今後の原子力政策の展開にあたって
(原子力政策円卓会議の議論及びモデレーターからの提言を受けて)

                        平成8年10月11日
                        原子力委員会決定
当委員会は、我が国における原子力開発着手以来、今日まで40年にわたり、安全の確保と平和利用を大前提として、関係行政機関、研究開発機関、事業者等との連携の下、原子力開発利用を進めてきた。

現在、我が国の原子力発電は全発電電力量の30%を越えるとともに、これを支える核燃料サイクル事業の面でも着実な進展を見せている。しかしながら、昨年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故の発生及びその後の情報提供における不適切な対応は、地元の方々はもとより、広く国民全体に原子力に対する不安感、不信感を与える結果となった。また、高速増殖炉は将来の核燃料リサイクル体系の中核と位置付けられていることから、今後の原子力政策に大きな影響を与える結果となった。

当委員会はこの状況を真摯に受け止め、本年3月、原子力に関する国民各界各層の多様な意見を今後の原子力政策に反映させるため、「原子力政策円卓会議」(以下「円卓会議」という。)を設置した。以来、第11回会合まで延べ127名の参加を得て活発な議論を行ってきたところ、先般、これまでの会議における議論を踏まえた提言をモデレーターから受けた。

当委員会は、これまでの円卓会議における議論及びモデレーターからの提言を真摯に受け止め、これらを今後の原子力政策に反映していくことが、我が国の原子力政策に関する国民の信頼を回復し、原子力開発利用を円滑に進めていく上で極めて重要であると認識する。そこで、今後、下記の考え方により原子力政策を展開していくこととし、さらに、これに基づく具体的措置についても策定次第、順次明らかにしていく。その際、円卓会議からの提言を受けて、先般、当委員会が決定した「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」に沿った措置を講じていく。なお、今回の考え方及びその具体的措置を実施していく中で、平成6年に当委員会が策定した「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「長期計画」という。)の上に、同計画の見直しをも視野に入れ、適切に反映していく。

  1. 長期計画にある「国民とともにある原子力」という理念を現実のものとしていくためには、エネルギー需給の中での原子力の位置付けについて、十分な議論を行い、合意形成を図っていくというプロセスが重要である。このため、当委員会として、新たな装いでの新円卓会議の開催等、様々な議論の場を設定し、エネルギーと原子力に関して多角的な議論を進めるとともに、通商産業大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会における検討や関係行政機関における更なる努力を促進する。  
  2. 原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し、得られたものを利用していく核燃料サイクルの展開は、我が国の資源的な制約や環境保護の観点から重要であると考えており、今後モデレーターの提言を踏まえ、次のような考え方で諸施策を進める。

    (1)使用済燃料の管理について、長期的な対応をも視野に入れて、現実的かつ 合理的な解決策を策定する必要があり、総合エネルギー調査会で進められてい る検討も勘案しつつ、関係行政機関及び関係地方自治体の意見を踏まえ、考え 方を早急に明らかにする。

    (2)プルトニウムの軽水炉利用について、総合エネルギー調査会で進められて いる検討も勘案しつつ、その目的・内容を早急に明らかにし、関係行政機関と も連携を取りつつ、国民的な合意形成に向け努力する。

    (3)高速増殖炉について、「もんじゅ」のナトリウム事故の原因究明や安全性 総点検の着実な実施を図るとともに、「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速 増殖炉開発の在り方について幅広い議論を行うため、当委員会に「高速増殖炉 懇談会(仮称)」を設置する。

    (4)高レベル放射性廃棄物の取扱いを含めたバックエンド対策について、現在 開催されている「原子力バックエンド対策専門部会」、「高レベル放射性廃棄 物処分懇談会」の場の議論を通じ、高レベル放射性廃棄物の処分実施主体の設 立等に関する処分対策の具体策を出来る限り速やかに策定し、これを国民の前 に分かりやすい形で明らかにする。

  3. 原子力施設の安全確保に向け、より一層の努力を行うとともに、万が一の事故に備えた原子力防災に関し、国の関係行政機関の役割と連携を明確にした強固な防災対策の確立に向け、関係行政機関における取組を強化・促進する。

  4. 原子力施設の立地に関し、国の立地地域への対応の理念の確立や、政府一体となった地域振興等への取組を促進する。また、国と関係地方自治体との間での情報の流通、意思の疎通の一層の進展を図る。
    さらに、電力消費地域と立地地域の原子力に対する意識差の解消を目指し、当委員会として、地方での新円卓会議の開催等、地方を含めて広く国民との対話の場を様々な形で設定するとともに、関係行政機関におけるシンポジウム、セミナー等の開催による交流・連携を促進する。

  5. 原子力に対して一層の透明性、アカウンタビリティ(分かりやすく説明をする責任)が求められている現状を考えれば、国民各界各層の参加を得て多角的に議論を行う円卓会議の開催は時宜を得たものであり、今後ともその努力を継続していく必要がある。このため、モデレーターからの提言を踏まえ、円卓会議の構成・運営等に関して所要の変更を行い、装いを新たにして新円卓会議を開催する。


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