原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成28年版 原子力白書」HTML版 > 2-4 放射性廃棄物の処理・処分

別ウインドウで開きます PDF版ページはこちら(1.6MB)

2-4 放射性廃棄物の処理・処分

 放射性廃棄物は、原子力発電所や核燃料サイクル施設、大学、研究所、医療機関等における原子力のエネルギー利用や放射線利用、関連する研究開発、施設の解体等に伴って発生します(図 2-13)。これらの放射性廃棄物を人間の生活環境に有意な影響を与えないように処理・処分することは、原子力利用に関する活動の一部として重要です。

 放射性廃棄物は物理化学的性状、含まれる放射性物質の種類や放射能濃度が様々であり、その処理・処分にあたっては、これらの特性に応じて適切に処理するとともに、放射能濃度等に応じて適切に区分し、合理的に処分することが必要です(図 2-14)。


(1)放射性廃棄物の処理・処分に関する政策の基本的考え方

 原子力委員会は、2000年までに我が国の放射性廃棄物の原則等を示しており、それも踏まえ、関係機関で規制の考え方や関連法令等が整備されてきました。また、「エネルギー基本計画」(2014年4月閣議決定)では、放射性廃棄物の処理・処分の方針として、

  1. 現世代の責任による高レベル放射性廃棄物処分の着実な実施
  2. 廃炉等に伴って発生する低レベル放射性廃棄物の処分の円滑な実現

が示されています。
 これらの方向性に沿って、我が国では、発生する廃棄物の区分に基づき、各種の放射性廃棄物の処理・処分に関する方針を検討・決定し、必要な安全規制等の枠組みの整備を進めています。また、放射性廃棄物の合理的な処理・処分の実施のために必要な技術に関する研究開発を推進するとともに、国民・地域住民との相互理解活動にも取り組んでいます


(2)放射性廃棄物の処理・処分に関する取組と現状

@ 高レベル放射性廃棄物 30 の処理・処分
1) 高レベル放射性廃棄物の処理・処分の現状
 原子炉を稼働させると使用済燃料が発生します。この使用済燃料を再処理することで生じる放射能レベルの非常に高い廃液は、ガラス原料と混ぜて溶融し、キャニスタと呼ばれるステンレス製の容器に注入した後、冷却し固体化します(出来上がったものは「ガラス固化体」=高レベル放射性廃棄物と呼ばれます)。ガラス固化体は、放射性物質の崩壊熱により発熱していますが、時間の経過とともに放射能が減衰し、発熱量も減少していきます。ガラス固化体は発熱量が十分小さくなるまで地上の貯蔵施設で30〜50年間程度貯蔵し、その後、地下300m以深の安定した地層中に処分(地層処分)することとされています。地層処分は、安定した地層中において、定置された放射性廃棄物の周りに工学的に設けられる複数の障壁(人工バリア)と、放射性廃棄物に含まれる放射性物質を収着し移動を遅らせる等の天然の働きを備えた岩盤(天然バリア)とを組み合わせることによって、放射性物質を人間環境から隔離し、安全性を確保する処分方法です [29]。これを「多重バリアシステム」と呼んでいます(図 2-15)。地層処分は、宇宙処分、海洋底処分、氷床処分などの方法と比較して、最も適切で、実現可能性が高いということが国際的な共通認識となっています [30]

 我が国の原子力発電所では、2016年9月末時点で、合計14,830tU 31 の使用済燃料が貯蔵管理されています [31]。2007年5月までに合計1,140tUの使用済燃料が原子力機構核燃料サイクル工学研究所の東海再処理施設において再処理され [32]、2016年3月末時点で合計256本のガラス固化体が保管されています [33]。日本原燃(株)六ヶ所再処理施設では2018年度上期竣工に向けたアクティブ試験の過程でガラス固化体が製造され、2016年3月末時点で合計346本のガラス固化体が保管されています [33]
 また、我が国の原子力発電により生じた使用済燃料は、フランス及び英国の施設においても再処理が行われています。再処理に伴って発生するガラス固化体は、安全対策を施した専用輸送船により我が国に返還され、日本原燃(株)高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで30〜50年間程度貯蔵されることになっています(図 2-16)。

図 2-16 日本原燃(株)高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター

(出典)日本原燃(株)ウェブサイト「廃棄物管理事業の概要」 32

 フランスよりの返還ガラス固化体の輸送は2007年3月までに1,310本が返還され終了しました。英国よりの輸送は2010年3月より開始され、2016年10月末までに520本が返還されました。国外の再処理に伴う返還ガラス固化体は、今後、フランス及び英国から合計で約2,200本が返還される予定です [34]。なお、海外での再処理に伴い発生した低レベル放射性廃棄物についても、今後返還が予定されています。
 2016年3月末時点で、国内に貯蔵されているガラス固化体は、国内で処理されたものと海外から返還されたものを合わせて2,432本となっています。

2) 高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取組
 高レベル放射性廃棄物の処分を計画的かつ確実に実施するため、2000年6月に制定された特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成12年法律第117号)(以下「最終処分法」という。)に基づいて、高レベル放射性廃棄物の処分事業の実施主体である「原子力発電環境整備機構」(以下「NUMO」という。)が設立されるとともに、3段階の処分地の選定プロセス(T. 文献調査(概要調査地区の選定)、U. 概要調査(精密調査地区の選定)、V. 精密調査(最終処分施設建設地の選定))が定められました(図 2-17)。また、最終処分を計画的かつ確実に実施させるため、経済産業大臣が「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(以下「最終処分基本方針」という。)を定めるとともに、同基本方針に基づき、「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」(以下「最終処分計画」という。)を5年ごとに策定することが規定されています。

 最終処分法に基づいて、高レベル放射性廃棄物の処分費用のNUMOへの拠出が、電気事業者等により2000年以降、毎年着実に行われています。NUMOへ納付された拠出金は、公益財団法人原子力環境整備促進・資金管理センターにより資金管理・運用されています。

3) 処分事業を推進するための取組
 NUMOは、2002年12月から、全国の市町村を対象に「高レベル放射性廃棄物の最終処分施設の設置可能性を調査する地域」を公募していますが、最初の調査である文献調査の実施には至っていない状況です。
最終処分に関する政策の抜本的な見直しに向け、2013年12月に最終処分関係閣僚会議が創設され、国が前面に立って高レベル放射性廃棄物問題の解決に取り組むための方針の検討が始まりました。これを受けて、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会の放射性廃棄物ワーキンググループによる最終処分政策の見直しの議論、地層処分技術ワーキンググループによる地層処分の技術的信頼性の再評価が実施されました。これらの検討結果を踏まえ、最終処分法に基づく最終処分基本方針が改定され、2015年5月に閣議決定されました。主な改定点は、

  • 現世代の責任として、地層処分に向けた取組の推進、可逆性・回収可能性の担保
  • 最終処分実現に貢献する地域に対する敬意や感謝の念、社会利益還元の必要性を国民で共有
  • 国による科学的により適性が高いと考えられる地域の提示
  • 信頼性確保のために、原子力委員会による継続的な評価の実施等

となっています。最終処分基本方針の改定に関して、原子力委員会は2015年3月に答申を行っています。答申では、最終処分基本方針が概ね妥当であるとしつつ、最終処分基本方針に基づく取組の成果や最終処分計画等について定期的な報告を受け、意見を述べるなどの役割を果たしていくとしています。

4) 高レベル放射性廃棄物処理・処分に関する研究開発
 高レベル放射性廃棄物の処理に関する研究開発には、原子力機構のガラス固化技術開発施設において、高レベル放射性廃液をガラス固化する施設の開発、運転を行って、ガラス溶融炉の改良などの技術開発を進め、運転技術、保守技術等を蓄積してきました。2007年より、耐震性向上対策工事等のため施設の運転は行われていませんでしたが、2016年に運転を再開しています。
 また、高レベル放射性廃棄物の処分に関しては、現在NUMOでは、処分事業の安全な実施、経済性及び効率性の向上等を目的とする技術開発を行っています。他方、原子力機構では、深地層の研究施設等を活用し、深地層の科学的研究や安全評価手法の開発等の基盤的・体系的な研究開発を計画的に行っています。両組織の取組は以下のとおりです。

  • NUMO:
     文献調査・概要調査地区選定に対応した調査技術の開発は概ね完了しています。現在取りまとめを進めている「包括的技術報告書」で明らかにされた課題、NUMOの運営の評価を行う内部組織である評議員会からの評価・提言や、同じく内部組織である技術アドバイザリー委員会の指導・助言を踏まえ技術開発を実施しています。
  • 原子力機構:
     岐阜県瑞浪市(結晶質岩)と北海道幌延町(堆積岩)において、深地層の研究施設を整備し、地下坑道の掘削とそれに伴う深部地質環境の調査研究等を行っています。なお、深地層の研究施設は、広く国内外の研究者に開放して学術研究の国際拠点として整備するとともに、国民との相互理解促進に貢献する観点から深部地質環境を実体験できる場としても活用されています。一方、茨城県東海村の核燃料サイクル工学研究所は、処分事業や安全規制を支える技術基盤(設計・評価に活用する評価モデルやデータベース等)の整備に関する研究開発を実施しています。実施された研究開発の成果は、海外の知見も取り入れつつ最新の知識基盤として整備・維持し、NUMOの処分事業や国の安全規制において有効に活用していくことが必要です。

A 低レベル放射性廃棄物の処理・処分
1) 原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物
 原子力発電所で発生した低レベル放射性廃棄物は、2016年3月末時点で、全国の原子力発電所内の貯蔵施設で200リットルドラム缶に換算して約68万本分が貯蔵されています [33]
 低レベル放射性廃棄物の一部は、各原子力発電所から青森県六ヶ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターに運ばれ、埋設処分(浅地中ピット処分)が行われています(図 2-18)。

図 2-18 日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センター

(出典)日本原燃(株)ウェブサイト「埋設事業の概要」 33

 同センター1号埋設施設では、濃縮廃液、使用済樹脂、焼却灰等を収納し、セメント等で固めたドラム缶(均質固化体)を対象として、1992年12月から受入れを開始しています。2号埋設施設では、雑固体廃棄物(金属、プラスチック類、保温材、フィルタ類等)を収納し、モルタルで固めたドラム缶(充填固化体)を対象として、2000年10月から受入れを開始しています。1号埋設施設及び2号埋設施設を併せて、2016年3月末時点で、合計約28万本のドラム缶を埋設しています [33]
 また、日本原子力発電(株)東海発電所の廃止措置で発生する極めて低い放射能レベルの廃棄物については、発電所敷地内で埋設処分(浅地中トレンチ処分)することを計画しており、2015年に原子力規制委員会に申請、現在審査中です [35]
 なお、低レベル放射性廃棄物のうち「放射能レベルの比較的高い廃棄物」は、「一般的な地下利用に十分余裕を持った深度への処分」(余裕深度処分:中深度処分)が行われることになっています。これまで、余裕深度処分に関する規制基準等が整備されていませんでしたが、原子力規制委員会は2016年8月、「炉内等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について」を決定し、規制基準等の整備に向けた考え方を示しました。

2) 再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する放射性廃棄物(TRU廃棄物 34
 TRU廃棄物は、再処理施設、混合酸化物(MOX)燃料加工施設等の運転や解体に伴い発生します。2016年3月末時点で、原子力機構において、200リットルドラム缶換算で約8.3万本、日本原燃(株)の再処理施設内に約4.2万本が保管されています [33]
 TRU廃棄物の処分技術には、2005年7月、電気事業者及び原子力機構が「TRU廃棄物処分技術検討書」を公開し、その中で、(@)TRU廃棄物のうち地層処分が想定されるものに対して、安全に処分できる技術的な見通し、(A)TRU廃棄物の地層処分の合理化の検討として、高レベル放射性廃棄物と同一の処分施設に処分を行う場合(併置処分)の技術的成立性、が示されました。また、原子力委員会は、2006年4月、併置処分も含めたTRU廃棄物の地層処分の技術的成立性等について確認しました [36]
 これらを踏まえ、総合資源エネルギー調査会原子力部会が取りまとめた「原子力立国計画」(2006年8月)において、TRU廃棄物の処分事業等の制度的措置等の在り方が示されました [37]。2007年6月には、最終処分法が改正され、最終処分の対象廃棄物として地層処分が必要なTRU廃棄物が追加されました。2008年3月、最終処分法に基づく最終処分基本方針及び最終処分計画にTRU廃棄物の処分に関する内容を追加することが閣議決定されました。

3) ウラン濃縮施設やウラン燃料成型加工施設から発生する放射性廃棄物(ウラン廃棄物)
 現在、民間のウラン燃料成型加工施設及び日本原燃(株)のウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物については、各事業所において保管されています。2016年3月末時点で現在、民間のウラン燃料成型加工事業者等においては、200リットルドラム缶換算で、約44,000本、日本原燃(株)においては約7,800本、原子力機構においては約600本が保管されています [33]

4) 研究施設等廃棄物の処理処分
 原子力利用に際しては、原子力発電やそれを支える核燃料サイクル事業のみならず、研究開発や産業、医療等の幅広い分野における放射線利用等の活動からも放射性廃棄物が発生しています(研究施設等廃棄物)。
 これらの研究施設等廃棄物は、2014年3月末時点で、最も多く保管している原子力機構において、200リットルドラム缶換算で約37万本を保管しています。放射性同位元素の使用施設から発生する放射性廃棄物の集荷事業を行っている「公益社団法人日本アイソトープ協会」(以下「日本アイソトープ協会」という。)では、約7.7万本を保管しています。その他にも、試験研究炉、核燃料物質の使用施設から発生する放射性廃棄物が多くの事業者において保管されており、合計で約60万本の研究施設等廃棄物が保管されています [38]
 これらの研究施設等廃棄物の処分を実現することを目指して、2008年6月に「独立行政法人日本原子力研究開発機構法」が改正され、原子力機構が自ら及び他者の廃棄物を合わせて処分するための体制が整備され、文部科学省及び経済産業省は、2008年12月、「埋設処分業務の実施に関する基本方針」を決定しました [39]
 これを受け、原子力機構は「埋設処分業務の実施に関する計画」を取りまとめ、2009年11月に認可を得ました。「埋設処分業務の実施に関する計画」は、将来的な事業の進捗、技術開発の進展、安全規制の整備等を踏まえ、必要に応じて見直しを行うものとされ、最近では2016年3月に見直しが行われました。今後は同計画に従って、埋設施設の立地に向けた取組が進められます。
 原子力規制委員会は、研究機関、大学等における放射性同位元素、核燃料物質等の使用により発生し、放射線障害防止法、原子炉等規制法等により規制されている多様な研究施設等廃棄物に係る規制を合理化するため、放射線障害防止法に同法の許可届出使用者等は、放射性汚染物等の廃棄を原子炉等規制法に基づく廃棄事業者に委託できることとする特例を設ける改正を含む改正法案を第193回国会に提出しました。同改正法は、2017年4月に成立、公布されています。

図 2-19 研究施設等廃棄物の埋設施設(イメージ)

(出典)原子力機構埋設事業センターウェブサイト「埋設事業の紹介」 35

B 原子力施設の廃止措置とクリアランス等
1) 廃止措置の概要と安全確保
 東電福島第一原発の廃止措置等に向けた取組について、リスク低減を旨として、国内外の知見を集め、地元と国民の理解を得ながら、進められています。詳細は、第1章1-4に記載しています。
 この他に、我が国の原子力発電所の中には、既に廃止措置を決定し、その作業を開始しているものもあります。
 通常の実用発電用原子炉施設などの原子力施設の廃止措置では、まず、運転を終了した施設から保有する核燃料物質等を搬出し、核燃料物質による汚染の除去を行った後、設備を解体・撤去します。加えて、廃止措置で生じる放射性廃棄物は放射能のレベルに応じて適切に処理・処分されます(図2-20)。
 また、廃止措置に当たっては、原子炉等規制法に基づき、原子力事業者は、施設の廃止措置に関する計画(廃止措置計画)を定め、原子力規制委員会に提出します。原子力規制委員会は、廃止措置計画が規則で定める基準に適合しているか審査し、認可を行います。なお、原子力事業者は、一度認可を受けた廃止措置計画に変更があった場合は、再び原子力規制委員会の認可を得る必要があります。廃止措置中の安全確保に関する主な要求事項は、施設内への放射性物質の閉じ込め、放射線の遮へいです。施設の適切な維持管理方法、放射線被ばくの低減策、放射性廃棄物の処理等の方法が、廃止措置計画の段階で確認されます。

図 2-20 原子炉の廃止措置の流れ(BWRの場合)

(出典) 日本原子力文化財団「原子力図面集2016」

2) 我が国における廃止措置等の状況
 東電福島第一原発事故前には、実用発電用原子炉施設のうち、日本原子力発電(株)東海発電所、中部電力(株)浜岡原子力発電所1・2号機が廃止措置中でした。事故後は、東電福島第一原発1号から4号機は2012年4月に、5号・6号機は2014年1月に廃止となりました。その後、日本原子力発電(株)敦賀発電所1号機、関西電力(株)美浜発電所1・2号機、中国電力(株)島根原子力発電所1号機、九州電力(株)玄海原子力発電所1号機の廃止措置計画が2017年4月に認可され、四国電力(株)伊方原子力発電所1号機の廃止措置計画が2017年6月に認可されました。原子力機構のふげん等も含めた我が国における原子力発電所等の廃止措置の状況は表 2 6に示すとおりです。これらの通常の実用発電用原子炉施設の廃止措置は、既存技術の組み合わせと、全体のプロジェクトマネジメントにより、最適化を図っていくことが重要です。

3) 廃止措置の経済的措置
 通常の実用発電用原子炉施設の廃止措置は、(@)長期間にわたること、(A)多額の費用を要すること、(B)発電と費用発生の時期が異なること等の特徴を有することに加え、合理的に見積ることが可能と考えられます。そのため、費用を解体時点で計上するのではなく、収益・費用対応原則に基づいて発電利用中の費用として計上することが世代間負担の公平を図る上で適切であるとの考え方に立ち、電気事業者が電気事業法に基づいて積立てを行っています。その後、東電福島第一原発事故以降の原子力発電を取り巻く状況の変化、また、電力システム改革が進展する環境においても、電気事業者が適切かつ円滑な廃炉判断を行うとともに、安全・確実に廃止措置を行えるように、2013年と2015年の2度にわたって、積立て方式の見直しを含む会計制度の改正を行っています。

4) クリアランス制度
 原子力施設等の廃止措置に伴って発生する廃材等の大部分は、放射性物質によって汚染されていない廃棄物や、放射能濃度が極めて低く、人の健康への影響が無視できることから「放射性物質として扱う必要がないもの」です。放射能濃度を測定・評価し、濃度が基準値以下であることを確認したものを再利用や一般の産業廃棄物として処分することができる制度を「クリアランス制度」と呼びます。我が国では、原子力発電所の廃止措置・解体により発生した金属や原子力施設で発生する廃材、ウラン取扱施設で発生する金属等、放射性同位元素の使用施設から発生する放射性廃棄物等について、クリアランス制度が導入されました。


(3) 高レベル放射性廃棄物の処理・処分に関する政策に関する最近の動向

@ 最終処分事業を推進するための取組の強化策の取りまとめ等
 科学的により適正が高いと考えられる地域の提示に関しては、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会の地層処分技術ワーキンググループが提示に必要な具体的な要件・基準の設定について、放射性廃棄物ワーキンググループが提示後の対話活動の進め方等についての検討を進めてきました。これらの検討内容を踏まえ、資源エネルギー庁は、2016年5月に、選定における考慮事項・手順に係る妥当性に関してOECD/NEAによるレビューを受けました。同年8月に提示されたレビュー結果では、経済産業省が新たに採用した、科学的により適正が高いと考えられる地域の提示に向けたプロセスや処分地選定プロセスの各段階で情報提供をしっかりと行い、受入れ自治体の自主性を確保するというアプローチが、国際的な取組と整合的であると評価されました。また、政府・規制機関・実施主体・国民の間で、初期の段階からオープンな対話を開始していく重要性が指摘されました。
 また、提示に当たっては、後述する同年10月の原子力委員会の評価報告書の指摘やパブリックコメントの結果等も踏まえ、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 地層処分技術ワーキンググループ及び放射性廃棄物ワーキンググループにおいて、科学的により適正が高いと考えられる地域の提示の意味合いの再確認、提示後の対話活動の進め方等に関して、審議が行われてきました。

A 放射性廃棄物の処理・処分に関する取組の評価
 原子力委員会は2016年5月、基本方針に基づく最終処分計画の改定及び関係行政機関等の活動状況に係る評価等を専門的かつ総合的観点から行うため、放射性廃棄物専門部会を設置しました。同専門部会は2016年9月、地層処分に関する活動状況を評価した結果を「最終処分関係行政機関等の活動状況に関する評価報告書」として取りまとめました [40]。  同報告書では、関係行政機関等の活動状況について、おおむね適切に取組が進められており、個別に改善が必要な事項はあるものの、総じて、明瞭性・ 透明性・応答性が高い水準で確保されていると評価するとともに、今後、国民理解醸成のための活動の継続、長期的視点を重視した取組、科学的により適正が高いと考えられる地域の提示に際しての正確かつ適切な情報伝達のための慎重な検討、関係行政機関間の連携強化等が重要であると指摘しています。
 同年10月、原子力委員会は、同報告書の内容は適切であると判断し、関係行政機関、実施機関等には、同報告書の内容を十分に尊重し、今後の取組に適切に反映することを求めることを決定しました [41]

コラム 〜国外における高レベル放射性廃棄物処分動向〜

  • フィンランド:1983年より選定開始。2001年に政府が処分地(オルキルオト)が決定。2004年から地下特性調査施設を建設。2015年11月に政府が処分場の建設許可を発給。2016年12月に処分場の建設を開始。
  • スウェーデン:1992年より選定開始。2009年に処分地(フォルスマルク)を選定。施設建設に向けて、現在、立地・建設許可の安全審査中。
  • フランス:1983年より選定開始。パリから東に約220kmのビュール近郊を処分地とする方向で、現在、実施主体(ANDRA)が処分場設置許可申請書の提出を目指している。
  • スイス:2008年に選定を開始。実施主体(NAGRA)が地質学的観点から候補エリアの絞込みを実施中。
  • カナダ:2010年に選定開始。関心表明を示し初期スクリーニングをパスした21自治体のうち、現在、9自治体で現地調査が進行中。
  • 米国:ユッカマウンテンを選定も、政権交代により計画中止し、代案を検討する方針(2009年)。民間管理と連邦政府管理の高レベル放射性廃棄物を分離し処分することとし、選定プロセスを見直し中。
  • 独国:ゴアレーベンを選定も、2000年より調査凍結。連邦政府の「高レベル放射性廃棄物処分委員会」において選定プロセスを見直し。
  • 英国:カンブリア州等が関心を表明も議会で否決(2013年)。2014年に新たな選定プロセスを公表し、サイトの選定に向けた活動を実施中。

 このように、各国で高レベル放射性廃棄物処分に向けて、サイト選定の取組が進められる一方で、国際機関の場を通じたそれぞれの知見の共有も行われています。
 一例として、OECD/NEAは2016年12月6日から9日にかけて、フランスのパリで「地層処分国際会議(ICGR 36 )」を開催しました。今回のICGRでは、地層処分事業の様々な段階における多様なステークホルダーの役割や関与に関するセッションやステークホルダー間の関係をテーマとしたパネルディスカッションが行われ、参加者は地層処分事業の実施期間中における継続的なステークホルダーとの対話の必要性などを指摘しています。

B 科学的特性マップの公表
 2017年4月、総合エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 地層処分技術ワーキンググループ及び放射性廃棄物ワーキンググループにおいて、地層処分に関する地域の科学的特性の提示に係る要件・基準等の検討結果とともに、地域の科学的特性を示す地図の呼称を「科学的特性マップ」とすることが了承されました。その後、同年5月から6月にかけて、同マップの検討経緯や位置付け、提示後の進め方等についての理解を深めるために、全国で国民向けのシンポジウムや自治体向け説明会を開催しました。これらを踏まえ、同年7月28日には、第6回最終処分関係閣僚会議が開催され、同日、経済産業省から科学的特性マップが公表されました。


  1. 我が国では、原子力発電で発生した使用済燃料を再処理して有効活用することにしており、再処理によってウランやプルトニウムを回収した後に生ずる廃液をガラス原料と高温で溶かし合わせ固化したものを、ガラス固化体(高レベル放射性廃棄物)と呼びます。
  2. ウランが金属の状態であるときの重量です。
  3. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/hlw/summary/
  4. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/llw/summary/
  5. ウランよりも原子番号の大きい元素を含む放射性廃棄物です。
  6. https://www.jaea.go.jp/04/maisetsu/aisatu/aisatu2.html
  7. International Conference on Geological Repositories

トップへ戻る