第2章 国内外の原子力開発利用の状況
3.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(6)北朝鮮の核開発問題

 IAEAによる特別査察の実施を拒否した北朝鮮はNPTやIAEAからの脱退を表明するなど、核兵器開発疑惑が高まりました。その後の協議の結果、1994年10月、米国及び北朝鮮は、北朝鮮の黒鉛減速炉の軽水炉への転換などを柱とする枠組みに合意しました。
 この軽水炉プロジェクトの実施などのための国際コンソーシアムとして朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が設立され、現在、日・米・韓、EUが中心となって活動しています。

KEDO:Korean Peninsula Energy Development Organization

表2-3-10 1994年米朝枠組み合意の概要
①北朝鮮における黒鉛減速炉の軽水炉への転換に向けて協力する
②両国の政治的・経済的関係の完全な正常化に向けて動く
③非核化された朝鮮半島の平和と安全のために協力する
④国際的な核不拡散体制の強化のために協力する

①経緯
 1985年にNPTに加入した北朝鮮は、1992年にIAEAとの間で保障措置協定を締結したが、IAEAが追加情報及び追加施設へのアクセスを内容とする特別査察の実施を求めるとこれを拒否し、1993年にはNPTからの脱退を表明した。その後米国との協議を通じ、NPTからの脱退発効の中断を表明したが、IAEAの要求を十分に受け入れないなど国際的な疑惑が高まり、1994年にIAEA理事会が北朝鮮に対する技術協力の停止及び全ての保障措置関連の情報と場所へのアクセスを要求する決議をすると、北朝鮮はIAEAから脱退した。
 その後、カーター元米国大統領と金日成北朝鮮主席(当時)との会談などを通じて、1994年10月、米国と北朝鮮は表2-3-10に示す4点を柱とする枠組みについて合意した。
②朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の活動
 上記合意を受け、1995年3月、日本、米国及び韓国は軽水炉プロジェクトの実施などのための国際コンソーシアムたるKEDOの設立協定に署名した。1995年12月には、KEDOと北朝鮮との間で、軽水炉供給に関する大枠を定める軽水炉供給取極が合意・署名された(表2-3-11参照)。KEDOは、出力約100万キロワットの韓国標準型軽水炉2基の北朝鮮への供与に向けた現地調査などの作業や、黒鉛炉に代わる暫定的なエネルギーとしての重油の供給を進める一方、軽水炉プロジェクトの具体的な詳細などを定める議定書の交渉を進め、1997年8月に軽水炉建設準備工事を開始した。また1997年11月末には、軽水炉プロジェクトの全体経費の見積額が51.785億ドルに決定され、本格工事の契約に向けて理事国間で経費分担の調整が進められている。

表2-3-11 KEDOと北朝鮮間の軽水炉供給取極の概要
①KEDOは2基の100万kWの軽水炉からなる軽水炉プロジェクトを供給する。
②北朝鮮は、各炉について、その完成の時点から20年間(3年間の据え置き期間を含む)にわたり、無利子の均等半年割賦にて支払いを行う。
③KEDOは、2003年のプロジェクト完成を目標とする。
④KEDOに要請された場合は、北朝鮮は、軽水炉の使用済燃料に対する所有権を放棄し、適切な商業契約を通じて北朝鮮外に移転することに同意する。
⑤軽水炉の完成後、KEDO及び北朝鮮はその安全な運転及び保守を確保するために安全性評価を定期的に実施する。北朝鮮は適切な原子力規制基準及び手続きの実施を保障する。
⑥北朝鮮は原子力損害賠償請求に応じるための法的、財政的制度の整備を確保する。
⑦北朝鮮は、本取極に従って移転される炉及び核物質等につき、IAEAの保障措置を適用するとともに、KEDOの同意を得ることなく北朝鮮の領域外に再移転しない。

 本件問題の解決のためには、北朝鮮が米朝合意に沿い誠実に行動し、IAEA保障措置協定を完全に履行することなどにより、国際社会の懸念を払拭することが重要である。


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