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第2章 地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力のエネルギー利用の在り方

         

2-1 原子力のエネルギー利用の現状

 我が国では、2011年の東電福島第一原発事故により、一度全ての原子力発電所の稼働が停止しました。2018年3月末時点で7基の原子炉が、原子力規制委員会による厳格な審査に合格し、立地自治体の同意を得て再稼働していますが、発電電力量に占める原子力発電比率は事故前と比較して大きく低下しています。
 国内電力市場全体では、電力システム改革による電力小売への参入が全面自由化され、競争環境が出現しました。更に、長期間に及ぶ事業期間全体で見れば、原子力発電の運転コストは低廉ですが、初期投資額が巨大であり、政策変更リスク等の特殊なリスクもあることから、原子力発電事業は予見可能性が低いと判断される可能性もあります。国は、我が国全体で見たときにエネルギーコストの増加が最小限に抑えられる形で原子力発電の特性を活かせるよう、こうした課題の解決に向けた措置を検討していくことが必要です。
 一方で英国、フランスでは、低炭素電源としての原子力発電の重要性が再認識される動きが見られることに加え、中国やインド等の原子力の開発・利用について新興国が台頭する状況が発生し、我が国の原子力発電事業には、競争的視点及び国際的視点がより強く求められるようになっています。  原子力利用を続けていく上では、国、原子力事業者等が国民の原子力への不信・不安に真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を一層進めていくことにより、社会的信頼を回復していくことが不可欠です。その上で、原子力事業を取り巻く国内外の環境変化に対し、適時かつ効果的に対応する必要に迫られています。


(1)我が国の原子力発電の状況

@ エネルギー利用の方針
 現行のエネルギー基本計画(2014年4月閣議決定)では、原子力発電を、「優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けた上で、「いかなる事情よりも安全性を全てに優先させ、国民の懸念の解消に全力を挙げる前提の下、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により世界で最も厳しい水準の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。その際、国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」としています。また、エネルギー基本計画に基づき策定された「長期エネルギー需給見通し」(2015年7月経済産業省)では、徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの最大限の導入や火力発電所の高効率化等により「原発依存度を可能な限り低減」させることを見込み、東日本大震災前の約30%から、2030年度には20%〜22%程度になるとの見通しが示されています [1] [2]
 なお、現在、経済産業省総合資源エネルギー調査会基本政策分科会では、第5次エネルギー基本計画の策定に向け、福島復興、エネルギー源ごとの課題、横断的課題(電力システム改革等)を2030年のエネルギーミックスの実現に向けた課題として認識し、議論が進められています [3] 。電力では2016年度時点で84%を占める火力の割合を、2030年度までに56%まで低減する一方、再生可能エネルギーや原子力といった温室効果ガスを排出しないゼロエミッション電源の割合を、16%から44%に拡大する方針で検討しており、その中で原子力に関しては、社会的信頼の獲得が今後の課題として挙げられています [4]
 また、パリ協定を踏まえ「地球温暖化対策計画」(2016年5月閣議決定)においては、「我が国は、パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していく」としています。このことも踏まえ、経済産業大臣主催の「エネルギー情勢懇談会」が設置され、エネルギー基本計画の見直し検討と並行して、議論が進められています [5] 。この中で、パリ協定の発効を受けた2050年視線でのエネルギー戦略の具体化に向け、原子力発電の活用オプションも議論のテーマとなりました [6] 。また、「第五次環境基本計画」(2018年4月閣議決定)においては、「原子力は、運転時には温室効果ガスの排出がない低炭素のベースロード電源であり、原子力発電所の安全性については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、原子力規制委員会により規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原子力発電所の再稼働を進める。その際、立地自治体など関係者の理解と協力を得るよう取り組む」としています [7] 。      

A 我が国の原子力発電の状況
 1963年10月26日に「日本原子力研究所(当時。現日本原子力研究開発機構)の動力試験炉JPDR 1 」(軽水型、電気出力12,500kW)が運転を開始し、我が国初の原子力発電が始まりました。その後、我が国の原子力発電設備容量は1994年に4,000万kWを超え、東電福島第一原発事故前の2010年度には、我が国の発電設備に占める原子力発電設備容量の割合は20.1%、原子力発電の設備利用率は67.3%、発電量に占める原子力発電電力量の割合は25.1%となりました。しかし、2011年の東電福島第一原発事故を受けて、我が国の原子力利用を取り巻く環境は大きく変化しました。事故後、全国の原子力発電所は順次運転を停止し、2012年5月には、我が国で稼働している原子炉の基数が42年ぶりに0基となりました(図2-1、図2-2)。
 その後、2018年3月末までに九州電力(株)川内原子力発電所1、2号機、関西電力(株)高浜発電所3、4号機及び四国電力(株)伊方発電所3号機、関西電力(株)大飯発電所3号機、九州電力(株)玄海原子力発電所3号機の7基が再稼働しています 2 。なお、原子炉の再稼働を巡っては複数の訴訟が提起されています。関西電力(株)高浜発電所3、4号機は、2016年3月に大津地方裁判所が運転差止めの仮処分を決定したことに伴い運転を停止しましたが、2017年3月28日、大阪高等裁判所においてこの仮処分命令を取り消す決定が出され [8] 、4号機は2017年5月 [9] 、3号機は6月に再び稼働しました [10] 。一方、四国電力(株)伊方発電所3号機については、広島地方裁判所が2017年3月30日に、広島県内の市民による運転差止めの仮処分の申立てを却下しましたが、広島高等裁判所での抗告審において2017年12月13日、同機の運転差止めを命じる仮処分の決定が出されました。四国電力(株)は2017年12月21日に広島高等裁判所に対し、仮処分の停止を求める異議申立てを行っています [11] [12]
 これらを含めて2018年3月5日時点で原子炉設置変更許可がなされた炉が14基、そのほかに、新規制基準への適合性を審査中の炉が12基、適合性の審査へ未申請の炉が17基となっています(表2-1) [13]
 一方、事故後、東電福島第一原発では全ての炉が廃止されることが決定され、更に日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機、関西電力(株)美浜発電所1、2号機、関西電力(株)大飯発電所1、2号機、中国電力(株)島根原子力発電所1号機、四国電力(株)伊方発電所1、2号機、九州電力(株)玄海原子力発電所1号機の廃止が事業者により決定されています。また、研究開発が進められてきた原子力機構の高速増殖原型炉「もんじゅ」は、2016年12月21日の政府の原子力関係閣僚会議で、廃止措置に移行することが決定されました。したがって、2018年3月初めの時点で合計で20基、1,183.1万kWが運転を終了しています。      

表2-1  我が国の原子力発電設備容量(2018年3月時点)※1
基数 総容量

新規制基準に基づき設置変更の許可がなされた炉

14

1,432.0

万kW

新規制基準への適合性を審査中の炉

12

1,190.1

万kW

新規制基準に対して未申請の炉

17

1,705.2

万kW

合計

43

4,327.3

万kW

     
(参考)

廃止・廃止措置中※2

20

1,183.1

万kW

※1 建設中の3基を含む
※2 高速増殖炉「もんじゅ」、JPDR、ふげん、東海発電所を含む。

(出典)日本原子力産業協会「日本の原子力発電炉(運転中、建設中、建設準備中など)」(2018年3月5日) [13] に基づき作成


     

図 2-1 我が国の発電電力量の推移

(出典)電気事業連合会「INFOBASE2016」(2016年)等に基づき作成


     

図 2-2 我が国の原子力発電の設備容量 3 及び設備利用率 4 の推移(電気事業用)

(出典)独立行政法人原子力安全基盤機構「平成25年版原子力施設運転管理年報」(2013年)及び電気事業連合会「INFOBASE2016」(2016 年)に基づき作成

     

 2012年、原子炉等規制法の改正により、我が国では、原子炉の運転期間が運転開始から40年と規定されました。ただし、運転期間の満了に際し、原子力規制委員会の認可を受けた場合に、1回に限り最大20年、運転期間を延長することを認める制度(運転期間延長認可制度)も導入されています(図2-3)。2018年3月末時点で関西電力(株)高浜発電所1、2号機、美浜発電所3号機が運転期間の延長を認められています。また、2017年11月24日には、日本原子力発電(株)が、2018年に運転期間が満了する東海第二発電所について、運転期間延長認可申請を提出しています [14]

     

図 2-3 既設発電所の運転年数の状況(2018年3月末時点)

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電気料金審査専門小委員会廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ(第3回) 資料 第4号 資源エネルギー庁「廃炉を円滑にすすめるための会計関連制度の課題」(2014年)を一部編集


B エネルギー利用に関する最近の取組

1)電力自由化時代の原子力発電
 「電力システムに関する改革方針」(2013年4月閣議決定)を踏まえ、電力システム改革が段階的に進められています。2016年4月1日には電力小売の全面自由化が開始され、2020年4月からは送配電部門の法的分離が実施される予定です [15] 。  原子力事業は、巨額の初期投資額の回収期間が長期にわたるため、これまでは地域独占 5 及び総括原価料金規制により投資の回収が保証されてきました。しかし、小売及び発電の全面自由化により地域独占と総括原価料金規制 6 が撤廃され、原子力事業では投資・費用の長期的な回収ができなくなる可能性が懸念されるとともに、廃炉の円滑な実施、迅速かつ最善な安全対策、安定供給の確保に支障を来す可能性が指摘されています。これを踏まえ、経済産業省総合資源エネルギー調査会電力システム改革貫徹のための政策小委員会は、2017年2月に「中間とりまとめ」を公表し、市場原理のみに基づく解決が困難な公益的課題への対応策の検討状況、自由化環境下における財務会計面での課題への対応について基本的な考え方を示しました(図2-4) [16] 。この基本的な考え方に基づき、事故炉の廃炉を確実に実施するため、事故炉廃炉を行う原子力事業者等に対して、廃炉に必要な資金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に積み立てることを義務付ける制度を創設すべく、「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」(平成23年法律第94号)を改正し、2017年10月1日に施行しました [17] 。このほかに、電力自由化の下で原子力発電所を長期的に利用するに当たり、安全性向上に係る原子力事業者等の自立的・継続的な取組を促すための、「継続的な原子力の安全性向上のための自律的システム」を、2020年をめどに確立する方針も示されました [16] 。  

          

図 2-4 自由化の下での財務・会計上の課題への対応の基本的な考え方

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」(2017年)に基づき作成


2)東京電力改革の取組「新々・総合特別事業計画」
 東電福島第一原発事故に係る賠償や除染、廃炉等に伴う費用が増大していることや、電力小売全面自由化、電力市場の構造変化に直面していることを踏まえ、経済産業省は「東京電力改革・1F問題委員会」(以下「東電委員会」という。)を設置し、福島復興と事故収束への責任を果たすために東京電力が実施すべき経営改革について検討し、「福島の被災者の方々が安心し、国民が納得し、現場が気概を持って働けるような東電改革」の具体的な提言を取りまとめた「東電改革提言」を、2016年末の第8回東電委員会で公表しました。
 東京電力はこの提言を踏まえて改革を実行していくため、2017年5月に「新々・総合特別事業計画」を策定し、主務大臣(内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当)及び経済産業大臣)の認定を受けました。この計画では、福島事業として賠償、復興及び廃炉の取組を進めるとともに、福島事業の資金を確保するため、経済事業における「非連続の改革」に取り組み、収益力向上を図る方針が示されています。原子力事業では、「地元本位・安全最優先」の理念の下で柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を目指すとしています。
 なお、「新々・総合特別事業計画」に基づく東電改革の実行体制が整ったことを受け、東電委員会は2017年7月26日の最終会合で活動を終了しました。  

    

(2)世界の原子力発電の状況

 原子力発電が米国で開始されて以来、世界各国で原子力発電の開発が進められ(図2-5)、2018年4月末時点で、世界で運転中の原子炉は449基にのぼり、原子力発電設備容量は3億9,413万kWに達しています。さらに、建設中のものを含めると総計507基、4億5,703万kWとなります。世界最大の原子力利用国である米国では、2018年4月末時点で99基の原子炉が稼働しています [18] 。世界の原子力発電電力量は、2000年代に年間2.5兆kWhを超えました。2010年代に入り、2011年の東電福島第一原発事故の影響もあり、いったん落ち込みましたが、その後回復の兆しを見せています(図2-6)。
 米国のスリー・マイル・アイランド(TMI)原子力発電所の事故 7 、ウクライナ(旧ソ連)のチェルノブイリ原子力発電所の事故 8 、更に東電福島第一原発事故を経て、西欧諸国の中にはドイツやイタリア、スイス等のように、脱原子力政策に転じる国々が現れました。更にアジアでも、2017年1月に台湾で2025年までの脱原子力を定めた法案が議会を通過したほか、2017年5月に成立した韓国の文在寅政権が脱原子力を宣言しました。韓国は原子炉新増設計画を2基を除いて白紙撤回し、段階的に脱原子力を行う方針を示しています。一方、そのほかのアジア、東欧、中近東等では、経済成長に伴う電力需要と電力の低炭素化に対応するため、東電福島第一原発事故後も原子力開発が進展しています(図2-5)。2011年以降においては、世界にて42基の原子炉が営業運転が開始されているとともに、37基の原子炉が建設開始され、38基が閉鎖されています(資料編表2)。特に、中国やインドでは、国産炉開発と国外からの原子炉導入を並行して進めており、世界の原子力開発を牽引しています(図2-7、図2-8)。また、英国等の原子力利用先進国においても、電力自由化環境の下で様々な政策措置が模索され、低炭素電源としての原子力発電の重要性が再認識される動きが見られます。なお、原子力による発電電力量で世界第2位、発電電力量に占める原子力比率では世界首位を占めるフランスでは、2012年に当時の政府が、原子力発電電力量の比率を2025年までに現在の約75%から50%まで縮減する原子力目標を掲げましたが、現在のマクロン政権は2017年11月に、気候変動対策の観点から原子力の縮減目標は達成が困難であるとして2025年の目標達成を断念することを発表しました。マクロン大統領は、フランスの最優先課題は温室効果ガスの排出削減であると位置付け、取り組むべきは国内の石炭火力発電所の閉鎖であり、原子力発電は低炭素電源として活用していくとの方針を明らかにしています(図2-9)。

     

図 2-5 原子力発電設備容量(運転中)の推移

(出典)経済産業省「平成28年度 エネルギー白書」(2017年)


     

図 2-6 世界の原子力発電電力量の推移(地域別)

(出典)経済産業省「平成28年度 エネルギー白書」(2017年)


     

図 2-7 日本の近隣諸国における原子炉の運転・建設状況(2017年12月時点)

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会(第7回)資料 第4号 資源エネルギー庁 「世界の原子力平和利用への貢献」(2014年)を元に世界原子力協会(WNA 9 )「Country Profiles:China、South Korea」(2017 年12 月時点)の情報を反映して作成

     

図 2-8 インドの運転中、建設中、計画中の原子力発電所(2017年10月)

(出典)高速炉開発会議戦略ワーキンググループ(第5回)資料 第2号 原子力機構「インドの高速炉サイクル開発戦略」(2017年)


     

図 2-9 各国の原子力発電電力量(左)及び原子力比率(右)(2016年)

(出典)IAEA「Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2050」(2017年) 10


コラム 〜米国における発電所閉鎖とDOEからFERCへの電力市場改革要請〜

 米国では、低廉な天然ガスによる卸電力価格の低迷等により、原子力や石炭火力等の発電所が経済性を理由として早期に閉鎖される事例が相次いでいます。このような状況について、米国エネルギー省(DOE 11 )のペリー長官は連邦エネルギー規制委員会(FERC 12 )に対し、原子力を含む、電力系統の信頼性とレジリエンスの確保に寄与する電源の価値を認識できる市場改革に向けてDOEが作成した規則案を検討するよう要請しています。ペリー長官は、石炭火力や原子力が早期閉鎖に追い込まれていることで、ベースロード電源が危機にあると指摘し、電力供給の多様性と信頼性を確保すること、停電に対するレジリエンスを高めること、厳しい気象状況時を含め、例外的な高需要に対する供給予備力を最大化すること等を提案しています。
 FERCは事業者や系統運用者を含むステークホルダーに対してパブリックコメントを募集し、米国原子力エネルギー協会(NEI)は、系統の信頼性やレジリエンス向上に原子力発電が貢献できるように担保する内容であるとして、ペリー長官の提案を支持しています。一方で、天然ガスや再生可能エネルギーの業界団体等からは、提案に対する反発のコメントが寄せられています。
 ペリー長官の要求に対して、FERCは2018年1月に対応を公表しました。FERCは、連邦電力法の規定を根拠として、DOEが提示した規則案の検討は継続しないことを決定しました。その一方で、レジリエンス確保の重要性は認識し、今後は地域の系統運用者からも情報を収集して、FERCとしての対応を検討していくとの方針を示しました。  

コラム 〜米国の原子力発電所の早期廃止を防ぐ州の取組〜

 米国では、天然ガスの卸電力価格が低廉であること、補助金に支えられた再生可能エネルギーの普及等により、原子力発電が経済面での競争力を失い、早期に閉鎖される状況があります。安定的なベースロード電源の確保との観点で連邦政府のみならず、州レベルでも原子力発電所の早期閉鎖を回避する動きが具体的に見られます。
 ニューヨーク州では、2016年にクリーンエネルギースタンダード2016を承認し、ゼロエミッションクレジット(ZEC)制度を導入することになりました。これにより、二酸化炭素の排出削減に貢献する州内の原子力発電所の運転継続が可能となりました。また、イリノイ州では、公法(PublicAct)99-906が成立し、ニューヨーク州と同様にZEC制度の導入で原子力発電所が早期閉鎖されることなく運転を継続できる状況になっています。さらに、コネチカット州でも、2017年の10月に成立した法律により、同州のクリーンエネルギー目標を達成するためにゼロエミッション電源として州内の原子力発電所の操業維持を可能とする制度を導入しています。
 このほか、ニュージャージー州ではZEC制度の導入を含む法案の議論が進められていましたが、2018年5月23日にマーフィ知事がZEC制度の導入を盛り込んだ法案に署名しました。加えて、ペンシルベニア州でもZEC制度導入の議論が始まっています。  



  1. Japan Power Demonstration Reactor
  2. 四国電力(株)伊方発電所3号機は2017年10月3日より、九州電力(株)川内原子力発電所1号機は2018年1月29日より定期点検等のため運転を停止しています [70] [71]
  3. 発電設備の最大能力で、発電所が単位時間にどのくらい電気を作ることができるかを示します(W、kWで表す)。
  4. 発電所が、ある期間において実際に作り出した電力と、その期間休まずフルパワーで運転したと仮定した時に得られる電力量(定格電気出力とその期間の時間との掛け算)との百分率比です。 年間の設備利用率(%)=[実際の年間発電電力量(kWh)÷(設備容量(kW)×365日×24時間)]×100
  5. 特定地域の電力販売をその地域の電力会社1社が独占できる枠組みです。
  6. 総原価を算定し、これを基に販売料金単価を定める枠組みです。
  7. 1979年3月28日に、米国のスリー・マイル・アイランド(TMI)原子力発電所2号機で発生した事故で、原子炉内の一次冷却材が減少して炉心上部が露出し、燃料の損傷や炉内構造物の一部溶融が生じるとともに、周辺に放射性物質が放出され、住民の一部が避難しました。INES(国際原子力事象評価尺度:International Nuclear and Radiological Event Scale)でレベル5と評価されています。
  8. 1986年4月26日に、旧ソ連ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号機で発生した事故で、急激な出力の上昇による原子炉や建屋の破壊に伴い大量の放射性物質が外部に放出され、ウクライナ、ロシア、ベラルーシや隣接する欧州諸国を中心に広範囲にわたる放射能汚染をもたらしました。INES(国際原子力事象評価尺度)でレベル7と評価されています。
  9. World Nuclear Association
  10. この図は「Energy, Electricity and Nuclear Power Estimates for the Period up to 2050, 2017 Edition」(Reference Data Series No. 1 c IAEA 2017)内の図を、エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社が翻訳したものです。IAEAあるいはIAEAに正式に委任された者によって英語で公開されている版が公定のものです。翻訳された図や図を掲載した図書の、正確性や質、信憑性、出来栄えに対して、IAEAは一切の保証、責任を負いません。また翻訳された図の利用によって生じた直接的・間接的ないかなる損害に対しても、IAEAは一切の法的責任を負いません。
  11. Department of Energy
  12. Federal Energy Regulatory Commission



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