「平成29年度版 原子力白書」特集 原子力分野におけるコミュニケーション-原子力委員会
御意見・御質問 内閣府共通検索 ENGLISH
利用規約 リンク 所在地情報 ウェブアクセシビリティ
原子力委員会について 会議情報 決定分・報告書等 活動紹介 分野別情報 メールマガジン

原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成29年度版 原子力白書」HTML版 > 特集 原子力分野におけるコミュニケーション

別ウインドウで開きます PDF版ページはこちら(4.6MB)

特集 原子力分野におけるコミュニケーション
~ステークホルダー・インボルブメント~

はじめに

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)事故は、福島県民をはじめ多くの国民に多大な被害を及ぼしました。事故から既に7年が経過した現在でも、依然として国民の原子力への不信・不安が根強く残っています。さらに、事故を契機に、我が国における原子力利用は、原発立地地域に限らず、電力供給の恩恵を受けてきた国民全体の問題として捉えられるようになりました。一方で、我が国では、国民生活や経済への影響、気候変動対策の観点を踏まえ、安全を大前提として、原子力規制委員会により新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働が行われています。

 こうした状況を踏まえ、原発立地地域をはじめとして国民の不信・不安に対して真摯に向き合い、また、関心に応えていくために、双方向の対話や広聴といったコミュニケーション活動を強化していくことが必要です。ただし、ステークホルダーに対するコミュニケーションの活動のみで国民の信頼構築が達成できるものではなく、これと併せて、コミュニケーション活動のインフラとして、国民が疑問に思ったときに、インターネット等を活用して、自ら調べ、疑問を解決し、理解を深められるような、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報体系を整えていくことや、その他様々な取組を実施していくことも重要です(図1)。

     

図 1 原子力関連の理解の深化の取組

(出典)原子力委員会「 理解の深化 ~根拠に基づく情報体系の整備について~(見解)」


 我が国の原子力分野におけるコミュニケーション活動では、情報や既に決定したことを一方的に提供し、それを理解・支持してもらうことが主眼とされてきました。現代は、そのような枠組みが有効であった時代とは異なり、個々人が様々な情報に容易にアクセスすることが可能になり、多様な関係者が、社会課題に参画することが容易となりました。今後、我が国のコミュニケーション活動を考える上で、今までは見落としがちであった、以下のような視点が必要と考えられます。

・どのような者が政策や事業の影響を受けるかを把握する(様々なステークホルダーの特定)
・ステークホルダーが何を知りたいかを把握する
・ステークホルダーの関心やニーズを踏まえたコミュニケーション活動を行う      
 欧米では、ステークホルダーとのコミュニケーションの本質は信頼の構築にあると捉え、研究成果等による根拠情報や政策情報などの情報体系の整備やステークホルダーとの双方向のコミュニケーション活動に積極的に取り組んでいます。そのような事例も参考にしつつ、我が国のコミュニケーション活動の在り方について、国も含めて原子力関連機関は考えていく必要があります。


2.ステークホルダー・インボルブメントの基本的な考え方

2.1国際的背景

 科学技術の発展や公害問題・環境問題の発生等により、社会やそこに暮らす人々の生活に大きな影響が及ぶ場合に、情報を知りたい、自分たちの意思を表明したい、意思決定プロセスに関わりたいといった要望が高まってきました。このように、国際的にも情報公開や意思決定への一般国民や市民(パブリック)、一定の状況において関心又は利害関係がある者(ステークホルダー)の参画等への意識が高まったこと等を受け、2001年に「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセス条約」(オーフス条約)が発効されました [1]

 このような国際的潮流の下、諸外国では、原子力も含めて、環境に大きな影響を及ぼしうる事案、科学技術的な専門性が高く、不確実性を伴う事案について、意思決定の過程でパブリックやステークホルダーの意見を聴取する等の取組が積極的に進められています。

 例えば、フランスでは2005年に、環境に関する情報にアクセスする権利、環境に影響を与えうる公的な意思決定プロセスに参加する権利が、憲法に新たに規定され [2] 、原子力政策や事業に関する意思決定に際しては、パブリックやステークホルダーの意見を聴取する取組が強化されています [3]

 また、このような法的義務によらない取組も見られます。英国やスウェーデンでは、「パブリックやステークホルダーの意見を意思決定に反映することによって決定内容そのものを改善していく」との認識を通じて、意思決定の影響を受ける人々と信頼を構築する取組を進めています。特に、原子力利用に伴い発生する放射性廃棄物の処分場のサイト選定プロセスにおいては、立地候補自治体関係者や住民等の関心や懸念に応え、信頼関係を構築していくことが必須となります。また、英国では、王立協会より科学コミュニケーションの重要性に関する文書が1985年に発表され、パブリックに向けた科学コミュニケーション活動が積極的に推進されてきました。しかし、牛海綿状脳症(BSE)の感染問題の影響等で、科学技術や科学技術的な政策決定を行う政府に対する不信が高まり、これを契機に、パブリックとのコミュニケーションの在り方が見直され、双方向の対話や政策への参画といった取組が強化されてきました [4] 。また、放射性廃棄物の地層処分施設の立地に関しても、パブリックやステークホルダーの関与、公衆対話などの取組が実施されています。

 米国においても、核兵器開発施設の廃止措置と環境回復の活動が1989年に開始され、既に多くのサイトでクリーンアップ作業を完了しています。作業を進めていく経験から、成功に導くためには、ステークホルダーとのコミュニケーションが必要との教訓が得られています。


2.2 ステークホルダー・インボルブメントの在り方

 欧米の取組等を踏まえると、パブリックやステークホルダーとの関わりには、「情報環境の整備」、「双方向の対話」及び政策や事業に係るプロセスにステークホルダーが参画する「ステークホルダー・エンゲージメント」の大きく三段階があり、この順でステークホルダーの意思決定プロセスへの参加の度合いが高まると整理でき、取組全体を「ステークホルダー・インボルブメント」と捉えることができます(図2) 1

 活動や状況に応じて、ステークホルダーは変わります。また、ステークホルダーは一様ではなく、それぞれの関心によって地域のコミュニティ等のグループに分かれる場合があることを認識することが重要です。このため、ステークホルダー・インボルブメントに際して、グループごとにアプローチを考えることが必要になります。

     

図 2 ステークホルダー・インボルブメントの全体像

(出典)第9回原子力委員会定例会議資料1-1号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する取組について」(2018年)に基づき作成


 原子力分野のステークホルダー・インボルブメントにおける3種類の取組の目的は以下のように整理されます。状況やテーマに応じて、最適な取組を選択・組み合わせることが必要です。

  • ・情報環境の整備:
  •  ステークホルダーの関心を踏まえて、原子力発電、放射性廃棄物管理等の原子
     力利用やそれに対する安全規制について、科学的に正確な情報や客観的な事実
     (根拠)に基づく情報(政策情報を含む)をステークホルダー自らが入手できる環境
     を構築
  • ・双方向の対話:
  •  ステークホルダーとの双方向なやり取りを通じ相互理解を実現
  • ・ステークホルダー・エンゲージメント(参画):
  •  ステークホルダーが、社会やステークホルダーに影響を及ぼす政策や事業に係
     るプロセスに参画
     また、これらの取組を行うに当たっては、共通事項として、以下の点について
     十分に考慮する必要があります。
  •  ・テーマや状況に応じて、どのような目的で行うかを明確に設定すること
  •  ・関心や目的、テーマに応じて、アプローチする(ステークホルダーを関心
      によって見付け出す)
  •  ・ステークホルダーの関心や懸念を把握する
  •  ・ステークホルダーと協働する
  •  ・相手に対する尊敬、透明性、公開性、専門性を担保すること
  •  ・社会は絶えず移り変わるので、方法を常に変化・改善すること

 これらの点に十分に留意した上で、それぞれの取組では、以下のような方法が具体的に考えられます(図3)。      

図 3 ステークホルダー・インボルブメントの要点

(出典)第9回原子力委員会定例会議資料1-1号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する取組について」(2018年)


  • ・情報環境の整備:
  •  ・理解してほしいことを一方的に発信や広報する「Push型」から、自ら調べ、
      疑問を解決し、理解を深められるような「Pull型」へ移行する
  •  ・対話や調査、SNSの定点観測等を活用して、ステークホルダーの関心や期待
      を把握し、それに応える対応を行う
  •  ・共通理解を図るために、広範な意味を持つ言葉、曖昧な意味を持つ言葉等に
      ついて、その定義を明確にする
  •  ・シンプルで明確な言葉を使う
  •  ・科学の不確実性やリスクに十分留意する
  •  ・安全性を強調するとかえって不安になる人間心理に配慮する
  • ・双方向の対話:
  •  ・ステークホルダーの関心や期待を聞くことから始め、それに応える対応を行
      う
  •  ・情報を押し付けるのではなく、誰が事実を確認するか、どうそれを見付ける
      かについて、まず合意するなど、協働して事実を見付ける
  •  ・対話のためにファシリテーション(対話の舵取り)のスキルを身に着ける
  •  ・対面(FacetoFace)の対話や、個人の参画、地域の巻き込みを行う
  • ・ステークホルダー・エンゲージメント(参画):
  •  ・意思決定・規制のプロセスの早い段階でステークホルダーが参画する
  •  ・画一的なアプローチは存在せず、個別の課題ごとにふさわしい在り方を検討
      する
  •  ・将来的な観点から、若い世代を巻き込む
  •  ・プロジェクトに対する反論や反発によく耳を傾け、その根拠を把握する
  •  ・後戻りを許容し、失敗しても、そこから得た教訓を次の取組に活かす。そ
      のためにも、検討、議論された内容を記録として残す
  •  ・時間の経過によってもステークホルダーは変わることから、同じ議論を極力
      繰り返さないためにも結論に至った議論、争点などの記録を次の世代への資
      産として残す

 ステークホルダーは一様ではないため、ステークホルダー・インボルブメントには、どのような問題にも当てはまる画一的な方法はありません。このため、まず、関心や意見に耳を傾け、それに丁寧に対応することからステークホルダー・インボルブメントの活動を始めることが重要です。その上で、社会情勢や、各原子力関連機関のミッションとそれを遂行する上での課題に応じて、ステークホルダーと真摯に向き合い、時間をかけて取り組むことで信頼関係の構築につなげていくことが必要です(図4)。
 また、国民への根拠に基づく情報の提供は、双方向の対話やステークホルダー・エンゲージメントの基盤として必須であり、原子力関係機関の責任(アカウンタビリティ)として、その適切な実施が不可欠です。

     

図 4 社会全体で見たステークホルダー・インボルブメント

(出典)各種情報より内閣府作成(2018年)

コラム ~ステークホルダー対話の5つの落とし穴~

 日・英ステークスホルダー対話と関与に関するワークショップ(2014年2月5-6日、在日英国大使館)において、英国のコンサルタントは、ステークホルダー対話の5つの落とし穴をその方策とともに次のようにまとめています。     

落とし穴1:ステークホルダーのリストを使う 方策:興味によって見付け出せ
落とし穴2:まちがった方法(書類の山)   方策:作業の道具を選べ
落とし穴3:会合の場を限定すること     方策:数に応じて設計せよ
落とし穴4:まちがったスタッフを送ること  方策:責任あるスタッフを送れ
落とし穴5:事実を一方的に伝えること    方策:共同で事実を見付け確認せよ

 「事実を一方的に伝えること」は落とし穴です。信頼構築がコミュニケーションの目的なので「誰が事実を確認するか、どうそれを見付けるかについて、まず合意せよ」と述べられています。
 原子力専門家はコミュニケーションにおいて知っていること、知ってほしいことを伝えようとしますが、これは落とし穴であることに注意する必要があります。根拠情報を見付けやすく分かりやすい形で作成し提供することの重要性がこのことからも理解できます。
 ステークホルダー対話のスキルはファシリテーション訓練で習得することができます。ファシリテーションは、対話の場において発言や参加者の参画を促し、話の流れを整理するなど、合意形成や相互理解をサポートすることにより、組織や参加者の活性化・協働を促進させる能力です。ファシリテーション協会がビジネススキルの訓練としてファシリテーション訓練を提供しています。
 コミュニケーションやステークホルダー対話の経験は、それに関与したコミュニケーターやコンサルタントが持っていますが、文書化されたものは少ないので、ファシリテーション訓練によってスキルを習得した人材を育成する必要があります。
 さらに、ステークホルダー対話においては、政府や事業者の意図するように理解が得られるとは限らないので、失敗を許容し、その教訓を活かす心構えが必要です。


3.諸外国におけるステークホルダー・インボルブメントの個別事例

 ステークホルダー・インボルブメントの在り方を考えていく上で参考となる、諸外国の事例の紹介を行います。特に、先進的な取組を行っていると考えられる英国と米国の事例を詳しく紹介します。


3-1英国におけるステークホルダー・インボルブメントの考え方と現状

(1)背景と全体像

 英国では、1980年代から科学技術と社会への関与について理解が進んでいますが、1990年代後半に発覚したBSEの感染問題の影響で、急速に発展する科学技術やそれに関わる政府や産業界に対する不信が高まり、これを契機として、パブリックとの関わり方が大きく見直されました。例えば、議会上院科学技術委員会が2000年2月に取りまとめた報告書では、パブリックが科学技術に対する不信を募らせている状況のままでは、科学技術やその政策決定に対して社会的受容を得るのは難しく、信頼を回復するための方策として、これまでの理解増進を目的とした一方向の情報提供ではなく、意思決定に係るプロセスにおいて、双方向の対話やステークホルダー・エンゲージメントをはじめとしたステークホルダーとの協働に取り組むことの重要性が強調されました [4] 。また、2000年10月に公表された英国政府のBSE調査委員会の報告書では、科学技術に関する問題で、特に、不確実性をはらむものについて公開性や透明性を確保し、信頼の回復につなげていくことの必要性が指摘されました [5] 。このような指摘等を踏まえ、政府による危機管理対策の強化が図られるとともに、双方向の対話や意思決定プロセスへの参画といった取組が強化されてきました。

 このような背景の下で、英国の原子力分野においても、原子力関連機関によるステークホルダー・インボルブメントに関する多様な取組が行われるとともに、科学コミュニケーションでも原子力が扱われ、裾野の広い活動が展開されています(表1)。


 
表 1 英国で実施されているステークホルダー・インボルブメントの取組事例
主体 内容
情報環境の整備 <政府>
・首相や大臣に科学的な助言を行う政府主席科学顧問が、東電福島第一原発事故のような緊急事態において、緊急時科学助言グループを招集し、政府や一般の人々に向けて科学的根拠に基づいた適切な助言を与える活動の取組を実施。
<事業者、民間、学協会、アカデミア等>
・EDFエナジー社が各原子力発電所のウェブサイトで、政府や規制機関の政策文書へのリンクも含めて、ステークホルダーが情報にアクセスできる環境を整備。
・サイエンスメディアセンター(SMC)が、議論を呼び、誤報の可能性があるような複雑な問題について、明確で根拠に基づく情報提供を行うため、科学技術分野のニュースに関して、専門家とメディアをつなぐ等の取組を実施。
・英国学術協会(BSA)が開催する非専門家向けの科学技術紹介イベントであるサイエンス・フェスティバルで、原子力分野の博士課程の学生が展示を企画・実施。
・科学技術に対する誤解を解くことを目的に設置されたSenseaboutScienceが、大学の研究者の協力を得て、気候変動対策を行う上で有効な選択肢の1つである原子力利用について客観的な最新の情報を提供し、誤解を解くことを目的として「MakingSenseofNuclear」と題したガイドを取りまとめ。
双方向の対話 <政府>
・公衆対話センターは、科学技術に関わる政策立案における国の公衆対話を支援する「Sciencewise」プログラムを実施。高レベル放射性廃棄物の地層処分場の問題、新型炉の設計評価の問題について、パブリックやステークホルダーとの対話等を実施。
<事業者>
・地域社会と原子力関係者間の橋渡しを行う目的で、地域連絡委員会(LLC)、サイトステークホルダーグループ(SSG)、地域社会連絡委員会(LCLC)と呼ばれるステークホルダーが参画する組織を設置し、原子力施設の許認可を有する事業者により運営。地域の行政機関や労働組合、立地地域住民等が参加。
・原子力業界と政府の協議体である原子力産業協議会(NIC)が、原子力に対する信頼を維持することを念頭に、パブリックとのコミュニケーションの在り方や方策を取りまとめ(InthePublicEye)、4つのベストプラクティス原則(透明性、尊敬・開示性・透明性に基づく信頼、対話、相談・対話の促進)を採用。これらを含めた戦略に基づき、NICに参加する原子力企業は、2015年にパブリック・エンゲージメントに関する協約に署名。
<科学者・大学教員等>
・実践的な研究活動のために、対話活動を行う自発的なグループが多数存在し、それぞれが活動している。
ステークホルダー・エンゲージメント <政府>
・政策担当部署は、パブリックに影響する大規模なプロジェクトや施策、法案等について、広く意見を求めるプロセスであるコンサルテーションを実施。

(出典)第9回原子力委員会定例会議資料1-1号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する取組について」(2018年)に基づき作成



(2)情報環境の整備

① 政府による情報環境の整備

 英国では、BSE感染問題を契機として、ステークホルダーに対して、意思決定に関する透明性を高める取組を行ってきました。また、2012年に公表したデジタル戦略 [6] により、それまで省庁が個別に運営していたサイトは、英国政府の総合サイトGOV.UKサイト上に集約されました。省庁の管轄によらず、政策テーマごとに情報が整理されており、あるテーマに関するウェブページから、リンクを経由して関連情報を探すことができます。例えば、エネルギーセキュリティのテーマでは、エネルギー政策を管轄するビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS 2 )と労働活動における安全衛生上の規制を行う安全衛生庁(HSE 3 )のそれぞれの関連文書が掲載されています(図5)。

 また、原子力規制局(ONR 5 )は、四半期に一度の頻度で、原子力施設に対して実施した検査結果等について、ステークホルダー向けに簡潔にまとめた報告書を一覧にしてウェブサイトで公開しています [7]

 このように、ステークホルダーを意識した簡潔で分かりやすい情報を整備し、公開していることで、関心を持っているステークホルダーが情報にアクセスできる環境が整備されています。

     

図 5 エネルギーセキュリティに関する英政府ウェブサイト

(出典)BEISウェブサイト 4 に基づき作成



② 事業者やアカデミアによる情報環境の整備

 事業者やアカデミア等がそれぞれのウェブサイト等を通じ、ステークホルダーに対して積極的に情報を提供する、100を超えるウェブサイトが運営されています。また、ウェブサイトには情報に関連したリンクを張るなどステークホルダーが自らの関心に沿って情報にアクセスできるような環境が整備されています。例えば、英国内で原子力発電所を運転しているEDFエナジー社では、同社が運転するヒンクリーポイントB原子力発電所に関する安全・報告のページを設け、緊急時対応におけるEDFエナジー社の基本方針を簡潔にまとめたものを掲載するとともに、政府やONRの関連情報へのリンクも掲載しています(図6)。

     

図 6  EDFエナジー社
ヒンクリーポイントB原子力発電所の安全や事象報告に関するウェブサイト [8]

(出典)EDFエナジー社 6


(3)双方向の対話

① 政府による双方向の対話     

 英国政府は科学技術に関する政策立案に際して、早い段階からパブリックやステークホルダーとの対話を行い、その成果や提示された意見を政策立案に活用しています。特に特徴的な取組として、2004年に英国政府が開始したSciencewiseプログラムが挙げられます。同プログラムは政府が政策決定をより良いものとしていく上で、パブリックやステークホルダーと対話を実施するための支援を行っています。原子力分野においても、放射性廃棄物管理に関する公衆対話や、新型原子炉の一般設計評価に際して、双方向の対話が実施されています。


放射性廃棄物管理に関する対話

 英国における放射性廃棄物の地層処分場選定手続では、これまでに、英国政府は何度もパブリックやステークホルダーの意見を聴取し、改善を図っています(図 7)。

<地層処分場選定プロセスの頓挫を受けた対話活動>

 英国政府は、2008年6月に公表した白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」に基づき、地層処分場の選定手続を進めましたが、立地に関心を示した自治体が全て撤退したことを受け、手続の見直しに着手しました。2013年9~12月にかけて新たなサイト選定手続に関するパブリックコンサルテーション(パブリックに影響する大規模なプロジェクトや施策、法案等について、広く意見を求めること)を実施するとともに、2013年11月~12月に、パブリックコンサルテーションでの意見提出を促すことを目的として、Sciencewiseの枠組みを活用したパブリックやステークホルダーとの対話活動としてワークショップを実施しました。

     

図 7 英国の放射性廃棄物地層処分場サイト選定プロセスの経緯

(出典)第9回原子力委員会定例会議資料1-1号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する 取組について」(2018年)


 これらのワークショップでは、選定手続の透明性、公平性の重要性等に関する意見が参加者から出されました(図8)。また、ワークショップ後に実施されたアンケートでは(図9)、参加したパブリック、ステークホルダー等の約60%が、政府が新たな政策決定を行う上で、自分たちの意見が考慮されたと回答しています。また、参加したパブリックの約50%がワークショップに参加したことは、地層処分場のサイト選定に関する自分自身の見解に影響を与えたと回答しています [9]

     

図 8 Sciencewiseの枠組みを活用した対話で参加者から示された意見

(出典)Icarus Collective Ltd.「Evaluation of the engagement events during the geological disposal facility siting review consultation」(2015年)に基づき作成
     

図 9  Sciencewiseでの対話後に参加者に対して実施されたアンケート結果

(出典)Icarus Collective Ltd.「Evaluation of the engagement events during the geological disposal facility siting review consultation」(2015年)に基づき作成 [10]



<対話結果を踏まえた新たな白書の策定と更なる対話活動>

 英国政府は2014年7月に白書「地層処分の実施‐高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み」を公表しました [11] 。この中で英国政府は、今後、地質学的スクリーニング調査を実施し、地層処分施設の設置に関心を示した自治体を含む地域が協働する手続を策定した後、英国の高レベル放射性廃棄物等の地層処分の実施主体である放射性廃棄物管理会社(RWM社)が処分場設置に関心を示した地域と正式な協議を行うという方針を示しました。

 白書では、対話等で示されたパブリックやステークホルダーの関心が反映されるとともに、シンプルな表現で、また、視覚的に分かりやすくなるように工夫する等、専門知識を持たない人にも分かりやすいものとなっています(図10)。

 また、この白書では、パブリックコンサルテーションや対話活動で提起された課題で、簡単に解決できない事項については、継続的に協議を行う方針も示されています。例えば、地域との協働手続に関して、コミュニティの代表の定義等、課題が残されていました。このため、英国政府は、再度、Sciencewiseの枠組みを活用し、2015年12月~2016年3月に、パブリックやステークホルダーとの対話を行い、「コミュニティの代表の定義」、「処分場選定手続への参加可否に対する住民の支持を確認する方法」、「手続から撤退する権利」、「手続に参加した地域に対する投資」という4つのテーマに関して、議論を行いました。その結果、住民投票によって住民の支持を最終確認することや、選定プロセスの透明性を確保すること及び、政府やRWM社と地域住民との間の緊密なコミュニケーションを行うことについて合意に至りました。一方、コミュニティの代表の定義に自治体を含めるか否かの判断や、住民投票の対象となる範囲(年齢、人数、居住地域等)については、意見集約が進みませんでした。

     

図 10 英国政府の2014年白書に盛り込まれた視覚的に分かりやすい図の例

(出典)英国政府白書「地層処分の実施‐高レベル放射性廃棄物等の長期管理に向けた枠組み」(2014年) [11]



<地層処分場選定プロセスの詳細検討のためのパブリックコンサルテーションの開始>

 このパブリックやステークホルダーとの対話の結果を踏まえて、英国政府は2018年1月に、地域との協議手続案を公開し、新たなパブリックコンサルテーションを開始しました。この中で、英国政府は、地層処分場の立地を希望するコミュニティを特定するために、関心を持つ複数のコミュニティの代表者(市議会や州議会等の地方自治組織や地元企業等)との協議を行いながら、地域住民の同意も得ながら、手続を進めることを提案しています。このため、関心を持った自治体等がプロセスへの参加検討を支援するための関与形成チームを組織することも提案しています。このチームには独立したチーム長やファシリテーターが置かれ、RWM社の職員や調査エリアに含まれる市議会や州議会等の地方自治組織や、地元企業等が参加し、選定プロセスへの参加に当たっての関心や懸念に答え、信頼を構築することを目的としています。今後政府は、2018年4月まで実施されたコンサルテーションの結果を踏まえて、地域との協議プロセスを最終決定する予定です [12]


<新型原子炉の一般設計評価でのステークホルダーとの対話の活用>

 英国政府は2008年1月に公表した原子力発電に関する白書において、原子力発電所を新規建設する方針を打ち出しました。これに関して、規制機関(ONR)による炉型の評価である包括的設計審査(GDA)に対して、ONR、環境庁、ウェールズ自然保護機関(NRW 7 )は、ステークホルダーの参加をどのようにするかを検討するために、2014年11月~2015年8月の10か月間にわたって、パブリックとの対話活動を実施しました。まず、パブリックの関心等を把握するために、401名 8 を対象にオンライン調査を実施し、その後、第1ラウンドのワークショップを2015年1月に2か所で41名を対象に実施して 9 、GDAに関するトピックや背景について、オンライン調査で把握した関心等に応える形で紹介を行いました。その後、同参加者を対象として、2015年3月に第2ラウンドのワークショップを開催し、GDAについての理解を深めるための議論が行われ(図11)、以下のように総括されました(図12) [13]

 GDAに関するSciencewiseの枠組みを活用した対話の経験を踏まえ、規制当局は、GDAに関する総合的な情報をグラフィックも活用して整備する等、ウェブサイトやコミュニケーションツールの内容を工夫しています。また、信頼構築していく上で、対面(FacetoFace)での対話の重要性を確認できたと、対話の成果を評価しています。

     

図 11  GDAに関するSciencewiseの枠組みを活用した対話活動の流れ

(出典)Sciencewise「Case Study New nuclear power stations – improving publicinvolvement in reactor design assessments」(2016年)に基づき作成 [14]



     

図 12 GDAに関するSciencewiseの枠組みで実施された対話での議論の総括

(出典)3KQ「GDA public dialogue report」(2015年)に基づき作成 [14]





② 事業者等による双方向の対話

1)業界での取組

英国の原子力産業界と政府との協議体であり、原子力産業界を主導する役割を果たす原子力産業協議会(NIC 10 )は、2014年に、原子力業界の社会に対するコミュニケーション活動に関する“InthePublicEye”と題した文書を取りまとめました [15] 。同文書では、ステークホルダー・インボルブメント 11 に関するベストプラクティスから導出された原子力に対するパブリックの態度を高める以下の4つの原則を採用する方針が示されています。

  • ・「透明性」(clarity)
  • ・相互尊敬に基づく「信頼」(trust)
  • ・国民が気にしている問題を聞き、対応する機会としての「対話」(dialog)
  • ・原子力に関する政府の政策の実際的な作業としての地域のステークホルダーと
     の「相談」(consultation)の促進(facilitation)

 このような方針に基づく取組を、原子力業界横断的・協調的に実践していくために、NICに参加する原子力企業は、2015年12月に、ステークホルダー・エンゲージメントに関する協約に署名しました [16] 。この協約では、以下の4つの原則が示されています(図13)。

     

図 13 協約に示されたステークホルダー・エンゲージメントの4つの原則

(出典)NIC「Concordat for Public Engagement」(2015年)



2)各事業者による地域のステークホルダー組織

 各事業者は、特に原子力施設の立地地域住民を対象とした双方向の対話を行っています。例えば、地域社会と原子力関係者間の橋渡しを行う目的で、地域連絡委員会(LLC 12 )、サイトステークホルダーグループ(SSG 13 )、地域社会連絡委員会(LCLC 14 )と呼ばれるステークホルダーの会が、原子力発電所が立地する地域等に設置され、原子力施設の許認可を有する事業者によって運営されています 15 [17]
 SSGの設置は、法令等で事業者に義務付けられているわけではないものの、原子力廃止措置機関(NDA 16 )が所有する原子力サイトに設置されているSSG 17 については、NDAがSSGの組織構成等を示した包括的なガイダンス文書を作成しています。同ガイダンス文書では、SSGの活動内容が以下のように説明されています[18]

・地域社会を代表して、サイト操業者 18 、NDA、規制機関からの情報提供を受け、質問する。
・サイト操業者等の事業計画や進捗についてコメントするとともに、関心のある情報に対する最新情報を要求する。
・NDAやサイト操業者、規制機関に対して適時の助言(SSG会合での発言、NDAのコンサルテーションへの回答等)を行うことを通じて地域社会の見解を表明する。

 EDFエナジー社の原子力発電所に設置されているLLCやLCLCについても同様の活動が実施されています。ヘイシャム原子力発電所のLCLCについては、地元住民、メディア、消防や救急機関、地元代議士等のステークホルダーが参加しています。定期会合では、一般公衆が傍聴することも可能であり、会合の最後には質問も受け付けられています [19]


(4)政府によるステークホルダー・エンゲージメント

 英国政府によるステークホルダー・エンゲージメントの取組としては、政策文書等に関するパブリックコンサルテーションが挙げられます。例えば、原子力発電所の新設に関する国家政策文書(NPS 19 )について、政府は2017年12月から2018年3月まで、ウェブサイト上でパブリックコンサルテーションを行いました。NPSでは、2026年以降に新たに原子力発電所を建設するのに適したサイトの候補が記載され、政府はコンサルテーションで寄せられる意見を踏まえて、NPSを最終決定し、議会での承認を得る計画です。なお、現在作成されているNPSは2度目で、初回のNPSは2009年に案が公表され、今回と同様にパブリックコンサルテーションが実施されました。最初の結果を踏まえて政府はNPS案を変更し、さらに、その変更が環境・社会・経済面での影響評価に係る部分であったことから、2010~2011年にかけて、再度コンサルテーションを実施し、2011年に最終決定されました。また、英国政府はコンサルテーションを行った後、NPSのような政策文書を最終決定する際には、コンサルテーション中に寄せられた意見等の内容を分析・整理し、その内容をどのように最終決定された文書に反映したのかについて総括した報告書を公表しています [20] 。このような例は、英国政府がステークホルダー・エンゲージメントを行い、政策に係るプロセスへのパブリックやステークホルダーの参画を実現している例といえます。

コラム ~コミュニケーションに用いられる心理面の考察~

 英国では多くの科学者が科学コミュニケーションに関わっています。コミュニケーションに用いられるメッセージの心理面について次のような考察が発表されています。
 英国王立大学のM.グリムストンは「世論は、科学に根ざして議論されるわけではない。
 例えば、英国では、はしか、おたふく風邪、風疹のワクチン接種、携帯電話のアンテナ支柱、狂牛病、遺伝子組み換え作物、低レベル放射線などが、同じ道をたどっている」として、その原因を考察し、「コミュニケーション問題では、「公衆」(メディアを含む)に合理性があり、産業界は不合理であることがよくある」、「人間的・心理的に捉えられる合理性は、技術的な合理性よりも「下位」なのではなく、別のものである。あらゆるコミュニケーションでは、心理的な合理性を第一に考えなければならないと述べています。
 グリムストンは著書で、“放射線恐怖症”の原因を考察し、原子力特有の表現に問題があると述べています。例えば、「二度と東電福島原発のような事故を起こしてはいけないと直接的に述べるのは、原子力特有で、絶対安全が可能で、必要だと話しているのと同じである。原子力産業ではこのような言い方をすることが多いが、他の産業ではこういう言い方はしない。石油業界は原油漏れによる海洋汚染について、今回の教訓を活かして今後はよりよく対応できると述べる」としています。
 グリムストンは「安全であることを一生懸命説明すればするほど、逆に危険であると不安を与えることになる。これは世界中の原子力産業界にいえることで、ぜひとも原子力産業界には普通になってもらいたい。原子力が非常に危険と考えずに、科学・工学に基づいて実施している安全対策を実直に説明することが重要である。国民の理解のためには正直で一貫性のある説明、知らないことを認めること、他の観点を受け入れること、原子力反対派も含む利害関係者と信頼関係を築くこと、正確な事実を伝えること、メディアの不正確な情報に異議を唱えること、長期的なプロセスが必要である。」と2014年の日本原子力産業協会の年次大会で講演しています。
 英国ではこうした心理面の考察結果が、産業界の行う原子力コミュニケーションにおいて参考にされています。英国や米国ではリスクコミュニケーションがコミュニケーションそのものとは考えられていません。日本の原子力コミュニケーションではリスクコミュニケーションに重点が置かれてきましたが、今後はメッセージの心理面を理解して、ステークホルダーの関心に応じて、コミュニケーションする必要があります。     

     


3-2 米国におけるステークホルダー・インボルブメントの考え方と現状

(1)背景と全体像

 米国では、1979年に発生したスリー・マイル・アイランド(TMI 20 )原子力発電所事故の発生後に、事故に関して発する情報の質やその発信の仕方に問題があり、事業者と原子力規制委員会(NRC 21 )に対する不信感を大きくした反省 22 から、ステークホルダー・インボルブメントの必要性や重要性が認識されるようになりました。

 NRCは、放射性物質の利用等の監督とそれによる公衆や環境の保護というミッション達成には、「開示(openness)」と「パブリックの参加(publicparticipation)」、「協働(collaboration)」が必要不可欠と考えるとともに、パブリックやステークホルダーの信頼を醸成しながら規制活動を実施しなければならないという基本姿勢を表明し、これをNRCウェブサイト上で公開しています。また、NRCは、ステークホルダーとして以下の7類型を示しています(図14) [21]

     

図 14 NRCのステークホルダー

(出典)NRC「Citizen's Guide to U.S. Nuclear Regulatory CommissionInformation」(2003年) [21]


 NRCはこうした基本姿勢を示し、ステークホルダーを特定した上で、安全規制に関する説明責任を果たすために、様々なステークホルダー・インボルブメントの取組を行っています(図15) [22]

     

図 15 NRCのステークホルダー・インボルブメントに関する取組のポイント

(出典)NRC「Remarks by Chairman Stephen G. Burns Nuclear Energy Agency Workshop on Stakeholder Involvement in Nuclear Decision Making Keynote Speech January 17, 2017 Paris, France」(2016年)に基づき作成



 また、エネルギー省(DOE 23 )は、全米に国立研究所や、過去の核兵器の開発・製造によって汚染され、DOEにクリーンアップの責任があるサイト等を多数有しており、それらの活動状況をまとめて、ウェブサイトや報告書で公開しています。さらに、これらの情報から、各地の国立研究所のより詳しい活動状況も検索できるようになっており、このような情報環境の整備が、ステークホルダーの廃止措置・環境回復活動に対する理解増進に役立っていると考えられます。さらに、ワシントン州ハンフォードサイトにおけるクリーンアップ活動への新技術の適用や公衆の健康と安全などのテーマに関し、公衆、先住民など関係するステークホルダーとの協議を行ってきている例 [23] のように、ステークホルダー・インボルブメントの活動が積極的に進められました。

 一方で、事業者は地元住民を対象として、緊急時の対応等に関する実践的な情報に関する情報環境の整備等のステークホルダー・インボルブメントの取組を行っています。また、電気事業者が加盟する業界団体である原子力協会(NEI 24 )は、原子力産業界の代表という立場で、原子力発電の価値を訴求すべく連邦議会や中央メディアなどのステークホルダーへ働きかけを行っています。



(2)情報環境の整備

 米国では、科学振興協会(AAAS 25 )が意思決定や政策決定のあらゆる局面で科学的根拠の適切な活用の促進をリードしています。その範囲は、地域レベルから、州、国家更には国際的な政策にまでわたります。英語の根拠情報が、米国のみならず、世界の学協会、国際機関等で作成され、インターネット検索を考慮して提供されています。これらが、政策決定における科学的根拠に基づくコミュニケーションの基盤を形成しています [24]


① 政府による情報環境の整備

1)DOEによる取組

 DOEにおける情報体系の整備の取組の事例として、OpenNetデータベースの構築が挙げられます。OpenNetデータベースは約50万件の書誌情報や約15万件の機密扱いを解除された文書(情報公開法(FOIA)による情報公開請求に応じて機密解除されたものを含む)にアクセスするためのデータベースです。OpenNetデータベースは、より多くの情報を提供できるようにするために、定期的にアップデートされています [25] 。加えて、環境管理局(EM)では、核兵器開発施設の廃止措置に係る政策情報が作成され、HPで公開されているとともに、各地域におけるステークホルダー関与の活動が進められており、必要な情報や進捗状況等が提供されています。また、原子力エネルギー局(NE局 26 )では、原子力エネルギーの研究開発の政策が提供されています。さらに、原子力エネルギー局のホームページのメニューには「教育」の欄があり、国家エネルギーのオプションや将来の選択等について情報に基づく決定ができるように、学生を対象にした事実情報の提供を行っています [26] 。「原子力の利用(HarnessedAtom)」と題するカリキュラムには、学生向けと教師向けの資料が作成されています [27]


2)NRCによる取組     

 米国では、NRCのウェブサイトが、パブリックやステークホルダーに対する原子力安全関係の情報源として主要な役割を果たし、NRCの役割や予算、活動・意思決定、規制原則・目標・規制方法、ステークホルダーの認識・明示、NRCの存在価値を高める方法等について、正しく、分かりやすい情報を作成し、タイムリーに公開しています。

 NRCでは、情報公開のシステムとして以下の3つの形態を有しています [21]


イ)ADAMS 27

 ADAMSには、NRCが作成・公表している規制関連文書や原子力事業者がNRCに提出した文書等に文書番号を割り当てられて登録されており、関心のある情報を容易に検索できるシステムです。また、NRCが開催するパブリックミーティングで配布する資料には、関連文書のADAMS番号が記載され、詳しい情報を知りたい人はADAMSで容易に検索できるといった工夫もされています。


ロ)ウェブサイト

 NRCのウェブサイトには、東電福島第一原発事故から得られた教訓等、注目度の高いトピックの情報へのリンクが置かれています。その他、委員会会合の予定や動画中継へのリンク、委員のスピーチ等が閲覧・視聴できます。また、学生・生徒や教師への情報提供のコーナーも整備されるなど、閲覧者のニーズを考慮した情報が整備されています。


ハ)NRCの政府情報探索サービス(GILS 28

 GILSは連邦政府全体の中で、情報源を特定し、示すためのシステムです。NRCは、政府情報探索サービスに参加しており、関心を持ったステークホルダーは同サービスを通じて、NRCの情報を探すことが可能です。

コラム ~NRCによる情報環境の整備を通じたコミュニケーション~

 NRCは「RegulatorofNuclearSafety」と題した基本文書 [28] において、原子力発電等の事業に対する規制が必要な理由に始まり、その規制を行うNRCの組織、規制の内容(原子力発電所に対する許認可発給、検査)、規制に必要な研究開発等について説明しています。またNRCの規制活動にとどまらず、核分裂反応の仕組み、原子炉の構造等の基本的な情報や、核セキュリティ、放射性廃棄物管理等、原子力利用に関する広範な分野について、以下のような図絵を用いて分かりやすく説明しています。さらに、同基本文書の末尾には、より詳細な情報が知りたいと思ったパブリックやステークホルダーが情報を得られるように、関連するウェブサイトのURLも示されています。     

     
     

(出典)NRC「NRC–Independent Regulator of Nuclear Safety」(2012 年)

 NRCがこのような文書を作成して公開する背景には、情報環境の整備やステークホルダー・エンゲージメントの取組が、NRCの規制活動の基盤となると考えていることがあります。NRCは2014~2018年を対象とする戦略プランにおいて、規制の透明性を担保するため、パブリックにとっての読みやすさを追求すること、技術的な情報についても、可能な限り平易な言葉を用いて説明すること等の方針を掲げています [29]

     


② 事業者による情報環境の整備

1)NEIによる取組

 NEIは米国の原子力発電を行う電力会社や原子炉メーカーなど原子力関係企業を会員とする協会です。原子力発電所近隣に居住する住民をはじめとしたステークホルダーの声や反応について、会員事業者とタイムリーに共有することで、ステークホルダーが何に関心を持っているかを把握し、原子力産業界としての情報を発信しています。

 NEIにはコミュニケーション部があり、約20人、年間予算約10億円で以下の活動を行っています。

(ア)会員優先のコミュニケーション

(イ)原子力エネルギーのブランド化

(ウ)メディア対応活動

(エ)支援支持活動(アウトリーチなど)

(オ)編集サービス

(カ)創造的サービス

(キ)世論調査等の研究

 情報環境の整備に関してNEIは、ウェブサイトにおいて、以下の情報をはじめとして豊富な根拠情報を提供しています。さらに、各情報が横断的につながり、根拠情報までたどることが容易になっています。

  • ・統計原子力発電のコスト世界の原子力発電による発電量と設備容量
  • ・米国の原子炉の地図
  • ・ファクトシート(例えば、「州ごとの原子力利用ファクトシート」、「米国の
     原子炉における安全性向上の歴史」、「東電福島第一原発事故とチェルノブイ
     リ事故の比較」など)
  • ・報告書、概要資料
  • ・NEIによる議会証言や書簡等
 例えば、「東電福島第一原発事故とチェルノブイリ事故の比較」をクリックすると、図-16に示したページが開きます。ここでは、これらの事故の原因や影響などを分かりやすく解説した「鍵となるファクト」が7点の箇条書きでまとめられています。
 さらに、ページの下までスクロールすると、「関連情報」として、世界保健機関(WHO 29 )が東電福島第一原発事故による健康リスクを評価した2013年の報告書及び、放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR 30 )の放射線影響に関する2008年の報告書と2013年の事故による放射線被ばくのレベルと影響の報告書へのリンクが設定されています。

     

図 16 NEIウェブサイトにおける分かりやすい解説や、 国際機関が取りまとめた報告書へのリンクの設定の例

(出典)NEIウェブサイト 31



2)電気事業者(デューク・エナジー社)

 個別の電気事業者による情報環境の整備の一例として、デューク・エナジー社のウェブサイトにおける情報提供の状況を紹介します。同社のウェブサイトでは、それぞれの原子力発電所に関して、事故発生時の緊急放送の周波数帯、緊急時計画区域内における各学校の避難先となる学校や避難ルート等を示した地図、安定ヨウ素剤に関する問合せ先等の情報が整理されています [30] 。デューク・エナジー社の事例のように、米国では原子力事業者はウェブサイトにおいて、原子力発電所の近隣住民を主に対象として、緊急時対応等の具体的・実践的な情報を提供しています。


(3)双方向の対話

① 政府による双方向の対話

1)DOEによる双方向の対話
 DOEはパブリックやステークホルダーがどのように原子力に関する情報を認識し、共有しているのかを知るための手段としてSNS等を活用しています。2014年2月にニューメキシコ州にある国防活動起源の超ウラン核種を含む放射性廃棄物(TRU 32 廃棄物)の地層処分場である廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP 33 )で事象が発生した際には、SNSを活用して情報提供を行いました。さらに、オクラホマ大学に委託し、「WIPP」という語が含まれたTwitterの書き込みを分析し、ツイートの数や頻出している用語などの分析を行いました。DOEの現地事務所は、この事象を踏まえてSNSを活用する際の留意点等として以下を挙げています [31]

・訴求したいステークホルダーにフィットしたSNSを特定する
・定期的に有益な情報や興味深いコンテンツを公開することで、フォロワーを獲得する
・地元又はオンラインで、コミュニティと関係を構築する
・事象が発生する前に信頼を構築する-事象の最中に信頼を構築しようとしても遅い
・情報は早期に、また頻繁に公表する

このWIPPの事例からは、DOEがステークホルダーに情報を伝えるに当たって、事象がどのように捉えられているかをソーシャルメディアも活用して把握し、その上で情報を伝える手段やメッセージを決定していることがうかがえます。



2)NRCによる双方向の対話

<パブリックミーティング 34

NRCは年間を通じて、非常に多くのパブリックミーティングを開催しています。パブリックミーティングでは、規制活動に関心を持っているパブリックやステークホルダーに対し、対象(カテゴリー)に応じて関与の方法を選択し、規制活動に対する関心や意見を聞き、対話を行っています。パブリックミーティングを通じたステークホルダーの関与増進を目指して策定されたポリシー・ステートメント「NRCのミーティングにおけるパブリックの参加の増進」では、パブリックミーティングが表2のように、目的によって3つのカテゴリーに区分されています [32]


 
表 2 NRCが実施しているパブリックミーティングのカテゴリー別の目的とステークホルダーの関与
カテゴリー 目的 パブリックやステークホルダーの関与
カテゴリー1 単一の事業者、特定の施設を対象とした特定の規制について、当該事業者等と議論すること。 パブリックがオブザーバーとして参加するが、質疑等を通じたNRC職員との対話機会はある。NRCは、パブリックが、規制上の論点やNRCの規制行為について理解する助けとなる事実情報を入手できることを期待。
カテゴリー2 複数の事業者に影響を及ぼしうる論点について、当該規制の対象となる産業界(発電事業者や原子炉メーカー等)の代表、非政府組織等のグループからのフィードバックを得ること。 パブリックは、NRCが特定したタイミングで議論に参加できる。カテゴリー1のミーティングよりもパブリックが意見を表明する機会は多くなる。
カテゴリー3 カテゴリー2の参加対象に限定されない非政府組織、産業界等との議論を通じて、ステークホルダーが考える規制上の論点や懸念をNRCが理解し、考慮すること。 許認可に関わる問題、あるいは一般的な規制上の論点について、幅広い情報、意見、見解、懸念等の交換を行うこと。パブリックやステークホルダーはミーティング中、いつでも意見を表明できる。

(出典)第9回原子力委員会定例会議資料1-1号 原子力政策担当室「ステークホルダー・インボルブメントに関する 取組について」(2018年)に基づき作成

     

 このように、カテゴリー1のパブリックミーティングでは、パブリックへの事実情報の提供が中心的な目的となっていますが、カテゴリー2ではパブリックからのフィードバックが期待されており、より積極的な役割が与えられています。さらにカテゴリー3では、様々な組織の代表者の議論が中心とされます。こうしたカテゴリー設定から、NRCがミーティングの種類や目的により、パブリックやステークホルダーの参加の在り方についても細かく配慮していると考えることができます。


<年次評価会合(AAM 35 )>

 AAMは、NRC及びプラントの運転事業者が年に1度、プラントの近郊で開催しています。AAMは、原子炉監視プロセス(ROP 36 )と呼ばれるNRCによるプラントの安全性の評価結果を地元住民等に伝えるという役割も担っています [33]

 AAMは、過去1年間のプラントのパフォーマンス、NRCの取組及びNRCが地元住民の保護のためにプラントをどのように規制しているのかについて議論するための機会と位置付けられています。AAMでは、参加者に対してプラントによるNRCの規制の遵守状況やNRCの監督・検査活動に関する情報提供が行われます [34] 。AAMにはNRCの地元の検査官やその他の職員が参加します。AAMは、地元住民を中心としたステークホルダーへの正確な情報提供を主な目的としたものではありますが、パブリックとNRC職員等との対面でのコミュニケーションの機会が設けられていることから、信頼構築にも貢献していると考えることができます。

 AAMは、録画された画像の放映や書かれた原稿を読み上げる形でなく、実際にNRCの職員が話をする形で進められます。形態として、フォーマルなミーティング、オープンハウス、コミュニティアウトリーチの3つがあるとされています。

 フォーマルなミーティングでは、NRCや事業者からの説明が行われますが、参加者には質問の機会が与えられます。オープンハウスでは、参加者はNRCの職員と一対一で対話をすることができるようになっています。コミュニティアウトリーチは、発電所近郊等で開催されるイベント会場にNRCのブースを設営するものであり、ここでも参加者はNRCの職員と一対一で対話をすることができるようになっています [34]


<SNSの活用>

NRCは、ブログ、Twitter、YouTube、フェイスブック、FlickrPhotostreamといったSNSを積極的に活用しています [35] 。SNSを専門に扱うスタッフもおり [36] 、ウェブサイトでの情報提供やプレスリリースの公表のみならず、様々なSNSのプラットフォームを活用し、ステークホルダーとの直接対話を重視しています [22]



② 事業者による双方向の対話

1)NEIによる取組

 NEIは、会員事業者から要請があった場合には、事業者と原子力発電所が所在する地元自治体との間で行われる双方向の対話の場の調整を行っています。

 また、Twitter、フェイスブック、LinkedIn、YouTubeといったSNSを活用しており、これらのSNSでは、NEIの投稿に対してコメントすることもできるようになっています [37] 。NEIは、デジタルコミュニケーションの専門家等を起用して、定期的にNEIが発信するメッセージによる原子力に対するパブリックやステークホルダーの認知の変化について調査しています。


2)電気事業者による情報提供・ 対話イベント(エクセロン社)

米国では、電気事業者が原子力発電所の立地サイトの周辺住民向けに、情報提供イベントを開催しています。例えば、エクセロン社の原子力発電所では、毎年「コミュニティインフォメーションナイト」と題した情報提供・対話イベントが実施されています。「コミュニティインフォメーションナイト」では、原子力発電所の職員に直接質問する機会が設けられるほか、運転員の訓練のための模擬操作室の見学等も行われます [38] 。こうした取組は、地元住民を中心としたステークホルダーへの正確な情報提供を主目的としたものではありますが、対面でのコミュニケーションを通じて、事業者と地元住民の間の信頼構築にも貢献していると考えることができます。



(4)ステークホルダー・エンゲージメント

① 政府によるステークホルダー・エンゲージメント

1)DOEによるステークホルダー・エンゲージメント

 DOEは、核兵器開発施設の廃止措置を全米107サイトで進めてきています。多くのサイトでクリーンアップを完了していて、それらの経験から以下の教訓が得られています。

【得られた教訓】
・州、地域、部族長、地域の市民グループと協力するなどコミュニティの参画を求める。
・国レベルの政府内組織や市民グループと協力協定を結ぶ。
・できるだけ早い段階からコミュニケーション、規制機関との連携、リスクに基づく透明性と信頼確保に努める。
・ステークホルダーと公衆の参画は、市民、産業、活動家団体、業界などに意見を求め、公衆意見聴取の民主的性格、政策の透明性、政府の決定に影響を受ける市民の価値に留意する。
・環境面での公平性:マイノリティが低所得者や抑圧されたコミュニティに注目し、プログラムや規定で差別を行わない。
・ステークホルダー参画と公衆参画の利点は、より良い周知された決定、決定の理解の促進、意思決定過程の手続化にある。
・早期、頻繁、公開に留意してコミュニケーションをとる。

 また、高レベル放射性廃棄物の地層処分場サイトとして、ユッカマウンテンが法律で定められていますが、ネバダ州等地元の反対もあり、処分場の建設には至っていません。こうした中で、2009年に成立したオバマ政権は、ユッカマウンテン計画を中止し、代替策を策定することとしました。元連邦議会議員や学識経験者などで構成される委員会の検討を経て、2017年1月には「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。)が公表されました。サイト選定プロセス案は、上記の委員会の検討結果に加えて、全米8か所でのパブリックミーティングや意見募集で収集した意見も反映して策定されました。サイト選定プロセス案では、安全性などに加えて、公正・公平、十分な情報を得ながらの参加、立地地域への便益、任意参加/撤退の権利、透明性、段階的・協調的意思決定などの、サイト選定プロセスを設計する際の原則が示されています [39] 。なお、トランプ現政権はユッカマウンテン計画を復活させる意向を示しており、米国の高レベル放射性廃棄物の地層処分場サイト選定が今後どのように進められるのかは不透明な状況となっています。また、高レベル放射性廃棄物の地層処分場サイトとして、ユッカマウンテンが法律で定められていますが、ネバダ州等地元の反対もあり、処分場の建設には至っていません。こうした中で、2009年に成立したオバマ政権は、ユッカマウンテン計画を中止し、代替策を策定することとしました。元連邦議会議員や学識経験者などで構成される委員会の検討を経て、2017年1月には「使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセス案」(以下「サイト選定プロセス案」という。)が公表されました。サイト選定プロセス案は、上記の委員会の検討結果に加えて、全米8か所でのパブリックミーティングや意見募集で収集した意見も反映して策定されました。サイト選定プロセス案では、安全性などに加えて、公正・公平、十分な情報を得ながらの参加、立地地域への便益、任意参加/撤退の権利、透明性、段階的・協調的意思決定などの、サイト選定プロセスを設計する際の原則が示されています。 [39]
 なお、トランプ現政権はユッカマウンテン計画を復活させる意向を示しており、米国の高レベル放射性廃棄物の地層処分場サイト選定が今後どのように進められるのかは不透明な状況となっています。


2)NRCによるステークホルダー・エンゲージメント

 NRCによる原子力安全規制に関する規則の策定や、事業者に対する許認可の発給等においては、NRCの規則に従ってパブリックコメントの募集が行われるほか、策定しようとしている規則案についてNRCがパブリックやステークホルダーと議論するためのミーティングやワークショップが開催される場合もあります。これらのステークホルダー・エンゲージメントに関する情報は、連邦官報やインターネットを通じて公表されています [40]

 またNRCは、1998年と2016年に、原子力関係事業者、産業界、州、先住民部族、非政府組織(NGO 37 )、学界等のステークホルダーを一堂に集め、NRC規制に対する忌憚のない意見を求めるミーティング(ステークホルダー・ミーティング)を開催しました。このミーティングでは、NRCによる規制の効率性、ステークホルダー・エンゲージメントの有効性及び、規制や意思決定におけるリスク情報の活用等について議論されました。その後、NRCは、ステークホルダーから提出された勧告や論点を整理し、それに対するNRCの対応を示した文書を作成し、公表しています [41]


② 事業者によるステークホルダー・エンゲージメント

NEIは議会、ホワイトハウス、連邦規制庁、及び州の政策フォーラム等に対し、正確でタイムリーな情報とともに、原子力エネルギー及び原子力技術のグローバルな重要性に関する産業界の統一見解を提供しています。このような活動の一環として、例えば、ホームページ上で原子力発電所建設に関する市民の意見を求める活動なども実施しています。特に近年では、経済性を理由に閉鎖される原子力発電所が相次いでいることから、気候変動対策や雇用確保の観点から、原子力発電の必要性をアピールする活動を行っています。NEIはこのような活動において、パブリックやステークホルダーの意見も活かそうとする取組を行っています。NEIが開設した“NuclearMatters”と称するプラットフォームでは、原子力発電の有効性をアピールする活動への登録ページが設置されており、登録すると、関連する情報が適時提供され、具体的な活動に参加できるようになっています [42] 。これは、原子力エネルギーの有効性を促進するキャンペーンとして使われるものであり、原子力エネルギー源をサポートする政策をオーガナイズし、促進するのに当たり普通の市民を支援するものです。“NuclearMatters”の説明には、「NuclearMattersによってあなたも参加できます」とのメッセージが記されています。

 NEIのホームページの“NuclearMatters”のページには、「原子力発電所をサポートするために行動を起こそう」とメッセージが明記されていて、対象地域を選択した上で、当該地域に対応した数項目が現れ、それぞれについて市民が自らの考えを表明できるように工夫されています。

 例えば、「○○原子力発電所の建設をサポートする」にある「Takeaction」のボタンをクリックすると、当該原子力発電所の説明と地域への経済効果などの説明が現れ、同じページの中に、建設をサポートするE-mailを簡単に送付できるような工夫がなされています。

 また、ステークホルダー・エンゲージメントに関係して、産業界の活動の焦点を明確にしたアウトリーチ活動や地域でメディアアウトリーチ活動などを行っています。さらに、ポリシーを明確にしたブリーフィングやリポーターのプラントツアーなども行っています。


3-3欧米諸外国における取組の概要

英国、米国を含め、諸外国のステークホルダー・インボルブメントの取組について表3に示します。これらは経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA 38 )や、国際原子力機関(IAEA 39 )等で共有されている、ステークホルダーの意思決定への参画に関する諸外国の教訓、共有されている事例を中心にまとめたものです。

               
表 3 諸外国におけるステークホルダー・インボルブメントの取組とその考え方
国名 組織 目的・考え方 取組
英国[43]・英国原子力廃止措置機関(NDA)
・ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)
※パブリックとの協議は、政府のSciencewiseの枠組みを活用して実施
・ステークホルダーとのコミュニケーションを利用して信頼関係を構築する
・ステークホルダーの参加により、政策や規制の決定プロセスを改善する
・賛否が分かれるテーマに関する意思決定の際に、公衆の見解を反映することで、戦略的かつ実態的に意思決定を進め、こう着状態に陥るリスクを低減する
・ステークホルダーの直接参画により、民主的プロセスを支援する
・地層処分場の立地サイト選定プロセスの再検討についてステークホルダーとの対話を実施する
・地層処分など、国民の関心が特に高い政策課題について「Sciencewise」を実施する   
・原子力規制局(ONR)
※パブリックとの協議は、政府のSciencewiseの枠組みを活用して実施
・新型原子炉の設計認証のプロセスについてオンラインでの調査とステークホルダーとの対話を実施する
・英国科学協会 [44] ・協会のミッションである科学の多様性と包摂性の形成を図る
・科学に積極的に携わる人々を増やす
・より多くの人々が科学に従事するよう、様々なプロジェクトや計画をコーディネートし運営する [44]
・協会の地域支部ネットワークを活用し、文化や社会の基本的な一部である科学領域のビジョンに関し、国家及び地域組織とパートナーシップを構築し、協会活動を実施する [44]
・公衆と研究者が語り合う英国科学フェスティバル(British Science Festival)のようなプラットフォームを提供する [45]
・サイエンスコミュニケーターが他のセクターから学ぶことを奨励する [46]
・英国の原子力に関連する公衆関与等の活動をまとめる(Making sense of nuclear, What’s changed in the debate 2017) [47]
英国[43] ・サイエンスメディアセンター(SMC) [48] ・科学が見出しとして扱われる記事について、ニュース媒体を通じて公衆が最良の科学的根拠や専門的知見にアクセスできるようにする
・公衆と政策決定者の利益のために、科学及び技術に関わる正確で根拠に基づいた情報をメディアを通して提供する(特に、混乱や誤った情報伝達が起こる争点に関わるようなあるいは見出しで扱われるニュースを扱う)
・ジャーナリストに科学情報及び関連する情報を提供する
・科学記事が見出しに扱われるような場合に、ジャーナリストに最良な科学的内容及び科学者にコンタクトを可能にする
・科学者、工学者、及びその他の専門家と協働し、メディア活動に従事するのを支援する
・プレス担当者が科学、健康及び環境に係る複合的な課題に関わる場合に、プレス担当者をサポートする
・科学関連課題に関し、専門家のアドバイスや根拠情報を提供する
・原子力産業協会(NIC) [49] ・原子力産業界と政府が協働する場合の調整を行う
・産業界が直面する課題に取り組み、戦略的意思決定を行うことを通じて、将来の機会を実現する手助けをする
・原子力産業全般にわたる長期的
・戦略的課題に関する見解について議論、意見交換を行う場を提供する
・産業及び政府の長期ビジョンを実現するために必要なアクションを特定するため、広く産業界及びアカデミック/研究者コミュニティと協働する
・「公衆の視点で原子力エネルギーと社会」(2014年7月)を発刊し、政府、産業界、他のステークホルダーに対し原子力エネルギーの利点等が認識されるよう、高いレベルの戦略を示している
米国
[50]
[51]
[52]
[53]
・エネルギー省(DOE) ・ステークホルダーの関心や懸念を理解し考慮することで、一般国民との信頼関係を構築する
・ステークホルダーの関心を把握し、SNSにより不正確な情報の拡散を防ぐ
・使用済燃料及び高レベル放射性廃棄物の集中貯蔵
・処分施設のための同意に基づくサイト選定プロセスの設計に向けたパブリックコメントの募集、パブリックミーティングを実施する
・SNSを活用して情報発信を行い、また原子力に関してユーザーが発しているメッセージを把握する
米国
[50]
[51]
[52]
[53]
・原子力エネルギー協会(NEI) ・原子力利用促進のポリシーを実現する。
・重要決定に関わる正確かつタイムリーな情報の提供を通じて、原子力政策における政策の意思決定の補助をする [54]
・産業界のリーダー向けに重要課題の要点を示す資料を作成して配布する
・コミュニケーション訓練を行う
・公衆意識調査や他産業のキャンペーンを支える公衆意見の研究を行う
・産業界の活動の焦点を明確にしたアウトリーチ活動を行う
・地域でメディアアウトリーチ活動を行う
・ポリシーを明確にしたブリーフィングやリポーターのプラントツアーを実施する [55]
・原子力規制委員会(NRC) ・一般国民に向けた規制に対する信頼の構築に役立てる
・地元住民の意見を規制の改善に役立てる
・SNSにより既存のメディアによる情報発信を補完するとともに、パブリックやステークホルダーの関心やニーズを把握する
・NRCの規制活動を説明する基本文書を作成
・公開する
・パブリックコメントの募集、パブリックミーティングやワークショップの開催、原子力発電所の運転状況についてコミュニティセンター等でNRC職員が説明するオープンハウスを実施する
・SNSの活用とそれに必要な職員等のリソースを手当てしている
フラ
ンス
[56]
[57]
[58]
・フランス電力(EDF)
※公開討論は、EDFが独立した第三者委員会である公開討論委員会(CNDP 40 )に付託して実施
・ステークホルダーからの信頼を得る
・ステークホルダーの意見等により意思決定内容を改善する
・原子炉新設に関する公開討論の場を設け、地域住民や環境保護団体に対して情報提供や疑問、意見に対する回答を行う
フランス
[56]
[57]
[58]
・放射性廃棄物管理機関(ANDRA) ・地域への情報発信や公開討論会の開催による対話活動を実施し、地域の振興・共生に寄与する ・地元選出代議員、県会議員、職能団体・医療団体の代表、特定個人、地元市町村の長、環境保護団体メンバー等で構成され、アドバイザーとしてANDRAや原子力安全機関(ASN 41 )代表が参加する地域情報委員会(CLIS 42 )が年2回会合を開催し、高レベル放射性廃棄物の管理・処分に関する議論を行い、公衆に対する情報提供も行う国家評価委員会(CNE 43 )、原子力安全情報と透明性に関する高等委員会(HCTISN 44 )も活用する
・CLISには地層処分の可逆性、環境・健康、廃棄物処分、コミュニケーション、公開討論に関する専門部会が設置
・ANDRAは2006年放射性廃棄物等管理計画法に基づき、地層処分場の設置許可申請に先立ち、公開討論会を開催するようCNDPに付託した
・CNDPは、反対派の妨害のため、小規模な住民参加の会合、特設ウェブサイトでの討論番組の配信、インターネット会議を開催した。また、締めくくりとして全国から無作為に選ばれた地元8名を含む17名の市民パネルによる市民会議を開催し、総括報告書を公表した
・公開討論会の結果を受けてANDRAは地層処分プロジェクトの継続に向けた改善案を公表した。その内容は法律にも規定された
フランス
[56]
[57]
[58]
・原子力安全機関(ASN) ・規制活動に対する信頼を構築する(規制機関として実態的な独立性の担保につながる)
・ターゲットごとに異なる対象に、タイムリーに幅広く情報を発信する
・原子力施設の許認可発給に際して地域情報委員会(CLI 45 )等に対する意見聴取を実施する
・専門家、NGO等のステークホルダーが参加する内部諮問委員会を設置し、ASNが規制関連の決定を発出する際に事前に意見を聴取する
・SNS等を内容やターゲットに合わせて活用する
スイス
[59]
[60]
・連邦エネルギー庁(SFOE 46
・放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA 47
・ステークホルダーの参加により、放射性廃棄物の最終処分という国が直面する課題についての理解の深化を促進する
・立地候補に挙がっている自治体が地層処分場を最終的に受け入れるために、情報の透明性と公正性を確保する
・立地サイトが最終決定する前に、ステークホルダーを選定プロセスに参画させるため、地層処分場のサイト選定プロセスで、立地候補となっている6地域に設置された地域会議において、処分場を立地した場合の地域の発展プロジェクト等について協議する
カナダ [61] ・放射性廃棄物管理機関(NWMO 48 ・地層処分場のサイト選定プロジェクトを適切な方向に進める
・より良い意思決定に寄与する
・プロジェクトを地域のニーズに最大限沿ったものにする
・プロジェクトの推進力を強化する
・ステークホルダーの期待を聴取し、理解するとともに、多様な視点を得られる対話を実施する。具体的には、情報提供と議論の場の設定、市民との対話、先住民と対話、意見調査等を実施する。
フィンランド [62] ・Fennovoi
ma社
・地元の支持基盤とするため、原子力発電所新設プロジェクトのステークホルダーによる受容を目指す ・ピュヘヨキサイトでの原子力発電所新設プロジェクトに関して定常的に地元に足を運び、地元住民が情報を得たいときに提供する
・新設プロジェクトによる雇用創出等の国や地域へのメリットを発信する
・ポシバ社 ・環境に対する影響の評価を深め、計画策定及び意思決定における検討を促進し、同時に市民が入手可能な情報と参加する機会を増やす(環境影響評価:EIA 49 手続) ・EIA手続では、4か所の候補地点に関してEIA計画書及びEIA報告書を公告、縦覧、新聞掲載等により情報開示し、市民の意見を聴取した。また、地元住民向けの対話集会やワーキンググループ会合、地元自治体の職員や自治体議会の議員向けの「協力/フォローアップグループ」、自治体を運営する参事会向けの会議等の地域コミュニケーションの組織作りや、情報提供、会合を実施した
・原則決定手続では、原則決定の申請、安全性を含めた処分場の建設・操業計画について情報開示と意見聴取を行った
スウェーデン ・スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB 50[63] ・住民に対する放射性廃棄物の理解深化を目的として、情報伝達や対話の場の構築などを実施する ・環境法典に基づく正式なEIA協議は、エストハンマルでは2002年から開始[エストハンマル自治体の場合]
・1995年にフィージビリティ調査が開始された時点で自治体行政を統括する執行委員会(議会議員の代表で構成)は、準備グループとレファレンスグループを設置
・レファレンスグループは、議員に加え住民や隣接自治体からの代表者も参加するグループで、住民への情報伝達活動を行う役割も担った。レファレンスグループは定期会合のほかに、勉強会や意見交換会を随時開催
スウェーデン ・原子力廃棄物評議会 ・放射性廃棄物、原子力施設の廃止措置等に関して政府に十分な基盤に基づき助言する
・SKBの研究報告書のレビュー及び関心のある自治体、地域評議会、環境団体、政治家及び規制機関との対話により、更に調査され特定される必要のある課題を特定する [64]
・SKBによる放射性廃棄物の最終処分に関する「研究開発実証プログラム」(RD&Dプログラム)報告書、申請書及びその他の関連報告書の評価を行う
・放射性廃棄物分野における最新状況に関する評議会の独立した評価を示した報告書を提出する
・政府に十分な根拠を伴う勧告を提出できるよう、公聴会及びセミナーの開催により、放射性廃棄物分野における重要な問題の調査及び解明を行う [65]
・放射線安全機関(SSM 51 ・放射線及び原子力安全に関する知識が構築されることに貢献する ・公衆に対し、ラドンや太陽のような自然放射線源からの防護に関するアドバイスや勧告を提供する [66]
オーストラリア [67] ・原子力科学技術機構(ANSTO 52 ) ・活動に対して社会的な支持を得る
・レピュテーションリスク(否定的な評価に起因する組織の信頼低下等のリスク)を低減する
・フランスから返還される医療関連の放射性廃棄物の管理について、ステークホルダーやメディアの関心に答える
・ANSTOの医療関連の活動にフォーカスして実績や利益を示す
・返還される放射性廃棄物について明確な情報を豊富に提供する



  1. 原子力以外の分野においては、ステークホルダーの参画度合いの高低に応じた言葉の使い方が、この定義と異なる場合もあります。あらゆる分野に共通する言葉の定義はなく、原子力分野におけるステークホルダーと意思決定者との関わり方に関する諸外国の事例を調査した結果、原子力委員会として整理したものです。
  2. Department for Business, Energy & Industrial Strategy
  3. Health and Safety Executive
  4. https://www.gov.uk/guidance/2050-pathways-analysis
  5. Office for Nuclear Regulation
  6. https://www.edfenergy.com/energy/safety-reporting/protecting-public
  7. Natural Resources Wales
  8. 居住地、年齢、性別の構成が2011年の英国国勢調査結果と同じ比率となり、全国民の意見が反映されるように選択されています。ただし、原子力に対して明確な意見を表明している原子力業界関係者やNGOメンバーは除かれています。
  9. 第1ラウンドのワークショップ参加者は、複数の性別、年齢、社会階層で構成される者を選択。ただし、原子力業界関係者や、原子力に賛成・反対等の活動を行っている者は除かれています。第2ラウンドのワークショップ参加者は、第1ラウンドのワークショップの参加者のうち、第2ラウンドへの参加関心を表明した者から選定されています。
  10. Nuclear Industry Council
  11. 原語ではパブリックインボルブメントとされていますが、前述のとおり、ステークホルダーは状況に応じて変わ り、場合によっては、国民全体もステークホルダーになりえるので、本特集記事においては、ステークホルダー・ インボルブメントと読み替えて記載しています。
  12. Local Liaison Committees
  13. Site Stakeholder Group
  14. Local Community Liaison Councils
  15. SSG:バークレー、チャペルクロス、ドーンレイ、ダンジネス、ヒンクリーポイント、ハーウェル、ハンターストン、 オールドベリー、サイズウェル、スプリングフィールズ、西カンブリア 、トロースフィニッド、ウィンフリス、ウィ ルファ、LCLC:ハートルプール、ヘイシャム、ブラッドウェル、LLC: カーペンハースト、トーネス
  16. Nuclear Decommissioning Authority
  17. NDAサイトのうち、ブラッドウェルのみLCLCが設置され、残りはSSGが設置されています。
  18. NDAが所有する原子力サイトの実際の事業運営は、サイト操業者(多くは民間企業)に委託されています。
  19. 原子力発電所を含めた国家的に重要なインフラ・プロジェクト(NSIP)の許認可に際して、迅速に判断を下すために策定される政府の戦略的方針です。
  20. Three Mile Island
  21. Nuclear Regulatory Commission
  22. 事故後に大統領の指示により設置されたいわゆる「ケメニー委員会」の報告書で指摘がなされています。
  23. Department of Energy
  24. Nuclear Energy Institute
  25. American Association for the Advancement of Science
  26. Office of Nuclear Energy
  27. Agencywide Documents Access and Management System、ADAMS https://adams.nrc.gov/wba/
  28. Government Information Locator Service
  29. World Health Organization
  30. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
  31. https://nei.org/site-map, https://nei.org/resources/fact-sheets
  32. transuranic
  33. Waste Isolation Pilot Plant
  34. NRCの「パブリックミーティング」とは、NRCの職員と外部のステークホルダーが参加し、公開して開催され る会合と定義されています。
  35. Annual Assessment Meeting
  36. Reactor Oversight Process
  37. non-governmental organization
  38. Organisation for Economic Co-operation and Development / Nuclear Energy Agency
  39. International Atomic Energy Agency
  40. Commission nationale du débat public
  41. Autorité de sûreté nucléaire
  42. Comité Local d'Information et de Suivi
  43. Commission nationale d' Evaluation
  44. Haut Comité pour la transparence et l'information sur la sécurité nucléaire
  45. Commission Locale d'Information
  46. Swiss Federal Office of Energy
  47. Nationalen Genossenschaft für die Lagerung radioaktiver Abfälle
  48. Nuclear Waste Management Organization
  49. Environmental Impact Assessment
  50. Svensk Kärnbränslehantering
  51. Strålsäkerhetsmyndigheten
  52. Australian Nuclear Science and Technology Organisation

トップへ戻る