原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成28年版 原子力白書」HTML版 > 2-6 原子力と国民・地域社会との共生

別ウインドウで開きます PDF版ページはこちら(1.4MB)

2-6 原子力と国民・地域社会との共生

 東電福島第一原発事故の事故調査報告書では、事故の状況や放射線の人体への影響などについての政府や東京電力から国民に対する情報提供の仕方や内容に多くの課題があったことを指摘しました。また、事故が発生した際の緊急時だけでなく、平時の情報提供の在り方ついても指摘しています。これらの課題は、国民の原子力に対する不信・不安を招く主原因の一つとなったと考えられます。


(1)原子力と国民・地域社会との共生に関する政策の基本的考え方

 東電福島第一原発事故によって失われた原子力に対する国民の信頼を回復することが不可欠です。このために、原子力に携わる関係者は、国民の方々の声に謙虚に耳を傾けるとともに、原子力利用に関する透明性を確保し、双方向の対話等をより一層進めるとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づく情報を提供していくことが必要です。
 また、2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても、原子力に対する国民の不信・不安の高まりや、エネルギーに関わる行政・事業者への信頼低下を真摯に受け止め、その反省に立って信頼関係を構築するため、原子力に関する丁寧な広聴・広報活動の必要性が指摘されています。また、特に立地自治体との信頼関係構築のために、地域の実情に即して、科学的根拠のある情報を発信するとともに、原子力が持つリスクやその影響とその対策について、丁寧な対話を行うことが重要であるとしています [49]


(2)原子力と国民・地域社会との共生に関する取組

@ 根拠に基づく情報体系の構築について
 原子力委員会は2016年12月、一般国民の理解の深化に向けた根拠に基づく情報体系の構築について、見解を取りまとめました [50]。この見解の中で、原子力関係機関が整備した「根拠に基づく情報体系」を活用し、国民が自らの関心に応じて自ら見つけた情報を自ら取捨選択し、納得することにより、国民が「腑に落ちる」状態を実現することを国民の理解の深化の目標として掲げています。原子力委員会は「根拠に基づく情報体系」について、@一般向け情報、A橋渡し情報、B専門家向け情報、C根拠等の各階層をつなぎ、一般の方々が、自らの関心に応じて、自らで検索して、必要に応じて専門的情報までたどれるようなものとしています(図 2-28)。見解では、第一に「根拠に基づく情報体系」を整備する分野として、国民の関心が大きく、原子力政策の観点でも重要な、地球環境・経済性・エネルギーセキュリティーや、安全・防災、放射性廃棄物、放射線被ばくリスクの4点を挙げています。
 「根拠に基づく情報体系」の整備は、継続的に行われていくことが極めて重要です。原子力関係機関が問題意識を適切に理解し、責任を持って続けていくことが必要です。このため原子力委員会は、電気事業連合会、原子力機構等の関係機関が中心となって、連絡協議会を立ち上げ、課題・進め方の整理や情報共有を行う等、連携しながら進めることが強く期待されるとしています。原子力委員会自身は、このような取組を確認していくこととしています。

図 2-28 理解の深化〜根拠に基づく情報体系の整備について〜

(出典)原子力委員会「理解の深化 〜根拠に基づく情報体系の整備について〜(見解)」(2016年) [50]

コラム 〜根拠に基づく情報体系の構築と情報提供の在り方---海外の事例〜

 東電福島第一原発事故は、福島県民をはじめ国民に多大の被害を及ぼし、依然として国民の原子力への不信・不安が根強く残っています。今後、原子力利用を考えるに当たっては、国民の不信・不安に対して真摯に向き合い、一人一人が、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づいて理解を深め、それぞれの意見を形成していくことのできる環境を整えていくことが必要です。
 このため、原発立地地域に限らず、広く一般国民の方々の関心にこたえるためには、@広報やメディア、双方向のコミュニケーション活動(PUSH型の活動)とともに、Aインターネット等を活用して、オピニオンリーダ、メディア記者、専門家に限らず、一般の方々が知りたい時に情報を自ら入手できる情報体系の構築(PULL型の活動)が必要と考えられています。
 米国では、PULL型の活動も進んでいます。例えば、米国原子力規制委員会(NRC)が2010年に、一般利用者が、NRCが作成・公表している資料などを容易に検索できる委員会文書検索システムADAMS 39 を導入しています。NRCが発行する規制関連文書(原子力事業者がNRCに提出した文書等も含む)には、ADAMSの文書番号が割り当てられます。NRCが一般向けに開催するミーティングなどで配布される資料には、このADAMS番号が記載され、配布資料に記載されている以上の詳細な情報を知りたい人が、ADAMSから文書を検索できるようになっています。具体的には、サンオノフレ原子力発電所の廃止措置計画、スケジュール、コスト等について事業者がまとめた閉鎖後廃止措置活動報告書(PSDAR 40 )に関するパブリック・ミーティング資料では、PSDARをADAMSで検索するための文書番号が明記されています。

 また、米国原子力協会(NEI)のウェブサイトでも、一般向けに提供する情報の情報源のURLリンクが明記されており、詳細情報を知りたい人が情報源をたどれるようになっています。

NEIウェブサイトの情報提供の事例

(出典) 第25回原子力委員会資料第1-3号 「参考資料」(2017年)

A 原子力の安全確保における地域とのコミュニケーション
 原子力発電所の再稼動に当たっては、政府職員が立地自治体に赴いたり、自治体主催の住民向け説明会に参加したりするなど、国の方針や対応を説明する取組が実施されています。さらに、原子力事業者等も、原子力発電所周辺の住民を対象に、安全対策への取組状況の説明等を実施しています。
 最近の例としては、2016年8月12日に再稼動した四国電力(株)伊方発電所3号機については、2015年7月に原子炉設置変更が許可され、同年10月の原子力防災会議において、原子力災害発生時の避難計画を含む伊方地域の緊急時対応が具体的かつ合理的であることが確認されました。その後、伊方地域の緊急時対応は、2015年11月に伊方発電所の事故を想定して開催された原子力総合防災訓練の教訓事項を踏まえ改定されました。これらの国としての取組の他、四国電力(株)は、毎年、伊方発電所周辺の2万8千戸を対象に訪問対話活動を実施しています。2016年は、同社職員による全戸訪問が2回実施され、安全対策の状況や、万一事故が発生した場合の災害対策、避難計画等についての説明が行われています [51] [52]

B 原子力に関する総合的なコミュニケーション
 経済産業省では、原子力総合コミュニケーション事業を実施し、「原子力政策一般」、「核燃料サイクルなどの基本政策」、「高レベル放射性廃棄物の最終処分」及び「東電福島第一原発の廃炉・汚染水対策の進捗状況」に関する広報活動を実施しています。
 2015年度の事業では、全国における放射線に関する理解の促進を図るため、自治体等に専門家を派遣し、教職員向けのセミナーも開催しました。また、核燃料サイクル施設の立地地域(立地県・立地市町村等)等に対し、地域のイベントを活用した広報活動等を通じて、放射線の基礎知識やエネルギー及び核燃料サイクル施設に関する情報提供が行われました。さらに、高レベル放射性廃棄物の最終処分については、国民的理解の醸成、社会的合意形成を図るため、全国各地で最終処分問題に関する意見交換を行う理解促進・支援事業等の広聴・広報活動が実施されました [53]
 2016年度事業では、原子力発電所立地地域だけでなく、電力消費地域等の多様なステークホルダーとの丁寧な対話や情報共有などが実施されています。また、最終処分法に基づく最終処分基本方針の改定や使用済燃料対策の取組強化を踏まえた理解活動等も実施されています。

C 立地地域との共生
 立地地域との共生を図る観点から、国は、電源三法(電源開発促進税法(昭和49年法律第79号)、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)、発電用施設周辺地域整備法(昭和49年法律第78号))に基づく地方公共団体への交付金の交付(図 2-29)等を行っています。
 2016年度予算では、「電源立地地域対策交付金」として868.9億円が計上されており、道路や水道、教育文化施設等の整備や維持補修といった公共用施設整備事業や、地域の観光情報の発信や地場産業支援等の地域活性化事業等に活用されています [54]

図 2-29 電源三法制度

(出典)電気事業連合会「INFOBASE 2016」

 また、廃炉や長期稼動停止等による地域への影響を緩和し、中長期的な視点に立った地域振興に国と立地自治体が一体となって取り組むために、原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業による地方公共団体への交付金の交付等が行われています。さらに、同支援事業では、地域資源の活用とブランド力の強化を図る産品・サービスの開発、販路拡大、PR活動等の地域の取組に対する支援も実施しており、原子力発電所立地地域の経済の活性化、雇用の確保、新たな産業の創出等を目指しています。
原子力立地地域の振興のため、2000年12月に10年間の時限を設けて議員立法にて成立した「原子力発電施設等立地地域の振興に関する特別措置法」について、2010年12月に改めて10年の延長を定めた改正法が成立しています。本法は原子力発電施設等の周辺の地域について、地域の防災に配慮しつつ、総合的かつ広域的な整備に必要な特別措置を講ずることにより、これらの地域の振興を図ることを目的とし、住民生活の安全の確保に資する道路などの整備に対し、補助率の嵩上げ等の支援措置を講じています。


  1. Agencywide Documents Access and Management System
  2. Post-Shutdown Decommissioning Activities Report

トップへ戻る