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2-3 軽水炉利用に関する取組

 国内外の環境変化に鑑みれば、必要な原子力技術や人材を維持し、安全を大前提として地元と国民の理解を図りつつ、必要な原子力発電所の再稼働及び安定的な利用に取り組むことが必要です。その際、原子力事業者等は原子力の安全かつ安定的な利用の実績を重ね、国民からの信頼回復につなげていくことが期待されます。安全性と経済性を両立した発電事業運営を行うためには、安全性向上と合わせて、軽水炉の長期利用の取組を進めることが必要です。また、長期にわたる軽水炉利用に向けて、使用済燃料貯蔵の能力拡大に向けた取組も強化していく必要があります。


(1)安全かつ安定的な軽水炉利用に関する取組

 米国では、産業界による自主的安全性向上の取組や、NRCによる規制の改善が進められた結果、原子力発電所の設備利用率が向上しました。こうした取組は、安全性と経済性をともに高める効果を持ちます(コラム〜米国における設備利用率の向上〜参照)。しかし経済性の面では、米国ではシェールガスの拡大により電力卸売価格が低下し、市場競争力を失った原子力発電所が閉鎖に追い込まれる事例が発生しています。電力の低炭素化を推し進める際は、原子力を含む各電源の経済性と環境面における中長期的な役割・貢献と安全性を適正に評価して利用していくことが必要です。我が国でも、こうした他国での事例も参考にしながら、必要な原子力人材と技術を維持しつつ原子力の安全かつ安定的な利用の実績を重ね、国民からの信頼回復につなげていくための取組を進めています。
 なお、我が国における、原子力事業者等を含む産業界の原子力の自主的安全性向上に関する動向については、第1章1-5「ゼロリスクはないとの認識の下での安全性向上への不断の努力」に記載しています。      

コラム 〜米国における設備利用率の向上〜

 第1章のコラム「米国における安全性向上の取組」で紹介したように、米国では、スリー・マイル・アイランド(TMI)原子力発電所事故以降、産業界により自主的安全性向上やリスクマネジメントの実践、米国原子力規制委員会(NRC)により規制の改善が進められてきました。こうした取組により、運転サイクルの長期化と燃料交換のための運転停止期間の短縮が可能となり、加えて、トラブルの発生頻度が減少しました。その結果、1990年頃に70%程度だった設備利用率が、2000年以降、90%程度の高い設備利用率を維持しています。

     

各国の原子力発電所の設備利用率の推移(暦年)

(出典)IAEA「IAEA-PRIS」(2016年7月時点)に基づき作成

●運転サイクルの長期化と燃料交換のための運転停止期間の短縮
 NRCでは、規制の改善を進める中で、リスク情報の活用等により規制への科学的合理性の導入・合理化に取り組んできました。NRCは、1991年に、12〜18か月だった燃料交換サイクルについて、一定要件を満たした場合、18〜24か月まで延長できるようにしました。この変更が順次実施され、運転サイクルが長期化しています。
 加えて、NRCは、1996年に、リスク情報を活用して原子炉の保守作業と検査制度を見直しました。その見直しにより、一定の要件を満たした場合、燃料交換のために原子炉を停止する際に行っていた保守作業の一部を運転中に行えるようなりました。これを受け、米国原子力エネルギー協会(NEI)はガイドラインを作成し、電気事業者の保守作業の改善を促進しました。その結果、1990年代初頭には100日近くなっていた燃料交換のための停止期間が、2000年代には平均40日程度となり、高い設備利用率実現の一つの要因となっています。

     

米国における平均燃料交換停止日数の推移

(出典)米国原子力エネルギー協会(NEI)に基づき作成

●原子炉当たりのトラブルの発生頻度の減少
 NRCでは、現行の検査制度(原子炉監視プロセス(ROP 29 ))の中で原子力発電所に対する規制措置に当たり、原子炉ごとの稼働実績を含めて総合的に判断しています。稼働実績の中では、安全上重要な機器の故障、計画外の原子炉の停止といったトラブル(重要事象)も評価の対象としています。重要事象は、1989年には0.9件/原子炉でしたが、2000年には0.04件/原子炉まで減少しています。これは、産業界とNRCによる安全性向上の取組結果であるとともに、高い設備利用率実現の一つの要因となっています。米国では電力事業者による自主的安全性の向上と規制の改善によって、安全性の向上と経済性の向上がともに実現しています。

     

コラム 〜米国の原子力発電所の運転許可更新の動き(60年運転から80年運転)〜

 米国では、原子炉の運転の許可期間は40年とされています。ただし、NRCの規則により、許可期間について最長20年までの延長の運転許可を申請することが可能となっています。NRCは、米国で運転中の99基の原子炉のうち、86基で更新を承認しています [39] 。これらの更新が認められた原子炉が運転を継続すると、2040年までには、99基の原子炉のうち半数が運転開始から60年を迎えます。このため一部の電気事業者は、運転許可を再度延長し、合計で80年までの運転許可を更新する意向をNRCに示しています [40]
 エネルギー省(DOE)や電力研究所(EPRI)では、80年及び80年超の運転による経年劣化事象や運転・保守管理に関する研究開発を進め、長期運転の安全性に関する基盤を整備してきました [41] 。加えて、NEIは、2度目の運転許可の延長申請を行う電気事業者の参考とするために、2度目の許可更新のために実施が必要な21の項目を提示し、これまでにどの項目は既に実施され、どの項目は今後対応が行われるのか等を示した「2回目の許可更新ロードマップ」を2017年5月付けで公表しています [42]
 一方、NRCは、2度目の運転許可の更新申請に備え、2017年7月に「原子力発電所の2度目の許可更新審査の標準審査計画 30 」を公表し、適合性を評価する上での指針や判断基準を示しています。また、この技術的判断基準を示し、更新申請を行う電気事業者に対してガイダンスを提供する観点から、「2度目の許可更新に向けて得られた高経年化に関する一般的な教訓 31 」という報告書を作成し [43] 、経年劣化メカニズム、発生部位、管理手法等の技術的な情報を取りまとめています。このような長期運転における安全性を検討するために、NRCでは、DOEやEPRIとも協力を行っています [44]

     

(2)使用済燃料の貯蔵

 使用済燃料は、再処理されるまで各原子力発電所の貯蔵プール等で貯蔵・管理されており、2017年9月末時点で、各原子力発電所には合計約14,870tUの使用済燃料が貯蔵・管理されています(表2-3)。


表 2-3 各原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料の貯蔵量及び管理容量
(2017年9月末時点)
     

(出典)電気事業連合会「使用済燃料貯蔵対策への対応状況について」(2017年)


 一部の原子力発電所では貯蔵容量が逼迫しており、今後、原子力発電所の再稼働による使用済燃料の発生及び廃止措置が進むことによる貯蔵用プールからの使用済燃料の搬出等が見込まれる中、貯蔵能力の拡大が重要な課題です。このような状況を踏まえ、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」(2015年10月最終処分関係閣僚会議)に基づき、安全の確保を大前提として、貯蔵能力の拡大に向けて官民が協力して取り組んでいます。このアクションプランを踏まえ、電気事業者が2015年11月に策定した「使用済燃料対策推進計画」では、発電所敷地内の使用済燃料貯蔵施設の増強(貯蔵用プールのリラッキング、乾式貯蔵施設の設置等)、中間貯蔵施設の建設・活用等により、2020年頃に4,000tU程度、2030年頃に2,000tU程度、合わせて6,000tU程度の使用済燃料貯蔵対策を行う方針を打ち出しました。使用済燃料対策推進協議会では、同計画を踏まえた電気事業者の取組状況について確認を行っています。2017年10月の第3回協議会では、使用済燃料対策に係る各社の取組が報告され、また、経済産業大臣から各社がより連携・協力して取組を加速するよう要請しました [45]
 また、原子力規制委員会では、使用済燃料の貯蔵方法について、乾式キャスクによるものと使用済燃料貯蔵プールによるものの両方を認めており、どちらかの方法に限定することは考えていないが、一定程度冷却が進んだ燃料については、できるだけ乾式キャスクに入れて貯蔵した方が好ましいという考え方から、輸送上の厳しい要件を満たしている輸送・貯蔵兼用乾式キャスクを用いて使用済燃料を貯蔵する場合の基準の見直しについて検討を行い、2017年10月に規制要求に関する基本的考え方を取りまとめています [46]

コラム 〜各国の使用済燃料の中間貯蔵の状況〜

 諸外国でも、原子力発電を行った後に発生する使用済燃料は、再処理や、放射性廃棄物処分場に処分されるまでの間、安全に貯蔵するための取組が行われています。主要国における使用済燃料の貯蔵の状況は以下のとおりです。

国名 使用済燃料の中間貯蔵の状況

米国

使用済燃料は原子力発電所のサイト内のプールで貯蔵されるほか、半数を超える米国の発電所には独立した使用済燃料貯蔵施設が設置され、プールから取り出された燃料が貯蔵されています。独立使用済燃料貯蔵施設では、一部を除いて乾式貯蔵が行われています。
なお米国では、法律の規定により連邦政府に使用済燃料の処分義務がありますが、まだ処分場の操業に至っていません。こうした状況を受けて、中間貯蔵施設の建設に取り組む民間の事業者も出てきています。

フランス [47]

使用済燃料は原子力発電所のサイト内で1〜2年間貯蔵された後、ラ・アーグ再処理プラントに輸送され、再処理まで同プラント内の使用済燃料プールに貯蔵されます。

英国 [48]

国内で発生する使用済燃料は原子炉の炉型により、セラフィールドサイトのマグノックス再処理プラントまたはTHORP1再処理プラントで、再処理が実施されるまでの間、貯蔵されます。なお、THORP 32 再処理プラントは2018年に閉鎖される予定であり、同プラントで再処理されない使用済燃料は中間貯蔵施設に保管される予定です。

ドイツ [49]

使用済燃料は原子力発電所サイト内のプールで数年間冷却後、金属製の輸送・貯蔵兼用キャスクに封入され、最終処分までの間、サイト内に設置された中間貯蔵施設で乾式貯蔵されます。

ロシア [50]

国内で発生する使用済燃料は、原子炉の炉型により、再処理が実施されるまで、原子力発電所のサイト内、ゼレズノゴルスク市の鉱業化学コンビナート(MCC2 33 )内の使用済燃料燃料プールまたは乾式貯蔵施設に貯蔵されます。

     


  1. Reactor Oversight Process
  2. Standard Review Plan for Review of Subsequent License Renewal Applications for Nuclear Power Plant(s SRPSLR)
  3. Generic Aging Lessons Learned for Subsequent License Renewal (GALL-SLR) Report
  4. Thermal Oxide Reprocessing Plant
  5. Mining and Chemical Combine

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