第1章 国民の信頼回復に向けて

 1950年代半ばに始まった我が国の原子力開発利用は、40年余りを経た今日、我が国の発電電力量の約3分の1をまかなうまでに成長し、非エネルギー分野においても、医療分野を始めとして、国民生活の身近なところにまでその応用が広がり、着実な成果をあげている。
 資源に恵まれない我が国は、エネルギーの安定確保と資源の有効利用のために、原子力開発の当初から一貫して安全確保を大前提に核燃料サイクルの確立を基軸においた原子力政策を進めており、この原子力政策の基本的な考え方の重要性は今日に至るまで変わってはいない。
 この40年余に及ぶ歴史の中で、昨今の原子力を取り巻く諸情勢は変遷を遂げている。その一つは、1980年代以降の地球環境問題に対する国際的関心の高まりである。特に、地球温暖化問題の顕在化は、温室効果ガスを排出しないエネルギー源として、従来の資源論的観点からだけでなく、環境論的観点からも原子力の重要性を再認識させる契機となった。1997年12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」において京都議定書が採択され、同議定書において我が国は1990年の水準から人為的な温室効果ガスの排出量を6%削減することとなっている。世界第2の経済大国として、その責務を誠実に履行するためにも、省エネルギーの徹底や新エネルギーの導入と並んで、原子力の担う役割は益々大きくなると考えられる。
 こうした地球レベルでの関心の共有化が進む中で、原子力の資源論的役割についても、一国レベルのエネルギー安定供給にとどまらず地球規模での資源の有効利用の観点からも考えることが必要となっている。原子力平和利用に関し、原子力先進国といえる我が国としては、途上国を中心にエネルギー需要の大幅な増大が予想される中で、今後アジアを中心とした国際社会における原子力の役割にも目を向けることが求められている。
 また、経済分野での規制緩和の流れの中で、電力市場の効率化が求められている一方で、豊かな国民生活の前提であるエネルギーの安定供給確保と人類共通の課題である地球環境保全とのバランスを長期的視座に立ち、達成していく必要がある。
 さらに、原子力発電が重要な電源の一つとして定着する中で、国民の目は、放射性廃棄物処分対策の問題や使用済燃料の管理など、原子力開発利用の諸問題に向けられ、その解決は危急の課題となっている。
 このように原子力を取り巻く内外の諸情勢が変化し、また1995年12月8日の高速増殖原型炉「もんじゅ」2次系ナトリウム漏えい事故(以下、「『もんじゅ』事故」という。)以来、原子力に対する国民の信頼回復に取り組む最中、1997年3月、動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃」という。)の東海再処理施設アスファルト固化処理施設において火災爆発事故(以下「火災爆発事故」という。)が発生した。この火災爆発事故及びこれに続く動燃の一連の不適切な対応によって、国民の批判の目は、単に動燃という一機関にとどまらず、原子力開発利用全体に対する不安感や不信感となって、核燃料サイクルの確立を基本とする原子力政策そのものにも向けられた。
 原子力行政に対する国民の信頼感が損なわれ、今我が国の原子力政策の在り方が改めて問われている。原子力行政への信頼感をいかに回復し、原子力開発利用に対する国民の理解と協力を得つつ、次なるステップにどう進むべきか。本章では、この一年余りの原子力開発利用を巡る動向を振り返りつつ、これらの問題について考えてみたい。


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