第2章 国内外の原子力開発利用の状況
8.核燃料サイクルの展開

(2)MOX燃料利用(後述プルサーマルについて参照)

再処理により回収されるプルトニウムに関しては、ウラン資源の有効利用の観点から、現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法である軽水炉によるMOX燃料利用を早急に開始することとしています

①軽水炉によるMOX燃料利用(プルサーマル)
 軽水炉でのMOX燃料利用については、既存の軽水炉を活用しながら核燃料のリサイクルを図っていくものであり、我が国は原子力開発利用に着手した初期の段階からその実施を目指し、関連する研究開発を進めるとともに、MOX燃料の利用としては、「常陽」、「ふげん」等において実績を積み重ねてきている。
 軽水炉でのMOX燃料利用は、海外において既に1,700体を超える実績があり、我が国において実施した少数体規模での実証計画において炉心特性、燃料の挙動などについて良好な成果が得られていることから、現在の軽水炉において、MOX燃料を利用することについては特段の技術的問題はない。
 また、原子力安全委員会において、1995年6月、軽水炉にMOX燃料を装荷することに係る安全審査の際の指標(基本的考え方)が取りまとめられた。この指標では、MOX燃料の特性・挙動はウラン燃料と大きな差はなく、MOX燃料及びその装荷炉心は従来のウラン燃料炉心と同様の設計が可能であると認められるため、安全審査に当たっては、従来のウラン燃料炉心に用いる判断基準並びにMOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計手法及び安全評価手法が適用できるとされている。
 原子力委員会においては、プルサーマルなど当面の核燃料サイクルの具体的な施策について、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会の検討結果も勘案して審議を行い、1997年1月31日、「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について」を決定した。1997年2月4日には、この趣旨を踏まえ、現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であるプルサーマルを早急に開始することが必要であるとする閣議了解が行われた。
 これを踏まえ、2月14日に近岡科学技術庁長官(当時)及び佐藤通商産業大臣(当時)から、さらに2月27日には橋本総理大臣から、福島、新潟及び福井の三県の知事に対して上記閣議了解の説明・協力要請がなされるとともに、国においては、国民の理解を得るため、地元自治体・議会での説明等を積極的に実施している。また、事業者においては、2月21日に全電気事業者のプルサーマル計画を公表した(表2-8-3)。

表2-8-3 プルサーマル計画

 その後、1997年3月11日に動燃東海再処理施設アスファルト固化処理施設において火災爆発事故が発生したため、原子力委員会は、動燃事業団の度重なる事故は、原子力に対する国民の不安、不信を惹起し、今後の原子力開発利用、特に核燃料サイクルの円滑な推進に少なからぬ影響を及ぼしていることに言及しつつ、原子力発電を今後とも安定的に進めていく上での核燃料サイクルの重要性を再確認する旨の委員長談話を6月20日に発表した。今後とも、地元での説明会、フォーラムの開催等積極的な取り組みを通じて、プルサーマルの実施に対する地元及び国民の理解を得る努力を行っていくことが重要である。
 なお、関西電力(株)においては、1999年及び2000年に高浜発電所におけるプルサーマルの実施を計画しているが、1998年2月、プルサーマルを行うことについて地元自治体に対し事前了解願いを申し入れ、5月に、国に原子炉設置変更許可申請を行うことについての地元自治体の了承を得て申請書を提出した。現在、国において安全審査が行われている。

<プルサーマルについて>

・プルサーマルとは、現在の原子力発電所(軽水炉)で、ウラン燃料にプルトニウムを混ぜて利用することです。
 ウランには、「燃えやすいウラン」と「燃えにくいウラン」があります。現在の原子力発電所で使われるウラン燃料は、「燃えやすいウラン」の割合を3~5%に高めたものです。プルサーマルは、この「燃えやすいウラン」の代わりにプルトニウムを使ってウラン資源の有効利用を図ります。具体的には、ウランとプルトニウムを混ぜた混合酸化物燃料(MOX燃料)として使用します。

・プルサーマルは、現在最も確実なプルトニウムの利用方法です。
 MOX燃料は、ウラン燃料と全く同じ形状です。従って、ウラン燃料の一部をそのままMOX燃料に入れ替えるだけで使用可能です。
 プルサーマルは現在の原子力発電所の設備をそのまま利用してウラン燃料を数割程度節約でき、安全面でも経済面でも現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法として、ヨーロッパ各国でも商業利用されています。
 日本でも既に、美浜1号機(関西電力)や敦賀1号機(日本原子力発電)で少数体を使用した実績があり、燃料の健全性等に問題がなかったことが確認されています。
 我が国は、原子力開発利用に着手した初期の段階から、その実施を目指し、関連する研究開発を進めてきました。

・現在の原子力発電所も、プルトニウムの力を利用しています。
 ウラン燃料の中には、「燃えやすいウラン」が、3~5%含まれていますが、これが原子炉の中で燃えると(正確には、中性子を吸収して核分裂すると)、ウラン燃料の大部分を占めている「燃えにくいウラン」の一部が中性子を吸収して、だんだんとプルトニウムに変わっていきます。これが原子力発電の大きな特徴です。
 このプルトニウムの一部は、「燃えやすいウラン」と同様に燃えて発電に寄与します。実際、ウラン燃料による発電量の約3割がプルトニウムによるものです。従って、ウラン燃料は現在でもプルトニウムの力も有効に利用してエネルギーを生み出しています。

・ウランやプルトニウムを再利用することにより、さらに資源の有効利用を図ります。
 原子力発電所で使用した燃料(使用済燃料)には、核分裂の際に出来た生成物(放射性廃棄物)が3%程度含まれていますが、残りは新しく出来たプルトニウムや燃え残ったウランで、これらは再利用することが出来ます。
 エネルギー資源の乏しい我が国では、これらをリサイクルして有効利用することを基本としています。

②MOX燃料加工
 我が国では、動力炉・核燃料開発事業団を中心として、新型転換炉、高速増殖炉等のMOX燃料加工の研究開発を実施してきており、その加工実績も1998年3月末までの累積でMOX燃料重量約155トンに達しており、これは世界的にみても高い水準にある。
 現在の燃料製造設備能力は、新型転換炉原型炉「ふげん」用燃料製造施設プルトニウム燃料第二開発室の10トンMOX/年及び高速増殖炉燃料製造施設プルトニウム燃料第三開発室FBRラインの5トンMOX/年である。
 また、軽水炉によるMOX燃料利用計画及び2003年に六ケ所村の再処理工場が竣工予定であることを踏まえ、年間100トンMOX弱程度の国内MOX燃料加工の事業化を図ることとし、現在、電気事業者を 中心とした民間関係者により、加工事業主体の設立に向け、検討が進められている。
 海外再処理により回収されるプルトニウムについては、基本的には欧州においてMOX燃料に加工し、我が国の軽水炉で利用する予定である。このためのMOX燃料加工については、1995年4月東京電力が、1995年12月には関西電力が、それぞれベルギー、英国で加工を行うべく契約を締結した。1997年2月には、ベルギーでの加工のため移転される我が国起源の核物質が平和目的以外に転用されないことなどについて保証を得るため、我が国政府と欧州共同体委員会との間及びベルギー政府との間で交換公文が取り交わされた。なお、東京電力(株)は1997年5月以降に、関西電力(株)は1998年1月に、それぞれ加工を開始した。

図2-8-4プルトニウム転換技術開発施設


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