第2章 国内外の原子力開発利用の状況
8.核燃料サイクルの展開

(4)高速増殖炉の研究開発

 高速増殖炉(FBR)は、発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができ、ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができる原子炉です。
 高速増殖炉については、原子力委員会高速増殖炉懇談会報告書を尊重して、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、その実用化の可能性を追求するために研究開発を進めることとしています。

FBR:Fast Breeder Reactor

①実験炉の運転
 実験炉「常陽」は、1977年4月の臨界以来順調な運転を続け、高速増殖炉の開発に必要な技術データや運転経験を着実に蓄積してきた。初臨界以来、1998年3月末現在で、累積運転時間が約55,950時間、累積熱出力が約46億キロワット時に達しており、照射中のものを含め479体の燃料集合体などの照射試験を実施してきている。
 今後、照射性能を向上させ、引き続き高速増殖炉の実用化のための燃料・材料開発用照射炉として活用していくこととされており、実用炉での目標燃焼度(15~20万メガワット日/トン)を踏まえ、高中性子束化と照射場の拡大等を図るための高度化計画(MK-Ⅲ)が進められている。

図2-8-6 高速実験炉「常陽」

②原型炉の建設等
 原型炉「もんじゅ」は、その設計・建設・運転の経験を通じて、発電プラントとしての高速増殖炉の性能、信頼性を技術的に確認するとともに、経済性についても検討・評価を行うためのデータを得ることを目標にして建設が進められてきた。
 1985年5月の本格工事着手後、1991年4月に機器据え付け完了し、その後、プラント特性予備試験、臨界試験、炉物理試験、起動試験から構成される性能試験が進められ、1994年4月に初臨界を達成、1995年8月29日には初送電を行った。
 その後、同年12月8日、2次主冷却系配管からナトリウムが漏えいするという事故が発生した。この事故による従事者、環境への放射性物質による影響はなかったものの、現実に事故が発生したこと、さらに事故後の情報公開を巡る動燃の不適切な対応などにより、原子力に対する不安感、不信感を高めることとなった。同事故については、原因究明及び再発防止対策等に関する調査審議が科学技術庁及び原子力安全委員会により行われ、その結果が報告書として取りまとめられた。また、1996年10月より実施した「もんじゅ」安全性総点検については、1998年3月に科学技術庁安全性総点検チームが報告書を取りまとめた。
 今後は、原子力安全委員会等の調査審議結果から得られた教訓を踏まえ、安全確保に万全を期すこととしている。このため、国の安全審査等を通じて安全性を確認し、その上で運転再開について地元の了解を得ていくなど、段階を踏んで進めていくこととしている。

図2-8-7 高速増殖原型炉「もんじゅ」

③実証炉の開発
 原型炉に続く実証炉は、発電プラント技術の習熟、性能の向上、経済性の確立を図っていくものであり、電気事業者がその具体化に主体的な役割を果たし、関連する研究開発については、電気事業者、動燃、そのほか関連する研究機関などがそれぞれの役割に即し、高速増殖炉の技術体系の確立を目指し、整合性をもって進められているが、具体的な計画については、「もんじゅ」の運転経験を反映することが必要であり、また「もんじゅ」で得られる種々の研究開発の成果及び電気事業者が中心となって進めている設計研究の成果などを十分に評価した上で、その決定を行うこととしている。
 電気事業者は、日本原子力発電(株)を実証炉の設計・建設・運転の主体とすることとし、同社を中心として要素技術、主要機器に関する研究開発、さらにはプラント設計研究と技術的成立性に関する試験を実施してきた。1994年1月、電気事業者はこれらの成果を基に、実証炉の基本仕様(電気出力:約66万キロワット、炉型:トップエントリ方式ループ型炉)を決定し、現在、「もんじゅ」事故の知見を反映するための設計研究や経済性向上のための技術開発を進めている。

図2-8-8 トップエントリ方式ループ型炉

④その他
 「もんじゅ」事故を契機として開催された原子力政策円卓会議における議論等を踏まえ、1997年1月、原子力委員会に「高速増殖炉懇談会」が設置された。
 同懇談会は、将来の高速増殖炉開発の在り方について幅広い議論を行うため、原子力の専門家のみならず、我が国各界各層の有識者で構成され、審議の過程では内外の様々な意見の方々と直接意見交換を行った。懇談会は1997年11月までに12回の会合を行い、さらに報告書取りまとめにあたっては、国民に意見募集するとともに「ご意見を聞く会」を開催し、寄せられた意見を報告書に反映した。
 報告書では、高速増殖炉を将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、その実用化の可能性を追求するため、安全確保、地元の理解などを前提に研究開発を進めることが妥当としている。また、今後は、この成果も考慮して長期エネルギー源確保の必要性、安全確保及び地元の理解の重要性、財政事情の逼迫、経済性の追求重視といった内外の諸情勢も踏まえ、高速増殖炉研究開発を進めることとしている。

図2-8-9高速増殖炉に関する第1回日仏専門家会合(東京)

 原子力委員会は、同報告書を、今後の高速増殖炉開発の在り方について国民各界、各層の意見が適切に集約・反映されたものであるとして、今後は同報告書を尊重して高速増殖炉開発を進めることを、1997年12月に決定した。
 1997年11月、谷垣科学技術庁長官とピエレ仏国閣外産業大臣が会談し、高速増殖炉に関する日仏専門家会合を設置することについて意見の一致を見た。で合意した。これを受けて、1998年4月、東京にて高速増殖炉に関する第1回日仏専門家会合が実施され、両国が高速増殖炉の研究開発路線を堅持していくことが確認されるとともに、今後とも両国の協力関係を維持・発展していくとの重要性が確認された。
 また、マイナーアクチニド及び核分裂生成物の消滅処理等の共同研究については、今後人材交流も含め、進めていくことで合意した。今後は将来の高速増殖炉開発戦略を議論するとともに、具体的な研究協力の可能性について検討していくこととしている。


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