第2章 国内外の原子力開発利用の状況
8.核燃料サイクルの展開

(7)核燃料サイクルを巡る諸外国の動向

 原子力平和利用を進める上で核燃料サイクルを行うこととしている国は、フランス、英国、ドイツ、スイス、ベルギー、日本などである。他方、核燃料サイクルを行わないこととしている国としては、米国、カナダ、スウェーデンなどがある。
 核燃料サイクルの選択は、それぞれの国ごとの事情によってなされるものであるが、核不拡散の動向やエネルギー資源の状況によるところが大きく、また、経済性の比較、環境への負荷度の評価も大きな要素であると考えられる。特にエネルギー資源の状況に関しては、ウラン資源の需給動向が大きな要素であり、今日の国際的にウラン需給が緩和している状況は、各国の核燃料サイクルへの取り組みに影響を与えている。

表2-8-5 世界の再処理設備容量
フランスUP1
UP2-800
UP3
APM
400トンU/年(天然ウラン)
800トンU/年(濃縮ウラン)
800トンU/年(濃縮ウラン)
5トンHM/年(高速炉燃料)
英国THORP
B205
ドンレー
1,200トンU/年(濃縮ウラン)
1,500トンU/年(天然ウラン)
7トンHM/年(高速炉燃料)
日本動燃東海再処理工場90トンU/年(濃縮ウラン)**
ロシアRT-1400トンU/年(濃縮ウラン)
インドタラプール等150トンHM/年(加圧水型炉燃料等)

1997年に運転終了
**日本の再処理設備容量(動燃東海再処理工場)は0.7トン/日であり、年間70~90トンUの再処理実績がある。

①使用済燃料の再処理
1998年現在の世界の再処理設備容量を表2-8-5に示す。
(ア)フランス
 自国内で再処理を実施するとともに、外国からの委託再処理も実施している。また、軽水炉でのプルトニウム利用など核燃料サイクルを積極的に推進しており、1997年6月に高速増殖実証炉スーパーフェニックスについては将来的に放棄することとする旨の方針が打ち出され、1998年2月に閉鎖が決定されたものの、核燃料サイクルの方針については変わっていない。
 COGEMAは、ラ・アーグに、海外からの委託再処理を行うためのUP-3(処理能力:軽水炉燃料800トン/年、操業開始:1990年)及びフランス国内の使用済燃料の再処理を受け持つUP2-800(処理能力:軽水炉燃料800トン/年、操業開始:1994年)の2つの再処理工場を有している。

図2-8-13 スーパーフェニックス(フランス)

図2-8-14 ラ・アーグ再処理工場(フランス、ラ・アーグ)

(イ)英国
 自国内で再処理を実施するとともに、外国からの委託再処理も実施しており、軽水炉でのプルトニウム利用を図っていく方針である。
 BNFLは、セラフィールドの再処理工場B-205プラント(処理能力1,500トンU/年(天然ウラン))に加え、1994年1月よりセラフィールドにおいて、外国からの委託再処理のため1,200トンU/年の処理能力を有する軽水炉燃料の再処理工場(THORP)の操業を開始した。
 高速炉燃料の再処理については、ドーンレイにおいて既に10トンHM/年のプラントが操業中である。


THORP:Thermal Oxide Reprocessing Plant
トンHM:ウランとプルトニウムの金属重量

図2-8-15 THORP(英国、セラフィールド)

(ウ)ドイツ
 再処理・プルトニウム利用の推進が基本であったが、EC統合などの背景の下、1989年に自国内での再処理方針から、英仏に再処理委託を行っていく方針に変更した。
 また、これまで原子力法により再処理・プルトニウム利用が義務付けられてきたが、1994年5月、原子力法の一部改正を含むエネルギー一括法案が成立し、使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立が認められることとなった。このため、発電所内の貯蔵に余裕のある2つの発電所が、1994年12月に英国BNFL社との再処理契約のうち、2004年以降の契約分を解約するなどの動きも見られた。

(エ)ロシア
 自国内で再処理を進めており、1976年に運転開始した再処理工場RT-1によりVVER-440の使用済燃料の再処理を実施している。さらに、VVER-1000の使用済燃料の再処理を主目的とした1,500トンU/年の能力を持つRT-2の建設が計画されている。

(オ)中国
 核燃料サイクル政策を進めており、使用済燃料は基本的に自国で再処理することとしている。このため、21世紀初頭に再処理のパイロットプラントを操業させる予定としており、さらに、大規模再処理工場を2010年代に操業することを予定している。

②MOX燃料利用
 プルトニウムの軽水炉による利用については、主として欧州で実績が積み重ねられている。欧州各国とも新規施設を増設計画中である。

表2-8-6軽水炉でのMOX燃料利用
国 名
装荷年
装荷体数
アメリカ1965~79
97
ドイツ1966~
574
フランス1974~
646
スイス1978~
100
ベルギー1963~
207
イタリア1968~76
70
オランダ1971~88
12
スウェーデン1974
日本1986~91
合  計
1715
(1998年3月現在)

(ア)ベルギー
 デッセルにおいてベルゴニュークリア社が35トンHM/年のMOX燃料加工工場(P0)を操業中であり、40トンHM/年の新工場(P1)を計画中である。
 1993年12月、ベルギー議会は2基の軽水炉へのMOX燃料装荷を承認した。ベルギーでは、1963年から1987年まで研究炉BR-3(PWR、1万キロワット)においてMOX燃料を合計151本装荷した経験を有しており、1995年3月に、商業用原子炉としては初めてチアンジェ2号機(PWR,93万キロワット)にMOX燃料を8本装荷した。

(イ)フランス
 1987年から軽水炉でのプルトニウム利用を開始し、1996年には11基の90万キロワット級軽水炉でプルトニウムのリサイクルを行っている。最終的には28基に増やす予定でMOX燃料装荷が申請されており、これまでに16基が許可を取得した。燃料加工に関しては、マルクールにおいてCOGEMA、フラマトムが共同で建設した120トンHM/年のMELOXが、1995年から操業を行っており、また、カダラッシュにおいてはCOGEMAが35トンHM/年の工場を操業中である。

(ウ)ドイツ
 1960年代よりMOX燃料を試験的に使用し、1980年代からは本格的に展開して、現在は9基の軽水炉でMOX燃料を使用している。最終的には20基程度に増やす予定でMOX燃料装荷が申請されており、これまでに12基が許可を取得した。ジーメンス社が、30トンHM/年のハナウ工場においてBWR及びPWR向けのMOX燃料を製造していたが、1991年に操業を停止した。完成を目前に控えていた120トンHM/年の新工場は、完成に必要な許認可の発給拒否や環境保護団体からの訴訟などにより、建設作業が大幅に遅れ、ジーメンス社は同工場の閉鎖を決定した。

(エ)英国
 英国原子力公社(UKAEA)及びBNFLが1993年10月、セラフィールドにおいて8トンHM/年のMOX燃料加工実証プラントを運転開始させた。さらに、BNFLは120トンHM/年のセラフィールドMOXプラントの建設を1994年4月に開始しており、その操業開始は1998年に予定されている。


UKAEA:United Kingdom Atomic Energy Authority

(オ)ロシア
 高速炉及びVVER-1000に使用するMOX燃料の加工を行うため、チャリアビンスクにおいて60トンHM/年の新工場を建設する計画がある。

③高速増殖炉の開発
 高速増殖炉開発については、欧州において、1970年代前半にフランスの原型炉フェニックス、英国の原型炉PFRがそれぞれ運転を開始した。
 フランスのフェニックスは反応度低下のトラブルのため、1990年より運転停止状態となったが、1993年2月には反応度低下の原因究明のための試験運転を実施した。同炉は、1995年4月以降停止していたが、1998年4月にフランス原子力施設安全局(DSIN)は、同炉の運転再開を正式に許可した。また、実証炉スーパーフェニックス(124万キロワット)は、1994年7月に新たな設置許可を取得し、翌8月に臨界を達成、その後、中間熱交換器におけるアルゴンガス圧低下、蒸気発生器からの蒸気漏えいなどを経験しながら、1996年12月に90%出力運転を行い、同月末原子炉を停止した。更に、1997年6月、新しく発足した政権のジョスパン首相が、経済性を理由として同炉の放棄を議会で表明し、1998年2月、エネルギー関係省庁間委員会で放棄に移行する方法に決定した。
 英国のPFRは約20年にわたる運転経験を蓄積し、1994年3月に運転を終了した。
 ドイツでは、原型炉SNR-300が建設され、連邦政府は安全面、技術面で問題がないとの結論を出したものの、燃料装荷に係る州政府の許可が下りないまま、財政負担の増加により1991年3月に計画が中止された。
 このように英国、ドイツは高速増殖炉開発を事実上終了しているが、これらの国においては、すでに高速増殖炉技術の開発成果を蓄積しており、短期的なエネルギー事情、特にウラン需給の緩和、財政事情などから高速増殖炉への更なる投資を控えているものである。
 ロシアにおいて、実験炉(BOR-60)、大型原型炉(BN-600)、またカザフスタンにおいて原型炉(BN-350)が運転中であるほか、これらに続く実証炉BN-800の建設も計画されている。
 他方、米国においては、核不拡散の観点から、民生用のプルトニウム利用を行わないとの方針を打ち出しており、予算に示された措置などをみても高速増殖炉開発に対しては消極的である。


PFR:Prototype Fast Reactor
DSIN:Direction de la Surete des Installations Nucleaires

④世界のプルトニウム量
 全世界に存在するプルトニウムは、ストックホルム国際平和研究所などの試算によれば、1994年末時点で軍事用が約249トン、民生用が約914トンである。民生用のうち、使用済燃料中のプルトニウムが約755トン、分離貯蔵されているプルトニウムが約118トン、これら以外は核燃料サイクルの工程中に存在しているものである。分離貯蔵されているプルトニウムのほとんどは、英国、フランス及びロシアに存在している。


目次へ           第2章 第9節へ