第2章 国内外の原子力開発利用の状況
3.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(5)包括的核実験禁止条約(CTBT)

 CTBTは、核兵器のない世界に向けた歴史的な一歩となる条約であり、1996年9月10日、国連総会の場において圧倒的多数の賛成により採択されました。本条約に対し、我が国は、同月24日の署名開放の日に即日署名を行い、さらに、1997年7月8日(ニューヨーク時間)、世界で4番目に批准しました。我が国は、本条約ができる限り多くの国々により署名・批准され、可能な限り早期に発効することとなるよう強く希望しています。

①国連総会でのCTBT採択
 CTBTは、1994年1月よりジュネーブ軍縮会議において交渉が開始され、1995年5月のNPT再検討延長会議での決定及び12月の第50回国連総会の決議を踏まえ、1996年秋までの交渉妥結及び署名を目標に交渉が行われてきたが、インドなどの反対により、軍縮会議における条約案の採択は断念された。これを受け、条約案を軍縮会議ではなく国連総会において直接、採択する可能性につき関係国間で検討が行われた。その結果、1996年9月9日に第50回国連総会再開会期が召集され、翌日10日、CTBTを採択する旨の決議(共同提案国127ヶ国)が圧倒的多数の支持(賛成158、反対3、棄権5)を得て採択された。24日、同条約は署名開放され、我が国は5核兵器国に続き、6番目に署名を行った。

表2-3-8 CTBTの概要
①包括的な核実験の禁止
あらゆる場所において核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止。
②検証制度
 (a)国際監視制度
地震学的監視、放射性核種監視、水中音波監視及び微気圧振動監視からなる監視網を設置し、核実験の実施を国際的に監視。
 (b)現地査察
核実験の実施を疑わせる事象が発生した場合に、締約国の要請により所要の手続きを経て、条約の実施機関であるCTBT機関が緊急に査察を実施。
③発効要件
軍縮会議の交渉に参加し、かつ、原子力能力を有する44ヶ国の批准を発効要件とする。但し、署名開放後2年間は効力を生じない。署名開放後3年経過しても発効しない場合には、批准促進のための措置を検討する会議を開催。

②CTBTに対する我が国の取組
 CTBTは、核兵器の拡散の防止、核軍備の縮小等に効果的な措置として、あらゆる場所において核兵器の実験的爆発及び他の核爆発を禁止するとともに条約上の義務の実施を確保するための検証措置として、現地査察の実施や国際監視制度について規定するものである。我が国は、これまでも核爆発を行わないとの政策の下、原子力の平和利用を推進してきたところであるが、CTBT上の義務を担保するため原子炉等規制法の改正を行うこととし、CTBTと原子炉等規制法の改正案が、第140回国会に提出された。これらは1997年6月に承認・成立し、我が国は、同年7月8日(ニューヨーク時間)、世界で4番目(CTBT発効にその批准が必要とされる44ヶ国の中では最初)にCTBTの批准を行った。また、CTBTにおける核実験の実施の監視網は世界的に整備されるものであるが、我が国も、このための観測所等を国内各地に設置することを予定するなど、条約の実効的な運用のために積極的な貢献を行っていくこととしている。
 CTBTの発効には、同条約が指定する44ヶ国の批准が必要であるが、1998年5月現在、署名国149、締結国13であるところ、当面は、未署名のインド、パキスタン、北朝鮮の早期署名を促していくことが重要であり、また、未批准の署名国については早期締結を働きかけることが重要である。

表2-3-9 国際監視制度による監視施設の種類と我が国の貢献
施設の種類
総数
我が国設置数及び設置場所
放射性核種監視観測所
同 実験施設
80
16
2(群馬県、沖縄県)
1(茨城県)
主要地震学的監視観測所
補助的地震学的監視観測所
50
120
1(長野県)
5(北海道、東京都(2カ所)、大分県、沖縄県)
水中音波監視観測所
11
0(我が国には設置せず)
微気圧振動監視観測所
60
1(茨城県)

 このような状況の中、1998年5月に、インド及びパキスタンが地下核実験を実施した。これに対しては、世界的な核不拡散体制を強化しようとする努力に逆行するものとして国際的に非難と懸念が表明されるとともに、無条件にNPT及びCTBTを締結し、かつカットオフ条約交渉に参加することが両国に求められている。また、原子力委員会は、同月12日の委員長談話及び29日の委員会声明において、今回の実験は国際的な動きや核兵器廃絶を希求する我が国国民の願いに逆行するもので、極めて遺憾であり、原子力平和利用を進めるためには核不拡散体制の維持・強化が重要であるとの考え方から両国が核実験及び核兵器開発を即時停止するよう求めている。


目次へ           第2章 第3節(6)へ