第2章 国内外の原子力開発利用の状況
10.原子力科学技術の多様な展開と基礎的な研究の強化

(4) 核融合研究開発

核融合は、人類の恒久的なエネルギー源として、世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献するものと期待されています。そのため、国内外において積極的な取り組みが行われています。

①核融合反応
 核融合とは、重水素やトリチウム(三重水素)などの軽い元素の原子核同士が融合してヘリウムなどのより重い原子核に変換する反応のことをいう。

図2-10-21 核融合反応

 

表2-10-14 核融合のエネルギー源としての特徴

○燃料資源の供給安定性(重水素は、海水中に豊富に含有)
○原理的に高い安全性(燃料供給停止で、直ちに反応が停止)
○高い環境保全性(反応により、環境に影響を与えるCO等が発生しない)

②我が国の核融合研究開発
 我が国の核融合の研究開発は、1992年に原子力委員会が策定した第三段階核融合研究開発基本計画により進められており、原子力委員会核融合会議において、核融合研究開発に関する計画の総合的な推進及び連絡調整等を行っている。同計画の目標を表2-10-15に示す。

表2-10-15 第三段階核融合研究開発基本計画の主要な目標

○自己点火条件の達成
○長時間燃焼の実現
○原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成

 第三段階核融合研究開発基本計画では、これらの目標を達成するための研究開発の中核を担う装置として、トカマク型の実験炉を開発することとしているが、国際熱核融合実験炉(ITER*)を同基本計画の「実験炉」として位置づけて*、開発している。


*ITER:International Thermonuclear Experimental Reactor
 1996年8月の原子力委員会において了解が得られている。

図2-10-22 核融合炉実用化へのステップ

 

③ITER計画
 ITER計画は、1985年の米ソ首脳会談(ジュネーブ)における核融合の研究開発の推進に関する共同声明を端緒とし、平和目的のための核融合エネルギーの科学的及び技術的な実現可能性の実証を目的として、国際原子力機関(IAEA)の支援の下、日本、米国、EU及びロシアの四極により実施されている。本計画は、既に、概念設計活動(1988年~1990年)を終え、現在、工学設計活動(1992年~1998年)が行われている。

表2-10-16 ITER計画の経緯

1985年       米ソ首脳会談での核融合研究開発推進に関する共同声明
1988年~1990年   ITER概念設計活動(CDA)
1992年~1998年   ITER工学設計活動(EDA)
          (EDAは3年間延長(2001年まで)予定)

 工学設計活動においては、茨城県那珂町、米国(サンディエゴ)及びEU(ドイツ・ガルヒンク)の3ヶ所に設計を行う共同中央チームが設置されている。
 この共同中央チームと四極それぞれの国内チームとの連携、協力の下にITERの設計及びそれに必要な工学及び物理の研究開発が進められている。

図2-10-23 共同中央チームの3共同作業サイト

 

④ITER工学設計活動の進捗
(1)国際的話し合いの進捗等
 ITERの工学設計活動については、1992年7月から1998年7月までの予定で進められている。これまで、設計活動及び工学要素技術開発が概ね順調に進展してきており、1998年2月には現行の設計活動の集大成ともいえる最終設計報告書がITER理事会に提出された。現在、各極において最終設計報告のレビューが行われている。
 一方、各極の厳しい財政事情等を踏まえると、現時点で建設段階への移行を判断することは困難であるとの見通しから、将来の建設の可能性に向けて、現行の計画目標の範囲でコスト低減を図るとともに、設計活動のより一層の進展を図ることが必要であるとの認識に至った。こうした状況を背景として、1998年2月に開催されたITER理事会において、1998年7月までの現行の工学設計活動期間を3年間延長することが原則合意された。

(2)我が国における取組
 ITERについては、国民の幅広い理解と支持を得ていくことが重要であるとの認識の下、幅広い観点から我が国としてとるべき対応について検討を行うため、1997年12月に、原子力委員会の下にITER計画懇談会(座長:吉川弘之 日本学術会議会長)が設置されている。
 懇談会では、1998年7月に現行の工学設計活動が一つの節目を迎えることを踏まえ、1998年3月、これまでの検討における論点の整理と今後の課題について取りまとめを行った。取りまとめでは、我が国にITERを設置することの意義は大きいと結論づけているが、設置国として名乗りをあげるかどうかを決断するためには、さらに検討すべき課題があるとしている。


 
 
 
 
 

装置直径 約30m
高さ 約20m
プラズマ主半径 8.1m
核融合出力 150万kW
燃焼時間 1000秒
プラズマ電流 2100万A
トロイダル磁場 5.7テスラ

表2-10-17 ITER主要諸元
              図2-10-24 ITER概念図  

⑤多様な基礎研究
 ITERに係る研究開発に加え、我が国においては、日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関などが連携・協力して核融合の研究開発を行っている。
 日本原子力研究所では、トカマク型の臨界プラズマ試験装置(JT-60)により、重水素を用いた実験が進められ、1997年10月には、ダイバータ(プラズマ純化装置)の改造により、プラズマ中の不純物の低減化が進展し、長時間に亘る高加熱入力による運転性能に大きく寄与した。そのほか、超伝導コイル、加熱・電流駆動装置などの炉工学技術の研究開発、核融合炉の燃料に用いられるトリチウムの取扱い技術に関する研究開発などが行われている。
 大学共同利用機関である核融合科学研究所ではLHD(大型ヘリカル装置)が完成し、1998年3月にはファーストプラズマの点火試験に成功、1998年4月から本格実験を開始している。

図2-10-25 大型ヘリカル装置

 大学、国立試験研究機関においては、ヘリカル型、逆磁場ピンチ型、ミラー型などの各種磁場閉じ込め方式、これらとは原理的に異なる慣性閉じ込め方式による基礎的研究並びに超伝導磁石、構造材料の炉工学技術などの研究が進められている。
 さらに、核融合分野においては国際協力が積極的に進められており、日米エネルギー研究開発協力協定、日・欧州原子力共同体核融合協力協定などに基づく二国間協力並びにIAEA及びOECD/IEAの下での多国間協力が行われている。

図2-10-26 閉じ込め方式の分類

図2-10-27 臨界プラズマ試験装置JT-60真空容器内部
       (ダイバータ改造後)

図2-10-28 逆磁場ピンチ実験装置TPE-RX

表2-10-18 主な研究機関の研究活動

研究機関 主テーマ
炉心プラズマ
技術
炉工学技術、
その他に関する技術
日本原子力研究所


トカマク方式


トカマク炉の設計、炉材料、
超伝導磁石、トリチウム、
計測、理論
電子技術総合
研究所

ピンチ方式
慣性閉じ込め
方式
超伝導磁石
レーザー

核融合科学研究所

ヘリカル方式

計測、理論、炉材料、
超伝導磁石、加熱機器
京都大学エネル
ギー理工学研究所
ヘリカル方式

計測、加熱

筑波大学プラズマ
研究センター
ミラー方式

計測、加熱

大阪大学レーザー
核融合研究
センター
慣性閉じ込め
方式

計測、燃料ペレット、
レーザー、理論

九州大学応用力学
研究所
トカマク方式
(超伝導)
計測、加熱

金属材料技術
研究所

炉材料、超伝導磁石材料

その他の大学

基礎研究
 
<用語解説>

プラズマの閉じ込め方式について

 現在、プラズマの閉じこめ方式には、磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式の2種類があります。

(1)磁場閉じ込め方式
  (トカマク型方式)
プラズマを螺旋状の磁力線によって容器内に閉じ込める閉じ込める方式で、世界で最も研究の進んでいる方式です。
  {ITER計画、日本原子力研究所等}

  (ヘリカル型方式)
 トカマクと同様にプラズマを螺旋状の磁力線によって容器内に閉じ込める方式で、磁場形式の方法がトカマクと異なる方式です。
  {核融合科学研究所等}

  (逆磁場ピンチ方式)
 
 トカマクと同様にプラズマを螺旋状の磁力線によって容器内に閉じ込め、プラズマの中心部と周辺で磁場の向きを反転させた方式です。
  {電子技術総合研究所等}

  (ミラー型方式)
 プラズマを両端で閉塞した筒状の磁場配位によって容器内に閉じ込める方式です。現在は、基礎実験の段階です。
  {筑波大学等}

(2)慣性閉じ込め
 球殻状の燃料ペレットをレーザー等によって瞬間的に加熱し、表面に発生するプラズマの膨張の反作用で中心部を圧縮して核融合反応を起こす方式です。現在、基礎実験段階です。
  {大阪大学、電子技術総合研究所等}


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