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2-5 原子力人材の育成・確保

 事故の教訓を踏まえ、更なる安全性の高みを追求していくためには、高度な技術と高い安全意識を持った人材の確保が必要です。また、使用済燃料の再処理及び放射性廃棄物の処理・処分、廃止措置、さらに、東電福島第一原発の廃炉を確実に実施するためには、様々な技術の確立が必要であり、これを担う人材の育成と確保が必要になります。
 また、原子力分野においては、発電事業に従事する人材以外にも、大学や研究機関の教員や研究者、利用政策及び規制に携わる行政官、医療や農業、工業等の放射線利用分野において様々な人材が必要です。


(1)原子力人材の育成・確保に関する現状認識

 東電福島第一原発事故以前は、原子力産業界の従事者数は全体で約80,000名以上にのぼっていました(図 2-21)。2015年時点では、電力会社の原子力部門の従事者こそ約12000名で大差ないものの、原子力利用を取り巻く環境変化や世代交代等の要因により、現在では原子力産業界全体では、その人数は減少しています。

 原子力発電分野において、プラントの建設・運転・廃炉に至るまでに必要な技術は以下の図 2-22に示すとおり多岐にわたり、これらの技術を担う優秀な人材を継続的に育成・確保していく必要があります。

図 2-22 プラント建設・保守、プラント安全性向上、トラブル対応、廃炉に必要な技術の関係

(出典) 第43回原子力委員会資料 第2-2号「軽水炉利用に関する現状」(2016年)


(2)原子力人材の育成・確保に関する取組

@ 産学官連携による幅広い原子力人材の育成
 専門分野に閉じこもることなく、総合的な能力を持つ人材を育てるため、産学官の幅広い連携と分野横断的な取組が求められます。2010年11月、国(内閣府、文部科学省、経済産業省、外務省)の呼びかけにより、「原子力人材育成ネットワーク」を設立しています。同ネットワークは、以下の図 2-23に示すような、産学官連携による相互協力の強化と一体的な原子力人材育成体制の構築を目指し、機関横断的な事業を実施しています。具体的には、同ネットワークでは、原子力人材育成に関する課題抽出を行い、2014年8月に「原子力人材育成の今後の進め方について」を発表しました [42]。また、同ネットワークの運営委員長の諮問組織として戦略検討会議を設置し、2013年12月より原子力人材の育成・確保を戦略的に推進するための方策について議論を行い、2015年4月に「原子力人材育成の課題と今後の対応―原子力人材育成ロードマップの提案―」を取りまとめました [43]。この中では、産学官の原子力関係機関がロードマップに沿って人材育成・確保の努力を継続していくことへ期待が示されました。さらに、国を挙げて戦略的に取り組むべき重要事項として、「研究炉等大型教育・研究施設の維持」、「海外原子力人材育成の戦略的推進」、「戦略的原子力人材育成のための司令塔の設立検討」の3つが提示されました。

図 2-23 原子力人材育成ネットワークの体制

(出典)原子力人材育成ネットワーク パンフレット 37

 これに加えて文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ」や「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」等により、産学官が連携した国内外の人材育成の取組を支援しています。また、人材育成・確保の取組は各地域でも進められており、福井県や茨城県は、それぞれ公益財団法人 若狭湾エネルギー研究センター 福井県国際原子力人材育成センター(2011年4月) [44]、原子力人材育成・確保協議会(2016年2月設立) [45]を設立し、当該地域の産学官の関係機関が協力して原子力人材の育成に取組んでいます。青森県は、「青森県原子力人材育成・研究開発拠点施設」の整備を進めており、2017年10月に設立される予定です [46]

A 原子力安全、規制、防災等に関する人材の育成・確保
 原子力事業者等の活動を監視する原子力安全規制業務に携わる人材の育成・確保も必要です。原子力安全規制分野の人材には、原子力工学、地震・津波対策、放射線防護等に関して高度な専門的知見が必要であり、その専門性を継続的に向上させていくことも求められます。2014年3月、原子力規制委員会は、技術的に支援していた独立行政法人 原子力安全基盤機構を統合した際に、専門性の向上に向けて、人材育成機能を抜本的に強化すべく、「原子力安全人材育成センター」を設置しました。
 また、経済産業省では、「安全性向上原子力人材育成委託事業」により、既存の原子力発電所等の廃止措置や安全確保のため、原子力施設のメンテナンス等を行う現場技術者や、原子力安全に関する人材の育成に係る取組を実施しています。
 さらに、原子力災害への対応の向上を図るため、内閣府は、原子力災害対応を行う行政機関職員や住民避難等にあたって協力をいただくこととなるバス等の民間事業者等のオフサイトの防災業務関係者を対象とした各種の研修等を実施しています。
 加えて、原子力機構の原子力緊急時支援・研修センターは、「防災業務関係者自らの放射線防護研修」などの研修を実施しています。

B 原子力を志望する学生・若手研究者の育成
 我が国の大学では、原子力系学科の名称変更や、複数学科群の統合により、「原子」という語を冠する学科は、1984年度時点では大学10学科、大学院11専攻でしたが、2004年度には大学1学科、大学院5専攻まで減少しました。しかし2015年度には、大学3学科、大学院9専攻に増加しました(図 2-24)。一方で、大学及び大学院の学生数は、1994年度以前、2000人を超えていましたが、1994年度をピークに減少し、2008年度には500人を割り込んでいました。近年は少し増加し、750人程度の横ばいで推移しています。

 原子力発電を行う上では、炉心・燃料設計技術等の原子炉技術だけでなく、運転や設計・制御技術等の技術も重要であり、これらの技術を総合的に維持するためには、工学系人材の確保が必要です。しかし、実用発電用原子炉施設の設計・運転を担える機械・電気・化学をはじめとした多様な工学系人材の原子力関連企業の合同企業説明会への参加者数や電力事業者における採用者数は、東電福島第一原発事故後に減少したままです(図 2-25、図 2-26)。

図 2-25 原産セミナー来場者数(学生)の推移

(出典)原子力産業協会調べ

 このような状況を踏まえ原子力委員会は、2016年12月に取りまとめた軽水炉利用に関する見解の中で、関連分野も含めた原子力分野の人材確保・育成について、さらに検討を進めることとしています。

C 原子力施設における現場技術者・技能者の確保
 原子力発電所等の安全・安定的な運転を維持するためには適切な保守・点検等が不可欠であり、これを担う現場の技術者・技能者の能力向上や技術継承を図ることが重要です。
 経済産業省は2013年度より、我が国の原子力施設の安全を確保するための人材の維持・発展を目的として「安全性向上原子力人材育成委託事業」を実施しています。この事業の枠組みで、経済産業省から委託を受けた民間企業や教育機関が現場技術者・技能者を対象として放射線に関する知識や実務技能の向上を目的とした研修等を実施しています。また、文部科学省は、「原子力発電施設等研修事業費補助事業」を通じて、原子力関連施設が立地する道府県が実施する原子力技術者・技能者向けの研修等を支援しています。この他、原子力機構の原子力人材育成センターは、原子力発電技術者養成のための研修や原子炉主任技術者、放射線取扱主任者、核燃料取扱主任者資格取得のための国家試験受験講座を開催しています。また、一般社団法人原子力安全推進協会は、事業者による人材育成の充実・強化のためのリーダーシップ研修、運転責任者判定 38 、技術的専門性を高めるための個別セミナー、原子力発電所の保全工事作業者の技能の認定制度等を構築、運用しています。

D 国際人材の育成
 国際的な連携や協力をはじめとして、国内外で活躍できる人材を育成していくことが必要です。その代表例として、原子力発電の導入を進める諸外国からの原子力人材育成支援に対する期待に応えるため、若手の研究者、技術者等を対象としてJapan-IAEA Joint 原子力エネルギーマネジメントスクールの開催が挙げられます。同スクールでは、東京大学、一般社団法人日本原子力産業協会、一般社団法人原子力国際協力センター、原子力機構が共同で日本側のホストを務めており、2016年には7月11日から東京及び福井で開催されました。
 また、国内の各原子力関係機関は、IAEAやOECD/NEA等の国際機関や諸外国に対して、我が国の様々な分野の原子力人材を派遣するとともに、諸外国からの研究者等を受け入れており、人材・技術交流が積極的に進められています。
 IAEA、OECD/NEA等の国際機関及び各国に対する我が国の人材派遣については第5章 5-1に記載しています。

E 技術士制度の原子力・放射線部門、その他の原子力・放射線分野の人材育成の取組
 2004年に新設された技術士制度の原子力・放射線部門の2015年度の技術士試験では、第一次試験の申込者198名に対して合格者は95名、第二次試験の申込者89名に対して合格者は19名でした。2016年12月時点で、原子力・放射線部門の技術士登録者数は458名となっており、企業、研究機関等において計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務に従事しています [47]
 文部科学省は、全国の大学・大学病院における人材育成機能を強化し、優れた医療人材を養成する「課題解決型高度医療人材養成プログラム」の枠組みにより、2016年度から筑波大学の「放射線災害の全時相に対応できる人材養成」及び長崎大学、広島大学、福島県立医科大学の連携による「放射線健康リスク科学人材養成プログラム」に対する支援を実施しています。
 原子力機構、量研機構放医研では、研究者、技術者、医療関係者等幅広い職種を対象に種々の研修を実施しています。原子力機構は、原子力人材育成センターを中心に、原子力技術者及び放射線・RI利用技術者を育成するための研修を行うとともに、原子炉主任技術者、核燃料取扱主任者、放射線取扱主任者等の原子力分野の法定資格取得のための研修、原子力機構に所属する技術者の育成のための研修を行っています。
 また、量研機構放医研の人材育成センターでは、学生や技術者、研究者、及び医療従事者などを対象とした放射線に係る様々な研修を実施しています。この他日本アイソトープ協会、公益財団法人原子力安全技術センター等では、放射線取扱主任者資格指定講習等の資格取得に関する講習会を実施しています。これらの研修・講習では、研究開発機関だけでなく、地方公共団体、大学関係者や民間企業等からの幅広い参加者を受け入れています。


(3)原子力人材の育成・確保に関する動向

@ 今後の原子力人材育成の在り方に関する検討状況
 原子力人材育成に関する現状と課題を踏まえた今後の原子力人材育成に係る政策の在り方について議論するため、文部科学省は2015年4月、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会の下に原子力人材育成作業部会を設置し、2016年8月に「原子力人材育成作業部会中間取りまとめ」を公表しています [48]。中間取りまとめでは、原子力分野の人材を取り巻く状況及び原子力分野の人材育成の基本的な考え方を整理し、原子力分野の人材育成において取り組むべき課題とそれを踏まえた施策の方向性を提言しています(図 2-27)。


  1. https://jn-hrd-n.jaea.go.jp/material/common/pamphlet.pdf
  2. 原子力発電所運転責任者に必要な教育・訓練及び原子力発電所運転責任者に係る基準に適合しているか否かについて判定を行います。

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