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2-2 核セキュリティ

 核セキュリティとは、「核物質、その他の放射性物質、その関連施設及びその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為又は故意の違反行為の防止、探知及び対応」のことをいいます [19]。  我が国は、「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」の義務を遵守しており、原子炉等規制法により原子力施設に対する妨害破壊行為や核物質の輸送や貯蔵、原子力施設での使用等の各段階における核物質の盗取を防止するための対策を事業者に義務付けています。国は、事業者が講じる防護措置の実効性を定期的に確認しています。
 なお、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、放射性物質の発散装置(いわゆるダーティーボム)の脅威も懸念されるようになり、核爆発装置に用いられる核燃料物質だけでなく、あらゆる放射性物質が防護の対象となってきました。従来は、核物質の不法移転及び原子力施設や核物質輸送への妨害破壊行為に対する防護対策であったものが、以下の図 2-7に示すとおり、放射性物質の盗取及び関連施設又は輸送への妨害破壊行為、さらに規制管理外の核物質やその他の放射性物質への対応にまで、防護の対象が広がっています。

図 2-7 IAEAが想定する核テロリズム

(出典)外務省ウェブサイト「核セキュリティ」 20


(1)核セキュリティに関する取組の現状

@ 国際的な核セキュリティの枠組み
 核セキュリティに関する重要な国際的枠組みは、国際輸送中の核物質の防護措置をとり、盗取等の行為を犯罪化し、処罰する義務等を定める「核物質の防護に関する条約」(以下「核物質防護条約」という。)であり、1987年2月に発効しています。核物質防護条約は、2005年7月に開催された締約国会議の際に、適用の対象を国内で使用、貯蔵、輸送されている核物質又は原子力施設へと拡大し、防護体制の整備・強化を義務付けるとともに題名を「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」(以下「改正核物質防護条約」という。)に改める改正を採択しました。長らくその改正の発効が待たれていたところ、2016年の第4回米国核セキュリティ・サミット(3月31日・4月1日開催)の前後に改正の批准・受諾等が相次ぎ102か国の締結をもって、同年5月8日に同改正の効力が発生しました。この外に、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を契機として、原子力施設自体に対するテロ攻撃や、核物質やその他の放射性物質を用いたテロの脅威等に対処するための対策強化が求められ、「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」(以下「核テロリズム防止条約」という。)が2007年7月に発効しました(我が国は2005年9月に署名し、2007年9月に効力が発生)。
 また、IAEAは2003年より、各国が原子力施設等の防護措置を定める際の指針となる文書(IAEA核セキュリティ・シリーズ文書)について体系的な整備を実施しています。最上位文書としての基本文書(2013年2月発刊の「国の核セキュリティ体制の基本:目的及び不可欠な要素」)、及び3つの勧告文書(2011年1月に発行された「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告 改訂第5版」(以下「INFCIRC/225/Rev.5」という。) [20]、「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」、並びに「規制上の管理を外れた核物質及びその他の放射性物質に関する核セキュリティ勧告」)に加えて、実施指針14冊、技術指針8冊の計25冊が刊行されています(2017年8月時点)。本整備には、我が国も文書作成段階から参加しています。

A 国内の核セキュリティ体制
1) 核物質及び原子力施設の防護
 我が国では、原子炉等規制法により原子力施設に対する妨害破壊行為や核物質の輸送や貯蔵、原子力施設での使用等に際して核物質の盗取を防止するための対策を事業者に義務付けています。事業者は、原子力施設において核物質防護のための区域を定め、当該施設を鉄筋コンクリート造りの障壁等によって区画しています。さらに、出入管理、監視装置や巡視、情報管理等を行っています。また、核物質防護管理者を選任して、核物質防護に関する業務を統一的に管理しています(図 2-8)。国は、事業者が講じる防護措置の実効性を核物質防護規定の遵守状況の検査において、定期的に確認しています。

 現在では原子力施設の核物質防護対策は、原子炉等規制法に基づき、図 2-9に示す体系で行われています。

図 2-9 原子力施設における核物質防護の仕組み

(出典)原子力規制委員会作成

 2011年12月及び2012年3月には、IAEAのINFCIRC/225/Rev.5の勧告や東電福島第一原発事故を踏まえた防護の強化、サイバーテロ対策の強化のため、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則(以下「実用炉規則」という。)等が改正され、防護対策が強化されました。

2) 放射性物質の防護
 IAEAは核物質のみならず放射性同位元素についてもテロに利用される可能性があるとして、2004年に「放射線源の安全とセキュリティ確保に関する行動規範」 [21]を定め、放射線源登録制度の確立を各国に求めました。我が国も2009年10月に放射線障害防止法施行規則を改正して、人体に影響を及ぼすおそれが高い放射線源の登録制度を導入しました。なお、放射線障害防止法に基づく事務も、2013年4月1日より文部科学省から原子力規制委員会に移管されています。
 原子力規制委員会では、放射性同位元素に対する防護措置について「核セキュリティに関する検討会」の下に設置した「放射性同位元素に係る核セキュリティに関するワーキンググループ」において検討を行い、2016年6月13日に同検討会において「防護措置に係る規制上の枠組み等の考え方」を取りまとめた「放射性同位元素に対する防護措置について(報告書)」を決定しました。
 同報告書の内容を踏まえて、「放射性同位元素使用施設等の規制の見直しに関する検討チーム」において、2016年11月9日に防護措置の具体的内容等を取りまとめた「放射性同位元素使用施設等の規制の見直しに関する中間取りまとめ」を決定しました。
 同取りまとめの内容を踏まえた放射線障害防止法等の改正法案が第193回国会に提出され、2017年4月に成立、公布されています。

3) 輸送における核セキュリティ
 表 2-2に示すように、輸送時の核セキュリティは、輸送の種類によって所管する規制行政機関及び治安当局が異なります。特定核燃料物質 21 の輸送の際の要件は、陸上輸送に関しては原子炉等規制法で、海上輸送に関しては船舶安全法で定められています。

表 2-2 特定核燃料の輸送を所管する関係省庁

※特定核燃料の航空輸送は実施されない。
(出典)第2回核セキュリティに関する検討会 資料第4号 国土交通省、原子力規制庁「輸送における核セキュリティの検討について」(2013年)

4) 放射線発散処罰法と核物質防護条約の改正への対応
 我が国では、核テロリズム防止条約が発効したのと同時に、その的確な実施を確保し、国民を放射線による障害から守る観点から、「放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律」(平成19年法律第38号、以下「放射線発散処罰法」という。)が制定されました。
 核物質防護条約の改正について、2012年の第2回ソウル核セキュリティ・サミットにおける声明書では、2014年までに同改正を発効させるため、国内手続の加速が核物質防護条約の締約国に求められました。このため我が国は、2014年4月に放射線発散処罰法を改正し、特定核物質をみだりに輸出入する行為又は未遂、原子力施設に対する行為により生命等に危害を加えるとの脅迫による強要を処罰対象行為に追加し、同年6月に核物質防護条約の改正の受諾書を寄託しました。2016年5月の同条約改正発効を受けて、放射線発散処罰法改正も同日付で施行されました。


(2)核セキュリティに関する最近の動向

@ 原子力委員会の決定
 核物質やその関連施設の特性を踏まえた防護の在り方を審議するため、原子力委員会は2006年12月に原子力防護専門部会を設置し、2011年9月と2012年3月に報告書「核セキュリティの確保に対する基本的考え方」及び「我が国の核セキュリティ対策の強化について」を発表し、関係行政機関と許可事業者に対して核セキュリティ対策の着実な強化を求め、設置が予定されていた原子力規制庁には必要に応じた見直しを期待することとしました。
 2011年の報告書では、IAEA「核セキュリティ基本文書」(当時は案の段階で、2013年に正式化)を参考に、関係行政機関並びに事業者の責務など、国としての基本的考え方が示されています。2012年の報告書には、2011年1月発行の3つのIAEA勧告文書 [20]を国と事業者の取組に反映する際の基本方針として、個人の信頼性を確認する制度設計の議論の開始、東電福島第一原発事故を踏まえた対応の速やかな推進、核セキュリティ文化の涵養、立入りや持込みの制限を伴う対策の実施に不可欠な国民の理解・協力、国際貢献の必要性等が示されています。

A 原子力規制委員会における取組
 原子力規制委員会は2012年12月、核セキュリティの当面の課題に対応する「核セキュリティに関する検討会」を設置しました。また、2013年1月には同検討会の検討事項に対応する個別課題の抽出、関係省庁等における実施状況の把握のために、原子力規制庁を事務局とする核セキュリティ関係省庁会議が設置されました。
 2013年7月以降、核セキュリティに関する検討会は、個人の信頼性確認制度、輸送時の核セキュリティ対策、並びに放射性物質及び関連施設の核セキュリティ等の課題についてそれぞれ、ワーキンググループを設置し、検討が行われています。その中で、個人の信頼性確認制度の導入については、2015年10月の原子力規制委員会において制度の方向性が決定され、導入に必要な関連規則の改正と運用ガイド等の制定が2016年9月に行われ、一定の範囲の原子力施設について同制度が導入されました。
 2012年に事業者における核セキュリティ文化の醸成活動及び経営層の関与について、実用炉規則等に明記し、規制の要件とするとともに、2015年に原子力規制委員会における核セキュリティ文化の醸成、維持を図るため「核セキュリティ文化に関する行動指針」を決定しました。また、原子力規制委員が事業者経営層との面談等を通じて関与意識の強化を図っています。
 さらに、原子力規制委員会は、原子炉等規制法に基づき、特定核燃料物質の防護のために事業者とその従業員が守るべき核物質防護規定の認可、同規定の遵守状況の検査(核物質防護検査)を毎年行っています。

B 核テロリズムに対する国際的取組への対応
 2009年4月に、米国のオバマ大統領がプラハで演説を行い、核テロは地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威とした上で、核セキュリティ・サミットを提唱しました。その後、2010年(ワシントンDC)、2012年(ソウル)、2014年(ハーグ)、2016年(ワシントンDC)と、各都市で合計4回の核セキュリティ・サミットが開催されました。
 安倍総理大臣とオバマ米大統領は2014年3月の第3回ハーグ核セキュリティ・サミットにおいて、「世界的な核物質の最小化への貢献」を約束し、2016年の第4回米国核セキュリティ・サミットにおいて、我が国の高速炉臨界実験装置(FCA) 22 から全ての高濃縮ウラン燃料及びプルトニウム燃料の撤去を完了したことを発表したこと、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA 23 )の全ての高濃縮ウラン燃料を米国に撤去して希釈し、恒久的に脅威を削減するために協働することを発表しました。また、日本は進捗状況報告書等において核不拡散・核セキュリティ総合支援センターを通じた核テロ対策に関係する各国の人材育成や能力構築に対する支援、核テロ対策の観点から機微な核物質を削減するための取組、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見据えた国内の核テロ対策の強化等を通じ、世界の核セキュリティの強化に積極的に貢献していく考えを表明しました。
 2010年11月の日米首脳会談を受けて両国が設置した核セキュリティ作業グループは、核セキュリティ・サミット・プロセスを支え、日米間で核セキュリティ分野での協力を推進してきました。両国の協力の一環で、2010年12月に核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN 24 )が原子力機構に設置され、アジア諸国を始めとする各国の核セキュリティ強化に貢献するためのセンターとして、核物質防護等に関する人材育成を実施しています。
 我が国はIAEAに対して国際核物質防護諮問サービス(IPPAS 25 )ミッションを要望し、2015年2月に同ミッションを受け入れました。IPPASとは、IAEA加盟国からの要望に基づき、IAEAが主導する、国の核セキュリティ体制強化のための支援サービスであり、各国の核物質防護専門家から構成されるチームが、要望のあった国の政府及び原子力施設を訪れ、核物質防護条約及びINFCIRC/225/Rev.5に準拠した防護措置を実施するために必要な助言等を行うものです。同チームからは「日本の核セキュリティ体制、原子力施設及び核物質の防護措置の実施状況は、全体として、強固で持続可能なものであり、また近年顕著に向上している」とされ、国の体制と訪問施設について、良好事例とともに継続的改善のための勧告事項や助言事項が示されました。


  1. http://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/n_s_ne/page22_000968.html
  2. プルトニウム(プルトニウム238の同位体濃度が100分の80を超えるものを除く)、ウラン233、ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率を超えるウランその他の政令で定める核燃料物質です(原子炉等規制法第2条第6項)。
  3. Fast Critical Assembly
  4. Kyoto University Critical Assembly
  5. Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation and Nuclear Security
  6. International Physical Protection Advisory Service

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