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第2章 原子力利用に関する基盤的活動

2-1 原子力安全対策

 東電福島第一原発事故を契機に、国際機関等では事故の評価を行い、教訓を踏まえて原子力安全を強化するための取組を行っています。我が国でも、国会事故調及び政府事故調の報告書等の提言を受けて、原子力安全規制体制の再編や、重大事故(シビアアクシデント)対策の導入、最新の知見の取り入れ等による原子力安全規制の強化が図られました。
 原子力規制委員会は、新たな原子力安全規制の枠組みに基づき、原子力事業者による安全確保の取組を監視・監督するとともに、国内外の最新知見を踏まえた規制の継続的な改善に取り組んでいます。また、事故後に見直された原子力災害対策においても、原子力災害対策指針の策定や緊急時の技術的・専門的な判断などの役割も担っています。


(1)原子力安全対策に関する基本的枠組み

@ 国際的な動向
 東電福島第一原発事故は、国際社会に大きな影響を与え、事故を受けて、国際機関や諸外国においては、原子力安全を強化するための取組が進められています。
 IAEAは、2011年6月の「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」において、世界の原子力安全、緊急時への備え、放射線防護を更に向上させるために必要な措置を示した「原子力安全に関する閣僚宣言」を取りまとめました [1]。この閣僚宣言を基に策定された「原子力安全行動計画」は2011年9月の第55回IAEA年次総会で承認されました [2]。原子力安全行動計画は、極限の自然災害に対する発電所の安全性評価の実施、IAEAによるレビューサービスの強化と加盟国による自発的なレビュー受入れの奨励、緊急事態に係る準備及び対応の強化等、12項目から構成されています。IAEA加盟国は、この行動計画に従って、自国の原子力安全の枠組みを強化するための様々な取組を実施しています。
 OECD/NEAは、各国の規制機関が今後取り組むべき優先度の高い事項を示しています [3] [4]。特に、原子力の安全確保においては、人的・組織的要素や安全文化の醸成が重要であるとし、OECD/NEA加盟国による継続的な安全性向上の取組を支援しています [5]
 米国や欧州諸国においても、事故に関して得られた情報に照らして自国内の原子力発電所の安全性の評価を行い、安全確保を確認し、さらに、事故の教訓を踏まえ、より一層の安全性向上に向けた追加の安全対策の検討や導入を進めています。例えば米国では、事故直後に米国原子力規制委員会(NRC 1 )に設置された短期タスクフォースが、改善を検討すべき自国の規制について12項目の勧告を出しました [6] [7]。NRCは、この勧告に基づき、規制の見直しを進めるとともに、安全性を強化するための対応を原子力事業者に求めています。
 また欧州連合(EU 2 )では、事故直後に域内の原子力発電所に対してストレステスト(耐性検査)を行い、安全性を確認するとともに、更なる安全強化のための行動計画を各国が策定しました。さらに、EU全体での原子力安全規制に関する規則の強化も進められ、2009年に採択された原子力安全に関するEU指令が2014年7月に改定されました [8]

A 国の役割
 IAEAの安全原則では、政府の役割について「独立した規制機関を含む安全のための効果的な法令上及び行政上の枠組みが定められ、維持されなければならない」とされています。
 我が国では、東電福島第一原発事故の反省に基づき、原子力安全規制に関する体制及び制度が見直されました。「原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務を一元的につかさどるとともに、その委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資すること」を目的として原子力規制委員会が発足しました。また、原子炉等規制法の改正により、シビアアクシデント対策の強化、バックフィット制度の導入、運転期間延長認可制度の導入等がなされ、2013年7月に実用発電用原子炉に係る新規制基準が施行されました。
 原子力規制委員会は、IAEAによる総合規制評価サービス(IRRS 3 )の受入れや、海外の原子力規制機関との情報交換に取り組んでいます。

B 事業者の役割
 IAEAの安全原則では、「安全のための一義的な責任は、放射線リスクを生じる施設と活動に責任を負う個人または組織が負わなければならない」と規定し、安全確保の一義的な責任は事業者にあるとしています。
 原子力事業者等は、新規制基準で採用されている「深層防護」の考え方に基づき、安全確保のための措置を講じています。深層防護は、放射線による有害な影響から人と環境を守ることを目的とし、「ある目標をもった幾つかの障壁(以下「防護レベル」という。)を用意して、あるレベルの防護に失敗しても次のレベルで防護する」という概念です。原子力発電所等の施設は、深層防護の考え方に基づき、単一の防護レベルや対策に頼ることなく、複数の防護レベルで様々な対策を準備します(図 2-1)。

図 2-1 原子力発電所の安全設計の基本的な考え方

(出典)原子力規制委員会「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」(2016年8月)に基づき作成

 原子力事業者等は、新規制基準に対応するだけでなく、最新の知見を踏まえつつ、安全性向上に資する措置を自ら講じる責務を有しています。このような自主的かつ継続的な安全性向上の取組の一環として、我が国の多くの原子力発電所が世界原子力発電事業者協会(WANO 4 )によるピアレビューを受入れ、世界の原子力事業者等が持つ運転経験や良好事例に学び、自らの改善活動に生かしています。また、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6、7号機は、2015年6月のIAEA運転安全調査団(OSART 5 )のレビューを受け入れ、その評価結果も踏まえた安全性向上の活動に取り組んでいます。
 原子炉等規制法では、従来行われてきた定期安全レビューに代わるものとして、施設の安全性について事業者が自ら評価する「安全性向上評価」を原子力事業者等に義務付けるとともに、その評価結果を、原子力規制委員会に届出させ、公表させることとしています [9]

コラム 〜米国における安全性向上の取組〜

米国では、1979年に発生したスリー・マイル・アイランド(TMI)原子力発電所事故以降、原子力発電運転協会(INPO)、原子力エネルギー協会(NEI)等を中心として自主的な安全性向上やリスクマネジメントの実践に取り組むとともに、NRCでは、稼働実績及びリスク情報に基づいた規制の導入による客観性の向上を進めてきました。その結果として重要事象の発生頻度の減少や、稼働率の向上、出力向上等を達成し、原子炉数は増加していないにも関わらず、総発電電力量の増加にもつながり、安全性と経済性の両立を達成しています。
 産業界の自主規制機関であるINPOは、運転員の知識と業務遂行能力、施設・装置の状態、運転プログラムと手順等について調査・評価し、情報共有のためのCEO会議でINPO代表から直接報告します。さらに、評価結果がよい場合、原子力財産保険の保険料が減免されるインセンティブを設けています。この他に、事故原因と対応策等の情報について事業者間で共有を進める等の活動を行い、各事業者が最高の業務状況の達成を支援しています。
 NEIは技術面・規制面の諸課題に関して検討・提案し、業界全体を代表してNRCとも議論・調整を行っています。また、NEIに参画する事業者は、その調整結果に従うことになっています。
 その一方で、規制機関であるNRCは、TMI事故後の規制活動が冗長、非効率、主観的である等の批判を受け、PRA活用政策声明に基づくリスク情報を活用した規制の促進、稼動実績とリスク情報に基づいた原子炉監視プロセス(ROP)の施行等を進め、規制の改善を図ってきました。

米国の原子力発電所の重要事象発生率の推移

(出典)米国原子力エネルギー協会(NEI)のデータを基に作成

米国の原子力発電所における発電電力量の推移

(出典)米国原子力エネルギー協会(NEI)のデータを基に作成


(2)原子力安全対策に関する取組

@ 原子炉等規制法等に基づく規制の実施
1) 実用発電用原子炉施設に係る規制
 実用発電用原子炉施設については、原子力規制委員会が、原子炉等規制法に基づき、設計・建設段階、運転段階の各段階の規制を行っています。
 設計・建設段階では、まず、原子力事業者が設備の設計方針について記した原子炉設置(変更)許可申請を原子力規制委員会に提出します。これを受け、原子力規制委員会は設置許可基準規則などに定められた技術基準に適合しているかを審査し、原子炉の設置(変更)の許可について判断します。設置(変更)許可を受けた原子力事業者は、設備の詳細な設計内容を示した工事計画について、原子力規制委員会に認可申請を行います。工事の各工程においては、原子力規制委員会が使用前検査を実施し、工事計画との適合性や技術基準との適合性について確認します。また、運転開始に当たっては、原子力発電所の運転の際に実施すべき事項や、従業員の保安教育の実施方針など原子力発電所の保安に関する基本的な事項を定めた保安規定の審査・認可を行います。なお、2016年12月末時点で、11事業者から16原子力発電所26基の新規制基準に係る設置変更許可申請等が提出されており、九州電力(株)川内原子力発電所1号機及び2号機、関西電力(株)高浜発電所1〜4号機、美浜発電所3号機、四国電力(株)伊方発電所3号機について、原子力規制委員会により設置変更許可がなされました。
 運転段階では、原子力事業者による「定期事業者検査」、安全上特に重要な設備・機能を対象とした原子力規制委員会による「施設定期検査」等を通じて、技術基準への適合性が確認されています。また、原子力保安検査官は、保安検査により事業者が「保安規定」を遵守しているかどうかを確認します。なお、原子力事業者は、運転に関する主要な情報については定期的に、事故や故障等のトラブルについては直ちに、原子力規制委員会に報告することとされています。

2) 核燃料施設等に係る規制
 原子炉等規制法に基づき、製錬施設、加工施設、試験研究用等原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設、廃棄物管理施設、使用施設等に対する規制が行われています。これらの施設は、取り扱う核燃料物質の形態や施設の構造が多種多様であることから、それぞれの特徴を踏まえた基準を策定する方針が採られています。これらの施設についても新規制基準への適合性審査が進められています。

A 原子力安全研究
 2015年6月、経済産業省が総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に設置した「自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ」において、
 東電福島第一原発以外の廃止措置を含めた軽水炉の安全技術・人材の維持・発展のため、国、事業者、学会等の関係者が担うべき役割や各課題の優先度を明確化した「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」を日本原子力学会と協力して策定しました。これを継続的にローリングするとともに、更なる改善に向けた議論を進めています。また、2012年度より、発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業を実施し、ロードマップの優先度に基づき安全研究に取り組んでいます。
 原子力機構、量研機構等の国内の研究機関は、IAEA等の国際機関及び諸外国の研究機関とも連携して、安全研究を実施しています。原子力機構は、シビアアクシデントの発生防止及び評価に関する研究、事故に係わる放射線影響や放射性廃棄物管理に関する研究に重点を置いて研究を進めています。
 原子力規制委員会は2016年7月に「原子力規制委員会における安全研究の基本方針」を策定しています。この中で安全研究目的を「規制基準等の整備に活用するための知見の収集・整備」、「審査等の際の判断に必要な知見の収集・整備」、「規制活動に必要な手段の整備」、「技術基盤の構築・維持」とし、2017年度以降「今後推進すべき安全研究の分野及びその実施方針」を原則として毎年度示すとしています。同基本方針と併せて発表した「今後推進すべき安全研究の分野及びその実施方針(平成29年度以降の安全研究に向けて)」では、横断的原子力安全(外部事象、火災防護、人的・組織的要因)、原子炉施設(リスク評価、シビアアクシデント、熱流動・核特性、核燃料、材料・構造、特定原子力施設)、核燃料サイクル・廃棄物(核燃料サイクル施設、放射性廃棄物、廃止措置・クリアランス)、原子力災害対策・放射線規制等(原子力災害対策、放射線規制・管理)の4つのカテゴリーについて2017年度以降の安全研究の実施方針を示しています。

コラム 〜過酷事故(シビアアクシデント)に関する日本と欧米における取組について〜

 東電福島第一原発事故前、国会事故調で指摘されているとおり、外部事象を考慮したシビアアクシデントが十分な検討を経ないまま、事業者の自主性に任されてきました。また、シビアアクシデントに関する研究は既に海外でなされているとして、2000年代に予算が削減されるなど、研究活動も下火となりました。このため、科学的知見や知識を収集・体系化・共有(知識基盤)し、いろいろな過酷事故の状況に対して利用できる状況ではありませんでした。特に、シビアアクシデントとその影響は、原子炉設備の挙動、放出される核分裂生成物の建屋や構造物との相互作用等に大きく依存するため、関連する分野と連携して現象、設計・設備と解析の3つを組み合わせた研究開発や知識基盤の構築を進める必要があります。また、当該知見をいろいろな状況で使えるように体系化し知識化するとともに、過酷事故の防止と影響低減のための体系的な安全の研修資料を作っていく必要があります。
 米国や欧州では、スリー・マイル・アイランド(TMI)事故以降、継続してシビアアクシデントに関する研究に取り組んできました。その中で、研究開発機関や大学、原子力事業者等の原子力関連機関がそれぞれの役割を認識し尊重し合いながら連携や協働を行う場を構築して、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により知識基盤を構築する取組が進められてきました。このような欧米での取組を参考に、我が国でも厚い知識基盤の構築を進める必要があります。

<取組事例>
米国:NRC過酷事故研究共同プログラム(CSARP)
欧州:過酷事故研究ネットワーク(SARNET)

(出典)第25回原子力委員会 資料第1-3号「参考資料」(2017年) を基に作成

B 原子力災害対策に関する取組
1) 原子力災害対策の基本的枠組み
 東電福島第一原発事故の反省と教訓を活かし、このような事故の再発防止のための努力と、更なる安全性の高みを追求することが必要である一方、原子力災害が万一発生した場合には、原子力施設周辺住民や環境等に対する放射線影響を最小限にするとともに、発生した被害に対し応急対策を的確かつ迅速に実施することが不可欠です。福島第一原発事故後に原子力災害対策に関する枠組み及び防災体制が見直されました。これに基づき、防災計画の策定や訓練をはじめとして、平時から、適切な緊急時のための準備が図られています。また、原子力災害対策指針(2012年原子力規制委員会決定)では、事故の教訓やIAEAの国際基準を踏まえ、原子力災害対策重点区域 6 等を設定するとともに、原子力施設の状態等に基づく緊急事態の判断基準である「緊急時活動レベル(EAL 7 )」や、空間放射線量率等の計測値に基づく防護措置実施の判断基準である「運用上の介入レベル(OIL 8 )」を設定しています。緊急時には、これらの基準を踏まえ、避難や安定ヨウ素剤 9 の予防服用をはじめとした防護措置が実施されます(図 2-2) [10]

図 2-2 緊急時活動レベル(EAL)及び運用上の介入レベル(OIL)に基づく防護措置

(出典) 第35回原子力委員会資料 第2号 原子力規制委員会・内閣府「原子力災害対策について」 (2013年)に基づき作成

 この他、国は、「原子力災害対策特別措置法」(平成11年法律第156号)に基づき、国、地方公共団体、原子力事業者等の関係機関が一堂に会し、情報の共有を図り、関係機関が一体となった緊急事態応急対策等を実施するための対策拠点施設(オフサイトセンター)をあらかじめ指定するとともに、国、地方公共団体及び原子力事業者は、平常時より協力して、それぞれの役割と責任に応じて、対策拠点施設等における応急対策の実施に必要な設備、資機材等についての整備等が進められています(図 2-3)。

図 2-3 原子力緊急事態の国の対応体制

(出典)内閣府政策統括官(原子力防災担当)ウェブサイト「地域防災計画・避難計画策定支援」 10 に掲載の各地域の緊急時対応に基づき作成

2)原子力防災の不断の見直し
 原子力災害対策指針では、「防災は、新たに得られた知見や把握できた実態等を踏まえ、実効性を向上すべく不断の見直しを行うべきもの」とされ、継続的に改定されています。
 原子力災害対策指針では、今後、原子力規制委員会が検討を行うべき課題を挙げています [10]。これらの課題に対し、原子力規制委員会は「原子力災害事前対策等に関する検討チーム」、「原子力災害時の医療体制の在り方に関する検討チーム」等を設置して、科学的・専門的な検討を行っています。2016年中には「原子力災害事前対策等に関する検討チーム」で、核燃料施設等に係る原子力災害対策の在り方に関する検討が進められ、2017年3月22日の原子力規制委員会において、原子力災害対策指針の改正が決定されました。さらに、発電用原子炉以外のEAL等の在り方について、原子力事業者と意見交換を行いながら検討が進められ、2017年7月5日の原子力規制委員会において、原子力災害対策指針の改正が決定されました。
 また、原子力規制委員会は、2016年4月14日以降の熊本地震発生時の対応等を踏まえ、大規模地震発生時の初動対応体制及び情報提供を強化するために、「原子力規制委員会防災業務計画(2012年、原子力規制委員会決定)」を修正しました [11] [12]

3)地域の原子力防災充実に向けた取組
 2013年9月の原子力防災会議決定に基づき、内閣府政策統括官(原子力防災担当)は、原子力発電所の所在する地域ごとに、課題を解決するためのワーキングチームとして「地域原子力防災協議会」を設置(2015年3月)、その下に作業部会を置きました。各地域の作業部会では、避難計画の策定支援や広域調整、国の実働組織の支援等について検討し、国と関係地方公共団体が一体となって地域防災計画・避難計画等の具体化・充実化に取り組んでいます。地域防災計画及び避難計画の具体化・充実化が図られた地域については、避難計画を含む緊急時対応をとりまとめ、地域原子力防災協議会において、それが原子力災害対策指針等に照らし、具体的かつ合理的なものであることを確認しています。また、内閣府は原子力防災会議の了承を求めるため、地域原子力防災協議会における確認結果を原子力防災会議に報告することとしています。
 緊急時対応の確認を行った地域については、PDCAサイクル 11 に基づき、緊急時対応の具体化・充実化の支援及び確認(Plan)に加え、協議会において確認した緊急時対応に基づく訓練の実施(Do)、訓練結果からの教訓事項の抽出(Check)、その教訓事項を踏まえた緊急時対応の改善(Action)を行い、各地域の原子力防災対策の充実、強化を図っています(図 2-4)。
 直近では、2016年11月22日に開催された玄海地域原子力防災協議会において「玄海地域の緊急時対応」が具体的かつ合理的であることが確認され、同年12月9日の原子力防災会議にてこの確認結果が了承されました。このほか、2016年末時点で、川内地域、伊方地域、高浜地域、泊地域の緊急時対応について、原子力防災会議にてそれらの確認結果が了承されています。

図 2-4 地域防災計画・避難計画の策定

(出典)内閣府政策統括官(原子力防災担当)ウェブサイト「地域防災計画・避難計画策定支援」 12

4)原子力災害対策充実に向けた動きと各機関の取組
 原子力立地地域では、安全対策やシビアアクシデント対策はもとより、事故時の避難に直結する原子力災害対策の具体化・充実化に対して大きな関心が寄せられています。政府は、こうした地域の声を踏まえ、2016年3月11日の第4回原子力関係閣僚会議において、「原子力災害対策充実に向けた考え方〜福島の教訓を踏まえ全国知事会の提言に応える〜」を決定しました [13]
 この決定で、政府は、原子力災害対策の充実へ向けて、特に重要と考えられる点について、政府の考え方を明らかにし、対応方針を示すとともに、原子力防災対策に関する全国知事会の提言 13 の全項目に対する政府の具体的な対応を示しました。
 この決定を踏まえ、経済産業大臣は原子力事業者に対し、原子力災害対策充実に向けた現在の取組状況を速やかに報告することを求め、各原子力事業者はそれぞれの取組状況を2016年4月15日及び10月20日に経済産業大臣へ報告しました。また、2017年4月11日に防災基本計画を修正するとともに、自治体や関係行政機関相互間の緊密な連携・協力を確保し、政府一体となって対応するため、2016年4月19日に原子力災害対策関係府省会議が開催され、同会議の下に、実動部隊の協力、民間事業者の協力及び拡散計算も含めた情報提供の在り方についての分科会が設置されました。各分科会においては、関係府省が連携協力しつつ、関係道府県に意見照会を行いながら専門的かつ実務的な検討を実施し、2017年7月24日に各分科会の取りまとめを原子力災害対策関係府省会議及び原子力関係閣僚会議に報告を行いました。

5)原子力総合防災訓練の実施
 原子力総合防災訓練は、原子力災害発生時の防災体制等を検証することを目的として、原子力災害対策特別措置法第13条に基づき、原子力緊急事態を想定して、国、地方自治体、原子力事業者等が合同で実施する訓練です。
 2016年度は、防災体制の実効性の確認、マニュアルに基づく手順の確認、「泊地域の緊急時対応」に基づく避難計画の検証、訓練結果を踏まえた教訓及び緊急時対応等の改善のため、2016年11月13日から14日の2日間にわたり、北海道電力株式会社泊発電所を対象とし、内閣総理大臣をはじめとする関係閣僚、指定行政機関、指定公共機関、地方公共団体、原子力事業者、地域住民など多様な主体の参加の下、原子力総合防災訓練が実施されました。また、冬季の暴風雪の発生を踏まえた、除雪や避難の手順等を確認する要素訓練を原子力総合防災訓練の一環として2017年2月4日に実施しました。

C 放射線モニタリングに関する取組
 東電福島第一原発事故後、2012年9月に、「環境基本法」(平成5年法律第91号)において、放射性物質による大気等の汚染の防止について原子力基本法等に対応を委ねている規定が削除されました。これを受け、2013年9月に改正された「大気汚染防止法」(昭和43年法律第97号)及び「水質汚濁防止法」(昭和45年法律第138号)に基づき、環境大臣が放射性物質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視、公表することとなりました。得られた結果は、環境省の「放射性物質の常時監視 14 」に公開されています。
 環境放射能水準調査等の各種調査が関係省庁、独立行政法人、地方公共団体等の関係機関によって実施されており、それらにより得られた結果は、原子力規制委員会の「放射線モニタリング情報 15 」のポータルサイトや「日本の環境放射能と放射線 16 」ホームページ等に公開されています。

1)東電福島第一原発事故に係る放射線モニタリング
 東電福島第一原発事故により放出された環境中の放射性物質について、きめ細かな放射線モニタリングを確実に、かつ計画的に実施することを目的として、政府は、原子力災害対策本部の下にモニタリング調整会議を設置し、「総合モニタリング計画」(2011年モニタリング調整会議決定、2017年4月28日最終改定)を策定しました。総合モニタリング計画に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して放射線モニタリングを実施しています(表 2-1) [14]
 各機関が実施した放射線モニタリング結果は各機関のウェブサイト上で公開されているほか、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報のポータルサイトで一元的に公表されています。

表 2-1 総合モニタリング計画

(出典)モニタリング調整会議「総合モニタリング計画」(2017年) [14]及び環境省「平成26年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」に基づき作成

2)原子力施設周辺等の環境モニタリング
 原子力規制委員会は、原子力施設の周辺地域等における放射線の影響や全国の放射能水準を調査するため、全国47都道府県における環境放射能水準調査、原子力発電所等周辺海域(全16海域)における海水等の放射能分析、原子力発電施設等の立地・隣接道府県(24道府県)が実施する放射能調査及び環境放射能水準調査では、各都道府県の設置されているモニタリングポスト(図 2-5)の空間線量率の測定結果を取りまとめ、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報のポータルサイトで公表しています。
 また、環境省は、2001年1月より、環境放射線等モニタリング調査として、離島等において、放射性物質等の連続自動モニタリング(全10か所)及び測定所周辺の大気浮遊じん、土壌、陸水等の核種分析を実施しています。これらの調査で得られたデータは、環境省のウェブサイト(環境放射線等モニタリングデータ公開システム 17 )で公開されています。

図 2-5 モニタリングポスト

(出典)原子力規制委員会ウェブサイト [15]

3)核実験等に伴う放射性降下物の放射能調査
 「国外における原子力関係事象発生時の対応要領(2005年 放射能対策連絡会議 18 )」では、核実験等の国外で発生する原子力関係事象についてモニタリングの強化等の必要な対応を図ることとしています。
 最近の事例では、2016年1月及び9月の2回にわたり北朝鮮が核実験を行った際には、放射能対策連絡会議の申合せにより、原子力規制委員会を始め関係機関が協力して放射能調査を行いました。原子力規制委員会から、これらの放射能調査の結果には異常がないと公表されています。

4)原子力艦の寄港に伴う放射能調査
 米国原子力艦の寄港に伴う放射能調査は、海上保安庁、水産庁、関係地方公共団体等の協力を得て、原子力規制庁が実施しています。
 2016年に実施された調査結果では、放射能による周辺環境への影響はありませんでした。

5)モニタリング技術の改良
 緊急時及び平常時のモニタリングを適切に実施するためには、継続的にモニタリングの技術基盤の整備、実施方法の見直し、技能の維持を図ることが重要です。このため、空間放射線量や環境試料等の分析・測定方法の基準となる「放射能測定法シリーズ」の改訂に係る技術的事項、核燃料施設等における緊急時モニタリングに必要な技術的事項について検討を進めています 19


(3)原子力安全対策に関する最近の動向

@ 地震・津波等の自然事象への対策
 東電福島第一原発事故では、東北太平洋沖地震後の津波により、複数の安全機能が喪失しました。このため、原子力規制委員会は、従来の想定を大幅に見直し、地震や津波を含む自然事象による施設の損傷を防止することを原子力事業者に要求しました。
 原子力発電所の安全上重要な施設については、地震力が作用しても十分に支持することができ、活断層等の露頭のない地盤の上に設置することが義務付けられています。また、安全上重要な施設については、「基準地震動による地震力」に対して、その安全機能が損なわれるおそれがないかを確認しています。「基準地震動」とは、施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震に伴って生じる揺れの大きさのことを指し、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地周辺の地質構造や地盤構造等に基づいて策定されます。なお、津波についても、地震と同様に「基準津波」で想定される津波高さを用い、安全上重要な施設の安全機能が損なわれるおそれがないかを確認しています。原子力事業者は、これらの評価結果を踏まえ、安全上重要な設備の補強工事を実施しています。例えば、設備を基盤となる構造物の強化や追加によって耐震性を高める対策、重要な設備のあるエリアの入り口に密閉性の高い水密扉を設けることで津波の流入を防ぐ対策などが講じられています。

A 原子力事業者の緊急時対応の強化
 原子力事業者は、原子力発電所における事故を収束させるために必要な設備などを発電所敷地内に配備するとともに、敷地外からの支援を行うための組織・体制も構築しています。外部からの支援組織として、複数の原子力事業者が共同で「原子力緊急事態支援センター」を設立しました [16]。同センターは、原子力災害の発生時に、発電所周辺が高い放射線量に覆われ、地震によってガレキが散乱するなど、事故収束に向けた活動が困難な状況下で、必要な様々な資機材を集中的に維持・管理し、複数の原子力事業者が協力して事故収束にあたる専門組織です。緊急時には、同センターが福井県の拠点施設から必要な資機材を迅速に現場に届けます。現場では、遠隔操作可能なロボットを用いて、作業員が立ち入ることのできない場所の撮影や放射線量の測定により現場状況を把握するとともに、瓦礫などの障害物の撤去を行います。また、車両などを除染するための高圧洗浄機や作業員の被ばく管理のための放射線測定用機材の提供も行います。平常時には、緊急時に備え、これらの資機材の保守・点検、現場の状況を模擬した訓練を通じたロボットなどの操作技術の維持・向上にも努めています。

B 検査制度の見直しに向けた取組
 原子力規制委員会は、原子炉等規制法に基づき、実用発電用原子炉施設、核燃料施設等に対する検査を実施しています。
 2016年に実施されたIAEAのIRRSレビューにおいて、検査制度の見直しについて以下のような勧告や提言がなされています [17]

  • 効率的で、パフォーマンスベースの、より規範的でない、リスク情報を活用した原子力安全と放射線安全の規制を行えるように、検査制度を改善・簡素化するべきである。
  • 変更された検査制度に基づき、検査プログラムを開発、実施するべきである。
  • 検査、関連する評価そして意思決定に関わる能力を向上させるため、検査官の訓練及び再訓練の改善について検討するべきである。

 原子力規制委員会は、2016年5月より「検査制度の見直しに関する検討チーム」を設置し、IRRSレビューによる指摘事項、海外事例及び原子力事業者の意見等を踏まえ、検査制度の見直しについて検討しています。同チームは11月に「検査制度の見直しに関する中間とりまとめ」を公表しました。この中間とりまとめの内容を踏まえ、原子炉等規制法等の改正法案が国会に提出され、2017年4月に成立しました。ここで示された従来の検査制度における課題や新たな検査制度の構築に向けた考え方は以下の図 2-6のとおりです [18]

図 2-6 検査制度の見直しの基本的考え方

(出典)原子力規制委員会「検査制度の見直しに関する中間取りまとめ」(2016年11月) [18]に基づき作成


  1. Nuclear Regulatory Commission
  2. European Union
  3. Integrated Regulatory Review Service
  4. World Association of Nuclear Operators
  5. Operational Safety Review Team
  6. 住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うために、重点的に原子力災害に特有な対策が講じられる区域のこと。発電用原子炉の場合は、原子力施設からおおむね半径5kmを目安とする「予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone)」とおおむね半径30kmを目安とする「緊急防護措置を準備する区域(UPZ:Urgent Protective Action Planning Zone)」が設定されています。
  7. Emergency Action Level
  8. Operational Intervention Level
  9. 放射性でないヨウ素を内服用に製剤化したもので、放射性ヨウ素からの甲状腺の内部被ばくを低減するために、服用します。
  10. https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/keikaku/keikaku.html
  11. 計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善(Action)を継続的に行うことで改善を図る考え方です。
  12. https://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/pdf/02_sakuteitaisei.pdf
  13. 47都道府県の知事で組織する全国知事会による「原子力発電所の安全対策及び防災対策に対する提言」(2015年7月)です。
  14. http://www.env.go.jp/air/rmcm/index.html
  15. http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
  16. http://www.kankyo-hoshano.go.jp/
  17. http://housyasen.taiki.go.jp/
  18. 国外で発生する原子力関係事象に際し、放射能測定分析の充実、人体に対する影響に関する研究の強化、放射能に対応する報道、勧告、指導、その他放射能対策に係る諸問題について、関係機関の相互の連絡、調整を緊密に行うため、放射能対策連絡会議が内閣に設置されています。
  19. 原子力規制委員会は、環境放射線モニタリング技術検討チームを設置して技術検討を進めています。

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