第1章 国民の信頼回復に向けて
1.原子力開発利用を巡る動向

(1)核燃料サイクル関連施策の動向

原子力委員会では、1997年1月に、プルサーマル、使用済燃料の管理、バックエンド対策、高速増殖炉の開発について具体的な施策を示しました。これまで、それぞれの施策について一定の進展が見られますが、引き続き国民の理解と協力を得て、国と事業者が一体となった取り組みが必要です。

 1995年12月の「もんじゅ」事故を契機に、国民の間に原子力に対する不安や不信が高まり、「もんじゅ」の安全確保などに関し、多くの意見、要請、提言がなされた。中でも、我が国有数の原子力発電所立地県である、福島、新潟、福井の3県の知事から、1996年1月23日に「今後の原子力政策の進め方についての提言」(以下、「三県知事提言」という。)が内閣総理大臣、科学技術庁長官及び通商産業大臣に提出された。この提言では、国に対して、原子力に対する国民的合意の形成のための取り組みを求めるとともに、核燃料サイクル政策に関し、プルサーマル計画やバックエンド対策の将来的な全体像を具体的に明確にし、提示することを求めた。
 これらの状況を踏まえ、科学技術庁及び通商産業省は共同して、1996年3月15日に「原子力政策に関する国民的合意形成を目指して」を発表し、国民の信頼感を得るための努力として、地域フォーラム、シンポジウムなどの開催や、原子力モニター制度の拡充などに取り組むとともに、原子力委員会は、国民各界各層から幅広い参加を求め、多様な意見を今後の原子力政策に反映させることを目指し、「原子力政策円卓会議」(以下、「円卓会議」という。)の設置を決めた。
 円卓会議モデレーターは、1996年6月24日、原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進に関して必要な措置を取るよう原子力委員会に求めた提言に続き、10月3日に、第11回までの円卓会議の議論を踏まえ、さらなる提言を原子力委員会に提出した。
 これらの提言に対して、原子力委員会は、1996年9月25日に「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」を決定し、ついで、1996年10月11日には、「今後の原子力政策の展開にあたって」を決定した(表1-1-1)。

表1-1-1 提言に対する原子力委員会の対応の概要
(1996年9月25日及び10月11日原子力委員会決定)
提言に対する原子力委員会の対応の概要

 1.原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進
・専門部会等の報告書の策定に際し、国民に意見を求める。
・専門部会等の会議を原則として全て公開とする。
・情報公開請求に迅速かつ適切に対応するため、関係行政機関と連携を図りつつ、体制整備を行う。
 2.エネルギー供給の中での原子力の位置付けの明確化
・新円卓会議の開催等、様々な議論の場を設定し、多角的な議論を進める。
・総合エネルギー調査会における検討や関係行政機関における更なる努力を促進。
 3.核燃料サイクルの展開
使用済燃料を再処理し、得られたものを利用していく核燃料サイクルの展開は、我が国の資源的な制約や環境保護の観点から重要。以下の考え方で諸施策を進める。
1)使用済燃料の管理
・総合エネルギー調査会の検討も勘案しつつ、関係行政機関及び関係地方自治体の意見を踏まえ、現実的かつ合理的な解決策の考え方を早急に明らかにする。
2)プルトニウムの軽水炉利用
・総合エネルギー調査会の検討も勘案しつつ、その目的・内容を早急に明らかにし、関係行政機関とも連携を取りつつ、国民的な合意形成に向け、努力する。
3)高速増殖炉
・「もんじゅ」事故の原因究明や安全性総点検の着実な実施を図る。
・高速増殖炉懇談会(仮称)を設置する。
4)高レベル放射性廃棄物の取扱いを含めたバックエンド対策原子力バックエンド対策専門部会、高レベル放射性廃棄物処分懇談会の場の議論を通じ、処分対策の具体策を速やかに策定し、これを国民の前に分かりやすい形で提示する。
 4.原子力の安全確保と防災体制の確立
・原子力施設の安全確保に向け、より一層の努力を行う。
・関係行政機関の役割と連携を明確にした強固な防災対策の確立に向け、関係行政機関における取組を強化・促進する。
 5.立地地域との交流・連携の強化
・国の立地地域への対応の理念の確立や、政府一体となった地域振興等への取組を促進する。
・国と関係地方自治体との間での情報の流通、意思の疎通の一層の進展を図る。
・電力消費地域と立地地域の原子力に対する意識差の解消を目指し、地方での新円卓会議の開催等、地方を含めて広く国民との対話の場を様々な形で設定する。
・電力消費地域と立地地域の原子力に対する意識差の解消を目指し、関係行政機関におけるシンポジウム、セミナー等の開催による交流・連携を促進する。
 6.新円卓会議の開催
・装いを新たにして新円卓会議を開催する。

 また、1996年6月14日より審議を開始した通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会原子力部会は、円卓会議での議論、立地地域での議論等も踏まえ、国民の視点に立った原子力政策、核燃料サイクルを巡る課題と対応等について、1997年1月20日に報告書を取りまとめた。
 原子力委員会は、この総合エネルギー調査会の検討結果も勘案し、当面の核燃料サイクルの具体的施策について審議を行い、その結果を1997年1月31日、「当面の核燃料サイクルの具体的な施策について(参照)」として決定した。
 この中で、エネルギーセキュリティの確保と地球環境問題への対応の観点から、原子力発電は今後とも必要不可欠なエネルギー源であり、安全確保と平和利用の堅持を大前提として、着実に開発利用を進めることが引き続き重要であるという認識の下、「我が国のおかれている資源的な制約や環境保護の観点から、原子力発電を長期に安定的に進めていく上で、核燃料サイクルを円滑に展開していくことが不可欠である」ことを改めて確認した。その上で、当面推進していくべき政策を国民に提示していくことが、原子力政策への理解を得ていく上で重要であるとの認識の下、青森県六ヶ所村において進められている再処理工場計画の着実な推進とともに、核燃料サイクルを構成する要素である「軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)」、「使用済燃料の管理」、「バックエンド対策」及び「高速増殖炉の開発」について具体的な施策を示した。
 この決定を踏まえ、1997年2月4日、「当面の核燃料サイクルの推進について」が閣議了解された。これにより三県知事提言や円卓会議モデレータ提言において対応が求められていた核燃料サイクル関連の諸課題について、その具体化に向けた国としての取り組みが確認された。
 以下においては、閣議了解に盛り込まれた核燃料サイクル施策を中心に、核燃料サイクルの全般的な動向について概説する。

表1-1-2 「当面の核燃料サイクルの推進について」の概要(1997年2月4日閣議了解)
「当面の核燃料サイクルの推進について(閣議了解)」(概要)

 我が国エネルギー供給上の原子力発電の重要性にかんがみ、核燃料サイクルの確立が重要。このため、六ケ所再処理事業の着実な推進を図るとともに、当面、以下の施策を実施。

1.軽水炉でのプルトニウム利用(プルサーマル)
・現時点で最も確実なプルトニウムの利用方法であり、早急に開始することが必要。
・原子力発電を行っている全ての電気事業者が順次実施することが適当。
・安全性や意義に関する情報を提供することにより、国民の理解を得るよう努める。
2.使用済燃料の管理
・従来からの発電所内での貯蔵に加え、発電所外の施設における貯蔵の検討も進める。
3.バックエンド対策
・高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を推進するとともに、処分の円滑な実施に向けて処分対策の全体像を明らかにする。
・原子力発電施設の廃止措置について、所要の制度整備を進める。
4.高速増殖炉の開発
・「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉開発の在り方について、原子力委員会「高速増殖炉懇談会」において幅広く検討する。

①プルサーマル(参照)
 閣議了解を踏まえ、これに盛り込まれた個々の施策にも一定の進展が見られた。1997年2月14日、科学技術庁長官及び通商産業大臣は、三県知事に対して、プルサーマル計画への協力を要請し、同月27日、内閣総理大臣からも同様の要請を行った。また、電気事業連合会は、同月21日、電力11社のプルサーマル計画の全体像を示した。この計画の中で、2000年までに東京電力(株)及び関西電力(株)で4基、2010年までには全ての電力会社で累計16基から18基にプルサーマルの導入が進められることとされた。
 その後、火災爆発事故が契機となり、国民の原子力に対する不安感や不信感が増大するという状況の中で、電気事業者のみならず国も福島、新潟、福井県下において、プルサーマルの安全性や必要性等について、シンポジウムやフォーラムを開催するなど、地元の理解増進に努めてきたところである。これらを通じて、1998年2月に関西電力(株)は、福井県及び高浜町に対して高浜発電所のプルサーマル計画に係るMOX燃料装荷の事前了解願いを申し入れ、国に変更許可申請を行うことについての地元自治体の了承を得た上で、5月に申請書を国に提出した。原子力委員会は、ウラン資源の有効利用を進める観点から、我が国の原子力開発利用の当初の段階から、プルサーマル導入の必要性を指摘してきたところである。今後、地元の十分な理解の下、その円滑な導入が図られるよう、国及び事業者それぞれが適切に対応していくことが重要である。

②使用済燃料管理
 使用済燃料については、再処理されるまでの間、エネルギー資源として適切に管理することが重要であり、原子力委員会決定及びそれを踏まえた閣議了解に従って、当面の対策として各発電所での貯蔵能力の増強を地元の理解を得つつ早急に実施するとともに、2010年頃を目途に発電所敷地外における貯蔵も可能となるような所要の環境整備について結論を得るべく、1997年3月28日、通商産業省、科学技術庁及び電気事業者により、実務的な検討を行う「使用済燃料貯蔵対策検討会」が発足した。検討会では、1998年3月24日に報告書を取りまとめ、使用済燃料を有用な資源を含む「リサイクル燃料資源」として、再処理されるまでの間、発電所外において中間的に貯蔵する「リサイクル燃料資源貯蔵施設」について、2010年までに確実に操業開始することが不可欠であるなどの考えがまとめられた。現在、総合エネルギー調査会原子力部会において、本検討会報告を基に、貯蔵事業の具体化に向けた検討が鋭意進められている。
 原子力委員会は、現行の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という。)において、将来的な貯蔵の方法について検討の必要性を述べたところであるが、再処理するまでの間、エネルギー資源として貯蔵することは、核燃料サイクル全体の円滑な推進にとって意義を有するものであり、今後、使用済燃料の中間貯蔵の具体化に向けて、速やかな検討を進めることが重要であり、原子力委員会としても、総合エネルギー調査会の検討結果等を踏まえ、適切に対応していく。

③バックエンド対策
 バックエンド対策については、整合性ある原子力開発利用の観点から、残された最も重要な課題と認識しており、特に、高レベル放射性廃棄物の処分については、早急かつ適切に対応することが重要である。
 国民が原子力エネルギーの恩恵により豊かさを享受する一方で、これまでの原子力発電の発電量から試算すると、高レベル放射性廃棄物の量は、1996年現在で、ガラス固化体に換算して約1万2千本になっている。「世代間の公平」を確保する観点からも、これらの処分については我々の世代が取り組んで行くことが責務であり、また我が国は諸外国に比べて10年から20年取り組みが遅れていることから、実施主体、事業資金、深地層研究施設についての早期具体化を図ることが重要である。

図1-1-1 高レベル放射性廃棄物処分懇談会(98.2.24:於サンケイホール)

 原子力委員会は、これらの問題について、1995年9月12日、技術的側面を検討するために「原子力バックエンド対策専門部会」(部会長:熊谷信昭大阪大学名誉教授)を、また、社会・経済的側面を検討するために「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」(座長:近藤次郎元日本学術会議会長)を設置した。原子力バックエンド対策専門部会は1997年4月、報告書を取りまとめ、関係研究機関が2000年前までに地層処分の技術的信頼性を明示し、処分予定地の選定及び安全基準の策定に資する技術的拠所を提示するにあたっての研究開発の進め方等について基本的考え方、技術的重点課題を示した。
 深地層研究施設については、岐阜県瑞浪市において超深地層研究所計画を推進中であり、また、科学技術庁は1998年2月、北海道幌延町における深地層試験計画を北海道に新たに提案した。
 また、高レベル放射性廃棄物処分懇談会は、1997年7月、「高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方について(案)」を取りまとめた。本報告書案では、実施主体、事業資金、処分地選定プロセス等についての具体策を示すとともに、「高レベル放射性廃棄物の処分は、現に社会に存在する避けて通れない課題」であるとの認識の下、「国民各層の間でこの問題についての議論がなされ、一人一人が自らの身に迫った問題として意識することが重要」であると指摘した。
 こうした観点に立って、報告書案に対する意見募集を行うとともに、全国5ヶ所で「高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関する意見交換会」を開催し、地域における各方面からの意見の聴取・交換を行った。これらの意見を踏まえ、1998年5月29日、報告書が取りまとめられた。
 今後は、懇談会報告書に沿って、研究開発に鋭意取り組むとともに、関係機関が一体となって、2000年を目途とした実施主体の設立や事業資金の確保等、処分の制度と体制の具体的な整備に取り組むことが重要である。

図1-1-2 高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関する意見交換会(98.1.14:於福岡)

表1-1-3 高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関する意見交換会開催実績
○第1回大阪1997年9月19日13:00~16:10
 地域参加者:11名
 一般傍聴者:95名(応募者199名、当選者110名)

○第2回札幌1997年10月30日13:00~16:10
 地域参加者:11名
 一般傍聴者:147名(応募者370名、当選者180名)

○第3回仙台1997年11月12日13:00~16:10
 地域参加者:10名
 一般傍聴者:185名(応募者218名、当選者218名)

○第4回名古屋1997年12月11日13:00~16:10
 地域参加者:16名(うち公募による地域参加者5名)
 一般傍聴者:182名(応募者307名、当選者220名)

○第5回福岡1998年1月14日13:00~16:10
 地域参加者:14名(うち公募による地域参加者5名)
 一般傍聴者:132名(応募者214名、当選者150名)

(合計:地域参加者62名、一般傍聴者741名)

④高速増殖炉研究開発
 高速増殖炉開発については、「もんじゅ」事故を背景に、その進め方、安全性に対する地元、国民の不安感が高まり、「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉研究開発のあり方について、幅広い議論を行う必要性が指摘された。このため、原子力委員会は、1997年1月31日、いわゆる「原子力の専門家」以外の者も含め各界各層の有識者からなる「高速増殖炉懇談会」(座長:西澤潤一東北大学名誉教 授)を設置した。懇談会では、将来のエネルギー情勢と原子力の役割や、これを踏まえた高速増殖炉研究開発の意義から、「もんじゅ」を含む今後の研究開発の在り方まで、幅広い観点からの検討を行った。また、審議の途上、フランス政府が高速増殖実証炉「スーパーフェニックス」の放棄を発表したが、懇談会では、これら海外の動向をも踏まえた審議を進めた。さらに報告書案については広く国民からの意見を募集し、1,063件の意見が寄せられるとともに、「ご意見を聞く会」も開催し、これらを踏まえ、懇談会は最終的に1997年12月1日、報告書「高速増殖炉研究開発の在り方」を原子力委員会に報告した。
 この中で、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を追求するために研究開発を進めることが妥当であり、国民の意見を反映した、定期的な評価と見直しを行うなど、柔軟な計画の下に進められることが必要との結論がまとめられた。さらに、「もんじゅ」については「研究開発の場の一つ」として位置づけ、高速増殖炉の実用化に当たっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を踏まえながら、柔軟に対応することとした。原子力委員会は、懇談会報告を受けて1997年12月5日、「今後の高速増殖炉開発の在り方について(参照)」を決定し、懇談会報告書を尊重して高速増殖炉開発を進めることを決定した。

表1-1-4 高速増殖炉懇談会報告書の概要
(1997年12月1日高速増殖炉懇談会)
高速増殖炉懇談会報告書の概要

○将来の非化石エネルギー源の一つの有効な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を追求するために研究開発を進めることが妥当。

○国民の意見を反映した、定期的な評価と見直しを行うなど、柔軟な計画の下に進められることが必要。

○原型炉「もんじゅ」はこの研究機関の場の一つとしての位置づけ。

○高速増殖炉の実用化に当たっては、実用化時期を含めた開発計画について、安全性と経済性を追求しつつ、将来のエネルギー状況を見ながら、柔軟に対応。

⑤再処理事業の動向
 青森県六ヶ所村における再処理工場計画については、核燃料サイクルを確立する上での中核的なプロジェクトとして、2003年の操業開始を目指して建設が進められている。同工場の使用済燃料受入貯蔵施設における機器の検査用燃料の搬入に係る安全協定については、1997年1月に、青森県及び六ヶ所村から事業者に対し案が示されたが、未だ締結に至っていない。これに関し、1997年9月には通商産業大臣、科学技術庁長官及び青森県知事から構成される核燃料サイクル協議会が開催され、その後同協議会幹事会において安全協定に関する検討状況や青森県から国への要望事項につき意見交換等が行われている。また、その過程において、第3回目の高レベル放射性廃棄物ガラス固化体の輸送船の入港が予定より3日遅れた。


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