第2章 国内外の原子力開発利用の状況
9.バックエンド対策

(1)放射性廃棄物の処理処分対策

放射性廃棄物は、放射能レベルの高低、含まれる放射性物質の種類等により多種多様です。このため、この多様性を十分踏まえた適切な区分管理と、区分に応じた合理的な処理処分を行うとともに、資源の有効利用の観点から再利用についての検討も進めることとしています。

①高レベル放射性廃棄物の処理処分
使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処分は、特に重要な課題であり、処分の手順、スケジュール、関係各機関の責任と役割等を明確に示しつつ、国民の理解と納得を得て円滑に実施していくこととしている。

図2-9-1 放射性廃棄物の種類とその主な発生源

(ア)処理処分の基本方針
原子力開発利用長期計画において示したとおり、我が国では、使用済燃料の再処理の結果生ずる高レベル放射性廃液を

a)安定な形態に固化(ガラス固化)し
b)30年間から50年間程度冷却のため貯蔵した後
c)地下の深い地層中に処分する
ことを基本的な方針としている。

図2-9-2 ガラス固化体

発生

ガラス固化

貯蔵

地層処分
…使用済燃料の再処理工程から発生

…廃液とガラスを混合し溶融それをステンレス製容器(キャニスター)の中に注入し固化

…冷却のため、30年~50年間程度貯蔵

…地下の深い地層中に処分
図2-9-3 高レベル放射性廃棄物処理処分の基本的考え方

(イ)高レベル放射性廃棄物の発生及び管理の状況
現在、我が国の使用済燃料の再処理は、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場並びに英国核燃料会社(BNFL)及びフランス核燃料会社(COGEMA)の再処理工場において実施されている。
このうち、東海再処理工場(1998年3月現在運転停止中)で生じた高レベル放射性廃液は、同工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。1997年3月末現在、この高レベル放射性廃液量は、約513立方メートルである。
さらに、当該放射性廃液をガラス固化する技術の開発を目的としたガラス固化技術開発施設(TVF)が、1995年12月に施設の使用前検査に合格し、開発運転を開始した。なお、1998年3月末現在の同施設(1998年3月現在運転停止中)におけるガラス固化体の保管量は62本である。
一方、我が国の電気事業者は、BNFL及びCOGEMAと再処理委託契約を結んでいる。その契約量はこれまで、軽水炉使用済燃料約5,600トンU、ガス炉使用済燃料約1,500トンUであり、これらの契約に基づく再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物は、ガラス固化して安定な形態とされた後、我が国の電気事業者に返還されることとなっており、1998年3月までにフランスより返還された128本を始め、今後10数年間にわたり年1~2回の割合で合計3千数百本が返還される予定である。


BNFL:British Nuclear Fuels plc
COGEMA:Compagnie Generale des Matieres Nucleaires
TVF:Tokai Vitrification Facility

図2-9-4 使用済燃料の再処理量及び高レベル放射性廃棄物(液体)の年度末累計保管量の推移(国内実績)

(ウ)関係機関の協力
高レベル放射性廃棄物の処理処分を円滑に進めるためには、関係者がそれぞれの立場から、協力して取り組んでいかなくてはならない。その際、国は処分方策を総合的に策定し、また、処分の安全性の確認を行うとともに、処分の責任を長期的に担保するために必要な法制度等を整備するなど、最終的な安全確保に必要な所要の措置を講じなければならない。
事業活動等に伴って生じた放射性廃棄物の処理処分については、各事業者等が自らの責任において処理処分することが基本である。実際に処分の責任を有する者は、その具体的実施計画を整備し、処分費用を負担するなど、処分を適切かつ確実に行う責務を果たす必要がある。
また、動力炉・核燃料開発事業団は、地層処分の研究開発の中核的な推進機関として処分研究開発を実施するほか、地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を着実に進める。
以上のように関係機関が協力した取り組みを強化するため、高レベル放射性廃棄物の処分対策に係る、当面の具体的な推進方策の検討等を官民の協力の下に行うため、1991年10月より、国、電気事業者、動力炉・核燃料開発事業団の3者により「高レベル放射性廃棄物対策推進協議会」が組織されている。
さらに、高レベル放射性廃棄物処分事業の準備の推進を図るため、1993年5月には同協議会の下に「高レベル事業推進準備会(SHP)」が設置された。高レベル事業推進準備会では、2000年を目途とした実施主体の設立を目指し、実施主体に係る諸環境の整備に必要な事項について調査・研究を進めてきており、1996年5月には「中間取りまとめ」として、その基礎的検討の成果を事業計画、実施主体、事業資金、地域との共生、国民的理解の促進等の項目に沿って取りまとめた。
今後、同準備会は、さらに調査・研究を進め、具体的方策について取りまとめを行うこととしている。


SHP:Steering committee on High-Level-Radioactive-Waste Project

(エ)処理処分対策への取組
原子力委員会は1995年9月、委員会決定において、高レベル放射性廃棄物の処分方策を進めるに当たっては、研究開発を計画的に進めることのみならず、私たち国民一人一人が自らの問題として高レベル放射性廃棄物処分をとらえ、開かれた議論が十分行われるよう留意しつつ進めることが重要であるとし、その上で、次の2つの組織を設置した。

(a)原子力バックエンド対策専門部会
原子力委員会は、地層処分に関する研究開発計画の策定等、処理処分に係る技術的事項等について調査審議を行う「原子力バックエンド対策専門部会(部会長:熊谷信昭大阪大学名誉教授)」を設置した。

図2-9-5 高レベル放射性廃棄物の最終処分への取組

原子力開発利用長期計画では、動力炉・核燃料開発事業団は、2000年前までに予定している研究開発の成果の取りまとめを行い、これを公表するとともに、国はその報告を受け、我が国における地層処分の技術的信頼性等を評価することとしている。このため、専門部会は、動力炉・核燃料開発事業団を中核として関係研究機関が取り組む研究開発の進め方、技術的重点課題、及び研究成果についての客観的で透明性のある評価のあり方などについて鋭意検討を進め、1997年4月に報告書「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」を取りまとめた。

表2-9-1原子力バックエンド対策専門部会報告書の要約
「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」
1997年4月15日原子力バックエンド対策専門部会
[部会長熊谷信昭(大阪大学名誉教授)]
○地質環境の長期安定性
日本の地質環境の特性について、地震活動等の頻度が高い変動帯に位置するものの、将来十万年程度であれば、天然現象の及ぼす影響の性質や大きさなどを推測できると考えられる。これらの知見をさらに信頼あるものにするための研究の進め方を示した。
○処分場予定地の選定と安全基準の策定に資する技術的拠り所
処分事業を進める上での処分予定地の選定や安全基準の策定に資する技術的拠り所として、第2次取りまとめに盛り込まれるべき事項を示した。 ○第2次取りまとめに対する透明性の確保
関係の研究機関は成果を積極的に公表し、その内容について広く意見を求めるなど、国民に向けてわかりやすく情報を提供。第2次取りまとめは国際的なレビューを受ける。 ○研究推進体制
・研究開発を効果的・効率的に行うため、関係研究機関の成果を共有し、第2次取りまとめに向けた協力を一層強化すべく「研究調整委員会」(仮称)を発足。
・欧米、アジア諸国との協力の一層の推進。
・研究開発が学際的であるため、広範な分野の人材を活用。
○その他
地層処分システムの安全評価、処分場の管理、技術的重点課題。

(b)高レベル放射性廃棄物処分懇談会
 本懇談会(座長:近藤次郎元日本学術会議会長)は、上記専門部会と同時に高レベル放射性廃棄物の処分について社会的・経済的側面を含め、幅広い検討を行うために設置されたものである。
この懇談会においては、法律、経済、環境、倫理、生活、マスメディア、原子力など様々な分野の専門家の方々に参加していただき、処分の円滑な実施への具体的取り組みに向けた国民の理解と納得が得られるよう検討を進め、1997年7月に開催された第11回会合において報告書案「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方について(案)」を取りまとめた。この報告書案では、高レベル放射性廃棄物処分について国民に周知を図り議論を深めること及び関係機関に対して施策の提言を行うことを目的とし、特に、事業資金の確保、処分事業の実施主体の設立、深地層の研究施設の実現に早急に着手することを提言している。その後、本報告書案を公表し、1998年1月末まで半年間にわたり国民に意見を求めた。

(c)高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関する意見交換会
 原子力委員会は、原子力バックエンド対策専門部会及び高レベル放射性廃棄物処分懇談会において、それぞれ報告書及び報告書案がまとまったことを受けて、高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関して、地域の方々、原子力委員、高レベル放射性廃棄物処分懇談会及び原子力バックエンド対策専門部会の構成員の参加を得て、各方面から意見を聴取・交換するため、1997年9月から1998年1月にかけ、全国5ヶ所において、意見交換会を開催した。これらの意見を踏まえ、1998年5月29日、報告書が取りまとめられた。
今後は、懇談会報告書に沿って、研究開発に鋭意取り組むとともに、関係機関が一体となって、2000年を目途とした実施主体の設立や事業資金の確保等、処分の制度と体制の具体的な整備に取り組むことが重要であるとした。

表2-9-2高レベル放射性廃棄物処分懇談会報告書の要約
「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方」
1998年5月29日高レベル放射性廃棄物処分懇談会
[座長近藤次郎(元日本学術会議会長・中央環境審議会会長)]
○なぜ、いま、高レベル放射性廃棄物処分問題を議論するのか
・われわれが発生させた廃棄物の処分について、後世代に負担を残さないことが、われわれの世代の責務。
・いまできることに早急に着手。
○廃棄物処分について社会的な理解を得るために
・制度・組織の透明性、情報公開、教育・学習。
○処分技術への理解と信頼
・技術の信頼性、深地層の科学的研究施設。
○事業資金の確保
・電気料金の原価に算入し電気利用者が負担。
○実施主体のあり方
・国は、法律と体制を整備し、円滑な処分実施と安全を確保、実施主体を明確に位置づけ。サイト選定で適切な役割を果たす。
・実施主体のあり方
民間を主体とした事業とし、国は法律と行政による監督と安全規制。
技術的能力、経理的基盤、運営・管理能力、長期安定性、機動性、柔軟性、信頼性と安全性確保。
・電気事業者は、国民の理解を得るための活動を進め、資金の確保と処分地選定について実施主体と一体となって取り組む。
○諸制度の整備
・透明性の高い事業プロセス、処分場閉鎖前後の管理、地下空間の利用制限、損害賠償制度、安全確保の基本的考え方と体制。
○立地地域との共生
・処分事業と地域の住民、自然環境、産業との調和ある持続可能な共生。
・立地地域の主体性の尊重。電力大消費地域の理解と連帯。
○処分地選定プロセス
・選定プロセスと関係機関の役割の明確化。
・国レベルでは事業計画や選定過程について、技術的観点及び社会的・経済的観点から確認。公正な第三者がレビュー。
・地域レベルでは当事者が参加して検討する場。
・処分地の選定にあたり国、電気事業者、実施主体が協力。
○いま、何をしなければならないか
・実施主体の設立、事業資金の確保、深地層の研究施設の実現、安全確保の基本的考え方の策定。
・政治の場においても現世代の意思を立法の形で明確化する必要。
・本提言を踏まえて、関係機関一体となって制度と体制の具体化。

(オ)高レベル放射性廃棄物処理処分の研究開発
 高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発については、固化処理技術の実証が着実に進められている一方、国の重要プロジェクトとして、地層処分技術の確立を目指した地層処分研究開発及び地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究等が、動力炉・核燃料開発事業団を中核的推進機関として関係研究機関の協力のもと強力に推進されている。

(a)研究開発成果の取りまとめ
 動力炉・核燃料開発事業団が1991年度までの成果を取りまとめた「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書-1991年度-」(第1次取りまとめ:1992年9月)は、当時の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会報告書「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の進捗状況について」(1993年7月)において、我が国における地層処分の安全確保を図っていく上での技術的可能性が明らかにされたとの評価がなされた。
 今後は、2000年前までに取りまとめを予定している「第2次取りまとめ」に向けて、1997年4月に取りまとめられた専門部会報告書を踏まえ、処分の技術的信頼性を示すとともに、処分を進める上での処分予定地の選定、安全基準の策定に資する技術的拠り所を与えるため、関係研究機関が密接な協力の下に研究開発を進めることとしている。
 このため、関係機関は、第2次取りまとめに向けた協力を一層強化し、各機関の成果の共有を図るため、1997年9月「地層処分研究開発協議会」を発足させている。

図2-9-6多重バリアシステム概念図

(b)地層処分研究開発
 地層処分研究開発については、多重バリアシステムの長期にわたる性能の評価研究、人工バリア技術及びこれに基づいた処分場の設計、建設、操業に関する処分技術の研究開発、我が国の地質環境に係る調査研究(地質環境条件の調査研究)が進められている。
 現在、動力炉・核燃料開発事業団の地層処分基盤研究施設(1993年完成)などにおいて、多重バリアシステムによる長期安定性を科学的、技術的に証明する性能評価研究等を継続して進めている。さらに、性能評価上特に重要な放射性物質の移行に関するデータを体系的に取得するため、既存の施設を活用するほか、動力炉・核燃料開発事業団では、1998年初頭より地層処分放射化学研究施設の建設を進めており、1999年から試験を開始する予定である。
 また、国際協力については、動力炉・核燃料開発事業団とカナダ原子力公社(AECL)との国際共同研究等、積極的に進めている。


AECL:Atomic Energy of Canada Ltd.

(b)深部地質環境の科学的研究
 一方、深部地質環境の科学的研究は、地層処分研究開発の基盤となる研究であり、地質環境の特性に関する研究とそのための調査技術の開発及び地質環境の長期安定性に関する研究を中心として行われている。研究の対象は、地下深部の岩盤や地下水の性質、それらのそれぞれの地点での変化、地震活動や火山活動などの天然現象など、地球科学の幅広い分野にわたる。
 深部地質環境の科学的研究を行う研究施設は、我が国の地質の特性等を考慮して複数の設置が望まれている。このため代表的な地質として堆積岩系及び結晶質岩系の双方を対象に、表層から地下深部までの岩石や地下水に関する包括的なデータの取得に努めるとともに、地球科学の各分野における調査や研究によって蓄積された関連情報についても広く収集・整理し、その活用を図っていくことが重要である。深地層の研究施設の計画は、研究開発の成果、特に、深部地質環境の科学的研究の成果を基盤として進めることが重要であり、その計画は、処分場の計画とは明確に区別して進めることとしている。さらに、処分技術について国民の理解と信頼を得るためには、研究開発の成果が目に見える形でわかりやすく示されることが必要であり、深地層の研究施設は、一般の人々から実際に見て体験できるという意味で社会的観点から極めて重要な役割を持つことから、早期に実現することが必要である。
 このような深地層の研究施設の一つとして、動力炉・核燃料開発事業団が岐阜県瑞浪市に設置を推進中の超深地層研究所は、深度千メートル程度の地下研究施設及び地上施設から構成される結晶質岩を主体とした研究施設である。建設に先立ち、1995年12月28日、同研究所について放射性廃棄物を持ち込むことや使用することは一切しないし、将来においても放射性廃棄物の処分場とはしないこと等を定めた協定を岐阜県、瑞浪市、土岐市及び動力炉・核燃料開発事業団との間で締結した。この施設における研究の成果は地層処分研究開発の基盤となるのみならず、幅広い分野へ反映される予定である。
 また、動力炉・核燃料開発事業団が北海道幌延町に計画していた貯蔵工学センターについては、長年の経緯及び諸情勢の変化を踏まえ、1998年2月26日、科学技術庁から北海道知事に対して申入れがなされた。この申入れにおいては、
 ○先の貯蔵工学センター計画を取り止めて新たな提案として北海道幌延町における深地層試験を早急に推進したい
 ○高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵については、廃棄物政策上その必要性に変わりはないことから、さらに理解を得るための努力を進めつつ、全国的な見地という考え方を十分踏まえて取り組む
とされている。堆積岩を対象とした深地層試験により、地層処分研究開発及びその基盤となる深部地質環境の科学的研究を推進することを目的としており、今後、地元及び北海道の方々とのコミュニケーションを十分に図り、この申入れについて、理解と信頼を得ながら進めていく予定である。

(c)核種分離・消滅処理技術
 核種分離・消滅処理技術とは、高レベル放射性廃棄物中に含まれる核種を、その半減期や利用目的に応じて分離して有効利用を図り、超ウラン元素などの長寿命核種を短寿命核種または非放射性核種に変換するものである。核種分離技術及び消滅処理技術は、高レベル放射性廃棄物の地層処分の必要性を変えるものではないが、高レベル放射性廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から、将来の技術として注目されている。現在、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会が1988年10月に示した核種分離・消滅処理技術の研究開発計画に基づいて、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団を中心に長期的観点から基礎的研究開発が進められているほか、OECD/NEAにおいて、核種分離・核種変換技術に関する情報交換の国際協力を行っている。


OECD/NEA:Organization for Economic Cooperation & Development/Nuclear Energy Agency

(カ)高レベル放射性廃棄物の返還輸送
 高レベル放射性廃棄物の我が国への返還輸送については、1995年の第1回輸送、1997年の第2回輸送に続き、1998年1月から3月にかけて第3回輸送が行われた。第3回輸送においては、輸送容器に入れられた60本のガラス固化体を積み込んだ輸送船パシフィック・スワン号が、1月21日フランスのシェルブール港を出港し、パナマ運河を経由して、3月13日に青森県むつ小川原港に入港、積み降ろされた輸送容器は、青森県六ヶ所村の日本原燃㈱高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターに搬入された。
 本輸送については、IAEA及び国際海事機関(IMO)の定める国際基準を満たす等、十分な安全確保策を講じたものである。また、第3回輸送に関する情報公開については、国内外の理解を得るとともに、輸送の安全性・円滑性にも十分配慮しつつ、これまでの輸送の経験を踏まえ、日英仏3国の政府及び事業者の間で調整を行った結果、第2回輸送と同様、輸送ルートに関する情報及び安全性に関する情報の公開が行われた。
 次回輸送については、今後、日英仏3国の関係者間で調整が行われる予定である。
 なお、搬入されたガラス固化体については、事業者が保安規定に基づく検査を青森県、六ケ所村の職員の立会いの下に行い、また、国の確認を受け、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの貯蔵ピットに収納され、今後30年から50年間冷却のために安全に貯蔵管理される。


IMO:International Maritime Organization

図2-9-7 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの内部

②低レベル放射性廃棄物処理処分
 低レベル放射性廃棄物とは、原子力発電所、再処理施設、MOX燃料加工施設、ウラン燃料加工施設、医療機関や研究所等から発生する放射性廃棄物で、使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物以外の廃棄物を指す。これらの廃棄物は、各事業所等において焼却や圧縮等の処理を行った後、安全に保管されている。このうち、原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物の一部については、固化処理の後に浅地中への埋設処分を実施している。他の廃棄物については、放射性物質としての特殊性を考慮する必要のないレベル(クリアランスレベル)の導入について配慮しつつ、原子力バックエンド対策専門部会において、処理処分に関する具体的な方策の調査審議を順次進めている。

(ア)発電所廃棄物
(a)発生の現状
 原子力発電所の運転及び定期点検から、低レベル放射性廃棄物(以下、「発電所廃棄物」という)が発生する。これら発電所廃棄物の処理については、各事業者が各発電所内で行っており、このうち液体の放射性廃棄物は蒸発濃縮した後、セメント等を用いてドラム缶に固化している。また、紙・布等の可燃物は焼却した後、ドラム缶に保管している。さらに、プラスチック・金属等の難燃物及び不燃物は、圧縮減容等した後、ドラム缶に保管している。これらの発電所廃棄物は、発電所敷地内の貯蔵庫に安全に保管されており、1997年3月末現在の発電所廃棄物の累積保管量は、200リットルドラム缶換算で約50万本である。
 発電所廃棄物のうち、気体状の放射性廃棄物及び放射能レベルの極めて低い液体放射性廃棄物は、適切な処理を施し、厳重な管理の下で、法令で定められた基準を下回ることを確認した後、施設の外に放出するなど、安全に管理されているが、今後とも放出量の低減化に努めていく。

(b)処理・処分の考え方
 発電所廃棄物については、直接の廃棄物の発生者である電気事業者等原子炉設置者に、処分を適切かつ確実に行う責任がある。
 発電所廃棄物のうち、セメント等を用いてドラム缶に固化された発電所廃棄物で、放射能濃度の低いものについては、浅地中の埋設処分を進めることとしており、その一部について、青森県六ヶ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターにおいて埋設事業が1992年12月から開始されている。
 六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センターでは第1期工事分として、濃縮廃液等を均一に固化した廃棄体約4万立方メートル(200リットルドラム缶で約20万本)を埋設する予定であり、1998年3月末の累積受け入れ本数は、107,360本である。また、1997年1月に金属等の固体状の廃棄物を固型化した廃棄体を対象とした埋設施設(200リットルドラム缶約20万本)の増設等について、青森県及び六ヶ所村の事前了解を得て、事業変更許可申請中である。なお、最終的な埋設能力は約60万立方メートル(200リットルドラム缶で約300万本)となる計画である。
 また、低レベル放射性廃棄物の浅地中処分の安全性評価をより確かなものとするため、放射性核種の浅地中における移行挙動に関する研究等を進めている。

図2-9-8 青森県六ヶ所村日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センター

発生

処理

保管

陸地処分



 …原子力発電所で発生(廃液、手袋等)

 …濃縮、焼却の後、ドラム缶にセメント固化等

 …現在、原子力発電所の敷地内で保管中[累積保管量(全国):1996年3月末現在200リットルドラム缶換算約50万本]

 …青森県六ヶ所村において、日本原燃(株)が埋設処分を実施中。
(1988年4月に事業許可申請、1990年11月に許可、1992年12月に操業開始。累積受け入れ量は1998年3月末現在で約10万7千本。)
・事業許可分:200リットルドラム缶換算約20万本
・事業変更許可申請中:200リットルドラム缶換算約20万本
・最終規模:200リットルドラム缶換算約300万本
図2-9-9 発電所廃棄物処理処分の基本的考え方

表2-9-3 主な原子力施設における低レベル放射性廃棄物の保管量(200リットルドラム缶換算)
(1997年3月末)
保管施設
累積保管量(本)保管能力(本)
実用発電炉原子炉施設
約501,700
約849,600
日本原子力研究所
約138,400
約156,700
動力炉・核燃料開発事業団
約140,100
約204,800
核燃料加工施設
(動燃の保有する施設を除く)
約36,600
約56,400
(社)日本アイソトープ協会
約72,300
約116,200
約889,100
約1,383,700
(四捨五入の関係により、合計が一致しない場合がある。)

 発電所から発生する低レベル放射性廃棄物のうち、「核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令」第13条の9に規定された濃度を超えるものについては、原子力委員会の原子力バックエンド対策専門部会の下に低レベル放射性廃棄物(現行の政令濃度上限値を超えるもの)分科会を設置し、処分方策について検討を進めている。

(イ)TRU*核種を含む放射性廃棄物の処理処分


TRU:超ウラン元素。ウランより元素番号の大きい元素の総称(Transuranic)

(a)発生の現状
 TRU核種を含む放射性廃棄物については、再処理工場やMOX燃料加工工場で発生するが、我が国では、現在動力炉・核燃料開発事業団において発生している。1997年3月末までの発生量は、200リットルドラム缶換算で約78,400本である。

(b)処理処分の考え方
 当該廃棄物の責任分担については、廃棄物を直接発生する事業者と発生に密接に関連する電気事業者が、廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間で明確にし、処分の責任を有する者は、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について検討を進めることとしている。
 廃棄物に含まれる全アルファ核種の区分目安値として、約1ギガベクレル/トンを設定し、廃棄物に含まれるアルファ核種の放射能濃度が区分目安値よりも低く、かつベータ・ガンマ核種の濃度も比較的低いものは、浅地中処分が可能と考えられるため、その具体化を図る。アルファ核種の放射能濃度が区分目安値よりも高く、浅地中処分以外の地下埋設処分が適切と考えられるものについては、高レベル放射性廃棄物の処分方策との整合性を図りつつ、1990年代末を目途に具体的な処分概念の見通しが得られるよう技術的検討を進める。

(c)研究開発の現状
 TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分に関する研究開発については、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において、廃棄物中の放射能濃度を測定するための技術開発や、合理的な処分のための概念の検討、TRU核種を含む放射性廃棄物の種々の固化体の特性把握等のための研究開発を実施している。
 また、電気事業者等と動力炉・核燃料開発事業団は1997年7月に「TRU廃棄物処分概念の取りまとめに関する協力協定」を締結し、それぞれの研究開発成果を基に、具体的な処分概念を取りまとめる作業を開始している。

発生

処理

保管

処分方法

 …再処理工場(海外再処理含む)等で発生(ハル・エンドピース、スラッジ等)
   [予想発生量:2010年で約30万本(200リットルドラム缶換算)]
 …圧縮,濃縮,焼却等の後,ドラム缶にアスファルト固化セメント固化等(形態は多種多様)

 …現在、再処理工場等の敷地内で保管中。[累積保管量(動燃)1997年3月末現在:約7万8千本]
   なお海外再処理分については、今後我が国に返還される予定
 …区分目安値より放射能濃度が低い廃棄物は、浅地中処分を、区分目安値より放射能濃度が高い廃棄物は、
   浅地中処分以外の埋設処分を行うこととして検討中。
図2-9-10 TRU核種を含む廃棄物処理処分の基本的考え方

(ウ)ウラン廃棄物の処理処分
(a)発生の現状
 民間のウラン燃料加工事業所、動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮施設等から発生するウラン廃棄物については、現在、各事業所において安全に貯蔵されている。1997年3月末までで200リットルドラム缶換算で、民間加工事業者においては約36,600本、動力炉・核燃料開発事業団においては約38,000本発生している。

(b)処理処分の考え方
 ウラン廃棄物については、廃棄物の直接の発生者(ウラン転換・成型加工事業者、濃縮事業者)とその発生に密接に関連する電気事業者が、廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間で明確にした上で、処分の責任を有する者は、実施スケジュール、実施体制、資金確保等について検討を進める。
 ウラン濃度が比較的低い大部分の廃棄物は、簡易な方法による浅地中処分を行うことが可能と考えられ、今後具体的な方法の検討を行った上で、基準の整備等を図っていく。

発生

処理

保管

処分方法
 …民間ウラン燃料加工工場、動燃事業団ウラン濃縮施設等(雑固体、焼却灰等の形態)

 …圧縮、焼却等の減容処理技術について検討中

 …現在、各施設の敷地内で保管中。
  [累積保管量1997年3月末現在(200リットルドラム缶換算:約3万8千本(動燃)、約3万7千本(民間)]
 …段階管理を伴わない簡易な浅地中処分について検討中。
図2-9-11 ウラン廃棄物処理処分の基本的考え方

(c)研究開発の現状
 ウラン廃棄物については、動力炉・核燃料開発事業団においてウラン廃棄物処理施設を建設し、処理方法についての研究開発を進めている。また、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団及びその他民間機関において、安全性評価に関する研究や経済的かつ合理的な処理処分方策の検討等を進めている。

(エ)RI・研究所等廃棄物処理処分
(a)発生の現状
 医療機関及び研究機関等の放射性同位元素(RI)の使用施設等から発生する放射性廃棄物(以下、「RI廃棄物」という)のうち、可燃物、不燃物、無機液体等のRI廃棄物は、(社)日本アイソトープ協会および日本原子力研究所で焼却処理や圧縮減容処理を行った後、施設内の貯蔵庫に安全に保管されている。日本アイソトープ協会が保管しているRI廃棄物の1997年3月末の累積保管量は、約72,300本である。
 また、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、大学等の試験研究炉を設置している事業所、核燃料物質使用施設を設置している事業所からも放射性廃棄物(以下、研究所等廃棄物)が発生している。大部分の研究所等廃棄物は、発生した事業所において種々の処理をした後、施設内で安全に保管されている。主な発生事業者である日本原子力研究所においては、1997年3月末の保管量は約138,400本である。

(b)処理・処分の考え方
 RI廃棄物について、日本原子力研究所等の研究機関や大学、企業等のRI使用者等は直接の廃棄物発生者として処分を適切かつ確実に行うことについて責任を有している。一方、(社)日本アイソトープ協会等は、廃棄業者としてRI使用者等からRI廃棄物を譲渡され、自ら保管廃棄していることから、これらの保管廃棄している廃棄物について処分を適切かつ確実に行う責任を有している。したがって、日本原子力研究所、(社)日本アイソトープ協会等の主要な責任主体が協力して、実施スケジュール、実施体制及び資金確保等について、早急に検討を始めることとしている。

発生

処理

保管

処分方法

 …1996年度実績で、200リットルドラム缶に換算して、医療機関から7,165本、研究機関から5,447本、
   その他の機関から4,557本合計17,169本のRI廃棄物の集荷が(社)日本アイソトープ協会(RI協会)により実施。
 …廃棄物の形態にあわせて、焼却、圧縮等によりおおよそ1/10~1/15の容積に減容。

 …RI協会の中間貯蔵施設、日本原子力研究所(原研)等において保管中。[RI協会累積保管量(1997年3月末現在):約72,300本]

 …放射能濃度が低いものは浅地中処分または簡易な方法による浅地中処分、半減期が極めて短い核種のみを含むものは、
   段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分等について検討中。
図2-9-12 RI廃棄物処理処分の基本的考え方

 また、研究所等廃棄物は、直接の廃棄物発生者である日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等の主要な機関が協力して、実施スケジュール、実施体制、資金の確保等について、早急に検討を進めることとしている。
 このため、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団及び(社)日本アイソトープ協会等の関係機関は、1997年10月に「RI・研究所等廃棄物事業推進準備会」を設置し、研究所等廃棄物とRI廃棄物を対象として処分の実施スケジュール、実施体制、資金の確保等の具体策の検討を行うとともに、当該廃棄物の発生事業者に広く事業の趣旨への賛同を求め、参加を呼びかけている。
 RI廃棄物の処分方法については、比較的半減期が短いベータ・ガンマ核種が主要核種である廃棄物のうち、放射能レベルの比較的低いものは浅地中処分または簡易な方法による浅地中処分が可能と考えられる。半減期が極めて短い核種のみを含むものについては、段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分が可能と考えられている。
 また、研究所等廃棄物の処分方法については、可能な限り分別管理を実施し、発電所廃棄物、サイクル廃棄物、RI廃棄物に該当するものは各々の処分方策に準じて処分を行うことを基本とする。比較的半減期の短いベータ・ガンマ核種が主要核種である廃棄物のうち、放射能レベルが比較的低いものは、放射能の減衰に応じて段階的に管理を軽減する浅地中処分または簡易な方法による浅地中処分を行うものとしている。
 これらの廃棄物の処分対策については、原子力委員会の原子力バックエンド対策専門部会の下にRI・研究所等廃棄物分科会を設置し、処分の技術的事項についての検討を進めてきた。同専門部会は、1998年2月に「RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方について(案)」を取りまとめ、広く国民の方々に意見を募集し、その意見を踏まえて、1998年5月28日、報告書を取りまとめた。今後、本報告書を踏まえ、基準の整備等を図っていく。


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