高レベル放射性廃棄物の地層処分

研究開発等の今後の進め方について




平成8年11月

原子力委員会

原子力バックエンド対策専門部会


目  次

はじめに

第1部 基本的考え方

第1章 概説

第2章 地質環境の長期安定性
1.日本の地質環境の特性
2.研究の進め方

第3章 地層処分システムの安全評価
1.地層処分システムの安全評価の方法論
2.地層処分システムの安全評価に関わる時間スケール
3.評価指標の設定の考え方

第4章 処分場の管理

第5章 処分予定地の選定と安全基準の策定に資する技術的拠り所
1.処分予定地の選定に資する技術的拠り所
2.安全基準の策定に資する技術的拠り所

第6章 第2次取りまとめに対する透明性の確保と評価の考え方
1.研究開発の透明性の確保
2.第2次取りまとめに対する評価

第2部 第2次取りまとめにあたっての技術的重点課題

第1章 第2次取りまとめに向けた研究開発のあり方

第2章 地層処分研究開発の重点課題
1.各研究開発分野の目標
2.各研究開発分野における技術的重点課題
(1)地質環境条件の調査研究
(2)処分技術の研究開発
(3)地層処分システムの性能評価研究
(4)各研究開発を進めるための主要施設

第3章 深部地質環境の科学的研究の重点課題
1.深部地質環境の特性に関する研究
2.深部地質環境の調査技術及び関連機器の開発
3.深部地質環境の長期安定性に関する研究
4.深部地質環境の科学的研究を進めるための主要施設

第4章 研究開発の進め方

参考
1.構成員及び開催日
2.高レベル放射性廃棄物処分への取組について
   (平成7年9月12日 原子力委員会決定)
3.原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(抜粋)




は じ め に

 高レベル放射性廃棄物は原子力発電に伴って発生するものであり、その処分は原子力の開発利用を進める上で避けて通れない問題である。国民各界各層の様々な意見を原子力政策に反映するために開催された原子力委員会原子力政策円卓会議においても、安全を確保した上で国民の理解と信頼を得つつ処分の実施に向けて速やかに計画を進めるよう多くの意見が出され、今日この問題は、国民的な喫緊の課題として極めて重要となっている。原子力委員会は「今後の原子力政策の展開に当たって(平成8年10月)」の中で高レベル放射性廃棄物の処分対策の具体策をできる限り速やかに策定し、これを国民の前にわかりやすい形で明らかにすることを決定した。

 わが国では、原子力委員会の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(平成6年6月)」(以下、「原子力長計」という。)に示されているとおり、再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については、ガラス固化により安定な形態にした後30年から50年間程度冷却のために貯蔵し、その後地下の深い地層中に処分する(以下、「地層処分*」という。)という基本方針に基づき処理・処分することとしている。
 また、「原子力長計」では、高レベル放射性廃棄物の処分事業について、2000年を目安に実施主体を設立し、その後処分予定地の選定、サイト特性調査と処分技術の実証、必要な法制度などの整備と安全審査、処分場の建設などを進め、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでを目途に操業を開始することとされている。一方、地層処分の研究開発については、地層処分に対する国民の理解を得ていくためにも、研究開発の進捗状況や成果を適切な時期に取りまとめ、研究開発の到達度を明確にしていくこととしている。このため、地層処分研究開発の中核的推進機関として位置付けられている動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃事業団」という。)は、2000年前までに自らの成果及び関係機関の関連する研究開発などの成果を取りまとめ(以下、「第2次取りまとめ」という。)、公表するとともに、国はその報告を受けてわが国における地層処分の技術的信頼性などを評価することとしている。

 高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発は、従来より進められてきており、動燃事業団は平成4年9月に「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書-平成3年度-」(以下、「第1次取りまとめ」という。)を取りまとめた。この成果について、平成5年7月、当時の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は、「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の進捗状況について」(以下、「進捗状況について」という。)を取りまとめ、わが国における地層処分の安全確保を図っていく上での技術的可能性が明らかにされているとの評価を行うとともにその後の研究開発の進め方を示した。これを受けて現在、動燃事業団を中核とする関係機関は、地層処分の研究開発及びその基盤となる深部地質環境の科学的研究を進めているほか、高レベル事業推進準備会においては、事業化計画の策定、実施主体の組織形態や事業資金の検討など、処分の事業化へ向けた諸準備を進めている。


*高レベル放射性廃棄物処分では、従来より地質学上の堆積岩を指す「地層」と、地質学上は「地層」とみなされない「岩体」を含めて「地層」という語を用いている。

 本専門部会は、平成7年9月に設置されて以来、この問題の緊急性に鑑み、早急に、地層処分の技術的事項について具体策を策定し、その内容を国民にわかりやすく提示して理解を得ることが重要との認識の下に、今後の地層処分の研究開発などの進め方について集中的に審議を行ってきた。

 第1次取りまとめは、地層処分の技術的有効性に関する総合的評価を行い、わが国における地層処分の安全確保を図っていく上での技術的可能性を明らかにしたものであるが、第2次取りまとめにおいて示される研究開発の成果は、第1次取りまとめの成果を受けてさらに処分の技術的な信頼性を示すとともに、処分事業を進める上での処分予定地の選定、安全基準の策定に資する技術的拠り所を与える極めて重要なものである。本専門部会は、このような認識に立って、第2次取りまとめに向けて今後動燃事業団を中核として関係機関が取り組む研究開発などの進め方、技術的重点課題、及び研究成果についての客観的で透明性のある評価のあり方などについて鋭意審議を進めてきた。

 地層処分は、地下深部が有する長期の安定的地質環境中に高レベル放射性廃棄物を埋設することにより、極めて長期にわたってそれが人間環境に有意な影響を及ぼさないようにする有効な方法とされ、わが国のみならず関係各国においてその実現に向けて各般の施策と関連の研究開発が進められている。本専門部会は、このような内外における地層処分に係る研究開発の進捗状況や、基盤となる深部地質環境の科学的研究の成果あるいは変動帯に位置するという日本列島の地質環境の特性などを考慮しつつ審議を行った。また、国民の理解と信頼が得られるよう、その進捗に応じて成果の公表に努めるとともに、関係機関が連携し速やかにこの推進を図るよう、研究開発の進め方について審議した。

 以上のような考え方の下に、この度、本専門部会として審議結果を取りまとめ、喫緊の課題になっている高レベル放射性廃棄物の処分に係る技術的事項について国民に公表するとともに、関係機関に提示することとした。
 本報告書は、2部構成とし、第1部では、地層処分をわが国に適用していくにあたって基本となる技術的考え方と第2次取りまとめに盛り込まれるべき事項を示し、第2部では第2次取りまとめに向けて実施すべき技術的重点課題を示した。また、本報告書の作成にあたっては、できるだけわかりやすくすることに努め、多くの資料や用語解説を添付した。
 なお、現在、原子力委員会高レベル放射性廃棄物処分懇談会において、高レベル放射性廃棄物処分の円滑な実施への具体的な取組みに向けて、主として社会的・経済的側面について幅広い審議が進められている。



第1部 基本的考え方

第1章 概説

 高レベル放射性廃棄物は、当初は放射能が高く発熱量も高い状態にあるが、30~50年で埋設可能な発熱量となり、含まれる大部分の放射性物質の放射能は数百年の間に急速に減少する。一方、一部の放射性物質は放射能は低いものの寿命が長いため、長期にわたって放射能が存在する。  地層処分は、このような特徴を有する高レベル放射性廃棄物をガラス固化体という安定な形態とし、人の生活圏から離れた深地層中にそれを安全に埋設することによって、人間環境に有意な影響を及ぼさないようにする措置である。
 深部の地質環境は、極めて長期の地質学的時間にわたり安定であると考えられている。したがって、処分場として適切な地点を選べば、放射能レベルが高い期間や、その後の期間においても、埋設された廃棄物が人間環境に有意な影響を及ぼさないようにすることができると考えられる。この際、深地層に存在すると想定される地下水の中に放射性物質が溶出する可能性について考慮しておくことが重要であり、このために多重の防護系(多重バリアシステム)を設けるのが基本的な考え方である。この考え方は高レベル放射性廃棄物の地層処分を検討している各国に共通のものである。
 本専門部会は、動燃事業団が関係研究機関の協力を得て2000年前までに公表することとしている第2次取りまとめに向けて、基本となる技術的考え方と第2次取りまとめに盛り込まれる事項及び第2次取りまとめに向けて実施すべき技術的重点課題について以下のとおり審議した。
 まず、地層処分の技術的信頼性に深く関わる地質環境の長期安定性について、とくに変動帯に位置するわが国の地質学的条件を念頭に、地層処分による安全確保に関連する時間スケールについて審議した。次に、地層処分システムの長期間にわたる安全性を解析評価するにあたり、その方法論、とくに時間の経過に対応させた評価と安全指標をどのように考えるべきかを審議した。
 さらに、処分場の管理について技術的な観点から審議するとともに、処分事業を進める上での処分予定地の選定や安全基準の策定などに際して技術的拠り所とするために第2次取りまとめに盛り込むべき技術的事項について審議した。また、第2次取りまとめが広く国民に理解され信頼を得るために考慮すべき研究開発の透明性や評価のあり方についても審議した。
 最後に、第2次取りまとめにあたっての技術的重点課題を具体的に審議した。これについては本報告の第2部にまとめて示した。
 以下に本報告の概要を示す。

1.地質環境の長期安定性
 わが国は変動帯に位置しているが、天然現象の中で、地震・断層活動、火山・火成活動などの急激な現象については、これまで長期にわたり限られた地域で起こっており、活動及び活動範囲の移動は規則的に推移しているため、その影響を受けない地域の地下深部に処分施設を設置することが可能と考えられる。また隆起・沈降・侵食、気候・海水準変動などの緩慢・広域的現象については、その変化の規則性が過去の地質学的記録から類推できるため、長期にわたりこれらの影響や範囲を推定することが可能と考えられる。このような考え方に基づき、天然現象が地層処分システムへ及ぼす可能性のある影響の性質やその範囲に関する知見を得るための研究の進め方について示した。

2.地層処分システムの安全評価
 第1に、地層処分システムの安全評価にあたって、高レベル放射性廃棄物による人間環境への放射線の影響について、地下水を介して人間に影響が及ぶ場合と、将来の人間活動あるいは天然現象により人間と高レベル放射性廃棄物との物理的距離が接近する場合の2つを考えておくことが必要であることを示した。
 第2に、地層処分システムの安全評価を行う際の時間スケールについて、人間環境の長期的な変化、地質環境の長期安定性及び放射線源としての高レベル放射性廃棄物の特性の観点から検討し、第2次取りまとめにおいては、地層処分システムの安全評価として時間スケールを限ることなく放射線量の評価を行うことが適切であることを示した。
 第3に、安全評価の指標として、放射線量を基本とし、それに対応した線量基準としては諸外国の例を参考とすべきことを示した。また、遠い将来については天然の放射線レベルに有意な影響のないことを確認するための補完的評価指標についても検討すべきであることを示した。

3.処分場の管理
 処分場の地質環境と地層処分システムの状態を監視し安全性を確認するため、建設から閉鎖までの各段階に取得すべき情報、計測方法、所要の措置などの処分場の管理に係る技術的検討を行うべきことを示した。

4.処分予定地の選定と安全基準の策定に資する技術的拠り所
 予定される処分事業に第2次取りまとめの成果を適切に反映し事業の安全かつ円滑な推進に資することが重要であり、とくに、処分予定地の選定及び安全基準の策定に資する技術的拠り所について、第2次取りまとめに盛り込まれるべき項目を整理して示した。

5.第2次取りまとめに対する透明性の確保と評価の考え方
 第2次取りまとめに向けた今後の研究開発の推進にあたって、国民の理解と信頼を得つつその推進を図るために、研究開発の進捗に応じて成果を積極的に公表するとともに国際的なレビューを受けるべきことを指摘し、第2次取りまとめに対する国による評価のあり方を示した。

6.第2次取りまとめにあたっての技術的重点課題
 第2次取りまとめの成果が、わが国における地層処分の技術的信頼性を示すとともに、その後の研究開発及び処分事業の推進に適確に反映されるため、地層処分研究開発及びその基盤となる深部地質環境の科学的研究について個別目標と重点課題を具体的に示した。
また、動燃事業団を中核として関係研究機関が適切な役割分担と協力の下に、2000年の第2次取りまとめに向けた協力を一層強化すべく「研究調整委員会」(仮称)を発足させることとし、総力を挙げて研究開発を加速して進める必要があることを強調した。また、海外との緊密な研究協力、研究成果の平易で積極的な公表、研究施設の充実、人材の養成などの必要性についても指摘した。



第2章 地質環境の長期安定性

1.日本の地質環境の特性
 天然現象の中には、地震・断層活動や火山・火成活動のように急激かつ局所的な現象と、隆起・沈降・侵食及び気候・海水準変動のように緩慢かつ広域的な現象があり、それぞれ地下深部の地質環境に影響を及ぼしている。前者については、場所によっては地質環境への影響は大きいものの、大きな変形を伴うような影響を及ぼす地域は比較的狭い範囲に限定されており、また過去数十万年の時間スケールでみれば、これらの現象が規則的に起こっていることから、今後十万年程度であれば、その規則性及び継続性からそれらの影響範囲を推論することができると考えられる。他方、後者は、地下水系などに広い範囲で影響を及ぼすが、緩慢かつ広域的であるから、過去数十万年程度について、広域にわたる比較的精確な地質学的な記録が残されている。それらの記録を基に、将来についても十万年程度であれば、その及ぼす影響の性質や大きさ、また影響範囲の移動や拡大の速度などを推測することができると考えられる。
 このような天然現象の長期的変化に関する調査研究を進めることにより、急激な現象については、その直接的な影響が及ぶことのない、地層処分にとって安定な地質環境が存在し得ることを示し、緩慢な現象については、それによって生ずる処分施設への直接的及び間接的影響を評価し、必要に応じて適切な技術的対策を講じ得ることを示すことができると考えられる。
 したがって、第2次取りまとめに向けては、地下深部環境へのこれらの天然現象の影響の程度とその範囲について事例研究を進め、変動帯に位置する日本においても地層処分にとって十分に安定な地質環境が存在し得ることを明らかにすることが肝要である。
 なお、地層処分の観点からは、天然現象そのものを予測するというよりは、その影響が及ぶ範囲について十分な裕度を見込んで推論しておくことが重要であり、その推論の結果と地層処分の安全性の評価との関連を十分に検討し、とくに留意しておくことが必要な現象を見極めておくことが肝要である。


2.研究の進め方

(1)急激かつ局所的な現象
 地震・断層活動、火山・火成活動などの急激な天然現象については、地質環境への影響が地域的に限定されることを明らかにすれば、その影響を避けることができる地域を特定することが可能と考えられる。第2次取りまとめでは、これらの天然現象の性質や影響範囲などを調査し、変動帯であってもこれらの影響が及ばないような安定な地域が存在し得ることを示すとともに、天然現象による地質環境の変動の程度を明確にすることが課題である。

  1) 地震・断層活動に関する研究
 地震・断層活動については、これらにより地下の処分施設が変形を受けるような大きな影響が及ぶことがないようにしなければならない。断層に関しては、変形量が大きい破砕帯に着目し、応力・変形、破砕帯の分布などを中心に研究し、既存の断層からどの程度離れればその影響が及ばないようにできるかについて事例研究を進める。地震時の振動については、地下岩盤内での振動分布を実測し、地震の際の処分施設への振動の影響を推定する。
 さらに、地下に伏在する活断層の調査手法の開発を進め、地震発生場所の予測や地表部への影響の推定に適用する可能性を検討するとともに、破砕帯の分布頻度や地震活動度などを詳細に調査解析し、地質環境の長期安定性を評価する際の科学的根拠を充実する。
 これらの調査研究を通して、地震・断層活動に関しては、その影響を直接的に被る範囲を地域的に限定し得ること、したがってその影響の及ばない地下深部の地質環境が存在し得ることを明らかにする。

  2) 火山・火成活動に関する研究
 火山・火成活動による深部地質環境への影響は主として熱及び熱水に基づくものであり、過去における火山噴火履歴・火山地域の地下構造、火山地域の熱水変質作用、地熱分布などに着目し、既存の火山からどの程度離れれば地層処分の安全性に影響が及ばないようにし得るかについて事例研究を進める。
 地熱分布や地温勾配と火山地域の地下構造を基に、火山の全体的特性を把握するとともに、その活動履歴(活動年代と分布)から活動域の広がりを推定し、長期にわたる変化が規則的で、地域的に限られていることを明らかにする。それにより、その継続性から将来にわたり活動域が大きく広がることはなく、火山の影響の及ばない地域を特定することができると考えられる。また、火山周辺における変質作用の程度や分布に着目し、火山・火成活動に伴う熱及び熱水による地質環境への化学的影響とその範囲を調査研究する。
 これらの調査研究を通して、日本においては約170万年前から現在までの地質学的年代である第四紀以降に関し、火山活動や地熱の影響を被る地域は限定されていること、したがってその影響の及ばない地下深部の地質環境が存在し得ることを明らかにする。

(2)緩慢かつ広域的な現象
 隆起・沈降・侵食及び気候・海水準変動などの現象については、第四紀以降の地質学的記録が多いので、変化の速度や影響範囲などを精確な記録に基づいて解析することができる。精度の高いデータを取得するための基本的条件は年代の同定であるが、過去十万年程度の範囲では比較的精確な年代測定が可能である。第2次取りまとめでは、これらのデータを解析し、緩慢かつ広域的現象が地質環境の長期安定性に及ぼす影響の可能性について調査することが課題である。

  1) 隆起・沈降・侵食に関する研究
 わが国における隆起・沈降及びそれらに付随して生じた侵食などの現象に関し、精確な年代が明らかにされている段丘などを対象とした事例研究に基づいて、その変動の速さの分布を具体的かつ量的に示す。それに基づき、この点においても長期的に安定な地質環境が存在し得ることを明らかにする。
 また、これらの現象による地下水流動と地下水の水質などへの影響についても調査研究し、その影響の程度が処分場の設計において適切に対処し得る範囲内であることを示す。
  2) 気候・海水準変動に関する研究
 氷期-間氷期の気候変動は海水準の上下変化や侵食などの地形変化をもたらすので、その変動幅と規則性を調査し、変動に伴う地下水流動の変化が地質環境にどのように影響したかを研究する。最終氷期における河谷の下方侵食などの地形への影響及び凍結・凍土の深度やそれらの地質環境への影響を調査し、次の氷期における深部地質環境への影響とその範囲について研究を行う。また、この気候変動に伴う沿岸地域における塩淡境界や地下水の水質の変化などについても調査研究する。
 これらの調査研究を進めることにより、気候・海水準変動の影響を被ることのない地下深部の地質環境が存在し得ることを明らかにする。

(3)ナチュラルアナログ(類似した天然現象)の調査研究
 日本は、安定大陸地域に比し、地震・断層活動及び火山・火成活動の頻度が高く、その分布密度が大きいが、地質環境の長期安定性が実際に保たれていることを、事例研究によって明確にするとともに、さらにその地域の地殻変動や気候変化などに関する履歴を詳細に解析して、天然現象の影響が重複したにもかかわらず、現在まで長期にわたって安定性が保たれている事例があることを示す。
 たとえば、約一千万年前に形成された東濃ウラン鉱床では、地震・断層活動の直撃や大規模な地形変化を繰り返し受けるとともに、高温・多雨気候から氷期の低温・乾燥気候にわたるダイナミックな気候変動を何度も経験した変動帯にあったにもかかわらず、断層形成から今日にいたる数百万年の間、断層に沿ってウラン及びその娘核種が移行した形跡はなく、また現在の地表にもそれらの放射性物質の移行は見られず、この鉱床が安定に保存されている。
 さらに、そのような類似した天然現象(ナチュラルアナログ)に基づいて地質環境の長期安定性を評価する考え方は、オクロ鉱床(ガボン)、シガーレイク鉱床(カナダ)、クンガラ鉱床(オーストラリア)などを利用した国際共同研究によっても有効なものであることが示されている。第2次取りまとめにおいては、このような方法の適用性という観点から、調査・研究例を具体的に示すことが肝要である。



第3章 地層処分システムの安全評価

 高レベル放射性廃棄物の地層処分システムの長期的な安全評価では、時間とともに変化するシステムの諸特性を考慮するとともに、安全性を判断する上でその基礎となる安全指標を適切に設定する必要がある。第2次取りまとめにおいては、これらについて、以下に示す考え方に基づき、地層処分システムの安全評価手法の確立を図るとともに、将来の安全基準の策定に資することが肝要である。

1.地層処分システムの安全評価の方法論
 地層処分システムの安全評価に関する各国に共通した方法は、まず、地層処分システムの将来のふるまいに関し、種々の可能性を想定し、それによる人間環境への影響を論理的に記述する安全評価上のシナリオを作成し、次に、それらのシナリオに対応して、適切な解析モデルを構築するとともにそれに関連するデータを準備し、それらを用いて各シナリオに対応する安全性を解析評価するというものである。

(1)安全評価シナリオの作成
 安全評価シナリオを考える上では、高レベル放射性廃棄物と人間との物理的距離が接近することによって人間環境に影響が及ぶ可能性が生ずるようなシナリオ(接近シナリオ)と、地下水により放射性物質が人間環境に運ばれる可能性に関するシナリオ(地下水シナリオ)との2つに分類して検討を行うことが適当であり、とくにそのうち地下水シナリオを重視して検討を行うべきことが国際的にも共通の考え方となっている。したがって、第2次取りまとめにおいても、地下水シナリオを中心に地層処分システムの安全評価を行うことが適当である。
 これらのシナリオに関連して、地震・断層活動、火山・火成活動、隆起・沈降・侵食、気候・海水準変動の天然現象と処分場への掘削などの人間活動について考慮しておくことが重要である。天然現象については、その規模と規則性や地域性などに関する知見を基にシナリオを作成し、既に第2章に述べたように、適切な処分地を選定するとともに必要に応じて適切な対策を講じることによってその安全性を保持し得ることを確認できるようにする。
 将来の人間活動が地層処分システムの安全性に影響を及ぼすことの可能性に関する取り扱いについても、国際的に検討されており、将来の人間活動に起因するシナリオを作成するに際しては、現在の行動様式を前提とすることが適当と考えられている。また、処分場の安全性に影響を及ぼすような人間活動には、処分場の存在を認識した意図的なものと、そうでないものとが考えられ、意図的なものについては保安上の問題と考えるべきで安全評価の対象外であるという考え方が示されている。第2次取りまとめにおいては、こうした国際的に共通な考え方を参考に、意図的でない場合に対してシナリオを作成し、将来の人間活動による地層処分システムの安全性への影響を評価できるようにする。

(2)シナリオに沿った解析評価の方法
 シナリオに沿った安全性に関する解析評価を行う上で方法論として重要な点は、天然現象及びその影響をいかにシナリオに組み込むかである。上述した2つのシナリオのうち、接近シナリオについては、地質環境の長期安定性に関する知見を基に適切な処分地を選定するとともに、必要に応じて適切な対策を講ずることによって安全性を保持できることを、シナリオに沿った解析評価を通して示すことができるようにする。

 一方、地下水シナリオについては、その影響が複雑かつ多岐にわたることから、天然現象に関し、急激かつ局所的現象と緩慢かつ広域的現象のそれぞれについて、その影響を解析し評価し得るようにする。すなわち、

  1) 急激かつ局所的現象の評価
 地震・断層活動や火山・火成活動に関連する急激かつ局所的現象は、これまで長期にわたり比較的に限られた地域で起こっていることから、それらの現象による影響範囲を把握する方法論を開発し解析評価に組み込む。
  2) 緩慢かつ広域的現象の評価
 隆起・沈降・侵食や気候・海水準変動に関連する緩慢かつ広域的現象については、事象を解析する手がかりとなる記録が長期にわたって比較的に多く得られ、相対的に高い信頼性をもって解析することができると考えられることから、解析評価においては、それらの現象の影響を考慮し得る手法を確立する。

 地層処分の安全性の評価においては、きわめて長期的な現象及びその影響の可能性を論ずることから種々の不確定要因を含んでいる。そのため、そのシナリオの作成と解析にあたっては、十分な安全裕度を見込んで評価することができるよう、モデルの前提のたて方やその入力パラメータの選定に十分に留意する必要がある。第2次取りまとめにおいては、この点から、安全評価上の基本となるケース(基本ケース)を適切に設定するとともに、モデルの前提やパラメータに関してその変動を考慮したケース(変動ケース)を併せて設定して解析を行うことが重要である。また、それらの解析を通して、モデルの前提のたて方やその入力パラメータの精度が結果に及ぼす影響を明らかにすることが必要である。シナリオによってすべての可能性を網羅することは不可能であるが、入力パラメータの精度が結果に及ぼす影響の程度を十分に解析することにより、可能性の非常に低いシナリオに対する対応策を把握することが可能になる。
 また、この点に関連して、可能性の低いシナリオについては、その確率を考慮するという考え方を採用している例が外国には見られる。そのような考え方の適用性についても検討しておくことが望ましい。

2.地層処分システムの安全評価に関わる時間スケール
   地層処分システムの安全評価の手法を検討する上では、以下に示すような時間に関する視点が重要である。

(1)人間環境の長期的な変化
 次の氷期は一万年先頃までに到来すると考えられているが、このような大きな気候変化が生ずれば、地球全体の生物圏及び地表近傍は著しい影響を受け、人間環境も大きな影響を受けると考えられる。したがって、一万年以上の期間について人間の生活様式を仮定し生活圏への影響の可能性を評価することには絶対的な意味はないという考えもありうるが、現在の人々が受けている放射線量との対比から、そのような遠い将来についても現在と同様の生活様式を仮に想定して放射線量を評価しておくことは相対的に重要な意味があると考えられる。

(2)地質環境の長期安定性
 地下深部の地質環境は、地質学上、次の氷期を越えてさらに長期にわたり安定とみなすことができ、次の氷期後においてもその安定性は予測できると考えられる。したがって安全評価上は、地質環境の長期安定性に関する調査研究をもとに、地質環境が安定と見なせる期間を推定するために、次の氷期以降のさらに長期においてもその安定性に影響を及ぼす可能性のある事象を的確に取り込んで評価することが適当である。

(3)放射線源としての高レベル放射性廃棄物の特性
 高レベル放射性廃棄物の放射能は時間とともに減衰し、それにともなって潜在的な危険度も減少する。このように、その潜在的な危険度が減少するという特性は、放射性廃棄物に特有の性質であり、他の廃棄物には見られない性質である。このことは、地層処分の安全評価にともなう遠い将来に関する不確実性の問題をある程度は相殺するものと考えることができる。

  第2次取りまとめでは、以上を考慮しつつ放射線量の評価を行うことが重要であり、評価期間に関する時間スケールについてはとくに限定せず、現在の人々との対比において人間への影響が最大となる時期やその期間などがわかるように評価しておくことが適切である。

3.評価指標の設定の考え方
 第2次取りまとめにおいては、安全評価の指標として、まず放射線量を基本とする。それに対応する基準については、わが国では今後決められる予定になっており、諸外国の基準を参照して評価しておくことが適当である。また、上述した安全評価の時間スケールにおいて将来の人間環境の予測の困難さを考慮し、長期については第2次取りまとめにおいて天然の放射線レベルに有意な影響のないことを確認するため補完的な解析結果を併せて示すことが適当と考えられる。
 
 なお、IAEAの安全原則と技術基準では、「遠い将来の人間の環境や生活様式を予測することはできないため、厳密には、線量やリスクの評価は、数千年以上の長期においては、絶対的な意味があるとは言い難い。それは、このような長期にわたる評価をしない方がよいとするものではないが、時間とともに不確実性が増大するにつれて、線量やリスクによる評価の結果を他の独立した指標により補完する必要があることを示唆している。」と述べられている。



第4章 処分場の管理

 処分場の安全を確保するためには、事前のサイト特性調査で予測される地下水流動や水質、岩盤の特性などの地質環境条件が、処分場の建設や操業、あるいは天然現象などによる擾乱によって変動しても、その幅が設定された設計条件の範囲内にあることに関し、処分場の管理を通して適切に確認することが重要である。

 処分場の管理は、その建設開始から廃棄物の埋設が行われる操業期間を経て、閉鎖に至るそれぞれの段階に応じ、適切に行われるべきであり、具体的には、次のような4つの段階を考えることができる。

  1) 処分場の建設
 処分坑道などの掘削による、坑道周辺岩盤における地下水流動や水質の変化、岩盤の変形などの把握と管理

  2) 処分場の操業 
 人工バリアの設置によって坑道周辺岩盤中の地下水流動や水質に与える影響、空洞の安定性、人工バリアの温度や放射線量などの把握と管理

  3) 処分場の閉鎖 
 処分場の埋め戻しを行うとともに、地質環境条件が地層処分システムの長期的安全性を保ち得る状態にあるかどうかを確認するために、上記②で示したものと同様の環境条件の変化の把握と管理
 なお、ここでの「閉鎖」とは処分場の埋め戻し行為をいう。

  4) 処分場の閉鎖後
 処分場の埋め戻しを完了した後における状況の必要に応じた把握と管理

 第2次取りまとめでは、処分場に関する種々の状態や状況について、それぞれの段階において取得すべき情報の内容、計測の方法、所要の措置などを技術的に検討し、処分場の管理に関する技術的基盤を整えるものとする。



第5章 処分予定地の選定と安全基準の策定に資する技術的拠り所

 第2次取りまとめは、わが国における地層処分の技術的信頼性を示すことを目標としているが、処分事業を進める上での処分予定地の選定と安全基準の策定に資するために、この研究開発の成果をその技術的拠り所とすることが肝要である。

1.処分予定地の選定に資する技術的拠り所
 処分予定地の選定にあたっては、地質環境のどのような特性に着目するのか、また、処分予定地の選定後のサイト特性調査において、何をどのように調べるのかが明らかにされている必要がある。このような観点からの技術的拠り所として第2次取りまとめの中に盛り込まれるべき主な事項を以下に示す。

(1)処分予定地選定の要件の明確化に関する事項

  1) 地質環境の長期安定性
 長期安定性に関連する天然現象(地震・断層活動、火山・火成活動、隆起・沈降・侵食、気候・海水準変動)についての事例研究成果に基づき、処分予定地の選定の要件になると想定される事項を整理し、明らかにする。
  2) 人工バリアの設置環境として重要な地質環境の特性
 実際の調査・試験から得られる知見に基づき深部地質環境についての情報を整備することにより、人工バリアの設置環境として重要な深部の地質環境の特性(地質構造、地下水流動、地球化学、岩盤力学などに関する特性)を明らかにする。
  3) 天然バリアとして重要な地質環境の特性
 ニアフィールド岩盤に期待される天然バリア性能を定量的に明らかにするとともに、放射性物質の主要な移行経路に沿ってファーフィールドの天然バリア性能を大局的に把握する上で重要な地質環境条件(広域地下水流動系、地球化学特性など)に関し、実際の地質環境下や室内での試験研究などに基づいて明らかにする。

(2)サイト特性調査技術に関する事項
 処分予定地における地質環境の特性を調査するために、次のような技術や手法を開発する。

  1) 地質環境調査技術及び関連機器の開発と改良
 試錐技術、深度1000メートル程度までの地質環境を対象とした地下水調査技術、割れ目の分布や掘削影響領域を把握するための物理探査技術の開発と改良を行うとともに、サイトの調査解析システムを開発する。
  2) ナチュラルアナログの適用性
 古水理地質学的手法などに基づくナチュラルアナログ研究の手法の適用方法を示す。

2.安全基準の策定に資する技術的拠り所
 安全基準(技術基準、安全評価指針など)の策定に資するため、第2次取りまとめにおいて、処分場の設計要件と設計施工基準、地層処分システムの安全性の評価手法と評価基準に関する技術的拠り所を示すことが必要である。この観点から、第2次取りまとめの中に盛り込まれるべき主な事項を以下に示す。

(1)人工バリア及び処分施設の設計・施工要件
 地質環境に関する情報に基づき、人工バリア及び処分施設を設計・施工する際の技術的留意点について、次のような情報を整備する。

  1) 人工バリアの設計・製作・施工技術の品質
 人工バリアの設計解析手法、人工バリアの製作・施工技術の品質とその管理手法
  2) 処分施設の設計要件と施工技術の品質
 処分施設の設計要件、坑道の建設技術及び閉鎖技術、操業システムに関する要素技術、モニタリング技術などの品質とその管理手法
(2)地層処分システムの安全評価上の要件
 地質環境についての情報に基づき、地層処分システムの安全評価において考慮すべきシナリオの範囲(将来の人間活動に起因するシナリオの取扱いなど)、評価モデルやデータ、処分場の管理の考え方(モニタリングの方法など)、評価期間、評価指標などに関する次のような知見を整理する。

  1) 安全評価シナリオの明確化
(a)安全評価上考慮すべき要因の列挙
(b)シナリオの設定とその根拠の明示
  2) 地下水シナリオに対する多重バリアシステムの安全評価
(a)安全評価上の基本となるケース(基本ケース)に対する評価
 a)評価モデルの構築
  第1次取りまとめで整理された包括的解析手法の枠組みに基づくニアフィー  ルドを中心とした評価モデルを構築する。
 b)データベースの整備
  上記評価モデルに対応して、以下のデータベースを整備する。
 c)システム性能の評価
 上記評価モデル及びデータベースを用いたシステム性能の評価に関連して次のことを実施する。 
(b)安全評価上の基本となるケースに対して、モデルやパラメータの変動を考慮した ケース(変動ケース)に対する性能
地質環境の長期的な変化や将来の人間活動により、安全評価上の基本となるケース(基本ケース)が変化する場合について、基本ケースのモデルの前提やパラメータの変動を考慮した解析評価を行う。また、人工バリアや処分施設に品質上の欠陥を想定した解析評価を行う。

  3) 接近シナリオに対する考察
(a)天然現象が発端となるシナリオ
 サイト選定により避けることが可能であることを示す技術的知見に対する考察
(b)将来の人間活動に起因するシナリオ
 掘削、資源採取、地下構造物の建設などについての考察
  4) 総合的な安全評価
 上記の解析結果を総合し、諸外国の安全評価の考え方をも参照して地層処分の安全性を総合的に評価する方法




第6章 第2次取りまとめに対する透明性の確保と評価の考え方

1.研究開発の透明性の確保
 第2次取りまとめに向けて動燃事業団を中核として関係機関により総合的に進める今後の研究開発の推進にあたっては、国民の理解と信頼を得るために、動燃事業団は研究開発について積極的に成果の公表を行い、その内容について広く意見を求めるなど、研究開発の進捗に応じ国民に向けてわかりやすく情報を提供することが肝要である。また、第2次取りまとめは、国際的な専門家によるビューを受けることとし、レビューの結果は報告書とともに国へ報告し、国の評価を受けるものとする。

2.第2次取りまとめに対する評価
 第2次取りまとめを国が評価する際、研究開発の成果が地層処分の技術的信頼性を示すという目標に対し適切に達成されているか否かを客観的かつ透明性をもって明らかにする必要がある。このため、成果の総合的な評価とともに、第2部に示す第2次取りまとめの個別目標に対応する研究領域毎に、研究成果の到達度を適切に評価し、さらに、その後の研究課題と進め方を明らかにすることが重要である。

(1)国による評価のあり方
 第2次取りまとめに対する国による評価が、国民に信頼をもって受け入れられるためには、客観的に評価が行われる体制を整えるとともに、積極的に成果を公表し、国民に意見を求めるなどプロセスの透明性を確保することが重要である。評価は、動燃事業団による第2次取りまとめの国への報告を受けて、約1年間をかけて行う。
(2)国による評価の主な項目
 第2次取りまとめに対する国による評価の主な項目を以下に示す。

  1) 地質環境条件の調査研究
地層処分にとって基本的に重要な地質環境上の要件について具体的な情報を得るため、次のような調査項目、調査手法が明らかにされていること 
  2) 処分技術の研究開発
人工バリア及び処分施設の設計要件及びこれらを設計する場合の技術的基礎となる考え方が明らかにされていること 
  3) 地層処分システムの性能評価研究
地層処分システムの性能評価において考慮されるべきシナリオの範囲、評価モデルやデータに関する必要な情報が明示されていること 

また、地層処分研究開発の基盤として位置づけられる深部地質環境の科学的研究については、その成果が上記地層処分研究開発の研究開発分野毎に、その各研究の進展に応じ、適切に反映されていることが必要である。





第2部 第2次取りまとめにあたっての技術的重点課題


第1章 第2次取りまとめに向けた研究開発のあり方

 第2次取りまとめに向けた研究開発においては、第1次取りまとめの評価結果と「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(平成6年6月、原子力委員会)」を踏まえ、わが国における地層処分の技術的信頼性を示すことを目標にするとともに、予定される処分事業のうちでも、緊急を要する処分予定地の選定と安全基準の策定に資するためその技術的拠り所を示すことが重要である。
 この目標に対しては、わが国の地質環境の理解と処分に適切な地層の存在、合理的な人工バリアや処分施設の技術的実現性、多重バリアシステムの長期的安全性のそれぞれについて、適切な手法や信頼性の高いデータによって示していく必要がある。

 第1次取りまとめの結果、ニアフィールドには放射性物質の移行を抑制する機能が大きく期待できることが明らかにされ、多重バリアシステム全体の性能に占めるその重要性がさらに認識されるようになってきた。すなわち、「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の進捗状況について(平成5年7月、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会)」(以下、「進捗状況について」という。)では、「第1次取りまとめによって、人工バリア及び処分場を地質環境条件に対応して適切に設計・施工すれば、多重バリアシステムの性能を長期的に保持し得ることが示され、わが国における地層処分の安全確保を図っていく上での技術的可能性が明らかにされた」と評価した上で、適切な設計・施工に関してはとくに人工バリア及びその比較的近傍、すなわちニアフィールドの地質環境条件を精度良く評価することが重要であるとしている。ニアフィールドという比較的狭い範囲に焦点をあてて詳細な研究を行うことは、ニアフィールドの地質環境に関する知見の信頼性を高めるものであり、処分に適切な地質環境の存在を示す上から重要なものである。第1次取りまとめとほぼ同時期に、スウェーデン、フィンランド、スイス、カナダの各国において地層処分システムに関する包括的性能評価報告書が公表され、地質学的特徴はそれぞれ異なるものの、これらの報告書の多くが、適切な地層に人工バリアを構築するという共通した処分概念の下で、ニアフィールドの重要性を認識し、安全を確保する要素としてニアフィールドにおける放射性物質の移行を抑制する性能を重視している。
 また、ファーフィールドについては、性能評価においてニアフィールドにより確保される安全性をさらに確かなものとする役割を担うものとして位置づけ、放射性物質の移行の遅延効果や希釈・分散機能について、さらに調査・研究を進め、その概括的評価を行うことが重要である。

 一方、地質環境に期待される重要な役割は、放射性廃棄物と人間環境との物理的距離を長期間保持するとともに、多重バリアシステムの性能、とくにニアフィールドの性能にとって重要な長期的安定性や、地下水の流量が小さく化学的に還元性であるなどの条件を長期にわたって維持することである。これらは適切な地層を選定することによって確保することが可能であると考えられることから、わが国における適切な地層の存在可能性について、十分に調査・研究することが重要である。

 このような認識に基づき、第2次取りまとめの目標である地層処分の技術的信頼性を示すにあたっては、地層処分の観点からみたわが国の地質環境の特徴を考慮した上で、長期的な安定性を確保し得る適切な地層に構築された多重バリアシステムにおけるニアフィールドの性能を中心とした安全確保の仕組みが妥当であるかどうかを信頼性をもって示すことが肝要である。すなわち、本報告書の第1部の第2章から第5章に示されている事項について適切に研究開発課題を設定する必要がある。
 以上から、第2次取りまとめにおいて地層処分の技術的信頼性を示すための研究開発の目標を以下のように設定する。
 ・地層処分にとって重要な地質環境上の要件を明らかにし、それを満たす地層がわが国において存在する可能性を明らかにすること。その際、処分システムの長期的安全性と技術的実現性にとって必要となる地質環境のニアフィールド特性について、具体的な実測値に基づく知見を整備すること。
 ・安全性を実現するための信頼性の高い人工バリア並びに処分施設についての設計要件を提示するとともに、これらが現実的な工学技術によって合理的に構築できることを示すこと。
 ・わが国の地質環境において、ニアフィールドを中心とした処分システムの性能に関し、十分な信頼性をもって評価すること。
  地層処分に関する研究開発は、これまで、「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目とその進め方(平成元年12月、原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会)」(以下、「重点項目とその進め方」という。)に沿って、1)地質環境条件の調査研究、2)処分技術の研究開発、3)地層処分システムの性能評価研究(以下、「性能評価研究」という。)の3つの研究開発分野に関して進められてきており、「進捗状況について」においてもこれら研究開発分野のそれぞれについてその成果と課題が明らかにされている。したがって、第2次取りまとめにおいても、引き続き上記の3つを具体的目標として総合的に進めることが適切と考えられる。また、3つの研究開発分野のそれぞれの基盤となる深部地質環境の科学的研究についても着実に進めることが肝要である。
なお、これらの相互の関係及び第1次取りまとめから第2次取りまとめ以降にわたる展開の概要を、資料3及び資料4に示すとともに、展開の詳細について資料5及び資料6に示す。



第2章 地層処分研究開発の重点課題

1.各研究開発分野の目標
 「地質環境条件の調査研究」では、第1次取りまとめによって、地層処分の観点から見たわが国の地質環境の特徴を示す基礎となるデータが整理されたとされ、さらに信頼性の高いデータの充実を図る必要があるとされている(「進捗状況について」)ことから、第2次取りまとめにおいては、わが国の地質学的特徴を考慮して、実測値から得られる知見に基づき、地質環境についてのより充実した情報の取りまとめを行うと同時に、地層処分にとって重要な地質環境上の要件を整理することが肝要である。地質環境についての情報の取りまとめにあたっては、わが国に広く分布する結晶質岩系と堆積岩系の双方を対象とし、「性能評価研究」や「処分技術の研究開発」においてとくに重要となるニアフィールドの水理、地球化学、物質移動などの特性及びそれらの長期的な安定性の研究に重点をおくことが重要である。
 「処分技術の研究開発」では、第1次取りまとめによって人工バリアと処分場の設計・建設・施工などに必要な研究開発の方向が具体的に示されたと評価され、さらに、より高い信頼性を有する技術の確立を目指すことが求められている(「進捗状況について」)ことから、第2次取りまとめにおいては、まず、ニアフィールドの性能を確保できるような信頼性の高い人工バリアについて、その高度化の検討も踏まえ具体的な設計要件を明らかにすることが重要である。この際、「地質環境条件の調査研究」により提供される情報に基づき、人工バリアが設置される周辺の地質環境の条件、及び人工バリア設置後のニアフィールド環境の変化を十分に考慮することが肝要である。また、処分施設については、施設全体にわたる領域の地質環境を視野に入れて、設計要件を検討する必要がある。人工バリアや処分施設の設計要件の検討にあたっては、「性能評価研究」との関連を考慮して、柔軟性をもたせることが重要である。
 さらに、人工バリア及び処分施設が基本的には既存の工学技術あるいはその改良によって、設計要件を満たしながら、現実的に製作・施工、建設が可能であることを示すことが肝要である。また、人工バリアや処分施設の設計要件の設定においては、経済的合理性の観点からの検討も重要である。
「性能評価研究」については、第1次取りまとめによって、高レベル放射性廃棄物を人間環境に有意な影響を及ぼすことのないように、安定な深部の地層に埋設するという地層処分の概念がわが国においても有効であることが示されるとともに、多重バリアシステムの性能を評価する方法論が明らかにされ、その解析に必要なモデル体系の基礎が構築されたとしている(「進捗状況について」)。
 第2次取りまとめでは、「地質環境条件の調査研究」によって提供される地質環境についての情報、「処分技術の研究開発」によって示される人工バリアや処分施設の設計要件などに基づき、性能評価において考慮すべきシナリオをより詳細に検討し、評価モデルの妥当性を高めていくとともに、信頼性の高いデータを用いてニアフィールド性能を評価することとする。一方、ファーフィールドにおける放射性物質の移行の遅延効果や希釈・分散機能の研究については、ニアフィールドにより確保される安全性をさらに確かなものとする役割を担うという観点から研究を進め、その評価を行うことが重要である。その際、とくにニアフィールドと人間環境との間の主要な地下水移行経路に焦点を当てて知見の向上を図っていく必要がある。さらに、人間環境における放射性物質の移行についても例示的な解析を行い、放射線量を算出して多重バリアシステム全体の安全性を評価しておくことが重要である。

2.各研究開発分野における技術的重点課題
 以上に述べたそれぞれの研究開発分野の目標に対応して、今後取り組むべき技術的重点課題及びこれを実施する主要施設の整備について以下に示す。

(1)地質環境条件の調査研究
 「進捗状況について」における指摘を踏まえると、第2次取りまとめに向けた主要な重点課題の1つは、深部地質環境のニアフィールド特性に焦点を当てた具体的な知見を整備していくことである。これにより、「性能評価研究」や「処分技術の研究開発」に必要となる地質環境についての情報を提供し、地層処分にとって重要な地質環境上の要件を明らかにし、それを満たす地層がわが国に存在する可能性、さらにはサイト特性の調査項目を明らかにする。

  1) 地質環境の特性に関する情報の整備
 地質環境の特性に関し、「進捗状況について」では、今後の課題として、「長期にわたる安全性の確保に重要な地質環境条件にさらに焦点を当て、地下深部における地質構造、地層・岩石の分布、岩盤物性、水理地質特性、地下水の地球化学特性などについて、調査・計測技術や機器の開発・改良を進め、信頼性の高いデータの充実を図る必要がある」ことを指摘している。
今後は、第2次取りまとめに向けて、深度1000メートル程度までの地質環境を対象に、情報の充実・整理を進めていく必要がある。その際、わが国の地質の特徴を考慮するとともに、ニアフィールド特性として重要な、地質構造、地下水の流動、地下水の地球化学、岩盤の力学、岩盤中での物質移動、坑道掘削や人工物の構築などによるこれらの特性への影響などに焦点を当ててデータの充実を図ることが肝要である。
(a)地質構造
 地質構造については、ニアフィールドの地質環境の特性として重要な地下水の流動特性や地球化学特性、岩盤の力学特性などに関する基盤的情報として、表層から地下深部までの岩石の性質や分布・連続性及び断層破砕帯の特性などに関するデータの整備を進める。
(b)地下水の流動
 地下水の流動については、表層から地下深部までの広域にわたる地下水の流動を把握するため、地下水の涵養量、岩盤の透水性、動水勾配の分布などに関するデータの整備を進める。また、これに基づき、深部地質環境中における地下水の流量を把握するとともに、地下水流動に関するモデルの検討に資する。
(c)地下水の地球化学
 地下水の地球化学については、深部地下水の化学組成や酸化還元電位などに関す るデータの整備を進めるとともに、地下水の起源、岩石との反応、地下水同士の混合を基本とした水質形成機構などに関するモデルの検討に資する。
(d)岩盤の力学
 深部岩盤の物性、力学特性、応力分布などに関するデータの整備を進めるとともに、坑道掘削などによる深部岩盤への力学的、水理学的及び化学的影響の把握を行う。
(e)物質移動
 深部岩盤中での物質移動については、空隙の構造や鉱物学的特徴に基づき、物質移動の経路・様式、岩盤の吸着・遅延能力などに関する情報の整備を進め、モデル化の検討に資する。

  2) 地質環境の長期安定性に関する情報の整備
 地質環境の長期安定性に関し、「進捗状況について」は、今後の課題として、「火成活動、地震活動、断層活動、隆起・侵食、気候変動、海面変化等の自然現象については、その活動の履歴を調査するとともに、それらが多重バリアシステムに与える影響の可能性に関しさらに評価することが重要である」ことを指摘している。
 今後は、第2次取りまとめに向けて、これらの天然現象について、わが国における特徴や地質環境への影響に関連する情報をさらに整備・充実していくとともに、これらを評価するための基盤となる知見の整理を進めていくこととする。
(a)地震・断層活動
 地震・断層活動については、活断層の活動履歴や活動様式及び周辺の地質環境への影響の範囲や程度に関する情報の整備を進めるとともに、地震動による地下水の流動や地球化学特性などへの影響の把握を行う。
 なお、地震動による人工バリアへの力学的影響に関する研究については、(2)の「処分技術の研究開発」で行う。
(b)火山・火成活動
 火山・火成活動については、わが国における火山活動の規模、地域性、時間的変遷、機構及び地熱系の分布や熱源などに関する情報の整備を進めるとともに、地質環境への熱的影響などを把握する。
(c)隆起・沈降・侵食
 隆起・沈降・侵食については、わが国における変動の規模、速度、地域性に関する情報の充実・整備を進めるとともに、その規則性や機構に関する知見を整理する。
(d)気候・海水準変動
 気候・海水準変動については、変動の形態や規模などに関する情報の整備を進めるとともに、これによって引き起こされる侵食や地下水流動などへの影響を把握する。

  3) ナチュラルアナログに関する情報の整備
 天然のウラン鉱床などにおける地下水の流動、地下水の地球化学、物質移動などの特性やその変遷に関する調査・研究によって得られた成果に基づき、知見の整理を行うとともに、性能評価のシナリオ、モデル、データの妥当性を示していく上でこれらナチュラルアナログ研究の成果を活用することの可能性を検討する。

 なお、第2次取りまとめ以降においては、サイト特性調査などに反映すべき技術基盤を確立するため、深部地質環境の科学的研究などの成果を活用して、体系的調査技術の整備並びに天然現象による影響評価手法などの信頼性を確かなものとするための研究開発を行う。

(2)処分技術の研究開発
 「進捗状況について」における指摘を踏まえると、第2次取りまとめに向けた目標を達成していくための重点課題の1つは、実用化を目指した人工バリア・処分施設の技術的信頼性の向上である。

  1) 人工バリアの設計・製作・施工技術の研究開発
 人工バリアについて、「進捗状況について」では、求められる要件を明らかにした上で、より信頼性の高い人工バリアの開発に重点をおくことが必要であると指摘している。
 人工バリアは、ガラス固化体及びそれを保護する容器であるオーバーパックと、その周辺岩盤との間に充填する緩衝材から構成される。
 まず、オーバーパックについて、「進捗状況について」では、引き続き炭素鋼に関する長期的耐久性に係る研究開発を進めるとともに、チタンなどの炭素鋼以外の材料についても検討することが望ましく、オーバーパックの溶接の健全性を含め、設計・製作に係る検討を進めることが必要であるとしている。これらを踏まえ、第2次取りまとめまでに、チタンや銅の複合オーバーパックなどの可能な代替案を含め、構造やしゃへい性などに関する設計解析を行い、オーバーパックの設計要件の検討を進めることが肝要である。また、代替案も含め、製作・施工技術の開発や溶接部の試験方法などの品質管理手法の検討を行う必要がある。
 また、緩衝材に対して、「進捗状況について」は、粘土材料(ベントナイト)を中心とし、その他の新しい材料についても、より幅広い特性調査と施工法の検討が必要であることに加え、その施工法は、人工バリア性能の確保にあたって極めて重要であることから、大型試験を実施するなどの研究開発が必要であるとしている。これらを踏まえ、第2次取りまとめまでに、粘土材料を中心とし、工学規模の試験などを通じて、緩衝材の物性評価や設計要件、並びに施工技術や品質管理手法について検討を行うことが肝要である。併せて、熱伝導性や放射性物質の吸着性を高めるような緩衝材材料の検討を行う必要がある。
 また、人工バリア全体の構造力学的安定性や耐震安定性などの検討を進め、安全確保上より厳しい状態を想定した振動試験などによる人工バリアの健全性確認試験を行うことが肝要である。なお、このような健全性確認試験は、第2次取りまとめ以降も継続して行っていくことが適切である。 さらに、これら人工バリアの開発にあたっては、「地質環境条件の調査研究」により提供される情報に基づき、人工バリアが設置される周辺の地質環境の条件、及び人工バリア設置後のニアフィールド環境の変化を十分に考慮することが肝要である。
なお、第2次取りまとめ以降については、具体的なサイトへの適用のための評価技術や製作・施工技術と品質管理手法の改良・高度化を図っていく。

  2) 処分施設の設計・施工技術の研究開発
 処分場の設計・建設・操業などに関する技術開発については、「進捗状況について」において、種々の要素技術に基づいた総合的な解析技術、調査技術、施工技術などのさらなる向上を図ることが重要であり、坑道などの空洞の長期安定性についても検討することが望ましいと指摘している。これらを踏まえ、第2次取りまとめまでに、わが国の地質環境に柔軟に対応できるような処分施設の設計要件を提示するための研究を継続し、空洞安定性や熱的安定性などに関する解析手法を示していくことが肝要である。
 また、立坑や処分坑道の建設技術の検討や、処分坑道への定置技術などの操業システムに関する要素技術の検討を行うものとする。閉鎖技術については、材料開発、設計手法と施工技術の開発、設計要件の検討などを行い、工学規模の試験などによってその性能を評価していく必要がある。これに加え、処分施設に関し、設計・建設・操業・閉鎖などの全体スケジュール、モニタリング技術、並びに所要の資材などの調達、輸送の評価を含む経済的合理性の観点からの検討も行うことが重要である。
 なお、第2次取りまとめ以降については、これらの研究開発を継続してその内容をより詳細化していく。

(3)地層処分システムの性能評価研究
 わが国の地質環境について、ニアフィールドを中心とした処分システムの性能を十分な 信頼性をもって評価するために重要となるのは、ニアフィールド性能の評価モデルの妥当性及びニアフィールドの性能評価データの信頼性と品質保証である。

  1) 性能評価シナリオの研究
 モデルの開発やデータの整備を進めるにあたっては、まず、わが国の地質環境やそれに対して適切と考えられる人工バリアなどの設計要件を念頭におき、性能評価において考慮すべきシナリオの範囲とそれらを評価する方法について明らかにすることが重要である。
 シナリオを考える上では、高レベル放射性廃棄物と人間との物理的距離が接近することによって人間環境に影響が及ぶ可能性が生ずるようなシナリオ(接近シナリオ)と、地下水により放射性物質が人間環境に運ばれる可能性に関するシナリオ(地下水シナリオ)とに分類して検討を行う。前者で検討すべきものとしては、天然現象や人間活動があり、とくに天然現象については、規模や規則性、地域性などに関する知見がシナリオを評価する上で重要である。後者については、天然現象の影響による地質環境の変化の可能性も考慮してシナリオを整理することが重要である。
  以上の観点に立ってシナリオを検討するにあたり、地層処分システムの長期的な性能に関連する種々の要因を明確にすることが必要である。上記2つのタイプのシナリオについてこれまでの研究開発において抽出されている要因を基に、第2次取りまとめでは、諸外国の例や専門家の意見を参考にすることなどを通じてその詳細化を図り、わが国における地層処分の性能評価を行う上で考慮すべき要因を体系化するとともに、評価の考え方を明確にすることが肝要である。また、要因のそれぞれについて、これまでに得られた知見や関連文献などに関する情報をデータベース化し、その根拠が明示できるようにしておくことが重要である。さらに各要因間の相互関係を把握し、これによって性能評価のためのシナリオを示すとともに、シナリオに沿って影響の解析を行う手順について明らかにする必要がある。
 第2次取りまとめまでのシナリオ研究の成果は、第2次取りまとめ以降、地域を特定した性能評価のためのシナリオを検討する際の基盤となる。

  2) ニアフィールド性能評価モデル
「進捗状況について」では、第1次取りまとめにおいて、多重バリアシステムの性能については、ニアフィールドの性能評価を中心とした解析手法の基本が整理されたものと評価し、ニアフィールドの性能評価の信頼性の向上が重要課題であると指摘している。そのため、第2次取りまとめに向けては、第1次取りまとめで整理された包括的解析手法の枠組みを基に、シナリオ研究で明らかにされるシナリオに沿った解析を信頼性をもって行うことができるよう、個々のモデルの妥当性を高めるような研究開発を進めていくことが重要である。
 ニアフィールドの性能評価モデルの開発は、ニアフィールド環境の解析、人工バリアの性状変化の解析及び物質移動の解析の3分野に大別して進める。
 第1のニアフィールド環境の研究では、まず人工バリアを設置する場の地下水流動特性、地球化学特性などを解析できるようにする必要がある。そのためには、(1)において示した深部地質環境のニアフィールド特性に関する知見を活用する。次に、処分施設の建設・操業あるいは人工バリアの設置などがニアフィールド特性に及ぼす影響を評価するためのモデルの開発とその妥当性の検討を行う。
 地下水流動特性に関しては、地質構造について得られた知見に基づき、地質構造を均質であると仮定した従来のモデルをより精緻なものとするため、ニアフィールド岩盤の局所的不均質性を統計的に表現するモデル(亀裂ネットワークモデルなど)の開発を行うことが重要である。
 「進捗状況について」では、地球化学反応における速度論的考察の重要性が指摘されていることから、地球化学特性に関しては、地下水の化学的特性を支配すると考えられる重要な化学反応について、これまでの平衡論的な評価の妥当性をさらに検討するとともに、速度論的な解析を行う。また、人工バリア内における地下水の変化と化学的緩衝作用が有効に作用する期間、及び人工バリア近傍の地層または岩盤にこの緩衝作用が及ぶ範囲とその程度を把握する。このためには、化学反応とこれに関与する物質移動の連成を扱うことを可能とするモデルを開発する必要がある。
 処分後の比較的初期においては、緩衝材中へ地下水が浸入する可能性に関し、高レベル放射性廃棄物からの発熱を考慮して検討しておく必要がある。このような過渡状態における人工バリアの挙動を把握するため、実際の現象により即した解析が行えるように、不飽和状態における緩衝材の応力-ひずみモデルの検討を行い、結果を熱-水-応力連成モデルに組み込んでいくことが重要である。また、人工バリアが長期的に維持されることを示すためには、近傍の地層または岩盤が人工バリアに及ぼす力学的影響を把握することも重要である。併せて、処分場の建設・操業期間や閉鎖直後の不飽和状態における坑道周辺の酸化還元反応による地下水の化学的条件の変化についても検討しておく必要がある。
   第2に人工バリアの性状変化については、オーバーパック、緩衝材などの人工バリア自体と地下水との相互作用による人工バリアの性状変化を把握し、その長期的健全性を評価するためのモデルの開発とその妥当性の検討を行う必要がある。オーバーパックについては、従来より主な研究対象材料とされてきた炭素鋼について、腐食進展モデルの開発を行う。このようなモデル開発には、長期的な腐食試験などのように十分に時間をかける必要があるものがあり、第2次取りまとめ以降も、評価の信頼性の向上を目指して研究開発を継続していくことが肝要である。また、チタン、銅などの材料についても検討を行うこととする。
 緩衝材については、熱的、化学的な影響によるベントナイトの変質を考慮したモデルを検討するとともに、オーバーパックとの力学的相互作用を評価するため、粘弾塑性モデルの開発を行う。さらにオーバーパック腐食生成物による力学的影響について評価するとともに、地下水による緩衝材の侵食の可能性について新たにモデル化を行って検討する。
 第3の物質移動については、ガラス固化体の溶解や、人工バリア及び周辺の地質媒体中における物質移動現象を解析し、ニアフィールドにおける放射性物質の移行挙動をより詳細に評価するためのモデル開発とその妥当性の検討を行うことが必要である。このため、掘削影響領域での物質移動や、岩盤中の空隙構造の不均質性と空隙中の変質鉱物を考慮した物質移動について、モデルの開発を新たに行う。また、オーバーパックの腐食に伴い発生するガスの移行、地下水中でのコロイドの生成・移行についても新たにモデル開発を行うとともに、有機物や微生物の存在が放射性物質の移行に及ぼす影響についても検討を行う。
 上記のモデル開発の信頼性を高めていくためには、室内などでの試験研究成果に基づき対象とする現象を適確に把握し、モデルの妥当性を示していくことが重要である。

  3) データベースの構築
「進捗状況について」では、ニアフィールドの性能評価の信頼性の向上のため、解析に用いるデータの信頼性の確保がとくに必要であることを指摘し、解析に必要な基本的なデータの充実・整備及びデータベースの拡充を図ることが必要であるとの課題を示している。
 解析モデルを用いて信頼性の高い性能評価を実施するためには、ガラス固化体、オーバーパック、緩衝材、岩盤について信頼度の高いデータを整備し、その品質保証を行っておくことが必要である。これらのデータについては、データベースとして体系化していくことが重要である。
 第2次取りまとめに向けてとくに重要なデータとしては、オーバーパック長期腐食速度、チタン、銅の局部腐食発生条件、緩衝材の長期的クリープに関するデータ、緩衝材に含まれる鉱物に関する熱力学データ、周辺地質媒体中の亀裂特性に関するデータ、周辺地質媒体中の鉱物に関する熱力学データや、放射性物質の移行の評価に直接的に関連するガラスの長期溶解速度、放射性物質の溶解度に関する熱力学データ、放射性物質の緩衝材及び岩石への分配係数などがある。これらのデータについては、長期的な試験などを行い、さらに信頼性の高いデータベースとすることが重要であり、第2次取りまとめ以降も継続して整備を進める。

  4) システム性能の評価解析
 以上に述べたニアフィールド性能評価のための種々のモデルを適切に統合し、ファーフィールドや人間環境の放射性物質の移行モデルなどと接続することによって、システム全体の性能を解析することのできるモデル体系を構築することが重要である。さらにこのモデル体系とデータベースを用いて、地下水シナリオに対して設定された、性能評価上の基本となるケース(基本ケース)及びモデルの前提やパラメータに関してその変動を考慮したケース(変動ケース)について解析を行う。また、不確実性解析や感度解析を実施し、解析結果の変動幅やモデルの最適化の妥当性について検討するとともに、解析に関わる品質保証を行っていく必要がある。このような多重バリアシステムの性能評価解析機能を高めるために、それに適した計算機システムを整備することが重要である。

  5) ナチュラルアナログ研究の適用
 システム全体の性能評価の信頼性を高める上で、シナリオ、モデル及びデータについて、その妥当性を補足的に示す方法として、人工バリアを構成する物資と類似の天然物質を用いた研究、すなわち火山ガラスの溶出挙動に関する研究、金属の考古学的出土品などにおける腐食履歴の解析、ベントナイト鉱床を利用した研究、さらには(1)における検討などを含め、ナチュラルアナログ研究の一層の充実を図る必要がある。「進捗状況について」においても、第1次取りまとめ以降の課題として、長期の現象を科学的に把握するために天然現象による理解が有効であるので、ナチュラルアナログ研究を引き続き実施することの重要性が示されている。
 

(4)各研究開発を進めるための主要施設
 「地質環境条件の調査研究」については、動燃事業団の地層処分基盤研究施設やボーリングデータなどを利用して実測値に基づく信頼性の高い調査研究を充実するとともに、国内外における学術的研究の成果や「深部地質環境の科学的研究」(第2部第3章参照)の成果を活用し科学的な基盤を整えることが肝要である。
 「処分技術の研究開発」については、実用化を前提とした人工バリアと処分施設の設計・建設・施工などに必要な技術の信頼性を高めていくため、動燃事業団の地層処分基盤研究施設などの充実を図り、これを活用した試験研究を行う。
 「性能評価研究」については、個々の現象について、モデルの開発・改良及びその妥当性の検討を行うとともに、システム性能評価の信頼性の向上を図るため、動燃事業団の地層処分基盤研究施設などにおける試験研究の一層の充実を図り、実験室規模から工学規模までの各種試験装置・設備を整える。
 性能評価上とくに重要な放射性物質の移行に関するデータについては、放射性物質を使用して体系的に取得することが重要であり、そのために、国内外の既存の設備を活用するとともに、併せて、総合的な研究施設を整備する。
「性能評価研究」におけるモデルの妥当性の検討や、「処分技術の研究開発」における処分施設の要素技術に関わる実規模試験などの実施のため、カナダの地下研究施設(URL)、スウェーデンの硬岩試験場(HRL)、スイスのグリムゼル岩盤試験場などでの試験研究に積極的に参加し、その成果を適確に取り込む。



第3章 深部地質環境の科学的研究の重点課題

 深部地質環境の科学的研究は、地層処分研究開発の基盤となる研究であり、地質環境の特性に関する研究とそのための調査技術の開発及び地質環境の長期安定性に関する研究を中心として行われている。研究の対象は、地下深部の岩盤や地下水の性質、それらのそれぞれの地点での変化、地震活動や火山活動などの天然現象など、地球科学の幅広い分野にわたることから、わが国における地下深部についての学術的研究にも広く寄与するものである。

1.深部地質環境の特性に関する研究
 地質環境の特性に関する研究については、深度1000メートル程度までの地質構造、地下水の流動特性及び地下水の地球化学特性、岩盤の力学特性、岩盤中での物質移動、及び坑道掘削や人工物の構築などによるこれらの特性への影響に関する調査研究を行う。  地質構造に関する研究では、表層から地下深部までの岩石の性質や分布・連続性及び断層破砕帯の特性などに関するデータを蓄積するとともに、限られたデータに基づき地下の地質構造を効率的に推定するための手法の検討を行う。
 地下水の流動に関する研究では、表層から地下深部までの地下水流動についてデータの取得を行うとともに、広域地下水流動解析のための手法の検討を進める。また、坑道掘削などがもたらす擾乱による地下水流動の変化に関する研究を行う。
 地下水の地球化学に関する研究では、深部岩盤の鉱物学的特性や深部地下水の地球化学特性に関するデータを蓄積するとともに、水質形成機構に関する理解の促進に役立てる。また、坑道掘削などがもたらす擾乱による深部地下水の化学的変化に関する研究を行う。  岩盤の力学に関する研究では、深部岩盤の特性に関するデータを取得するとともに、応力分布などを把握するための手法の検討を行う。また、坑道掘削などがもたらす擾乱による深部岩盤の力学状態などの変化に関する研究を行う。
 物質移動に関する研究では、岩盤中の空隙の構造や鉱物学的特徴を把握し、これらに基づき、物質移動に関する機構の理解を進める。また、断層などの主要な地質構造要素における物質移動特性に関する研究や坑道掘削などがもたらす擾乱による深部岩盤の空隙構造などの変化に関する研究を行う。

2.深部地質環境の調査技術及び関連機器の開発
 地質環境調査技術及び関連機器の開発としては、深度1000メートル程度までの地質環境を対象に、地質環境への擾乱を最小限に抑えつつ信頼性の高いデータを取得するための調査手法や機器の開発・改良を進め、その技術的基盤を確立することが肝要である。このため、孔間透水試験装置などの水理特性調査機器やパッカー式地下水サンプラーなどの地球化学特性調査機器を中心とした地下水調査技術の開発、並びに比抵抗・弾性波トモグラフィーやレーダー反射法などの物理探査手法の技術改良を行う。さらに、フィールドでの試験を通じて、これらの調査手法や機器の適用性を十分に検討するとともに、得られたデータの品質や精度を確認し、個々の機器や手法を組み合わせた調査解析システムとして確立 していく。

3.深部地質環境の長期安定性に関する研究
 地質環境の長期安定性に関しては、地震・断層活動、火山・火成活動、隆起・沈降・侵食、気候・海水準変動などの天然現象について、わが国における特徴や地質環境への影響を調査研究するとともに、これらを評価するための手法について検討を進めることが肝要である。このため、各天然現象の現在の活動状況や地質時代における活動履歴などについて関連情報を広く収集・整理するとともに、フィールドでの調査を主体とした事例研究を行っていく。
地震・断層活動については、わが国における活断層の活動特性や周辺の地質環境への影響について調査研究を行うとともに、地震による地質環境への影響を検討していく。  火山・火成活動については、わが国における火山活動の規模、時間的変遷、地域性及び機構並びに地熱系の分布や熱源などについて調査研究を行う。また、火成活動に伴う現象の抽出を行い、地質環境への熱的影響などを検討していく。
 隆起・沈降・侵食については、わが国における規模、速度、地域性を調査し、その規則性や機構の理解を深めていく。
気候・海水準変動については、その形態や規模などの研究を行い、これに伴う風化・侵食による地形への影響や地下水の流動及び地球化学特性などへの影響について検討していく。

4.深部地質環境の科学的研究を進めるための主要施設
 深部地質環境の科学的研究を行う研究施設は、わが国における地下深部についての学術的研究に寄与できる開かれた研究の場として整備し、広く内外から研究者の参画を得て総合的に研究を進めていくことが重要である。また、これらの施設から得られるデータは、深部地質環境条件として重要な特性の正確な把握や、地層処分システムの性能評価モデルの信頼性向上など、地層処分研究開発の基盤としても活用できるものである。これらの施設については、わが国の地質の特性等を考慮して複数の設置が望まれており、このため代表的な地質として堆積岩系及び結晶質岩系の双方を対象に、表層から地下深部までの岩石や地下水に関する包括的なデータの取得に努めるとともに、地球科学の各分野における学術的研究によって蓄積された関連情報についても広く収集・整理し、その活用を図っていくことが重要である
 このため、具体的には、東濃鉱山とその周辺における堆積岩やウラン鉱床を対象とした研究及び釜石鉱山における結晶質岩を対象とした研究を推進するとともに、動燃事業団が新たに瑞浪市に計画している、深度1000メートル程度までの結晶質岩を主体とした地下深部の研究施設を積極的に活用していく。また、堆積岩を対象とした科学的研究を推進するため、動燃事業団が北海道幌延町に計画している貯蔵工学センター内に予定されている深地層試験場についても、地元及び北海道の協力を得つつ同計画の推進を図ることにより、その活用を目指していく。
   また、海外の施設についても、積極的に研究の場として活用することが重要である。



第4章 研究開発の進め方

 地層処分研究開発と深部地質環境の科学的研究は、国民の理解と信頼を得つつ推進することが肝要であり、また、多くの人材、資金及び期間を必要とすることから、関係研究機関が密接な協力の下に、効率的にこれを推進することが重要である。このため、中核的推進機関として研究開発を行うこととされている動燃事業団、及び日本原子力研究所、地質調査所、防災科学技術研究所、電力中央研究所、大学、民間企業などのそれぞれが、専門的知見を活かした適切な役割分担の下に、電気事業者などの協力と支援を得て、総力を挙げて研究開発を行うことにより、わが国における地層処分の技術基盤を早急に確立することが肝要である。
 動燃事業団が主に実施するものとしては、性能評価の重要な要素である、統合化された解析手法の開発及びその妥当性の確認、性能評価を実施する上で特に重要な放射性物質の移行に関するデータベースの構築、人工バリア・処分施設に関わる技術の開発、地下深部の地質環境特性に関する情報の蓄積・整備、地質環境の特性を具体的に把握するための方法の確立、地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究、並びに主要な研究設備の整備とそれを利用した研究が挙げられる。
 その他の機関が主に実施するものとしては、高度の専門的知見を必要とする科学的研究領域(例えば、構造地質学、火山学、地震学、岩盤力学、鉱物岩石学、地球化学、水理学、溶液化学、環境生態学など)及び産業として既に相当成熟しており当該分野の技術を活用して研究開発を進めることが有効な領域(例えば、材料工学、土木技術など)に属する課題が挙げられる。
   国際協力については、欧米諸国においてはわが国に比べて研究施設が充実している国もあることから、さらに積極的に進めるとともに、アジア諸国との協力についてもわが国の研究施設を活用するなどさらに拡充していくことが重要である。
 以上のような研究開発を効果的・効率的に行うために、関係研究機関は、これまでも動燃事業団を中核として、研究開発の調整・協力を行ってきたが、各研究機関の成果を共有し第2次取りまとめに向けた協力を一層強化すべく「研究調整委員会」(仮称)を発足させるものとする。
 また、国民の理解と信頼を得て進めていくためには、その成果をわかりやすく公表し、透明性を確保することが極めて重要である。それとともに、研究を着実に進めるためには、十分な資金の確保、施設・設備の整備・充実、人材の養成・拡充を図ることが重要である。さらに、この研究は極めて学際的であることから、関連する広汎な諸分野の人材を活用しつつ、研究成果を有機的に統合することが肝要である。





 

                                                                      (参考1)

                                構成員及び開催日                                

                                                                                

1.原子力バックエンド対策専門部会                                              

                                                                                

(1)構成員                                                                    

                                                                                

部会長  熊 谷 信 昭   大阪大学名誉教授                                  

     秋 元 勇 巳   三菱マテリアル(株)取締役社長                    

     池 亀   亮   電気事業連合会原子力対策委員会委員長              

     石 榑 顕 吉   東京大学教授                                      

     大 桃 洋一郎   (財)環境科学技術研究所常務理事                  

     川 人 武 樹   (財)原子力環境整備センター理事長                

     草 間 朋 子   東京大学助教授                                    

     小 島 圭 二   東京大学教授                                      

     小 西   攻   NHK解説委員                                    

     佐々木 史 郎   日本原燃(株)代表取締役副社長                    

     佐 藤 壮 郎   通商産業省工業技術院長                            

     鈴 木 篤 之   東京大学教授                                      

     鈴 木   進   (社)日本アイソトープ協会常務理事              

     須 田 忠 義   動力炉・核燃料開発事業団副理事長                  

     田 中 靖 政   学習院大学教授                                    

     徳 山   明   兵庫教育大学教授                                  

     鳥 井 弘 之   (株)日本経済新聞社論説委員                      

     中 尾 欣四郎   北海道大学名誉教授                                

     中 西 準 子   横浜国立大学教授                                  

     永 倉   正   (財)電力中央研究所特別顧問                      

     東   邦 夫   京都大学エネルギー理工学研究所長                  

     松 浦 祥次郎   日本原子力研究所副理事長                          

     松 田 美夜子   生活評論家(廃棄物問題とリサイクル)              

     森   一 久   (社)日本原子力産業会議専務理事                  

     山 内 喜 明   弁護士                                            



(2)開催日



第1回 平成7年9月25日(月)

第2回 平成7年11月9日(木)

第3回 平成7年12月4日(木)

第4回 平成8年3月14日(木)

第5回 平成8年6月26日(水)

第6回 平成8年9月26日(木)

第7回 平成8年11月15日(金)



2.高レベル放射性廃棄物対策分科会構成員



(1)構成員  



  主 査 鈴 木 篤 之   東京大学教授                          

      飯 山 敏 道   東京大学名誉教授                      

      稲 葉 次 郎   放射線医学総合研究所科学研究官        

      岡 田 義 光   防災科学技術研究所地震調査研究センター長  

      木佐木   裕   高レベル事業推進準備会事務局長        

      小 出   仁   地質調査所環境地質部長

      小 島 圭 二   東京大学教授                          

      駒 田 広 也   (財)電力中央研究所部長               

      桜 井 直 行   (財)環境科学技術研究所理事           

      鈴 木 康 夫   東京電力(株)理事                    

      田 代 晋 吾   原子力環境整備センター理事            

      辻 川 茂 男   東京大学教授                          

      徳 山   明   兵庫教育大学教授                      

      東   邦 夫   京都大学エネルギー理工学研究所長      

      東 原 紘 道   東京大学教授                          

      村 岡   進   日本原子力研究所次長                  

      大 和 愛 司   動力炉・核燃料開発事業団

                環境技術開発推進本部部長(第7回まで)

      増 田 純 男   動力炉・核燃料開発事業団

                環境技術開発推進本部副本部長(第8回から)

      渡 辺   隆   上越教育大学教授                      





(2)開催日



第1回  平成7年10月6日(金)

第2回  平成7年10月20日(金)

第3回  平成7年10月31日(金)

第4回  平成7年11月24日(金)

第5回  平成7年12月5日(火)

第6回  平成8年1月29日(月)

第7回  平成8年2月22日(木)

第8回  平成8年5月8日(水)

第9回  平成8年6月11日(火)

第10回  平成8年7月12日(金)

第11回  平成8年8月8日(木)

第12回  平成8年9月9日(月)

第13回  平成8年10月25日(金)







  以上の他に、地質環境の長期安定性について、関係分科会委員がワーキンググループを設け検討した。





(1)構成員  



 主 査 徳 山   明   兵庫教育大学教授                      

     飯 山 敏 道   東京大学名誉教授                      

     岡 田 義 光   防災科学技術研究所地震調査研究センター長  

     小 出   仁   地質調査所部長                        

     小 島 圭 二   東京大学教授                          

     駒 田 広 也   (財)電力中央研究所部長               

     東 原 紘 道   東京大学教授                          



(2)開催日



第1回  平成8年5月22日(水)

第2回  平成8年6月10日(月)

第3回  平成8年7月2日(月)

第4回  平成8年7月12日(金)

 

                                                                     (参考2)

                高レベル放射性廃棄物処分への取組について



                                                        平成7年9月12日

                                                   原子力委員会決定

  今日、エネルギーの生産と消費に起因する環境負荷の増大は、地球的規模での大きな問題となっており、21世紀を展望した今後のエネルギー政策においては、”持続可能な発展”と”地球との共生”という理念に根ざした、地球規模での環境保全と、エネルギー資源の節約とその合理的・効率的利用の促進という視点がますます重要となる。

 既に、我が国においては、原子力が、石油代替エネルギーの中核として欠くべからざる地位を占めているが、日常生活において必然的に生活廃棄物が発生するのと同様、原子力開発利用による便益の享受に伴い、放射性廃棄物が発生することは避けられない。なかんずく、高レベル放射性廃棄物は、その放射能が超長期の時間をかけて低減していくものであることから、処分の実施に当たっては、世代を越えて広く人間社会と自然環境への影響を考慮し、将来世代へ負担を残すことのないよう、安全かつ確実にこれを実施することが肝要である。

  現在、世界各国において、高レベル放射性廃棄物の地層処分に向けた取組がなされているが、国際的な専門家の検討においても、放射性廃棄物の地層処分は、同世代内・異世代間の公平といった観点及び人間の健康や自然環境の保護といった環境面からの基本的な要請に適うものであり、その推進を図ることは適当である、との見解が示されているところである。

 今後、平成6年6月原子力委員会が決定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」に沿って、我が国において高レベル放射性廃棄物の地層処分に 向けた取組を進めるに当たっては、国民一人一人が自らの問題として廃棄物処分をとらえ、開かれた議論に基づく国民的合意を形成しつつ進めていくことが重要である。その際、国民自らが、我が国においていかにしてエネルギー需要を満たしていけば、将来にわたり国民生活を安全に、幸福に、高い文明に維持し、地球と共生しつつ世界の持続可能な発展が図れるのかについて、考え判断することが肝要であり、そのためには、国民が客観的で正確な情報の提供を受け、開かれた議論が十分行われるよう留意する必要がある。

 以上の認識に立ち、当委員会は以下のとおり決定する。


1.当委員会に、「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」を設け、国民各界、各層 より英知を集め、来るべき21世紀を迎える時に際し、高レベル放射性廃棄物 処分の円滑な実施への具体的取組に向けた国民の理解と納得が得られるよう、 社会的・経済的側面を含め、幅広い検討を進める。

2.高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究開発計画の策定等、処理処分 に係る技術的事項等については、「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」との連 携の下、当委員会に設ける「原子力バックエンド対策専門部会」において調査 審議を行う。

3.「高レベル放射性廃棄物処分懇談会」及び「原子力バックエンド対策専門  部会」の設置については、別途、当委員会の決定によるものとする。





                                                                        (別添)

              高レベル放射性廃棄物処分懇談会の設置について



                                                        平成7年9月12日

                                                    原子力委員会決定

1.目的
 平成7年9月12日付け原子力委員会決定「高レベル放射性廃棄物処分への取組について」に基づき、社会的・経済的側面を含め、幅広い調査審議を進めるため、高レベル放射性廃棄物処分懇談会(以下、「懇談会」という。)を設置する。


2.審議事項
 (1) 高レベル放射性廃棄物処分の進め方

 (2) その他

3.構成
 (1) 懇談会の構成は、別途定める。

4.運営他
 (1) 懇談会は、必要に応じ懇談会構成員以外の者の意見を聞くものとする。
 (2) 懇談会は、「原子力バックエンド対策専門部会」と十分な連携を図るものとす
  る。
 (3) その他懇談会に関し必要な事項は、座長が懇談会に諮って定める。



                  高レベル放射性廃棄物処分懇談会構成員



     荒木  浩     電気事業連合会会長

     粟屋 容子     武蔵野美術大学教授・理化学研究所主任研究員

     石川 嘉延     原子力発電関係団体協議会会長(静岡県知事)

     石橋 忠雄     弁護士

     加藤 尚武     京都大学教授

     茅  陽一     慶応義塾大学教授

     川上 幸一     神奈川大学名誉教授

     木村 尚三郎    東京大学名誉教授

     木元 教子     評論家

     熊谷 信昭     大阪大学名誉教授

              (原子力バックエンド対策専門部会長)

     小林 庄一郎    関西電力株式会社取締役会長

座長   近藤 次郎     元日本学術会議会長

     近藤 俊幸     動力炉・核燃料開発事業団理事長

     佐和 隆光     京都大学経済研究所所長

     塩野  宏     成蹊大学教授

     鈴木 篤之     東京大学教授

     竹本 成徳     日本生活協同組合連合会会長理事

     中村 政雄     前読売新聞論説委員

     野口 敞也     日本労働組合総連合会総合政策局長

     林  政義     高レベル事業推進準備会会長

     深海 博明     慶應義塾大学教授

     松田 美夜子    生活評論家(廃棄物問題とリサイクル)

     南  和子     評論家

     森  一久     (社)日本原子力産業会議専務理事 

座長代理 森嶌 昭夫     上智大学教授



(平成8年11月現在)

                                                  


 原子力バックエンド対策専門部会の設置について



                                                        平成7年9月12日

                                                    原子力委員会決定

1.目的
  今後の原子力開発利用を円滑に進めていくためには、平成6年6月に原子力委員会が定めた「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」に基づき、社会的理解を得てバックエンド対策を推進していくことが重要であり、原子力開発利用の長期的見通しも背景に据えつつ、バックエンド対策を推進していく具体的な方策について調査審議するため、原子力バックエンド対策専門部会(以下、「専門部会」という。)を設置する。
なお、放射性廃棄物対策専門部会は廃止する。

2.審議事項
 (1)高レベル放射性廃棄物の処理処分に係る技術的事項
 (2)TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分に関する事項
 (3)ウラン廃棄物の処理処分に関する事項
 (4)RI廃棄物及び研究所等廃棄物の処理処分に関する事項
 (5)原子力施設の廃止措置に関する事項
 (6)その他、原子力バックエンド対策に関する重要事項

3.構成員
  別紙のとおりとする。

4.その他
  専門部会の下に、必要に応じ、分科会を置くものとする。また、専門部会は、必要に応じ、専門部会構成員以外の者からの意見を聞き、あるいは、報告を受けるものとする。


                 原子力バックエンド対策専門部会構成員                   

                                                                        

     秋 元 勇 巳   三菱マテリアル(株)取締役社長            

     池 亀   亮   電気事業連合会原子力対策委員会委員長      

     石 榑 顕 吉   東京大学教授                              

     大 桃 洋一郎   (財)環境科学技術研究所常務理事          

     川 人 武 樹   (財)原子力環境整備センター理事長        

     草 間 朋 子   東京大学助教授                            

部会長  熊 谷 信 昭   大阪大学名誉教授                          

     小 島 圭 二   東京大学教授                              

     小 西   攻   NHK解説委員                            

     佐々木 史 郎   日本原燃(株)代表取締役副社長            

     佐 藤 壮 郎   通商産業省工業技術院長          

     鈴 木 篤 之   東京大学教授                              

     鈴 木   進   (社)日本アイソトープ協会常務理事      

     須 田 忠 義   動力炉・核燃料開発事業団副理事長          

     田 中 靖 政   学習院大学教授                            

     徳 山   明   兵庫教育大学教授                          

     鳥 井 弘 之   (株)日本経済新聞社論説委員              

     中 尾 欣四郎   北海道大学名誉教授                        

     中 西 準 子   横浜国立大学教授                          

     永 倉   正   (財)電力中央研究所特別顧問              

     東   邦 夫   京都大学エネルギー理工学研究所長          

     松 浦 祥次郎   日本原子力研究所副理事長                  

     松 田 美夜子   生活評論家(廃棄物問題とリサイクル)      

     森   一 久   (社)日本原子力産業会議専務理事          

     山 内 喜 明   弁護士 
(平成8年11月現在)
 
                                                                     (参考3)

                 原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画(抜粋)

7.バックエンド対策

(1) 放射性廃棄物の処理処分

(略)

  3.サイクル廃棄物の処理処分
再処理施設や燃料加工施設などの核燃料サイクル関連施設から発生する放射性廃棄物 (以下「サイクル廃棄物」といいます。)は、再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物、再処理施設やMOX燃料加工施設から発生する超ウラン(TRU)核種を含む放射性廃棄物、ウラン燃料加工施設やウラン濃縮施設から発生するウラン廃棄物に大別されます。
   (イ) 高レベル放射性廃棄物の処理処分
 高レベル放射性廃棄物は、安定な形態に固化した後、30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い、その後、地下の深い地層中に処分すること(以下「地層処分」といいます。)を基本的な方針とします。高レベル放射性廃棄物の処分方策を進めていくに当たっては、国は、処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うとともに、処分の円滑な推進のために必要な施策を策定します。また、動力炉・核燃料開発事業団は、当面、研究開発や地質環境調査の着実な推進を図ります。電気事業者は、処分に必要な資金の確保のみならず、研究開発の段階においても、高レベル放射性廃棄物の発生に密接に関連する者としての責任を十分踏まえた役割を果たすこととします。
 処分事業の実施主体については、処分場の建設スケジュールを考慮し、2000年を目安にその設立を図っていくことが適当であり、高レベル放射性廃棄物対策推進協議会(国、電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団により構成される)の下に設けられた高レベル事業推進準備会において、実施主体の在り方についての検討やその設立に向けた準備を進めていきます。
 地層処分については概ね以下の手順で進めることとします。
 1) 実施主体は、地層処分の候補地として適切と思われる地点について予備的に調査を行い、処分予定地を選定し、国は、立地の円滑化を図る観点から必要な措置を講ずるため、その選定の結果を確認します。ただし、その地点を処分予定地とするに当たって、実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し、その了承を得ておくものとします。
2) 次に実施主体は、実際の処分地としての適性を判断するため、処分予定地において地下施設による所要のサイト特性調査と処分技術の実証を行います。
3) 実施主体は処分地として適当と判断すれば、処分場の設計を行い、処分に係る事業の申請を行いますが、国は、処分に係る事業を許可するに当たり、必要な法制度等の整備を図るとともに安全審査を行います。
 処分場の建設・操業の計画は、処分場建設に至るまでに要する期間や再処理計画の進展などの今後の原子力開発利用の状況等を総合的に判断して、2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とします。
 処分に必要な資金の確保については、処分費用の範囲、処分費用の概算、資金確保の方法などの具体的検討を進め、早急に合理的な費用の見積りを行うこととします。
 地層処分の研究開発は、国の重要プロジェクトとして、動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として関係機関が協力して進めていくこととします。研究開発は、当面、対象とすべき地質環境を幅広く想定し、地層処分を行うシステムの性能評価研究、処分技術の研究開発、地質環境条件の調査研究等の各分野において引き続き進めるほか、地層処分研究開発の基盤となる深部地質環境の科学的研究を着実に進めることとします。
 深地層の研究施設は、深地層の環境条件として考慮されるべき特性等の正確な把握や地層処分を行うシステムの性能を評価するモデルの信頼性向上等地層処分研究に共通の研究基盤となる施設であり、我が国における深地層についての学術的研究にも寄与できる総合的な研究の場として整備していくことが重要です。また、このような施設は、我が国の地質の特性等を考慮して複数の設置が望まれます。さらに深地層の研究施設の計画は、研究開発の成果、特に深部地質環境の科学的研究の成果を基盤として進めることが重要であり、その計画は処分場の計画とは明確に区別して進めていきます。
 動力炉・核燃料開発事業団が北海道幌延町で計画している貯蔵工学センターについては、地元及び北海道の理解と協力を得てその推進を図っていきます。
 研究開発においては、国民の理解を得ていくためにもその進捗状況や成果を適切な時 期に取りまとめ、研究開発の到達度を明確にしていくこととします。このため、動力 炉・核燃料開発事業団は、2000年前までに予定している研究開発の成果の取りまとめを行い、これを公表するとともに、国はその報告を受け、我が国における地層処分の技術的信頼性等を評価します。
 なお、高レベル放射性廃棄物の資源化と処分に伴う環境への負荷の低減の観点から将来の技術として注目されている核種分離・消滅処理技術に係る研究開発については、当面、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等が協力して基礎的な研究開発を計画的に推進することとし、1990年代後半を目途に各技術を評価し、それ以降の進め方について検討していくこととします。