第2章 国内外の原子力開発利用の状況
4.原子力安全確保

(2)原子力の安全研究

 原子力の安全性を今後とも高い水準に維持していくため、原子力開発利用の拡大と多様化に対応して、行政庁の行う安全審査などに資するため、安全研究が積極的に推進されています。

 安全研究は原子力施設、環境放射能及び放射性廃棄物の分野ごとに原子力安全委員会の策定する安全研究年次計画(表2-4-3)に沿って、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、放射線医学総合研究所、各省庁の所管する国立試験研究機関などにおいて実施されている。また、これらの安全研究の実施状況については原子力施設等安全研究専門部会等において評価を行うとともに、その成果は報告書等として取りまとめ、公表されている。

表2-4-3 安全研究のための各種年次計画

①原子力施設等安全研究
 日本原子力研究所においては、軽水炉燃料の高度化、高経年化、シビアアクシデントに関する研究、核燃料サイクル関連施設の臨界安全性評価手法等に関する研究、放射性物質輸送の安全性に関する研究、確率論的安全評価等に関する研究などが進められている。
 また、動力炉・核燃料開発事業団においては、高速増殖炉の安全設計、評価方針の策定に関する研究などの高速増殖炉、核燃料施設に関する安全性の研究が進められている。さらに、国立試験研究機関においても、耐震等安全性に関する研究などの各種研究が実施されている。

 原子力施設等安全研究の一つとして、日本原子力研究所燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)の過渡臨界実験装置では、1996年7月低濃縮ウランによる世界で初めての臨界事故に関する実験を開始した。
 図はその時の出力変化の記録で、臨界事故のように急激な出力上昇が生じた場合においても、溶液燃料特有の自己抑制作用によりある程度に抑えられ、急速に低下するという結果を示している。

ドル:核分裂で放出される即発中性子と遅発中性子のうち、即発中性子のみの連鎖反応で中性子の生成と損失が釣り合った状態(臨界)になる量を1ドル($)として表す。
ペリオド:原子炉出力の上昇を表す計器の指示値

図2-4-3 原子炉施設等安全研究の成果の例

②環境放射能安全研究
 放射線医学総合研究所を中心に、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、国立試験研究機関などにおいて、低レベル放射線の人体に及ぼす影響の研究、環境中に放出される放射性物質の挙動に関する研究などが進められている。特に、放射線医学総合研究所においては、プルトニウムの内部被ばくによる障害の研究が進められている。

 環境安全研究の一課題として、国外原子炉事故の我が国への影響を実時間で予測するシステムWSPEEDIを開発し、欧州拡散実験データを用いて予測精度の検証を行った。図はトレーサガス放出開始後24及び60時間後の濃度分布の予測結果で、×印が放出点である。
図2-4-4 環境放射能安全研究の成果の例

③放射性廃棄物安全研究
 動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所、国立試験研究機関などにおいて、放射性廃棄物の処分の安全確保に関する技術的知見を浅地中処分、地層処分並びに規制除外・規制免除及び再利用の3つに分類し、雑固体廃棄物の放射能濃度等の測定手法に関する調査研究、高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る安全に関する基本的考え方と安全評価の考え方等に関する研究などが進められている。

バックエンドにおける安全研究を行う燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)で、再処理施設の臨界安全研究に使用

図2-4-5 安全研究:TRACY(過渡臨界実験装置)


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