に向けた支援の取組
避難指示等の対象となった被災12市町村のおかれた厳しい事業環境に鑑み、12市町村の事業者等の自立へ向けて、事業や生業の再建を図ることが重要です。
2015年8月に国、福島県、民間の構成により創設された「福島相双復興官民合同チーム(官民合同チーム)」は、避難指示等の対象となった12市町村の被災事業者・農業者を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、その結果を踏まえ、専門家を交えたチームにより、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援などを実施しています。また、2017年9月からは、分野横断・広域的な観点から、商業施設やまちづくり会社の創設・運営など、12市町村へのまちづくり専門家支援を進めています。さらに、地域経済に新たな波及効果をもたらすために、官民合同チームでは交流人口増加に繋がる自治体による情報発信を支援し、域外からの人材の呼び込みと域内での創業支援にも取り組んでいます。
こうした取組もあり、事業・生業の再建やまちの復興は徐々に進みつつありますが、地域によって復興の状況は異なります。今後とも、官民合同チームと連携し、個々の実情を踏まえたきめ細かな対応を粘り強く続けていきます。
3)新たな産業の創出・生活の開始に向けた広域的な復興の取組
「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」において、2015年7月、30~40年後の姿を見据えた2020年の課題と解決の方向が提言として取りまとめられました。当該提言の主要個別項目の具体化・実現に向けた進捗管理を行うため、「福島12市町村将来像提言フォローアップ会議」では2016年5月に「福島12市町村将来像実現ロードマップ2020」を策定し、2017年6月と2018年5月にその後の進捗を踏まえて改訂しています。
これらの取組の一つにも挙げられている「福島イノベーション・コースト構想」は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すものです。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産等の分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいます(図 1-9)。
2018年4月、福島県が策定した重点推進計画を内閣総理大臣が認定し、実施主体として「公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構」(2019年1月1日に一般財団法人から公益財団法人へ移行)を位置づけ、本構想の具体化を推進しています。
また、復興・創生期間後も見据え、構想の深掘りを軸に浜通り地域等の自立的・持続的な産業発展を実現するため、地域の現状と今後の見通し、目指していく姿とその実現に向けた取組の方向性を整理する「福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展の青写真」について、福島県、市町村との議論を進めています。2019年3月に開催した「第18回原子力災害からの福島復興再生協議会」においては、その骨子案を提示するなど、福島イノベーション・コースト構想の更なる加速化に向けた取組を進めています。
図 1-9 福島イノベーション・コースト構想の進展状況(2019年3月末時点)
(出典)第18回原子力災害からの福島復興再生協議会資料1 復興庁「福島復興・再生に向けた取組状況」(2019年)[32]
4)風評払拭・リスクコミュニケーションの強化
2017年12月、復興庁を中心とした関係府省庁において「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略(以下「強化戦略」という。)」[33]が取りまとめられました。この中で、科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、福島県の現状についての認識が不足してきていることと、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことに主たる原因があると考えられるとされています。そのため、従来実施されてきた被災者とのリスクコミュニケーションに加え、この経験を活かしながら、国民一般を対象としたリスクコミュニケーションにも重点を置くことが述べられています。強化戦略に基づき、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から情報発信を強化しています。
2018年7月に開催された「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」において強化戦略に基づく取組状況のフォローアップが行われるとともに、復興大臣により、強化戦略に沿った2018年度の取組の早期かつ着実な実施、2019年度予算要求における取組の更なる強化の検討、今後国内で開催される様々な国際的なイベントの機会をとらえた効果的な情報発信の実施等が指示されています[34]。2018年7月に改訂された風評対策強化指針では、引き続き次の3つの強化指針が示され、関係機関における主に2017年度及び一部2018年度の実施内容が示されています。
強化指針1 風評の源を取り除く
強化指針2 正確で分かりやすい情報提供を進め、風評を防ぐ
強化指針3 風評被害を受けた産業を支援する
5)原子力損害賠償の取組
「原子力損害の賠償に関する法律」(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)に基づき、文部科学省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」は、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のために、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)を策定し、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示すとともに、指針に明記されていない損害についても、事故との相当因果関係があると認められたものは賠償の対象とするよう、柔軟な対応を東京電力に求めています。 [35]。中間指針は、2019年2月末時点で第四次追補まで策定されています。
原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給等の確保を図るため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構は「原子力事業者からの負担金の収納」、「原子力事業者が損害賠償を実施する上での資金援助」、「損害賠償の円滑な実施を支援するための情報提供及び助言」、「仮払法に基づく国又は都道府県知事からの委託による仮払金の支払」、「廃炉の主な課題に関する具体的な戦略の策定」等の業務を実施しています。また、原子力損害賠償紛争解決センターにおいては、事故の被害を受けた方からの申立てにより、仲介委員が当事者双方から事情を聴き取り損害の調査・検討を行い、和解の仲介業務を実施しています(図 1-10)。
東京電力は中間指針等を踏まえた損害賠償を実施しており、2019年3月末現在、総額で約8兆9,620億円の支払を行っています [36]。
図 1-10 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援
(出典)経済産業省「平成26年度 エネルギー白書」(2015年)に基づき作成
- nternational Atomic Energy Agency
- Organisation for Economic Co-operation and Development/Nuclear Energy Agency
- 国会法」(昭和22年法律第79号)附則第11項において規定されています。なお、この取組状況のフォローアップ等の業務は、2016年4月より内閣官房から内閣府に移管され、以下で公表されています。http://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/fu_koukai/fu_koukai.html
- <2016年4月よりホールディングカンパニー制に移行し、「東京電力ホールディングス株式会社」に社名変更しています。/li>
- 復興庁は、復興庁設置法により2021年3月31日までを期限として時限措置的に設置されています。2019年3月8日に変更された「『復興・創生期間』における東日本大震災からの復興の基本方針」において復興庁と同じような機能を持つ後継組織を置くことが示されています。
- 2011年12月26日時点で年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された区域。
- 2011年12月26日時点で年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域。
- 2011年12月26日時点で年間積算線量が50ミリシーベルトを超え、5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり、年間積算線量が50ミリシーベルトを超える区域
- 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村の全域並びに田村市、南相馬市、川俣町及び川内村の区域のうち警戒区域又は計画的避難区域に指定されていた区域の計11市町村。
- 消費者の健康の保護等を目的として設置された、国際的な政府間機関です。
- 青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県の17都県。
- 広範囲の食品を小売店等で購入し、必要に応じて摂食する状態に加工・調理した後に分析し、食品群ごとの化学物質等の特定の物質の平均含有濃度を算出する調査です。
- 問診表に基づく行動記録から、外部被ばく実効線量が推計されています。
- 「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の4種の調査が含まれています。
- http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
- http://josen.env.go.jp/
- http://shiteihaiki.env.go.jp
- 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村の全域並びに田村市、南相馬市、川俣町及び川内村の区域のうち警戒区域又は計画的避難区域に指定されていた区域の計11市町村。
- 2017年1月に、山形県では、全量が8,000Bq/kgを下回ったことから指定廃棄物の指定が解除されたため、12都県から11都県へ減少しています。
- http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/designated_waste/
トップへ戻る |