平成17年版

原 子 力 白 書

     
平成18年3月

原子力委員会




 

はじめに


 我が国における原子力の研究、開発及び利用に係る活動は、原子力基本法の定めるところに従い、平和の目的に限り、安全の確保を旨とすることを基本方針とし、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的に、原子力委員会が定めた原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(以下、「原子力長期計画」という。)に則って進められてきました。

 原子力基本法の下におけるこの活動は、平成17年には50年目を迎えました。そこでは、研究用原子炉、加速器等の放射線発生・利用施設が学術研究や医療、農業、工業等の産業分野で多様に活用されていますし、54基の原子力発電設備が我が国の総発電電力量の約1/3を供給し、わが国のエネルギー自給率を12%押し上げ、有力な地球温暖化対策の一つとして貢献しています。原子力発電に係るウラン濃縮、使用済燃料の再処理、放射性廃棄物の処分等の核燃料サイクルに係る事業もトラブルを経験しながらも着実に前進していますし、高速増殖炉を含む次世代原子力発電技術の実用化に向けての研究開発や、新しい放射線発生装置とその利用技術、核融合エネルギー技術の研究開発も進められています。

 この状態に至るまでの半世紀にわたる道のりは平坦ではありませんでした。まず、科学技術政策や産業政策、エネルギー政策等を通じて原子力長期計画の推進に必要な人材養成組織、研究開発組織、安全規制行政組織等の基盤を整備・充実することが必要でした。また、エネルギー源の多様化を目指す民間事業者の原子力発電の事業展開に向けての努力、原子力関係施設の立地を巡る地域社会における意見の衝突を克服する地方自治体のご苦労や原子力技術のあり方を巡る国際社会との調整という外交努力も必要でした。この間、放射線事故や施設の破損事故で作業者が命を落とすという、繰り返してはならない悲しい事態の発生も経験し、その再発防止に向けて、安全規制基準や規制活動の改良・改善も行ってきました。その一方で、施設の安全性に係る行政の判断を不服とする訴訟も提起され続けています。

 原子力委員会は、2004年に至り、2000年に策定した原子力長期計画が前提とした原子力をめぐる内外情勢の展望に対する認識を見直し、この計画に則った政策の推進実績を評価し、国民の皆様から寄せられた多数のご意見を踏まえつつ今後の取組のあり方を検討することとし、一年有余の審議を経て昨年10月、原子力政策大綱を策定しました。これまで原子力政策は原子力長期計画を踏まえて関係府省による具体的な施策が企画・推進されてきましたが、その内容はこの計画策定後の政策推進を巡る国民の皆様との対話や内外情勢を踏まえて変化してきています。この原子力政策大綱は、このように変化しつつある原子力政策の現状を今後の国内外の情勢に対する冷静な展望を踏まえつつ横断的に評価して、その今後の方向性に関する基本方針をとりまとめているものです。したがって、原子力政策の新しい始まりを提示しているというより、変化しつつある政策の今後の方向性に関する認識の集大成です。

 原子力政策大綱は、政策の企画・推進における共通理念として、1)あらゆる取組において、安全確保活動をリスク管理活動の一環として取り込んでいくこと、2)原子力政策を他分野の政策から孤立させず、多面的な総合的な取組として企画・推進することにより原子力のための政策から原子力による政策としていくこと、3)課題中心ではなく使命中心の視点に立ち、既存資源を最大限に活用する短期的取組のみならず、次期に備える中期的取組、将来の可能性を探索する長期的取組を組み合わせて推進していくこと、4)あらゆる取組において国際社会との連携・協力の可能性を探り、相互に利益が得られるパートナーシップの実現を図っていくこと、5)政策の企画から推進に至る各段階で国民の意見を聴いて評価し、改良・改善を図り、その経過と結果を国民に説明していくことを掲げていますが、これもこれまでの取組の経験と反省を踏まえて、今後の政策の企画・推進において重視するべき取組のあり方を示しているものです。

 そこで、この白書は、第1章において原子力政策大綱の枠組みに則って、我が国の原子力研究、開発及び利用がこれまでの蓄積を踏まえつつ、しかし新しい時代に向けて変化しつつある姿を示した上で、第2章にこの1年間の国内外の原子力の研究、開発及び利用の進捗状況について示しています。本書が、国民の皆様が原子力に関する活動を身近に感じ、理解を深めていただく一助となれば幸いです。

平成18年3月

原子力委員会委員長 近藤 駿介


本書の構成と内容

 本書は、平成17年1月1日から平成17年12月末日までの原子力全般に関する動向をとりまとめた。

 本書は、「本編」と「資料編」から構成される。

 本編の第1章において、第1節では、原子力基本法の制定から50年間における原子力の研究、開発及び利用の変遷について述べている。第2節以降では、人類社会の福祉と国民生活の水準の向上とに寄与する原子力利用(エネルギー利用及び放射線利用)及び、これに必要不可欠な基盤的活動、研究開発活動、国際的取組に関し、原子力政策大綱(平成17年10月原子力委員会決定)で示された原子力政策の、今後向かうべき方向とその背景となる認識、及び平成17年における原子力の研究開発利用に関する取組の進展の状況等について述べている。

 第2章においては、原子力の研究、開発及び利用に関する国と民間の活動の最近の動向を「我が国の原子力行政」、「原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化」、「原子力利用の着実な推進」、「原子力研究開発の推進」、「国際的取組の推進」、「原子力の研究、開発及び利用に関する評価の充実」の各分野について網羅的かつ具体的に説明している。

 また、資料編では平成17年における原子力委員会の決定等、原子力関係予算、年表等をまとめている。

 なお、原子力の研究、開発及び利用にあたっては、安全の確保が大前提であり、原子力安全委員会、安全規制当局、研究開発機関、電気事業者、メーカーなどがそれぞれの立場で安全の確保に努めている。このことに関する取組については、原子力安全委員会がとりまとめる「原子力安全白書」において取り扱われている。本書においては安全確保の規制に関することを除いた、原子力委員会の所掌する原子力政策全般についてとりまとめている。


目  次


第 1 部 本編

第1章 我が国の今後の原子力政策の方向
第1節 我が国の原子力の研究開発利用のこれまでの変遷(369KB)
第2節 原子力の研究、開発及び利用に関する現状認識及び今後の方向性(962KB)
第3節 まとめにかえて(12KB)

第2章 国内外の原子力開発利用の状況
第1節 我が国の原子力行政(70KB)
第2節 原子力の研究、開発及び利用に関する基盤的活動の強化(1,102KB)
第3節 原子力利用の着実な推進(1,062KB)
第4節 原子力研究開発の推進(594KB)
第5節 国際的取組の推進(232KB)
第6節 原子力の研究、開発及び利用に関する活動の評価の充実(21KB)
 

第 2 部 資料編

1 原子力委員会、原子力安全委員会及び原子力関係行政組織
 (1)原子力委員会(48KB)
 (2)原子力安全委員会(19KB)
 (3)原子力関係行政組織(21KB)
2 原子力委員会の決定等
 (1)原子力委員会の決定等一覧(19KB)
 (2)その他(20KB)
 (3)主な原子力委員会決定等(64KB)
 (4)原子炉等規制法に係る諮問・答申について(21KB)
3 原子力関係予算
 (1)平成17年度原子力関係予算総表(17KB)
 (2)平成17年度原子力関係予算重要事項別総表(73KB)
 (3)優先順位付けの対象施策(原子力関係)に関する平成18年度見積もりについて(18KB)
4 その他
 (1)我が国の原子力発電所の現状(27KB)
 (2)我が国の原子力発電所の時間稼働率及び設備利用率(41KB)
 (3)各国のエネルギー計画(20KB)
 (4)各国及び地域の原子力発電所の設備利用率(23KB)
 (5)我が国における核燃料物質保有量一覧表(21KB)
 (6)NPT締結国とIAEA保障措置協定締結国(27KB)
 (7)原子力研究開発利用年表(27KB)