21世紀を迎えて初めての原子力白書を発行するに当たり、ここ数年の原子力関連の出来事と議論を捉えながら原子力に求められる役割を述べたいと思います。
先進国として豊かな生活を謳歌している我々が、普段、エネルギー確保の重要性を意識することはあまりないかもしれません。しかしながら、20世紀を振り返れば、世界が多大の損害を受けた先の大戦がエネルギー資源を巡る戦争でもあったことや、1970年代に起きた二度に及ぶ石油危機が社会に大きな混乱をもたらしたことを考えると、エネルギーの問題は、国民生活の基盤を揺るがす大きな力をもつものであると言えます。この問題に対して、我が国は科学技術により安定的なエネルギーを得ることを目指して、原子力の研究開発利用に挑戦することを選択いたしました。これまでの先人の努力により、我が国の原子力発電は実績を着実に重ねて、現在では我が国の発電電力量のおよそ三分の一を占める重要なエネルギー源に成長いたしました。
また、原子力が有する大きな特長は、新たな技術開発によりウラン資源をさらに有効に利用できることです。ウラン燃料を軽水炉で燃焼させて、使用済の燃料をそのまま破棄した場合には、天然に存在するウランのわずか0.5%のみがエネルギー取り出しに利用されることになります。これに対して、使用済燃料のリサイクルを行う核燃料サイクルを導入することにより、エネルギーを発生するウランの量は1.5倍になり、これに高速増殖炉を組み合わせた場合には、100倍以上になると試算されています。このように、核燃料サイクルはエネルギーの安定供給に更なる貢献を行う有力な技術的選択肢となっています。
これまで述べたように、原子力がエネルギー安定供給の確保という国民に対する重大な責務を負っているにもかかわらず、近年の事故や事件によって原子力に対する国民の理解や信頼を大きく損なったことは大変残念なことと思っております。また、確立の入口にある核燃料サイクルについては、様々なスケジュールの遅れによりその実施の是非についても議論が生じているように、国民の信頼や理解の喪失に起因する政策遂行の遅れが、政策そのものの整合性に対する疑念を生んでいることに苦慮し重く受け止めています。このような状況ではありますが、原子力に携わる我々としては、原子力発電及び核燃料サイクルが国民に対して大きな便益を与えるものとして、使命感を持って課題を一つ一つ解決しながら原子力利用のあるべき姿に向けて着実に取り組む意志を持っております。また、我が国の将来のあるべき姿を意識しつつ、原子力利用の原点に立ち返って議論を行い、相互理解を図ることにより、国民の信頼を再構築することが必要であると考えます。
現在の原子力発電の主力である軽水炉や核燃料サイクルの他にも原子力は多様な発展の可能性を有しています。最も代表的なものが核融合であり、その技術的実証のため国際協力によりITER計画が進められております。核融合は我が国が世界を先導してきた研究開発分野であり、エネルギー確保という人類共通の課題の解決という大きなテーマのもと、我が国は独自の世界標準を構築しうる好機として真摯に取り組んで行くべきものと認識しています。また、日本原子力研究所と核燃料サイクル機構が廃止、統合され、我が国の原子力の研究開発の中核となる国内最大の公的研究開発機関が設立されることになりますが、先進性、一体性及び総合性を備えた機関として、我が国だけでなく世界の原子力研究開発利用を支える役割を果たすことが期待されます。
原子力といえば、核兵器といった軍事利用をイメージすることがあるかもしれません。しかし、我々は広島・長崎の原爆の悲劇を超えて原子力という巨大なエネルギーを平和の目的に利用することにより、エネルギーを巡る対立から人類を解き放ち世界の平和に役立てたいと考えております。先進国や経済発展を遂げつつある国において原子力は幅広く利用されています。我が国はこれらの国々と連携して原子力の平和利用の拡大を目指していくとともに、核不拡散等平和利用に当たって解決すべき課題に取り組むことが重要であると思います。
これらの問題意識を心に置きつつ、21世紀の原子力政策のあるべき姿を含めて、最近の国内外の原子力研究開発利用の現状を記述しております。本書が原子力に対する国民の理解を深める際の一助となれば幸いです。
平成15年12月
原子力委員会委員長 藤家洋一
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