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6-3 現世代の責任による放射性廃棄物処分の着実な実施

 放射性廃棄物は、原子力発電所や核燃料サイクル施設、大学、研究所、医療機関等における原子力のエネルギー利用や放射線利用、関連する研究開発、施設の解体等に伴って発生します。これらの放射性廃棄物を人間の生活環境に有意な影響を与えないように処理・処分することは、原子力利用に関する活動の一部として重要です。この放射性廃棄物の処理・処分に当たっては、原子力利用による便益を享受し、放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、その処分を確実に進め、将来世代に負担を先送りしないという認識を持つことが不可欠です。


(1)放射性廃棄物の処理・処分に関する政策の基本的考え方

 放射性廃棄物の処理・処分に当たっては、原子力利用による便益を享受し放射性廃棄物を発生させた現世代の責任として、その処分を確実に進め、将来世代に負担を先送りしないとの認識を持つことが必要です。また、国際機関等の要求 19 では放射性廃棄物の発生は可能な限り抑制することとされており、一般に、廃棄物発生の低減、当初意図されたとおり品目の再使用、材料のリサイクル及び放射性廃棄物として処分(減容を含む)することを最終的に検討、という順序で検討されます。我が国でも、これらの努力が行われており、最終的に処分する放射性廃棄物は含まれる放射性核種の種類と量に応じて適切に区分し処理・処分する方針を検討・決定し、必要な安全規制等の枠組みの整備を進めています。また、クリアランス制度 20 に基づき、原子力施設等において用いた資材、その他の物に含まれる放射性物質についての放射能濃度が「放射線による障害の防止のための措置」を必要としないものとして取り扱うことができます。さらに、放射性廃棄物の合理的な処理・処分の実施のために必要な技術に関する研究開発を推進するとともに、国民・地域住民との相互理解活動にも取り組んでいます。      

コラム 〜使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約(廃棄物等合同条約)〜

 放射性廃棄物管理は、国際的にも共通した課題であり、我が国は国内法令だけでなく、国際条約の下でも取り組んでいます。
 廃棄物等合同条約は、原子力発電所、研究用原子炉等の使用済燃料及び放射性廃棄物の管理の安全に関する条約であり、使用済燃料及び放射性廃棄物の管理の高い水準の安全を世界的に達成し維持すること等を目的としています。
 同条件は2001年6月に発効し、我が国は2003年11月に加盟しています。我が国を含む77か国とユーラトムの1機関の78機関が加盟(2018年2月時点)しており、本条約に基づいて、締約国等は3年に1度、国別報告を取りまとめて検討会合にかけることが求められています。我が国では、国別報告書は関係省庁が共同作成し、提出しています。これまで、2003年の第1回から2014年の第5回まで検討会合が開催され、各国の専門家等によるピアレビューが行われ、各締約国から提出された国別報告書を詳細に検討することにより、締約国の条約に基づく義務の履行状況をレビューするとともに、共通及び個別の安全課題について意見交換が行われています。第6回検討会合は2018年の5月から6月にかけて開催される予定です。     

コラム 〜諸外国の放射性廃棄物管理政策〜

 我が国では、放射性廃棄物は高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物に区分されていますが、放射性廃棄物の処分方法をその発生源別に検討してきた経緯から、低レベル放射性廃棄物は更に発電所廃棄物、TRU廃棄物、研究施設等廃棄物、ウラン廃棄物に細分されています。諸外国においても、我が国同様に放射能濃度等によって放射性廃棄物が区分されていますが、以下に示すように処分の実施体制や処分方法は様々です。
 また、処分場のサイト選定や処分の実施状況も国によって様々ですが、既に操業している低レベル放射性廃棄物処分場は複数あり、またフィンランドでは、高レベル放射性廃棄物の処分場のサイトが決まり建設を開始しています。     
                                                                                                                           

国名

区分

処分の実施主体

処分方法

米国 21

高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)

連邦政府(DOE)

地層処分

低レベル放射性廃棄物

民間の事業者(一部は連邦政府に処分責任がある)

低レベル放射性廃棄物を更にクラス分けし、クラスに応じて処分

フランス

高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)

放射性廃棄物管理機関 (ANDRA 22

地層処分

中レベル長寿命放射性廃棄物

低レベル長寿命放射性廃棄物

深さ約20mの浅地層処分

低中レベル短寿命放射性廃棄物

地表に近い浅地中処分

極低レベル放射性廃棄物

ドイツ

発熱性放射性廃棄物(高レベル放射性廃棄物。ガラス固化体及び使用済燃料等)

連邦放射性廃棄物機関(BGE 23

地層処分

非発熱性放射性廃棄物(中低レベル放射性廃棄物)

地層処分

スイス

高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体及び使用済燃料)

放射性廃棄物管理共同組合 (NAGRA 24

地層処分

アルファ廃棄物

中底レベル放射性廃棄物

地層処分 25

スウェーデン

高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)

スウェーデン核燃料・廃棄 物管理会社(SKB 26 社)

地層処分

中レベル放射性廃棄物

未定

低レベル放射性廃棄物

海底の岩盤内に建設された処分場で処分

フィンランド

高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)

ポシヴァ社

地層処分

中レベル放射性廃棄物

電気事業者

地下に建設された処分場で処分

低レベル放射性廃棄物

中国

高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)

中国核工業集団公司 (CNNC 27

地層処分

中レベル放射性廃棄物

未定

地表処分又は中深度処分

低レベル放射性廃棄物

民間の事業者

韓国

高レベル放射性廃棄物(使用済燃料)

未定

未定

中・低レベル放射性廃棄物

韓国原子力環境公団 (KORAD 28

地中空洞処分及び浅地中処分

(出典)(公財)原子力環境整備促進・資金管理センター「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2018年版)」(2018年)等に基づき作成



(2)放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

@ 高レベル放射性廃棄物の処理・処分

1)高レベル放射性廃棄物の処理・処分の現状
 原子炉を稼働させると使用済燃料が発生します。この使用済燃料を再処理することで生じる放射能レベルの非常に高い廃液は、ガラス原料と混ぜて溶融し、キャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に注入した後、冷却し固体化します(出来上がったものは「ガラス固化体」=「高レベル放射性廃棄物 29 」と呼ばれます)。ガラス固化体は、放射性物質の崩壊熱により発熱していますが、時間の経過とともに放射能が減衰し、発熱量も減少していきます。ガラス固化体は発熱量が十分小さくなるまで地上の貯蔵施設で30〜50年間程度貯蔵し、その後、地下300m以深の安定した地層中に処分(地層処分)することとされています。地層処分は、安定した地層中において、定置された放射性廃棄物の周りに工学的に設けられる複数の障壁(人工バリア)と、放射性廃棄物に含まれる放射性物質を収着し移動を遅らせる等の天然の働きを備えた岩盤(天然バリア)とを組み合わせることによって、放射性物質を人間環境から隔離し、安全性を確保する処分方法です [16] 。これを「多重バリアシステム」と呼んでいます(図6-9)。地層処分は、宇宙処分、海洋底処分、氷床処分等の方法と比較して、最も適切で、実現可能性が高いということが国際的な共通認識となっています [17] 。      


     

図 6-9 高レベル放射性廃棄物の処分方法

(出典)第1回最終処分関係閣僚会議 経済産業省「高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた新たなプロセス」(2013年)


 我が国の原子力発電所では、2017年9月末時点で、合計14,870tUの使用済燃料が貯蔵管理されています [18] 。また、原子力機構核燃料サイクル工学研究所の東海再処理施設では、2007年5月までに合計1,140tU 30 の使用済燃料が再処理され [19] 、2017年3月末時点で合計272本のガラス固化体が保管されています [20] 。日本原燃(株)六ヶ所再処理施設ではアクティブ試験の過程でガラス固化体が製造され、2017年3月末時点で合計346本のガラス固化体が保管されています [20]
 また、我が国の原子力発電により生じた使用済燃料は、フランス及び英国の施設においても再処理が行われています。再処理に伴って発生するガラス固化体は、安全対策を施した専用輸送船により我が国に返還され、日本原燃(株)高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで保管されています(図6-10)。


     

図 6-10 日本原燃(株)高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター

(出典)日本原燃(株)「廃棄物管理事業の概要」 31


 フランスからの返還ガラス固化体の輸送は、2007年3月までに1,310本が返還され終了しました。英国からの輸送は2010年3月より開始され、2016年10月末までに520本が返還されました。国外の再処理に伴う返還ガラス固化体は、今後、英国から約380本の返還が予定されており、フランス及び英国から合計で約2,200本となる予定です [21] 。なお、海外での再処理に伴い発生した低レベル放射性廃棄物についても、今後返還が予定されています。
 2017年3月末時点で、国内に貯蔵されているガラス固化体は、国内で処理されたものと海外から返還されたものを合わせて2,448本となっています。

2)高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組
 高レベル放射性廃棄物の処分を計画的かつ確実に実施するため、2000年6月に制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(平成12年法律第117号。以下「最終処分法」という。)に基づいて、高レベル放射性廃棄物 32 の処分事業の実施主体である原子力発電環境整備機構(NUMO)が設立されるとともに、3段階の処分地の選定プロセス(T.文献調査(概要調査地区の選定)、U.概要調査(精密調査地区の選定)、V.精密調査(最終処分施設建設地の選定))が定められました(図6-11)。また、最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、経済産業大臣が「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(以下「最終処分基本方針」という。)を定めるとともに、同基本方針に基づき、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」(以下「最終処分計画」という。)を5年ごとに策定することが規定されています。
 最終処分法に基づいて、高レベル放射性廃棄物等の処分費用のNUMOへの拠出が、電気事業者により2000年以降、毎年着実に行われています。NUMOへ納付された拠出金は、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターにより資金管理・運用されています。      


     

図 6-11 処分地の選定プロセス

(出典)経済産業省総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会放射性廃棄物WG「放射性廃棄物WG中間とりまとめ」(2014年)第1回最終処分関係閣僚会議 資料 経済産業省「高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた新たなプロセス」(2013年)


 次のページのコラムで紹介するように、各国で高レベル放射性廃棄物処分に向けて、サイト選定の取組が進められる一方で、国際機関の場を通じたそれぞれの知見の共有も行われています。
 一例として、OECD/NEAは2016年12月6日〜9日にかけて、フランスのパリで「地層処分国際会議(ICGR 33 )」を開催しました。このICGRでは、地層処分事業の様々な段階における多様なステークホルダーの役割や関与に関するセッションやステークホルダー間の関係をテーマとしたパネルディスカッションが行われ、参加者は地層処分事業の実施期間中における継続的なステークホルダーとの対話の必要性等を指摘しています。

コラム 〜国外における高レベル放射性廃棄物処分動向〜

・フィンランド:1983年より選定開始。2001年に政府が処分地(オルキルオト)が決定。2004年から地下特性調査施設(オンカロ)を建設。2015年11月に政府が処分場の建設許可を発給。2016年12月に処分場の建設を開始。
・スウェーデン:1992年より選定開始。2009年に実施主体(SKB)が処分地(フォルスマルク)を選定。施設建設に向けて、現在、立地・建設許可の安全審査中。
・フランス:1991年より地下研究所のサイト選定開始。パリから東に約220kmのビュール地下研究所近郊を処分地とする方向で、現在、実施主体(ANDRA)が処分場設置許可申請書の2019年半ばの提出を目指している。
・スイス:2008年に選定を開始。実施主体(NAGRA)が地質学的観点から候補エリアの絞込みを実施中。
・カナダ:2010年に選定開始。関心表明を示し初期スクリーニングをパスした21自治体のうち、現在、5自治体で現地調査が進行中。
・米国:ユッカマウンテンを選定も、オバマ前政権は計画を中止し、代案を検討する方針を示した。トランプ現政権は計画を再開する方針であり、議会に対して許認可活動の再開等のための予算を要求。
・ドイツ:ゴアレーベンを選定も、2000年より調査凍結。連邦政府の「高レベル放射性廃棄物処分委員会」において選定プロセスを見直し、2017年9月に新たなサイト選定手続を正式に開始。
・英国:カンブリア州等が関心を表明も州議会で否決(2013年)。2014年に新たな選定プロセスを公表し、サイトの選定に向けた活動を実施中。
・中国:甘粛省北山でボーリング調査を実施しているが、北山以外の地域も含めて比較検討し、候補地を選定する予定。
・韓国:2016年に高レベル放射性廃棄物管理基本計画が策定され、今後サイト選定が進められる予定。     


     

諸外国における処分地選定の状況

(出典)第6回最終処分関係閣僚会議 資料6 経済産業省「科学的特性マップの提示と今後の取組について」(2017年)(公財)原子力環境整備促進・資金管理センター「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2018年版)」(2018年)等に基づき作成


3)高レベル放射性廃棄物の処分事業を推進するための取組
 最終処分に関する政策の抜本的な見直しが進められ、最終処分法に基づく最終処分基本方針が改定され、2015年5月に閣議決定されました。主な改定点は、

・現世代の責任として、地層処分に向けた取組の推進、可逆性・回収可能性の担保
・最終処分実現に貢献する地域に対する敬意や感謝の念、社会利益還元の必要性を国民で共有
・国による科学的により適性が高いと考えられる地域の提示
・信頼性確保のために、原子力委員会による継続的な評価の実施等

となっています。
 科学的により適性が高いと考えられる地域の提示に関しては、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会のワーキンググループにおいて、具体的な要件・基準の設定や提示後の対話活動の進め方等についての検討が進められました。また、原子力委員会が設置した放射性廃棄物専門部会は2016年9月に取りまとめた報告書において、科学的により適性が高いと考えられる地域の提示に際しての正確かつ適切な情報伝達のための慎重な検討、関係行政機関間の連携強化等が重要であると指摘しました [22] 。同年10月、原子力委員会は、同報告書の内容は適切であると判断し、関係行政機関、実施機関等には、同報告書の内容を十分に尊重し、今後の取組に適切に反映することを求めることを決定しました [23]
 2017年4月、総合エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会地層処分技術ワーキンググループ及び放射性廃棄物ワーキンググループにおいて、地層処分に関する地域の科学的特性の提示に係る要件・基準等の検討結果とともに、地域の科学的特性を示す地図の呼称を「科学的特性マップ」とすることが了承されました。その後、同年5月から6月にかけて、同マップの検討経緯や位置付け、提示後の進め方等についての理解を深めるために、全国で国民向けのシンポジウムや自治体向け説明会が開催されました。これらを踏まえ、同年7月28日には、第6回最終処分関係閣僚会議が開催され、同日、経済産業省から科学的特性マップが公表されました。科学的特性マップ公表後は、地層処分という処分方法の仕組みや我が国の地下環境等に関する国民の皆さまの理解を深めていただくため、マップを活用した全国各地での意見交換会や説明会を実施するなど全国的な対話活動を進めるとともに、研究開発や国際連携の強化にも取り組んでいます [24]
 科学的特性マップが公表されて以降、経済産業省・原子力発電環境整備機構(NUMO)によって2017年10月より対話活動が行われましたが、同年11月に説明会への不適切な動員が発覚しました。これにより一時活動を中断し、経済産業省・NUMOは、NUMOの体制強化や再発防止策の検討等を行い、これを踏まえた試行的取り組み(2018年2〜3月)を経て、4月には対話活動改革アクションプランを策定しました。このアクションプランに基づき、5月から全国的な対話活動を再開しています。      

4)高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発
 高レベル放射性廃棄物の処理に関する研究開発には、原子力機構のガラス固化技術開発施設において、高レベル放射性廃液をガラス固化する施設の開発、運転を行って、ガラス溶融炉の改良等の技術開発を進め、運転技術、保守技術等を蓄積してきました。2007年より、耐震性向上対策工事等のため施設の運転は行われていませんでしたが、2016年に運転を再開しています。
 また、高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、現在NUMOでは、処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発を行っています。他方、原子力機構では、深地層の研究施設等を活用し、深地層の科学的研究や安全評価手法の開発等の基盤的・体系的な研究開発を計画的に行っています。両組織の取組は以下のとおりです。

・NUMO現在取りまとめを進めている「包括的技術報告書」で明らかにされた課題、国内外の有識者から構成される技術アドバイザリー委員会等の指導・助言を踏まえ技術開発を実施するとともに、「地層処分研究開発調整会議」を主導して、2018年からの5か年で取り組むべき研究開発計画を取りまとめました。

・原子力機構岐阜県瑞浪市(結晶質岩)と北海道幌延町(堆積岩)において、深地層の研究施設を整備し、地下坑道の掘削とそれに伴う深部地質環境の調査研究等を行っています。なお、深地層の研究施設は、広く国内外の研究者に開放して学術研究の国際拠点として整備するとともに、国民との相互理解促進に貢献する観点から深部地質環境を実体験できる場としても活用されています。一方、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所は、処分事業や安全規制を支える技術基盤(設計・評価に活用する評価モデルやデータベース等)の整備に関する研究開発を実施しています。実施された研究開発の成果は、海外の知見も取り入れつつ最新の知識基盤として整備・維持し、NUMOの処分事業や国の安全規制において有効に活用されています。      

コラム 〜諸外国における高レベル放射性廃棄物処分に関するパブリックエンゲージメント〜

 高レベル放射性廃棄物処分場のサイト選定を進めている国々では、立地選定への地域・住民意見の反映のために様々な取組を行っています。ここでは、そうした中からスウェーデンとフランスにおける取組を紹介します。     

 スウェーデン〜「原子力廃棄物基金」による自治体の活動資金の確保
 スウェーデンの特徴として、自治体が行う情報提供活動や協議に要する費用を「原子力廃棄物基金」によって賄うことができる制度を挙げることができます。「原子力廃棄物基金」とは、将来に必要となる放射性廃棄物管理全般の費用を賄うために設置されているもので、電気事業者が拠出金を払い込んでいます。
 「原子力廃棄物基金」による活動資金の確保は、自治体が、処分の実施主体であるSKB社のサイト選定のための調査を詳細に追跡する機会があるべきとの考え方の下、1995年より制度化されたものです。
 この制度を、自治体は、専門家を雇用し、SKB社や規制機関と対等に議論ができるような体制の構築等に活用しています。

 フランス〜地域情報フォローアップ委員会(CLIS 34 )の設置と公開討論会の実施 @CLISの設置
 CLISは、サイト選定のために建設されている地下研究所において、地元住民への情報提供や協議の実施を目的として設置されたもので、設置は法律により定められています。CLISの運営資金は、国の補助金と処分の実施主体であるANDRA(放射性廃棄物管理機関)の支出により賄われています。
A公開討論会の実施
 フランスでは、放射性廃棄物処分場を含む原子力基本施設等、環境に多大な影響を及ぼす大規模な公共事業や政策決定について、その計画段階において行政、電気事業者、国民、専門家等が議論を行う公開討論会を実施することが法律で定められています。地層処分場については、2013年に地層処分場の設置許可申請に先立ち公開討論会が実施されました。その成果に基づき提言が取りまとめられています。

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会放射性廃棄物WG「放射性廃棄物WG中間とりまとめ」(2014年)等に基づき作成

     

A 低レベル放射性廃棄物の処理・処分

1)原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物
 原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物は、2017年3月末時点で、全国の原子力発電所内の貯蔵施設で200リットルドラム缶に換算して約68万本分が貯蔵されています [20]
 低レベル放射性廃棄物の一部は、各原子力発電所から青森県六ヶ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターに運ばれ、埋設処分(浅地中ピット処分)が行われています(図6-12)。
 同センター1号埋設施設では、濃縮廃液、使用済樹脂、焼却灰等をドラム缶に収納し、セメント等で固めた廃棄体(均質固化体)を対象として、1992年12月から受入れを開始しています。2号埋設施設では、雑固体廃棄物(金属、プラスチック類、保温材、フィルタ類等)をドラム缶に収納し、モルタルで固めた廃棄体(充填固化体)を対象として、2000年10月から受入れを開始しています。1号埋設施設及び2号埋設施設を併せて、2018年4月末時点で、ドラム缶換算で合計約30万本の廃棄体を埋設しています [20] [25]
 また、日本原子力発電(株)東海発電所の廃止措置で発生する極めて低い放射能レベルの廃棄物については、発電所敷地内で埋設処分(浅地中トレンチ処分)することを計画しており、2015年に原子力規制委員会に申請、現在審査中です [26]
 なお、低レベル放射性廃棄物のうち「放射能レベルの比較的高い廃棄物」は、「一般的な地下利用に十分余裕を持った深度への処分」(中深度処分(余裕深度処分))が行われることになっています。これまで、中深度処分に関する規制基準等が整備されていませんでしたが、原子力規制委員会は2016年8月、「炉内等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について」を決定し、規制基準等の整備に向けた考え方を示しました。現在は、原子力規制委員会に設置されている「廃炉等に伴う放射性廃棄物の規制に関する検討チーム」で規制基準等の検討が進められています。      


     

図 6-12 日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センター

(出典)日本原燃(株)「埋設事業の概要」 35


2)再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する放射性廃棄物(TRU廃棄物)
 TRU廃棄物 36 は、再処理施設、MOX燃料加工施設等の運転や解体に伴い発生します。2017年3月末時点で、原子力機構において、200リットルドラム缶換算で約77,000本、日本原燃(株)の再処理施設内に約43,000本が保管されています [20]
 TRU廃棄物の処分技術には、2005年9月、電気事業者及び原子力機構が「TRU廃棄物処分技術検討書」を公開し、その中で、(@)TRU廃棄物のうち地層処分が想定されるものに対して、安全に処分できる技術的な見通し、(A)TRU廃棄物の地層処分の合理化の検討として、高レベル放射性廃棄物と同一の処分施設に処分を行う場合(併置処分)の技術的成立性が示されました。また、原子力委員会は、2006年4月、併置処分も含めたTRU廃棄物の地層処分の技術的成立性等について確認しました [27]
 これらを踏まえ、総合資源エネルギー調査会原子力部会が取りまとめた「原子力立国計画」(2006年8月)において、TRU廃棄物の処分事業等の制度的措置等の在り方が示されました [28] 。2007年6月には、最終処分法が改正され、最終処分の対象廃棄物として地層処分が必要なTRU廃棄物が追加されました。2008年3月、最終処分法に基づく最終処分基本方針及び最終処分計画にTRU廃棄物の処分に関する内容を追加することが閣議決定されました。      

3)ウラン濃縮施設やウラン燃料成型加工施設から発生する放射性廃棄物(ウラン廃棄物)
 現在、民間のウラン燃料成型加工施設及び日本原燃(株)のウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物は、各事業所において保管されています。2017年3月末時点で現在、民間のウラン燃料成型加工事業者等においては、200リットルドラム缶換算で約44,000本、日本原燃(株)においては約8,200本、原子力機構においては約600本が保管されています [20] 。      

4)研究施設等廃棄物の処理処分
 原子力利用に際しては、原子力発電やそれを支える核燃料サイクル事業のみならず、研究開発や産業、医療等の幅広い分野における放射線利用等の活動からも放射性廃棄物(研究施設等廃棄物)が発生しています。
 これらの研究施設等廃棄物は、2017年3月末時点で、最も多く保管している原子力機構において、200リットルドラム缶換算で約38万本を保管しています。放射性同位元素の使用施設から発生する放射性廃棄物の集荷事業を行っている公益社団法人日本アイソトープ協会(以下「日本アイソトープ協会」という。)では、2017年3月末時点で約77,000本を保管しています。そのほかにも、試験研究炉、核燃料物質の使用施設から発生する放射性廃棄物が多くの事業者において保管されており、2017年3月末時点の合計で約51万本の研究施設等廃棄物が保管されています [29]
 これらの研究施設等廃棄物の処分を実現することを目指して、2008年6月に「独立行政法人日本原子力研究開発機構法」(平成16年法律第155号)が改正され、原子力機構が自ら及び他者の廃棄物を合わせて処分するための体制が整備され、文部科学省及び経済産業省は、2008年12月、「埋設処分業務の実施に関する基本方針」を決定しました [30]
 これを受け、原子力機構は「埋設処分業務の実施に関する計画」を取りまとめ(図6-13参考)、2009年11月に認可を得ました。「埋設処分業務の実施に関する計画」は、将来的な事業の進捗、技術開発の進展、安全規制の整備等を踏まえ、必要に応じて見直しを行うものとし、最近では埋設事業で対象とする廃棄物の範囲の検討、埋設事業工程・資金計画の見直しを行い、2017年12月の文部科学省の研究施設等廃棄物作業部会にて「埋設処分業務の実施に関する計画」の案を報告し [31] 、2018年3月1日に変更が認可されました [32] 。原子力規制委員会は、研究機関、大学等における放射性同位元素、核燃料物質等の使用により発生し、放射線障害防止法、原子炉等規制法等により規制されている多様な研究施設等廃棄物に係る規制を合理化するために、放射線障害防止法の許可届出使用者等は、放射性汚染物等の廃棄を原子炉等規制法に基づく廃棄事業者に委託できるという特例を同法に設ける改正を含む改正法案を、第193回国会に提出しました。同改正法は、2017年4月に成立、公布されています。      


     

図 6-13 研究施設等廃棄物の埋設施設(イメージ)

(出典)原子力機構埋設事業センター「埋設事業の紹介」 37


B クリアランス制度
 原子力施設等の廃止措置に伴って発生する廃材等の大部分は、放射性物質によって汚染されていない廃棄物や、放射能濃度が極めて低く、人の健康への影響が無視できることから「放射性物質として扱う必要がないもの」です。放射能濃度を測定・評価し、濃度が基準値以下であることを確認したものを、再利用若しくは一般の産業廃棄物として処分することができる制度を「クリアランス制度」と呼びます。我が国では、これまで、原子炉等規制法に基づく原子力発電所、照射後試験施設、加工施設、核燃料物質使用施設等の原子力施設の運転及び廃止措置・解体により発生した金属くず、コンクリート破片等に適用されています。放射性同位元素の使用施設から発生する放射性廃棄物等についても、クリアランス制度が導入されていますが、実績はありません。これまで(2018年1月時点)に原子力施設から発生した金属の約965トンとコンクリート約3,866トンがクリアランスされており、その一部は、表6-3に示すように、再利用されています。これまでのところ、再利用先は原子力施設等に限定(限定再利用)されていますが、今後本格化する廃止措置等を円滑に進めるに当たっては、再利用の拡大が必要です。      

             
表 6-3 クリアランスされた金属等の限定再利用の実績例

原子力施設

再利用の実績

日本原子力発電(株)

 東海発電所の廃止措置工事から発生した金属から遮へい体、ブロック、車両進入防止ブロック、ベンチ、テーブル、埋込金物、クレーン荷重試験用ウェイト等の加工品を製作し、関連場所で使用又は展示を実施。また、経済産業省委託事業「原子力発電所等金属廃棄物利用技術開発」(平成27〜29年度)において、クリアランス金属を再利用した中深度処分(余裕深度処分)用容器(内容器)の試験製作が実施されている。

原子力機構
原子力科学研究所

 研究用原子炉JRR-3の改造工事により発生し保管廃棄されていたコンクリートを同研究所内の路盤材等に再利用した。

原子力機構
人形峠環境技術センター

 使用済遠心機処理の合理化として、解体、除染した使用済遠心分離機から発生したアルミ材を構内等で花壇の構造物、土留め及び同センターの正門前広場に設置したテーブルとベンチに再利用した。

(出典)原子力規制委員会「クリアランス制度の実績」 [33] 及び電気事業連合会「クリアランス制度に関する国内外の状況」 [34] に基づき作成


C 廃止措置・放射性廃棄物プラットフォーム
 原子力委員会は2016年12月、理解の深化に向けた根拠に基づく情報体系の構築について、見解を取りまとめ [35] 、国民が関心や疑問を持ったときに、自ら調べ、疑問を解決し、理解を深められるような情報体系の整備の必要性を指摘しました。見解では、このような情報体系の整備にまず着手する分野として、国民の関心が高く、原子力政策の観点でも重要な「地球環境・経済性・エネルギーセキュリティ(3E)」、「安全・防災(S)」、「放射性廃棄物」、「放射線被ばくリスク」の4点を挙げています。
 連携プラットフォーム(仮称)では、原子力発電所や研究施設に関する関係機関の連携を促すために体制を整備し、情報整備や課題の抽出等を実施していきます。
 廃止措置と放射性廃棄物の処理・処分については、一体的かつ確実に進めるため、関係機関による連携プラットフォーム(仮称)を設立し、これまでに2回の会合(平成29年11月、平成30年2月)を開催し、まずはインターネット上において国民等が理解を深められるような情報体系の整備について検討を開始しました(図6-14)。      


     
     

図6-14 連携プラットフォームにて整理された関係機関の連携イメージ

(出典)原子力機構埋設事業センター「埋設事業の紹介」 37




  1. 「INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Predisposal Management of Radioactive Waste, IAEA Safety Standards Series No. GSR Part 5, IAEA, Vienna (2009)」の要件8:放射性廃棄物発生と抑制、EU指令、Waste Framework Directive 2008/98/ECなどを参照。
  2. クリアランス制度とは、原子力事業者等が、施設等において用いた資材、その他の物に含まれる放射性物質について、原子力規制委員会が定める基準(クリアランスレベル)以下であることの確認を受ける制度です。
  3. この表では、原子力発電によって発生する放射性廃棄物のみを整理し、軍事利用で発生する放射性廃棄物については記載していません。
  4. Agence nationale pour la gestion des dechets radioactifs
  5. Bundesgesellschaft fur Endlagerung mbH
  6. Nationale Genossenschaft fur die Lagerung radioaktiver Abfalle
  7. スイスでは、高レベル放射性廃棄物とアルファ廃棄物を処分する地層処分場及び中低レベル放射性廃棄物を処分する地層処分場をそれぞれ1か所ずつ計2か所に建設する予定ですが、同じ場所に1か所の処分場を建設する可能性もあります。
  8. Svensk Karnbranslehantering AB
  9. China National Nuclear Corporation
  10. Korea Radioactive Waste Agency
  11. 我が国では、原子力発電で発生した使用済燃料を再処理して有効活用することにしており、再処理によってウランやプルトニウムを回収した後に生ずる廃液をガラス原料と高温で溶かし合わせ固化したものを、ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)と呼びます。
  12. ウランが金属の状態であるときの重量です。
  13. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/hlw/summary/
  14. 2007年の法改正により、地層処分相当のTRU廃棄物の処分も行うことになりました。
  15. International Conference on Geological Repositories
  16. Comite Local d'Information et de Suivi
  17. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/llw/summary/
  18. ウランよりも原子番号の大きい元素を含む放射性廃棄物です。
  19. https://www.jaea.go.jp/04/maisetsu/aisatu/aisatu2.html



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