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6-2 原子力発電所及び研究開発機関や大学における原子力施設の廃止措置
原子力発電所や研究開発機関及び大学等の試験研究炉等において、既に廃止を決定したものもあり、廃止措置について安全を旨として計画的に進めていく必要があります。また、廃止措置は長期にわたることから、技術及びノウハウの円滑な継承や人材の育成を同時に進めることが重要であるとともに、廃止措置の解体や除染等により大量の放射性廃棄物を発生させることから、廃止措置はこれらの放射性廃棄物の処理・処分と一体的に検討し、取り組むことも必要です。
(1)原子力発電所及び研究開発機関や大学における原子力施設の廃止措置
@ 廃止措置の概要と安全確保
我が国の原子力発電所の中には、既に廃止措置を決定し、その作業を開始しているものもあります。通常の実用発電用原子炉施設等の原子力施設の廃止措置では、まず、運転を終了した施設から保有する核燃料物質等を搬出し、核燃料物質による汚染の除去を行った後、設備を解体・撤去します。加えて、廃止措置で生じる放射性廃棄物は放射能のレベルに応じて適切に処理・処分されます(図6-8)。
また、廃止措置に当たっては、原子力事業者等は原子炉等規制法に基づき、施設の廃止措置に関する計画(廃止措置計画)を定め、原子力規制委員会に提出します。原子力規制委員会は、廃止措置計画が規則で定める基準に適合しているか審査し、認可を行います。なお、原子力事業者等は、一度認可を受けた廃止措置計画に変更があった場合は、再び原子力規制委員会の認可を得る必要があります。廃止措置中の安全確保に関する主な要求事項は、施設内への放射性物質の閉じ込め、放射線の遮へいです。施設の適切な維持管理方法、放射線被ばくの低減策、放射性廃棄物の処理等の方法が、廃止措置計画の段階で確認されます。
図6-8 原子炉の廃止措置の流れ(BWRの場合)
A 我が国における廃止措置等の状況
1)原子力発電所における廃止措置等の状況
東電福島第一原発事故前には、実用発電用原子炉施設のうち、日本原子力発電(株)東海発電所、中部電力(株)浜岡原子力発電所1、2号機が廃止措置中でした。事故後は、東電福島第一原発1〜4号機は2012年4月に、5、6号機は2014年1月に廃止となりました。その後、2017年には、日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機、関西電力(株)美浜発電所1、2号機、中国電力(株)島根原子力発電所1号機、九州電力(株)玄海原子力発電所1号機、四国電力(株)伊方発電所1号機の廃止措置計画が認可されました。さらに、関西電力(株)は2017年12月には、大飯発電所1、2号機を廃止すること、四国電力(株)は2018年3月には、伊方発電所2号機を廃止することを決定しています。こうした通常の実用発電用原子炉施設の廃止措置は、安全確保を大前提に、既存技術の組合せと、全体のプロジェクトマネジメントにより、地域社会への影響、作業員の被ばく安全、費用等の要因を総合的に勘案したプロジェクト遂行の最適化を図っていくことが重要です。
2)研究開発機関や大学における原子力施設の廃止措置等の状況
実用発電用原子炉施設と同様に、今後原子力機構が保有する原子力施設の廃止措置が進められていくこととなっており、原子力機構は平成29年度から平成40年度まで(第4期中長期目標期末まで)を対象に、施設中長期計画を取りまとめました。本計画は、「施設の集約化・重点化」、「施設の安全確保(新規制基準対応・耐震化対応、高経年化対策)」及び「バックエンド対策(廃止措置、廃棄物の処理処分)」を「三位一体」で整合性のある総合的な計画として具体化したものです。原子力機構には研究インフラとして様々な原子力施設が設置されていますが、現時点で約6割が築年数40年以上であり、10年後には築年数40年以上の施設が約9割になる状況であることから、「三位一体」の計画を具体化することで、スリム化した施設の強靭化(安全強化)やバックエンド対策の着実な実施により、研究開発機能の維持・発展を目指すこととしています。「施設の集約化・重点化」の基本方針として、国として最低限持つべき原子力研究開発機能の維持に必須な施設は、試験機能は可能な限り集約化し、安全対策費等の観点から継続利用が困難な施設は廃止対象としています。また、「施設の安全確保」については、新規制基準・耐震化対応や高経年化対策及び東海再処理施設のリスク低減対策について施設ごとに対応を図ることとしています。「バックエンド対策」においては、廃止施設に対する廃止措置時期、並びに廃棄物処理施設等の整備計画及び廃棄体(処分体)作成計画を示しています。
文部科学省は科学技術・学術審議会原子力科学技術委員会の下に原子力施設廃止措置等作業部会を設置して、原子力機構の保有する原子力施設の廃止措置に関する事業管理の在り方等について検討し、2018年4月に中間まとめを取りまとめました。中間まとめでは、多くの施設を同時に廃止措置等する際には、様々な課題を同時に解決し、またその支出を適切に管理していく必要があるため、「事業管理・マネジメントの観点」及び「財務管理の観点」から、今後原子力機構において試行的に取り組むべき内容について取りまとめています。「事業管理・マネジメントの観点」では、@廃止措置等は、通常の研究開発とはその基本的性格が異なるため、着実な実施のために他の業務から独立した目標管理の必要があること、A上記の趣旨を徹底させるため、原子力機構内において、廃止措置等部門と研究開発部門を段階的に分離していくことも考えられること、B廃止措置等業務においては外注先企業の役割が重要であることから、合理的かつ着実な廃止措置等を促進する観点で外注の枠組みを最適化する必要があること等を提言しています。また、「財務管理の観点」では、@廃止措置等には、費用のピークが存在していることが知られており、支出する額を毎年一定にでき、民間資金の利用による速やかな廃止措置等も可能なPFIについて、適用可能性を検討すべきであること、A廃止措置等費用については、その負担が多世代にわたる可能性があることを踏まえると、費用及び支出項目に高い透明性を確保する必要があるため、廃止措置等費用について適切に財務諸表等に計上できるよう、取組を進めるべきであること等を提言しています。
我が国における原子力発電所等の廃止措置の状況は表6-2に示すとおりです。このほかに、東京大学、立教大学原子力研究所、東京都市大学原子力研究所といった大学の研究炉でも廃止措置が行われています。
発電所 | 運転終了日等 (年月) |
炉型 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
原子力機構 | JPDR |
1976年3月 |
BWR |
1996年3月解体撤去 |
ふげん |
2003年3月 |
ATR原子炉 |
廃止措置中 |
|
もんじゅ |
2017年12月 |
高速増殖 |
廃止措置中 |
|
日本原子力発電(株) | 東海 |
1998年3月 |
黒鉛減速 |
廃止措置中 |
敦賀1 |
2015年4月 |
BWR |
廃止措置中 |
|
中部電力(株) | 浜岡1 |
2009年1月 |
BWR |
廃止措置中 |
浜岡2 |
2009年1月 |
BWR |
||
関西電力(株) | 美浜1 |
2015年4月 |
PWR |
廃止措置中 |
美浜2 |
2015年4月 |
PWR |
||
大飯1 |
2018年3月 |
PWR |
||
大飯2 |
2018年3月 |
PWR |
||
中国電力(株) | 島根1 |
2015年4月 |
BWR |
廃止措置中 |
四国電力(株) | 伊方1 |
2016年5月 |
PWR |
廃止措置中 |
九州電力(株) | 玄海1 |
2015年4月 |
PWR |
廃止措置中 |
(出典)総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会廃止措置安全小委員会「廃止措置の終了の確認に係る基本的考え方(中間とりまとめ)」(2011年) 原子規制委員会「原子力の安全に関する条約 日本国第7回国別報告」(2016年)
平成29年度第75回原子力規制委員会(平成30年3月28日)議題1(http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/kisei/00000321.html)等に基づき作成
B 廃止措置の経済的措置
通常の実用発電用原子炉施設の廃止措置は、(@)長期間にわたること、(A)多額の費用を要すること、(B)発電と費用発生の時期が異なること等の特徴を有することに加え、合理的に見積ることが可能と考えられます。そのため、費用を解体時点で計上するのではなく、収益・費用対応原則に基づいて発電利用中の費用として計上することが、世代間負担の公平を図る上で適切であるとの考え方に立ち、電気事業者が電気事業法に基づいて積立を行っています。その後、東電福島第一原発事故以降の原子力発電を取り巻く状況の変化、また、電力システム改革が進展する環境においても、電気事業者が適切かつ円滑な廃炉判断を行うとともに、安全かつ確実に廃止措置を行えるように、2013年、2015年及び2018年の3度にわたって、積立方式の見直しを含む会計制度の改正を行っています。
C 廃止措置に向けた規制整備
廃炉に対応する規制の整備を進めるため、政府から「原子力利用における安全対策の強化のための核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」等の一部を改正する法律案が国会に提出され、2017年4月7日に成立しました。
この改正では、事業者に事業開始段階から施設の解体廃材の発生見込み量等の施設の廃止措置についての方針を作成・公表させるとともに、炉内等廃棄物の埋設地について坑道埋め戻しに関する規制を整備し炉内等廃棄物及び高レベル廃棄物の埋設地について掘削等の行為を制限することとなりました。
コラム 〜諸外国における廃止措置の資金確保等に関する制度的枠組み〜
廃止措置は長期間にわたるとともに、放射性物質で汚染された施設・設備の解体や、汚染拡大防止のための特別な管理等が必要であり、このため、長期的かつ安定的な財源確保を図って、安全かつ着実に廃止措置を進めていく必要があります。ここでは、米国、英国、フランス及び我が国の廃止措置の資金確保等に関する制度的枠組み等について整理します。
米国 | 英国 | フランス | 日本 | |
---|---|---|---|---|
実施主体 | 民間の事業者 |
原子力廃止措置機関 (NDA) |
フランス電力(EDF) |
電気事業者 |
実施体制 | 運転許可を所有する事業者が廃止措置を行うが、外注による専門業者の活用のほか、許可そのものを専門業者に移譲して廃止措置を行うケースも見られる。 |
NDAが廃止措置の全体戦略を策定し、サイト許認可会社(SLC 15)が実際の廃止措置を担当しつつ、親会社(PBO 16)がSLCを管理して、廃止措置を最適化するといった実施体制を構築。 |
発電所を運転しているEDFが廃止措置を実施する。 |
発電所を運転している電気事業者が廃止措置を実施する。 |
資金確保 | 事業者が、NRCの要求を満たす形で、それぞれの経営判断で廃止措置のための資金確保方 法を選択し、資金を確保する。NRCに対しては一定の額を積み立てていること等を定期的に証明する必要がある。 |
NDA所有の原子炉の廃止措置資金は政府支出によって賄われ、EDFエナジー社所有の原子炉の廃止措置資金は外部基金によって確保・管理されている。 |
EDFは廃止措置を含めたバックエンド資金について、引当金として積み立てている。 |
電気事業者は、原子力発電施設の廃止措置費 用をあらかじめ見積もり、運転開始時点から原則40年にわたり、定額にて引き当てることで資金確保する。 |
米国 | 英国 | フランス | 日本 | |
---|---|---|---|---|
実施主体 | エネルギー省(DOE) |
NDA |
原子力・代替エネルギー庁(CEA4 17) |
原子力機構 |
実施体制 | DOE内部に廃止措置等を専門に担う環境管理局(EM 18)を設置し、研究開発等から明確に分離。EMのマネジメントの下、各サイトにおいて廃止措置を実施。 |
NDAが廃止措置の全体戦略を策定し、SLCが実際の廃止措置を担当しつつ、PBOがSLCを管理して、廃止措置を最適化するといった実施体制を構築。 |
CEA内部に廃止措置等を専門に担う組織を設置し、研究開発等から明確に分離。同組織のマネジメントの下、各サイトにおいて廃止措置を実施。 |
本部組織において、廃止措置、廃棄物処分等を担う「バックエンド統括部」を設置。同部のマネジメントの下、具体的な廃止措置を各拠点・施設ごとに実施。 |
資金確保 | 毎年度の歳出法で、国費として措置され、積立等は行われていない。 |
NDA所有の原子力施設の廃止措置資金は政府支出によって賄われる。 |
民間発電炉等と同様に、 施設解体費用を見積も り、準備金を積立。 |
主務大臣から交付される運営費交付金について、理事長裁量により原子力機構内における配分を決定。 |
(出典)原子力施設廃止措置等作業部会「原子力機構が保有する原子力施設等の廃止について(1)」(2017年)等に基づき作成
コラム 〜ドイツ・イタリアにおける研究開発施設等の廃止措置〜
ドイツでは、2017年8月の時点で、21基の原子力発電所(原型炉含む)が廃止措置の段階にあります。現在操業中の8基の原子力発電所も2011年7月の原子力法の改正により、2022年までに段階的に閉鎖していくこととされました。
このように、ドイツでは多数の原子力発電所の廃止措置が実施済、また、継続中ですが、その中から2つの例を紹介します。
グライフスバルト原子力発電所1〜5号機は、1989〜1990年にかけて順次運転を停止し、1995年以降廃止措置が進められている世界的にも規模の大きい廃止措置事例です。原子力発電所から搬出された蒸気発生器及び原子炉圧力容器は、グライフスバルト近郊の貯蔵施設で保管されています。最終的にプラントは廃止措置され、原子力法の適用から除外される予定です。
その他、ドイツで建設された初めてのカール(Kahl)実験原子力発電所が25年間運転した後1985年に閉鎖され、除染と解体が行われ、2010年にはサイトが制限なく利用できるように解放されました。
研究炉については、2017年8月時点で10基の研究炉が閉鎖されました。これらの他、29の研究炉と核燃料サイクル7施設の廃止措置が既に行われています。一例として、ユーリッヒ研究所の高温ガス炉の廃止措置について紹介します。
このプラントでは、新しい炉型の開発のための研究が進められるとともに、1967年の運転開始以来21年にわたり発電も行いました。1988年に運転を停止し、安全貯蔵状態に入り、2009年に廃止措置許可を取得しました。ここでは約2000トンの原子炉容器を一体で分離して建屋から搬出し、同じユーリッヒ研究所内に建設した所蔵施設に移送しました。放射線レベルの低減のため約60年間保管した後、解体する予定になっています。
イタリア政府は、チェルノブイリ原子力発電所事故後の1987年に、4基あった原子力発電所、燃料製造プラント及びその他の原子力研究施設の閉鎖を決定しました。これらの施設の廃止措置を実施する機関として、1999年に原子力施設管理会社(SOGIN)が設立されました。SOGINは政府所有の組織で、原子力発電所等原子力関連施設の廃止措置及び放射性廃棄物管理を政府方針に沿って実施する機関です。
廃止措置の実施に向けた準備が進められており、包括的な計画書の作成を進めるとともに廃止措置に適用される安全システムや機器開発等のアップグレードを図っています。2017年9月現在、発電所の燃料はほぼ搬出を終了しています。補助建屋や一般建屋の機器撤去等が進められ、廃棄物取扱いあるいは暫定的な廃棄物保管場所として使われています。廃止措置は、2025年〜2035年の間に終了する予定とされています。一方、SOGINは放射性廃棄物の処分場についても準備を進めており、適地のマップ及び概念設計をまとめ、管轄官庁に報告しています。処分場は2025年までに操業開始が予定されています。
SOGINは、今までの廃止措置経験から得られた知見、すなわち、・廃止措置は当初計画より長期にわたる、・当初の想定が必ずしも常に絶対ではない、・廃止措置コストには不確実性がある等の可能性があることを考慮し、リスク管理の重要性を認め、取り組んでいます。SOGINにおけるリスク管理は、統合管理、コスト評価などと並んで、廃止措置プロジェクト管理の重要な領域の一つとなっています。
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