第2章 国内外の原子力開発利用の状況
3.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(2)保障措置

 我が国は、IAEAとの間で保障措置協定を締結し、IAEA保障措置を受け入れるとともに、国自らも国内の原子力活動が平和目的に限り行われていることを確認しています。
 近年はイラクの核開発疑惑などが契機となり、国際的に保障措置を強化・効率化することを目指した検討が進められています。

①保障措置制度について
(ア)国際保障措置制度
 NPT第3条は、非核兵器国において原子力が平和利用から核兵器などへ転用されることを防止するため、非核兵器国はIAEAとの間で保障措置協定を締結し、それに従い国内の平和的な原子力活動に係るすべての核物質について保障措置を受け入れること(フルスコープ保障措置)を義務づけている。
 NPT加盟国186ヶ国のうち、我が国も含め非核兵器国122ヶ国(1998年3月末現在)がIAEAとの協定に基づきフルスコープ保障措置を受け入れている。また、NPTに基づかないその他の形態により保障措置が適用されている国が11ヶ国ある。

(イ)国内保障措置制度
 我が国は、国内すべての原子力平和利用活動についての核物質に対してIAEAのフルスコープ保障措置を受け入れると同時に、国自らも国内の原子力活動が平和目的に限り行われていることを確認しIAEAに必要な情報を提供するため国内保障措置制度を運用している。
 我が国の原子力事業者は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」に基づき国に計量管理規定の認可を受けることが義務付けられているとともに、核燃料物質在庫変動報告、物質収支報告、実在庫量明細表等を国に提出することが義務付けられている。
 提出された報告の内容の整理・分析は、原子炉等規制法に基づき指定情報処理機関に指定されている(財)核物質管理センターが国からの委託により行い、その結果は国に報告された後、IAEAに報告されている。我が国の報告実績の詳細を表2-3-2に示す。
 また、我が国の原子力事業者に対して、国による国内査察(参照)及びIAEAによる国際査察が実施されるが、査察の回数、時期などを我が国とIAEAとの間で協議した上で、我が国とIAEAによる査察が

表2-3-2 計量管理に関する報告の件数(1997年)
      報告件数データ処理件数
在庫変動報告1,846 90,651
物質収支報告 290  4,684
実在庫量明細表1,925154,818
[注]:報告1件に対し処理すべきデータが複数件ある場合があるため、データ処理件数を併記している。

同時に行われるように調整されている。国内査察の際に収去した物質は(財)核物質管理センター保障措置分析所において分析されている。
 我が国は、以上のNPTに基づく保障措置に加え、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス及び中国と二国間原子力協力協定を締結し、これらに基づく義務を履行するため、供給当事国別に核物質などの管理を実施している。

②我が国における保障措置の実施内容及び結果
(ア)保障措置の実施内容
 保障措置は、核物質の計量管理を基本的手段とし、封じ込め及び監視(参照)が補助的手段として用いられ、その内容の確認が査察等を通じて行われている。1997年末現在、我が国において保障措置の対象となっている原子力施設は257施設あり、これらの施設に対し1997年に実施された保障措置活動の詳細を表2-3-3に示す。

(イ)我が国の核燃料物質の保有量及び移動量
 我が国の核燃料物質の保有量及び移動量は計量管理を通じ把握されている。1997年は海外から原子炉用燃料(集合体)の原料として濃縮ウラン798トン、天然ウラン1,147トン、原子炉用燃料に加工されたものとして濃縮ウラン0.2トン、天然ウラン20トンが輸入された。一方、使用済燃料として、プルトニウム0.7トン、濃縮ウラン65トン、劣化ウラン46トンが再処理のため海外の関連施設へ輸送された。また、1997年末の保有量はプルトニウム63トン、濃縮ウラン12,490トン、天然ウラン1,735トン、劣化ウラン6,229トンである。1997年の我が国における主要な核燃料物質移動量及び施設別の在庫量を図2-3-3に示す。

   
図2-3-1 査察風景(環境サンプリング・非破壊測定の実施)

   
図2-3-2 査察による封じ込め・監視(封印取付け作業と封印)

表2-3-3 我が国における保障措置活動
       区  分       
施設数(注1)
計量管理報告
国内査察実績
測定件数

施設
 (1)製錬転換施設
 (2)ウラン濃縮施設
 (3)ウラン燃料加工施設
 (4)原子炉
  うち実用発電炉(注5)
   研究開発段階炉
   その他(研究炉・臨界実験装置)
 (5)再処理施設(注4)
 (6)プルトニウム燃料加工施設
 (7)貯蔵施設
  (8)研究開発施設





77
(52)
(3)
(22)



19
報告件数(注3)

22
90
385
1,458
(1,086)
(40)
(332)
158
578

603
データ処理件数

1,384
4,121
24,406
123,342
(96,277)
(3,336)
(23,729)
10,334
43,590
370
31,366
人・日

11
57
104
591
(379)
(64)
(148)
366
319

42
破壊測定


10
146

(0)
(0)
(0)
206
28

非破壊測定

14
249
698
479
(5)
(57)
(417)
378
1,229

68
小 計
111
3,302
238,913
1,494
398
3,115
施設外(注2)
147
759
11,240
合 計
258
4,061
250,153
1,499
398
3,115
(注1)査察の対象となっている施設に限る。(1997年12月末現在)
(注2)核物質の使用量が1実効キログラムを超えない施設
(注3)在庫変動報告、物質収支報告、実在庫量明細表の件数の合計
(注4)破壊測定、及び非破壊測定において再処理施設とは、TRP、TVF、PCDFの3施設の合計。
(注5)実用発電炉の施設数において関西電力(株)大飯発電所1,2号炉をそれぞれ1施設としてカウントしている。

実行キログラム:核物質に保障措置を適用するにあたって、転用に対する核物質の相対的な有効性を反映して使用される特別の単位。

図2-3-3 主要な核燃料物質移動量(1997年)

(ウ)我が国における保障措置の結果
 上述のような保障措置活動の結果、1996年のIAEA年報は以下のように結論している。

 IAEAの1996年の保障措置活動の結果、保障措置下に置かれている核物質が何らかの軍事目的又は不明な目的に転用されたり、保障措置の対象となる施設、設備ないしは非核物質が悪用されたりしたということを示すいかなる徴候も認められなかった。

③保障措置を巡る動向
(ア)保障措置制度の強化に向けた動き
 1991年、イラクが秘密裏に核開発を行っていたことが発覚したこと、また、1993年には北朝鮮がIAEAの特別査察を拒否したことなどを契機として、保障措置の強化・効率化に関し、IAEAにおいてこれまでに以下の施策について検討が行われ、既にその一部が実施されている。

・原子力施設の設計情報についての早期提出
1992年2月のIAEA理事会において、例えば新規施設については、従来運転開始の30日前までにIAEAに提供することになっていた原子力施設の設計情報について、建設開始の180日前までに提供することなどを内容とする勧告が行われ、1995年7月にこれを受け入れ、IAEAに対して情報提供を行っている。
・特別査察の権限、役割の確認
1992年2月のIAEA理事会においては、現行保障措置協定の範囲内で、申告施設のみならず未申告施設に対しても特別査察を実施し得ることが確認された。
・ユニバーサルレポーティング
1993年2月のIAEA理事会では、各国の核物質の輸出及び輸入並びに特定の機器及び非核物質の輸出入に関する報告を自発的にIAEAに提出することが奨励され、我が国もこれに参加している。

 さらに、これら一連の動きを踏まえ、IAEA保障措置制度の全体的な強化・合理化方策を検討するため、1993年6月のIAEA理事会に、IAEA保障措置制度の強化・効率化のための作業計画「93+2計画」が提出、了承された。この作業計画に基づきIAEAが2年間にわたる検討を行い、1995年6月のIAEA理事会において、各国がIAEAと締結している現行協定に基づいて実施し得るパート1について合意され、IAEAに追加権限を付与する必要のあるパート2についても、1997年5月のIAEA特別理事会において現行保障措置協定に追加するモデル追加議定書が採択された。
 パート1の諸方策については1995年6月の理事会で承認され、現在具体的な実施手順についてIAEAと関係国との間で協議が進められ、順次実施されつつある。一方、パート2についてはIAEAは1997年5月に採択されたモデル議定書に基づき、関係国と議定書締結のための協議を開始しており、既に7ヶ国が議定書に署名を行っている。我が国は1998年3月に協議を開始した。


93+2計画:1993年から2年間で保障措置の強化・効率化のための一連の方策をまとめようとした計画。現在、IAEAでは通常、Strengthened Safeguards System(強化された保障措置制度)と呼んでいる。

表2-3-4 IAEA保障措置強化・効率化計画(93+2計画)
1.「93+2計画」の目的
・従来の保障措置制度の強化・効率化を図るとともに(パート1)
・核物質を用いない原子力活動や従来申告等の対象とされていない原子力活動にも対象を拡大することとし、そのためにIAEAにあらたな権限を付与する(第2部)
2.「93+2計画」第2部の概要
 (1)拡大申告
①核物質を用いない研究開発活動
②原子力サイト関連情報
③濃縮、再処理等特定の原子力関連資機材の製造・組立
④原子力関係資機材の輸出入情報
⑤今後10年間の原子力開発利用計画
 (2)立入
①原子力サイト内
核物質を取り扱わない場所も立ち入りが可能
②原子力サイト外
国が提供した情報に疑問、不一致が存在した場合に実施
 (3)立ち入りの際の新たな手法
放射線測定等従来の手法に加え、原子力サイト内外で環境サンプリングを実施
 (4)その他重要事項
①立入の適性手続
②IAEAにおける情報の厳格な管理体制の構築
③補助取極(実施の細目手続き等を決定)
④核兵器国等における実施

(イ)保障措置の効率化に向けた動き
 IAEAは保障措置の強化と併せて効率化の実現を図ることとしており、新しい技術や手法を用いた効率化方策を導入に向けて検討を進めている。我が国においてもIAEAと協力しつつ軽水炉について遠隔監視技術の導入による保障措置の効率化に向けた取り組み(1997年10月より実証試験実施)を行っている。

(ウ)保障措置技術に関する研究開発と国際協力
 我が国においては従来より、原子力施設に適用する効果的かつ効率的な保障措置手法を確立するため、研究開発を実施してきている。収去試料の分析を行うための破壊測定や査察時に行われる非破壊測定の精度を向上させるための機器開発、封じ込め・監視に用いられる機器の開発が行われている。
 近年は特に、我が国の核燃料サイクルの充実に合わせて、プルトニウム取扱施設、とりわけ保障措置上重要な大型再処理施設の保障措置に関する総合的な技術開発に取り組んでいる。現在、青森県六ヶ所村に建設が進められている六ヶ所再処理工場は、核物質の取扱量が多量であり、また工程の運転が連続的に行われ、計量管理上、これまでの施設に比べて、より複雑な施設となっているため、精緻な核物質の計量のための手段の実証、大幅な増大が予想される査察業務の低減を可能にする非立会検認技術の技術開発などを推進するとともに、再処理施設から収去した核物質の分析などをそのサイト内で行うための保障措置総合センターの設計を進めている。
 また、IAEAの保障措置の強化効率化を進めるうえで重要な手法として期待されている環境サンプリング技術に関し、クリーンルームの整備等、先進的な分析技術の開発を進めている。
 国際協力の面では、我が国は「対IAEA保障措置支援計画(JASPAS)」によりIAEAの保障措置技術開発を支援(1981年~)し、IAEA保障措置に関連する情報を効率的・効果的に把握・解析するための保障措置情報処理システムの構築を支援するため、IAEAに特別拠出金を提供(1992年~)するなどの国際協力を実施している。また、保障措置の合理化の観点から、我が国とIAEAが査察用機器を共同で利用することとしている。その他の国際協力としては、1998年2月から3月に今後原子力活動の進展が予想されるアジア諸国や旧ソ連諸国を対象として保障措置に関する研修を3週間にわたって開催した。


収去試料:施設にある核物質が記録通りの成分であるかどうかを化学分析によって確認するため無作為に採取された試料
JASPAS:Japan Support Program for Agency Safeguards

図2-3-4 JASPASで開発した監視カメラ

<用語解説>
・保障措置とは?
原子力発電など平和利用の目的で使われている核物質が、核兵器などに転用されていないことを確認するため、計量管理や封じ込め・監視等を行っています。
 原子力事業者は、原子力施設にあるすべての核物質の管理状況を科学技術庁へ報告し、科学技術庁はこの報告を取りまとめてIAEAへ報告を行っています。また、この報告が正しいかどうかを国とIAEAの職員が実際に施設に立ち入り(査察)確認しています。

・査察とは?
国とIAEAの職員が実際に施設に立ち入り、以下のようなことを行っています。
 ○施設に保管されている計量管理記録の内容と、国とIAEAに報告された内容に矛盾がないことを確認する。
 ○核物質の放射線を現場で測定したり、試料を取って化学分析をして、その組成などを確認し、申告されたとおりの核物質であることを確認する。
 ○封じ込め・監視の結果の確認と必要な装置の保守をする。

・封じ込め・監視とは?
 原子力施設に置かれた核物質の保有量と移動の状況を確認するため、核物質を封じ込めてしまう方法を用いることがあります。例えば、核物質が専用の容器に入れられた後に封印をし、もしその容器が開けられれば分かるようになっています。
 また、核物質を監視する方法として、原子力発電所などには監視カメラがつけられ、核物質の移動を監視しています。


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