第2章 国内外の原子力開発利用の状況
2.地球温暖化問題と原子力
 地球温暖化問題は最大の環境問題の一つであり、京都で気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開かれるなど、今まさに全世界で活発な議論がなされています。二酸化炭素の排出削減を図るためには、省エネの推進による化石燃料の総使用量の削減等と併せて、発電過程において二酸化炭素を排出しない原子力発電の導入促進が重要であり、こうした地球温暖化対策を進めることは、人類社会が地球環境と調和しながら今後とも持続的な発展を遂げるための我が国の国際的責務と言えます。


COP3:The 3rd Session of the Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change

 現在、人類は様々な環境問題に直面しているが、その予想される影響の大きさや深刻さ、また必要となる対策の幅広さ(さらにはそれゆえの対策の難しさ)という点で、地球温暖化問題は最大の環境問題の一つと言える。この地球温暖化問題についての人類の今後の取り組みに関しては、気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が1997年12月1日から11日にかけて京都で開催されるなど、今まさに全世界で活発な議論がなされている。
 地球温暖化の主要原因物質とされる二酸化炭素は、主に化石燃料の消費に伴って発生することから、目標の達成には、省エネの推進による化石燃料の総使用量の削減、及び二酸化炭素の排出量がより少ない燃料の選択が重要となる。
 現在、エネルギー供給の観点から最も二酸化炭素排出削減に貢献している原子力は、将来においても効果的にかつ大幅に二酸化炭素排出を削減できるエネルギー源として重要である。

図2−2−1 化石燃料からのCO排出量と大気中のCO濃度の変化

 原子力発電はウランの核分裂エネルギーを利用するため、発電過程においては二酸化炭素を排出しない。また、燃料の採掘、精製、加工から発電所等の設備の建設、さらには廃棄物処理処分やそれらに伴う輸送などライフサイクル全ての二酸化炭素排出量を考慮しても、発電電力量当たりの二酸化炭素排出量は、環境負荷が比較的少ないと言われているLNG火力発電と比較しても数十分の1程度であり、また太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーと比べても発電電力量当たりの二酸化炭素排出量は少ない。

図2−2−2 各種電源のCO排出量の比較

 水力発電を除く再生可能エネルギーは、今後実用化に向け、経済性及び供給安定性の観点から、更なるコスト低減や蓄電技術の開発等の努力が望まれる。一方原子力発電は1997年12月現在において、全世界で429基が運転されており、世界の発電電力量の約17%(1996年度)をまかなうなど、電力供給の重要なウェイトを占めている。仮に世界中の原子力発電の代わりに化石燃料を使用する電源が採用されていたとすると、年間約20億トンもの二酸化炭素を更に排出するとも言われている。これは現在の世界の二酸化炭素総排出量の約1割にも相当する量である。
 原子力委員会は、このような地球温暖化防止に果たす原子力の役割について国民の理解を深めるため1997年11月に、我が国のみならず欧米の地球環境問題の専門家、エネルギー問題の専門家を招へいし、「地球温暖化問題と原子力の役割に関するシンポジウム」を開催した。シンポジウムでは原子力の利用は、温室効果ガスの排出抑制、エネルギーセキュリティの強化、酸性雨や粒子状物質の減少を含む複数の長所を有していること、また、このエネルギー技術は、将来のエネルギーサービスの供給にとって重要な選択肢であるとの宣言文を出し、COP3の期間中、会場においてパネル展示とともに配布された。
 COP3においては、先進国と市場経済移行国全体で2008年から2012年の間の人為的な温室効果ガスの排出量を、1990年の水準から少なくとも5%削減することなどを内容とする京都議定書が採択された。
 京都議定書では、温暖化防止対策のために各国が取るべき政策及び措置の一つとして、進歩的で革新的な環境上適正な技術の研究、促進、開発及び利用の増進があげられており、原子力発電を含むこれらの方策が温暖化防止対策に含まれる内容となった。

図2−2−3 地球温暖化問題と原子力の役割に関するシンポジウム

 我が国は、京都議定書において温室効果ガスの6%削減をすることとなっているが、我が国の二酸化炭素排出量について見てみると、エネルギー需要が予想以上に伸びたこともあり、1995年現在で1990年に比べて約8%も増加している。このことはとりもなおさず、今後生活様式の見直しをも含む相当程度の省エネ努力が必要になることを意味し、またエネルギー供給面における二酸化炭素排出削減対策も一層重要となる。COP3の結果を受けて発足した地球温暖化対策推進本部(本部長:内閣総理大臣)は、1998年1月9日に地球温暖化対策の今後の取り組みについて決定を行い、その中で需要面では省エネルギー等の推進、また供給面においては新エネルギーの導入と併せて「安全性の確保を前提とした原子力立地」を盛り込んでいる。この決定の前提として、原子力については、2010年に4,800億kWh相当の原子力発電の導入を見込んでいる。この目標の達成は現在の原子力発電所の立地状況からして必ずしも容易とは言えないが、地球環境問題への対応が求められている中で、国民の理解を得つつ、国、事業者一体となった取り組みの強化が求められている。
 原子力の地球温暖化防止の面での有効性については、原子力委員会としても原子力開発利用長期計画等により、従前より述べてきたことであるが、人類社会が地球環境と調和しながら、今後とも持続的な発展を遂げていくための有力な手段としてその導入促進を図ることは、先進国である我が国の国際的責務と言える。


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